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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第21話 怪獣無法地帯

 ドロシー・アンダーソン教授が無事に保護された事により兼ねてから予定してあったマジンガーZ強化計画を再び再会出来る事になった。それを聞きアースラ隊のメンバーは一安心していた。
 中でも甲児は飛び上がり喜びを体で表現したとの事である。

「やったぜぃ! これでマジンガーも空が飛べるようになるぜぃ!」
「良かったわねぇ甲児君。これはほんのお祝いの気持ちよ。どうぞ」

 リンディから貰った一杯の茶を甲児は嬉しそうに飲み干した。だが、その直後顔面蒼白になりその場に倒れてしまった。その道中仕切りに何かを呟いているが聞き取るのは難しいようだ。

「か、艦長! それさっき艦長が砂糖とミルクを入れたお茶ですよ!」
「あら、間違えちゃった」

 年甲斐もなく舌を出して天然娘を装う艦長。だが、回りに居たメンバーは即座に凍りついた。それはウルトラマンであるハヤタは勿論改造人間である本郷ですら例外ではない。が…

「ハヤタ、何故甲児君は倒れたんだ? 見た所あのお茶には毒は含まれてなかったようだが?」

 その中でダンだけは何故甲児が倒れたのか理解できなかったようだ。流石は異星人。考え方が根本的に違うようだ。
 そんな事があったのが昨日の事。翌日には、光子力研究所の弓教授から連絡が入ってきた。内容は甲児とマジンガーZを研究所に帰還させる事であった。マジンガーの強化計画なのだからその大元であるマジンガーZが居なければ話にならない。

「リンディさん、俺行って来て良いですか?」
「えぇ、勿論よ。いってらっしゃい」

 リンディの快い承諾を受けた甲児はすぐさま格納庫に向おうとする。が、そんな甲児の肩を竜馬がガッと掴んだ。

「待った甲児君。俺達も一緒に行こう」
「ゑ? 何で」
「マジンガーの飛行計画があると言う事は恐らく飛行訓練もあるかも知れないからね。それなら俺達も一緒に行って訓練した方が良さそうだろう? 幸い俺達は空中戦を経験してる。少しは君の特訓の足しになると思うんだよ」

 竜馬のその発言はとても有り難かった。確かに甲児の飛行経験と言ったらパイルダーでしかない。いざ18mはあるマジンガーを飛ばそうとしてもそう簡単に出来る筈がない。其処で空中戦の先輩であるゲッターチームにご教授いただくのは願ってもない事でもあった。

「そう言う訳ですからリンディ艦長。俺達も一緒に行って構いませんか?」
「そうねぇ…まぁ、良いでしょう。どうせ此処最近ジュエルシードの反応もないし大きな事件も無さそうだし」
「有難う御座います。よし、それじゃ早速行こう。行くぞ、隼人! 武蔵」

 竜馬の言葉に隼人も武蔵も頷いた。別に断る理由などない。このままアースラに残っても良かったがそれだと退屈で仕方ない。それならば甲児の特訓をした方がいくばか暇潰しにはなるだろう。そう考えての事だったのだ。
 やがて、時空ゲートを通ってゲッターチームとパイルダーが研究所へと向った。Zは一足先に研究所へと転送しておいた。事前にチェックをして貰う為だ。
 今アースラに残っているのはなのは、本郷、ハヤタ、ダンの数名だけである。まぁ、しかしそれでも大きな事件はないだろう。誰もがそう思っていた直後の事であった。

「艦長、ウルトラ警備隊のキリヤマ隊長から通信です」
「映像出して」

 言われた通りエイミィがコンソールを操作する。モニター上にキリヤマ隊長の顔が映りだす。

「ミスター・キリヤマ。どう致しました?」
「えぇ、リンディ艦長は多々良島をご存知ですかな?」

 それはリンディも聞いてはいた。何でも近年多発する火山活動や地殻変動の影響により立ち入りが禁じられていた絶海の孤島だった筈。しかしそれが一体どうしたと言うのか?

