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東方守勢録

作者:ユーミー
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第七話

数分前


「何だ……この建物」


俊司は異様な雰囲気を放っていた施設を見ながらそう言った。


「他の建物と比べると、作り方が……なんか違いますよね」

「要するになんか重要な建物なんじゃないの?」

「その可能性はなくもないな……よし、入ってみるか」


三人は警戒しながらもゆっくりと中に入っていった。


「……これは……牢屋か?」


中にひろがっていたのは石材や鉄格子でできた牢獄だった。ところどころに湿気でできた錆やカビのようなものがあり、より気味の悪い雰囲気を醸し出している。

俊司はここが捕虜の牢獄だったことを一瞬で理解していた。


「捕虜を監視しておくための施設か……にしても……妙だな」

「……誰もいませんね」


施設の中は革命軍の兵士どころか、捕虜となっていたはずの幻想郷の住人すら見当たらななかったのだ。となると、もともと使われていなかったかあるいは…俊司は考えるのをやめて、中を探索し始めた。


「どうやら一階には誰もいないみたいだな」

「革命軍が連れ出してしまったんですかね?」

「その可能性が一番高いかな……捕虜はいざという時の武器にもなるし、情報源にもなるからなぁ」

「もうちょっと早く来れてたらなんとかなったかもね…」

「仕方ないさ。さて、まだ二階があるらしいし、見てみるか」


一同は階段を上り、二階を探索し始めた。しかし、どこを見てもあるのは誰もいない牢屋のみ。俊司たちは半ばあきらめかけていた。


「はぁ……誰もいないな……」

「仕方ないわね。早く紫のところへ……」

「誰かいるんですか!?」

「!?」


突然、俊司達ではない誰かの声が聞こえてきた。

三人はあたりを見渡し声の主を探す。しかし、どこを見てもあるのは牢屋と壁であった。


「……壁?」


何を思ったのか、俊司はなんの変哲もない壁を見て首をかしげていた。


「どうしたんですか?俊司さん」

「いや……この壁おかしくないか?」

「……いえ、普通の壁ですが……」

「いや、一見普通の壁だけど……周りはすべて牢屋でできてるはずなのに、この部分だけが傷一つない壁になってる。なんか不自然じゃないか?」

「偶然じゃないの?」

「……」


腑に落ちない俊司は、そのまま壁を手で叩いてみた。


「!?……これは……壁じゃない!」


そう言って、俊司は壁の端を見渡すと、何かをつかんで一気にはがしていった。


「!?」

「こ……これは……」

「やっぱり……こんな隠し部屋があるなんてな」


さっきまで壁だったはずの場所に現れたのは、何の変哲もない牢屋と、その中から自分たちをみて目を丸くする厄神様だった。


「あなた達……どうやってここに?」

「うわっ……ヤクガミ……」


霊夢はなぜかいやな顔をしていた。変なトラウマでもあるのだろう。雛もそんな霊夢をみて苦笑いをしていた。


「鍵山……雛さんですね」

「はい。あなた外来人なんですね……でも、霊夢さん達と行動してるってことは……革命軍じゃないんですね……」

「はい。まあ、良く間違えられましたが……な、妖夢」

「……」


妖夢はそっぽを向きながら顔を真っ赤にしていた。


「ふふっ……まあそれはともかく……早く逃げてください」

「でも、あなたを助けないためには……」

「私はかまいません。それより早く逃げてください。ここのカギはあなたたちではあけることはできません」

「そんなわけな……あれ?」


俊司は鉄格子に手をかけた瞬間、目を丸くした。

鉄格子には鍵がかかっていてあけることはできない。だが、肝心の鍵や鍵穴が見当たらなかったのだ。


「鍵がない……どこにあるんだ?」

「だからこの鍵はあなた達には開けられないんです!とにかくにげて……!!」

「……なにしてるんだ?そこで」


俊司達の背後から若い男の声が聞こえてくる。

振り向くと、そこには一般の兵士とは異なる服装をした男が立っていた。


「しまった!くそっ!」


俊司たちはあわてて臨戦態勢をとる。

しかし、男は予想を覆す行動をとり始めた。


「やめてくれ……争う気はさらさらないんだ」


そう言って男は両手をスッと上にあげた。


「……どういうことだ」

「あんたらは雛さんを助けに来たんだろう?じゃあ、戦う理由なんてないって言ってるんだよ」

「……?」


俊司たちは臨戦態勢を解除し、男をじーっと見つめた。男は少し迷ったような顔をしていたが、はぁと溜息をつくと、ゆっくりと近づいてきた。


「なぜ戦おうと思わないんだ?」

「理由がないから。俺は今の戦いはあまり好んでなくってさ」

「看守さん……」

「雛さんよかったな。助けが来てくれて」


そう言って鉄格子の前に立つと、ある場所に手を向ける看守。すると、ボゥっと小さな光が現れた。


「……能力?」

「この世界的に言うと……鍵を操る程度の能力って感じかな?だから俺はこの仕事をしてるんだ」


看守がそう言っている間にガチャリと音が鳴り、鉄格子はゆっくりと開き始めた。


「さ……これで逃げれるよ」

「いいんですか?こんなことしたら看守さんは……」

「脅されたとでも言えばいいさ。そんなことより早く逃げな」

「看守さん……」


涙目になった雛を看守は慰めるように頭をポンポンと叩いた。

はじめは少し嬉しそうな顔をしていた雛だったが、急に顔色を変えると看守から距離をとった。


「だめです!私は厄神ですよ!?頭なんて触ったらどうなるか……」

「そうなったらそうなっただよ。なんせこの軍に入隊した時から覚悟はしてるさ」


そう言って看守は笑顔を返した。


「というわけだから、あとはよろしくな外来人の英雄君」

「まだ英雄じゃないですよ。ところで……なぜここには雛さんしかいなかったんですか?」

「ああ……君たちが侵攻してきたと同時に捕虜の移動を行ったんだ。なにせ大切な人質だからね……いろいろ面倒になってしまうからさ……」

「でも……なんで雛さんだけが残っていたんですか?」

「ここには彼女の知り合いが二人も働かされててさ……面会してる時の彼女たちはとても生き生きしてたよ。君たちがここに来たってことは、他の二人を助けてくれるかもしれない。でも、雛さんだけは捕虜として残っていたからさ……離ればなれになっちゃうだろ?だから一か八かでこの壁紙をはりつけて、あいつらに見つからないようにしてたんだ」

「じゃあ……俺たちがここに来なかったらどうするつもりだったんですか?」

「彼女だけでも逃がすさ。もちろん、他の二人を助け出してくれると信じてだけどね…お?お仲間が来たみたいだぜ?」


看守は俊司の背後を見ながらそう言った。俊司が後ろを振り返ると、そこには見覚えのあるスキマが展開されていて、中から例の人物が現れた。


「あら?もうここに来てたのかしら」

「紫か……こっちはなんとか……その子は……にとりさん?」

「ひゅい!?どっどうして私の名前を?それに外来人……」

「まあ……後で話すよ……」

「にとり!」


俊司がめんどくさそうに頭をかいてると、背後から雛がいきなり駆けだし、にとりに抱きついた。


「ひな……」

「よかった……無事だったんだね……」

「うん……雛も無事でよかった……」


二人は抱き合ったままそのまま涙を流し始めていた。


「さてと…これで何とか目標は達成だな」

「まだよ。この子が言うにはまだ白狼天狗が…」

「それは大丈夫。きっと文がなんとかしてくれてるさ」

「そう……ならこれで終りね」


紫がそう言うと、周囲から安堵のため息がいくつか聞こえてきた。

だが、遠足は帰るまでが遠足と言うように、作戦も帰るまでが作戦である。俊司たちは一層気を引き締めて深呼吸をした。


「三十分後に司令部からの増援が来る予定になってる。早めにここを抜けたほうがいいだろう」

「わかりました。ありがとうございます」


俊司は軽く頭を下げると、全員にアイコンタクトをとりその場を後にした。


「……あの!」

「なんですか?雛さん」

「……お名前……聞かせてもらっても……いいですか?」

「名前?ああ…」


看守はなぜか少しためらいながらも、フゥと息を吐いてから口を開いた。


「鍵山……鍵山悠斗。偶然にも……雛さんと同じ名字だよ」

「そ……そうでしたか……じゃあ……また機会がありましたら、どこかでお会いしましょう……悠斗さん」

「ああ。元気でな雛さん」


雛はそのままコクリとうなずくと、悠斗に背を向けて走り出した。


「……もう……会えないだろうけどな。裏切り者は……なんとやら……か」


そう言って悠斗は震えそうになる手を必死にこらえていた。 
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