「実はつい最近多々良島の火山が停止して、人が入れる状態になったんです。其処で調査員を派遣したのですが、どうもその調査員達との連絡が途絶えてしまったんです」
「何ですって! 隊長、もしやそれは何かに巻き込まれたからですか?」
「嫌、詳しい事情はまだ分からん。本来なら我々が捜査に乗り出したい所なのだが、生憎日本で多発するテロ事件の収集で手が回らん状態なのだ。其処でアースラ隊に調査員の捜索を依頼したい」

 キリヤマ隊長が言うテロ活動とは恐らくショッカーの事であろう。確かに彼等の対処はウルトラ警備隊や科学特捜隊が行わなければどうしようもない。結果として人員が不足していたのだ。其処でアースラ隊に白羽の矢が立ったと言う事であろう。

「分かりました、その捜索は我々アースラ隊が引き受けました」
「お願いします」

 軽く一礼して通信は切れた。その後、リンディは軽く溜息をついた。まさか甲児達を向わせた直後にこれとは。いささか軽率であった自分に呆れるように溜息を発した。

「艦長、甲児君達を呼び戻しますか?」
「いいえ、止めておきましょう。彼等も今頃は特訓で忙しいでしょうし、それに捜索だけだから多分戦闘もないでしょう」

 確かに捜索でマジンガーやゲッターを用いるのは馬鹿げている。それに多々良島は火山が頻繁に噴火するので有名な島だ。そんな島でド派手な武器を使えばそれこそ本末転倒になる。

「そう言う訳だから、なのはちゃん達はこれから多々良島に行って調査員達の捜索並びに原因の究明に向って頂戴」
「分かりました」
「現場の指揮はハヤタ隊員にお任せします。お願いしますね。ハヤタさん」
「任せて下さい」

 こうして、ハヤタ隊員を隊長とした調査員捜索チームが結成され、直ちに多々良島へと転送されていった。誰もが調査員と捜索チームの無事な帰還を願うのは当然の事でもあった。




     ***




 多々良島に付いた一同がまず目にしたのはその地に生い茂る原生植物であった。それだけならまだ驚きはしないのだが、其処に生えている植物は明らかに異質さをかもし出していた。まるで、白亜紀にタイムスリップしたかの様な錯覚さえ感じられた。

「これは、日本では生えない植物だ。それもこんなに…だが、一体何故?」

 手近な植物を手に取り本郷は呟く。日本にこれが生えないのは一重に気候などの問題による物が主とされている。しかし、近年多発する火山活動や地殻変動の影響でこの島の気候が変わってしまったと言うのであれば話に合点が行く。難易しても早く調査員達を見つけ出す必要があった。この島は余り居心地の良い島とは言えない。

「まずは調査員達の宿舎に行って見よう。もしかしたら其処で原因がつかめるかも知れない」

 一同が移動を始めた。森林の移動は思ったよりも面倒であった。足を踏み出す度に生い茂った植物が足に絡みつき転びそうになってしまう。それでも大きく足を踏み出し葉を振り払いながら道を進んでいく。
 突如、けたたましい叫びが聞こえてきた。獣のそれかと思ったが質量からしてでかさが違い過ぎる。では一体何が?

「あ、あれを見て下さい!」

 なのはが指差す。其処には二体の怪獣が暴れ回っていたのだ。
 一方は蝙蝠を思わせる羽と牙を持った怪獣であり、もう一方は全身岩の様な皮膚を持った怪獣であった。その二体の怪獣が所狭しと暴れまわっているのだ。あんなのに巻き込まれたら人間など一溜まりもない。

「すぐに此処を離れよう。今我々のすべき事は宿舎へ行く事だ」

 ハヤタの判断は正しかった。もしあそこに調査員が居たとしても怪獣達の暴れまわっている箇所に行くのは自殺行為に他ならない。ミイラ取りがミイラになっては洒落にもならない事だ。
 視線を再び怪獣に映すと、蝙蝠の怪獣の片手がもう一方の怪獣により引き千切られてしまっていた。蝙蝠の怪獣はその怪獣に背を向けてそそくさと逃げ去ってしまった。そんな怪獣を見てもう一方の怪獣【レッドキング】は得意げに腕を振り上げているのであった。




     ***




「こいつは酷い…」

 一同の目の前に映ったのはすっかり荒れ果てた宿舎であった。それもかなり酷い。まるで獣の襲撃にでもあったかの様な荒れ方であった。
 そんな中、ダンは調査員の遺留品らしき物を見つけた。それは血の跡の付いたシャツの断片であった。

「血のつき方からしてかなり時間が経ってる…」

 ダンはその後沈黙した。もしかしたらこのシャツの持ち主は既にこの世に居ない存在なのかも知れない。そう思わされたのだ。
 だが、確証もないのに決めるのは愚かな行為に他ならない。まずは現物を見つけるのが先だった。

「此処は班を二つに分けよう。僕となのはちゃんはこの先の火山帯を調べる。ダンと本郷の二人はもう一度森林地帯を探ってみてくれ」
「分かった。何かあったら此処で落ち合おう。互いに通信を怠らないように」

 互いに頷き四人はそれぞれ分かれて捜索を行う事となった。




     ***




 森林地帯を捜索する事となったダンと本郷の二人は先ほど怪獣達が暴れていた箇所を捜索していた。もしかしたらその箇所で調査員が動けなくなって立ち往生している可能性があったからだ。だが、そんな想いとは裏腹に其処では何一つ収穫がなかった。あったのは原生植物の群れだけであった。

「これ以上探しても時間の無駄か。どうする、もう少し探索を続けるか?」
「嫌、一旦ハヤタに連絡を入れてみよう」

 そう言ってダンがハヤタに通信を入れようとした。だが、その通信は何故か雑音のせいで送れず仕舞いとなってしまった。

「通信が出来ない!」
「恐らく此処の火山帯の磁場のせいだろう。となるとアースラに連絡を取るのも難しいな」

 正しくミイラ取りがミイラになると言う現状であった。捜索に来た自分達だったが、帰る為に通信を送らねばならないのにそれが出来ないとなると今度は自分達の身の心配をしなければならない。
 そう思っていた時、近くの茂みが微かに動き出すのを感じた二人が咄嗟に身構える。

「何だ?」
「気をつけろダン。もしかしたらこの島の猛獣かも知れないぞ」

 本郷が前に立ち構える。改造人間である彼だからこそそんな無茶が出来るのだ。
 茂みの動きが大きくなり、やがて茂みの中から何かが現れた。それは一匹の珍獣であった。赤で基調された色合いをしており手足は白い。その珍獣はダンと本郷を見ると左右に飛び回った後、背を向けて走り出した。まるで二人をあるべき場所へ導こうとしているかの様だった。

「あの珍獣…僕達を何処かへ連れて行こうとしているのか?」
「どうする…ついて行くか?」
「そうしよう。どの道あの珍獣しか手掛かりがないのだから」

 細心の注意を払いつつダンと本郷の二人は珍獣の後を追い掛けた。珍獣の行く先は最初は深い森林だったのが、やがて岩山へと変わっていく。とても険しい山岳地帯であった。しかしその地帯をあの珍獣は物ともせずに走っていく。

「ん? あれは!」

 道を歩く中、ダンは岩陰に何かあるのを見た。その近くには例の珍獣が居る。

「そうか、あの珍獣はお僕達を此処に連れて来たかったんだな」
「き、君達は?」
「安心して下さい。我々は貴方達を救助する為にやってきました」
「そ、そうか…もう調査員の生き残りは私一人になってしまったんだ。他の奴等は皆死んでしまった。この島は無法地帯だ。この島は我々人間の手に追える島じゃなかったんだ」

 調査員の生き残りは涙を流しながら語った。最初は四人居た調査員も今は此処に居る彼一人となっていたのだ。だが、何故彼だけ今まで生きてこられたのか?

「僕がこうして今日まで生きてこれたのもこいつと小さなお嬢ちゃんのお陰なんです。毎日食べ物を持ってきてくれて…」
「ちょっと待ってくれ! この島には女の子が居るのか?」
「あ、あぁ…確か昨日だったかな。突然目の前に現れて何か訳の分からない事を呟きながら何処かへ行ってしまったんだ。でもその際に襲われていた僕を助けてくれたんですけどね」
「訳の分からない事? それは一体何なんです?」

 訳の分からない事を言う女の子。理由はともかくそんな幼い少女がこんな怪獣だらけの無法地帯に居たのでは危険過ぎる。早急に調査員共々助け出さねばならない。

「確か…ジュエル…なんとかって言ってた気がします。恐らく何か探し物をしてたみたいだが…一体何の事やら」
「ダン、間違いない。それはジュエルシードだ! 恐らく此処最近の異常気象も怪獣の活発な行動も恐らくジュエルシードが影響しているんだ」
「成る程、ではその女の子と言うのはなのはの言ってたバードス島から助け出してくれた例のもう一人の魔導師と言う事になるな」

 二人が納得した。その時、激しい振動が起こった。何事かと一同が視線を向ける。其処にはあのレッドキングが起き上がり暴れ始めたのだ。それもかなり激しい暴れ方だ。

「また奴か! アイツは毎回決まった時間には起き上がって滅茶苦茶に暴れまわるんだ。アイツのせいで調査員の殆どがやられちまった」

 調査員とダン達の前でレッドキングが激しく暴れまわっている。このままの進路で進んできたら、恐らくこちらに来る。何とかしなければならない。ダンが懐からウルトラアイを出そうとしたが、其処で躊躇った。

(駄目だ、今此処で変身したら僕の正体がばれてしまう。悔しいが此処はチャンスを待つしかない)
「ダン、今は此処を離れるのが先だ」
「あ、あぁ…」

 本郷の言葉にダンは力なく頷き、調査員を両側で支えながら歩き出す。しかし、そんなダン達のとは逆方向に珍獣が走り出していった。

「アイツ! まさか囮になるつもりなのか!」
「止めろ! お前まで殺されちまうぞ! 逃げるんだ!」

 調査員が叫ぶも聞く耳持たずで珍獣は走り出した。そしてレッドキングの目前に迫るとそのまま左右に動き回りだしたのだ。レッドキングの目線が忽ちその珍獣に向けられる。
 最初は興味本位で見ていたのだがやがてその光景に苛立ちを感じ出したのか、レッドキングは近くにあった岩を持ち上げる。それをそのまま珍獣へと叩きつけるつもりだったのだろう。だが、その刹那、金色の刃がレッドキングの顔面に叩きつけられた。
 火花が舞い上がり驚いたレッドキングは思わず岩を落としてしまった。その隙に珍獣の近くに例の女の子が舞い降りてきたのだ。

「大丈夫? 此処は私に任せて君は早く逃げて!」

 女の子の言葉に珍獣は不安そうな眼差しを浮かべる。そんな珍獣の頭をそっとフェイトは撫でた。

「お願い。私は大丈夫だから、あの人の元へ行って」

 珍獣は頷き、そのまま調査員の下へと走り去っていった。珍獣が走り去ったのを確認して女の子こと、フェイト・テスタロッサはレッドキングを見上げた。

「大きい…でも、なのはだってあんなに大きな怪獣と戦ってきたんだ。私も頑張らないと!」

 決意を胸にフェイトはレッドキングに闘いを挑みだした。




     ***




 レッドキングが出現するよりも前に、なのはとハヤタの二人は火山帯付近を捜索していた。あたり一面に硫黄の不快な匂いが充満している。幸い人体に影響がある程ではないので安心だったが、それでも長い時間此処には居たくない。

「ハヤタさん、此処に居ると少し気持ち悪くなりますね」
「硫黄のせいだろう。もう少し此処を調査して何も無かったら一旦宿舎に戻るとしよう」

 それから二人はもう暫く調査を続けはした。が、結果として調査員達の痕跡は見つけられずであった。これ以上の捜索は人体に影響を及ぼす危険性もある、まして火山帯の近くだ。何時噴火するのか分からない。

「仕方ない。一旦戻ろう」
「そうですね」

 なのはもハヤタの意見に賛成であった。もうこれ以上硫黄の臭い匂いを嗅いで居たくない。一刻も早く此処を抜け出したかった。その時、激しい振動と共にレッドキングの姿が現れた。

「あの時の怪獣!」
「いかん、あそこにはダンと本郷達が居る!」
「ハヤタさん、私は良いですから行って下さい!」
「分かった。その間君は安全な場所に待機してるんだ!」
「はい!」

 なのはは強く頷いた。そして、ハヤタは懐からベータカプセルを取り出し天に掲げてボタンを押した。
 眩いフラッシュが焚かれ、ハヤタの姿は白銀の皮膚を持つ宇宙人ウルトラマンへと変貌した。
 ウルトラマンは空高く飛翔し、レッドキングの居る場所へと飛んで行った。残ったのはなのはのみであった。

「今の内に宿舎に戻らないと!」

 来た道を戻り、例の宿舎へと戻ろうとしたその時、目の前の岩陰から突如一匹の猛獣が姿を現した。その猛獣が口に何かを咥えている。まさか、調査員の体の一部では?
 なのはの脳裏に戦慄が走った。今此処には自分しかいない。となればこの猛獣の対処は自分でしなければならないのだ。そう思いながらもウ一度その猛獣の口に咥えられている物を見た。それはどうやら調査員の体の一部ではなく、果物の一種でもあった。
 猛獣がこちらを見た。目と目が合う。この猛獣、以前何処かで会った気がした。

「あ、あんた…生きてたのかい?」
「その声…アルフさん!」

 やはりそうだ。この猛獣はアルフが獣形態になった時の姿だったのだ。即座にアルフは人間の姿に戻る。すると目の前のなのはにガバッと抱きついて何度も頭を撫でだしたのだ。

「ア、アルフさん?」
「良かった。良かったよぉ。あんたが生きててさぁ~。本当にあんたは悪運が強い子だねぇ~」

 見ればアルフは滝の様に涙を流して泣いていた。それほどまでに自分の事を心配してくれていたのだろう。だが、アルフを見た事でまた別の考えも浮かび上がってきた。

「アルフさん、アルフさんが此処に居るって事は、もしかしてフェイトちゃんも此処に?」
「え? あ、あぁ居るよ。でも何なのさこの島は。生態系と良い何もかもが化け物みたいな島だよ此処ぉ」

 アルフが疑念を抱くのも無理はない。この島の生態系は狂っているのだ。明らかに日本産ではない植物が生い茂っているしこの怪獣の数だ。恐らく今見たのよりも更に多くの怪獣が居るに違いない。
 そんな時、目の前で暴れているレッドキングに向かいウルトラマンが向っていったのが見えた。
 ウルトラマンがレッドキングに闘いを挑む。あの怪獣の怪力は恐ろしいものがある。だが、それでもウルトラマンの前では全く通用しない。寧ろ遊ばれていた。
 ウルトラマン目掛けて突進したらそれを簡単にいなされて後方の岩場に頭を激突させる。そんな事を数回行ったものだから流石のレッドキングも目を回しだしてしまう。その隙を突きすかさずウルトラマンが動いた。
 レッドキングの首根っこを掴み背負い投げの要領で地面に叩き付けたのだ。レッドキングは体をビクビク痙攣させた後、動かなくなってしまった。

「うへぇ、あの銀色の巨人は何だい? あの怪獣をアッサリ倒しちまったけどさぁ」
「え? アルフさん、ウルトラマンを知らないんですか?」
「ウル…何それ?」

 どうやらアルフはウルトラマンを知らないようだ。だとするとフェイトも恐らく知らないのであろう。そう思いなのははウルトラマンを見た。すると、ウルトラマンが手をヒラヒラさせている。まるで自分の回りを飛び回るハエを追い払っているかの様に。

「あ、あれ…フェイトだ!」
「えぇ! フェイトちゃん!」

 案の定だった。アルフが知らないのだから当然フェイトも知らない。どうやらフェイトは突然現れて怪獣を倒したウルトラマンを敵と認識して攻撃をし掛けているのだろう。だが、ウルトラマンは少女を傷つける訳にもいかないしかと言って喋れる訳でもないので困っていた。

「止めないと! アルフさん、また!」
「え、あ、うん…」

 アルフの目の前でなのははデバイスを起動させて大空へと飛んで行った。そしてまっすぐウルトラマンに攻撃を仕掛けているフェイトに向って飛び込んだ。

「待ってフェイトちゃん! この人は敵じゃないよ」
「え!」

 突如現れたなのはを見てフェイトの思考が停止してしまった。暫しなのはを見る。そして目から大粒の涙を零れ落とす。

「フェ、フェイトちゃん?」
「なのは…なのはぁ!」

 名前を叫び突然なのはに抱き付いた。一体何がどうしたのかなのはは訳が分からず困惑した表情でフェイトを見た。

「ど、どうしたのフェイトちゃん?」
「良かった、本当に良かった。なのはが生きててくれて…本当に良かった」

 それを聞いてなのははハッとした。そうだった、あの時自分は時の庭園から落下してからフェイトと暫く会ってなかったのだ。当然フェイトは自分が虚数空間に落ちて命を落としたとばかりに思っていたのだろう。それがこうして生きていた。そう分かっただけでもフェイトは嬉しかったのだ。

「御免ね、フェイトちゃん。心配掛けちゃって」
「ううん、良かった…なのはが無事で本当に良かったよ」

 未だになのはに抱きついて泣きじゃくるフェイト。そんなフェイトの頭をなのははそっと優しく撫でた。
 その突如、多々良山が突然の噴火を起こした。何事かと皆の視線が火山に向けられる。その火山の溶岩の中に一際青く輝く物があった。
 ジュエルシード。
 今回の多々良島の異常気象や火山活動の主な原因は恐らくあのジュエルシードだ。そして、そのジュエルシードが溶岩を纏い倒れていたレッドキングに覆いかぶさった。
 グニュグニュと溶岩が万遍なくレッドキングの全身をコーティングする。するとその姿はミルミル内に変貌していった。
 全身の血管が溶岩の様に熱を帯びており、その両手はかつての10倍近く太く巨大になっていたのだ。

「そんな! 一体どうして?」
「ジュエルシードが溶岩を取り込んで怪獣に付着したんだ。それであの怪獣のデータを元に更に凶悪な怪獣に改良したんだよ」

 フェイトが説明する。更に凶暴になったレッドキングが二本の巨大な豪腕を振るう。ウルトラマンは咄嗟に両手をクロスしてガードしたが、そのガードごとウルトラマンの体を後方へと吹き飛ばしてしまった。
 凄まじいパワーだった。まともに食らえば危ない。
 そう判断したウルトラマンは腕を十字に組み構える。
 スペシウム光線。
 白銀の光線がレッドキング目掛けて飛んで行った。しかし、その光線もレッドキングの巨大な二本の豪腕の前に掻き消されてしまった。

「スペシウム光線が…効かない!」
「あの怪獣、前のより遥かに強くなってる!」

 なのはとフェイトは更にパワーアップしたレッドキングを見て戦慄を覚えた。さしものウルトラマンも苦戦を強いられていた。更に言えば胸のカラータイマーも赤く点滅しだしている。もう余り時間がないのだ。




     ***




「このままではウルトラマンが…」

 その頃、調査員と珍獣と共に避難をしていた本郷とダンであったが、ウルトラマンの窮地を察知したダンが振り返った。其処にはジュエルシードの影響により更にパワーアップしたレッドキングの前に苦戦を強いられるウルトラマンが居た。このままではウルトラマンが倒されてしまう。それだけは避けなければならない。

「本郷、君はその二人を連れて先に宿舎へ向ってくれ!」
「何だって! 君はどうするつもりだ?」
「僕の事は良い。急ぐんだ!」

 ダンの顔には只ならぬ気が漂っていた。それを感じ取った本郷は頷きダンを残して歩き去って行った。ようやく一人になれたダンは懐からウルトラアイを取り出し装着する。
 忽ち燃える赤色の姿をした巨人へと変貌しレッドキングの前に現れた。

(セブン!)
(すまない、遅くなった)

 遅れた事を謝罪し、今度は二人でレッドキングに挑む。一方で、レッドキングと言えばウルトラマンが二体増えた所でお構いなしに自慢の豪腕を振るっている。

(セブン、あの腕は驚異的だ。気をつけろ)
(分かった。ならば光線で一気にケリをつけるぞ!)

 セブンとマンが互いに頷き、その場で腕を構えた。
 ウルトラマンは腕を十字に、セブンは腕をL字に構える。双方の光線が放たれてレッドキングに向っていく。が、やはり同じ結果であった。
 光線が増えようともレッドキングの豪腕の前には脆くも消え去っていくだけだったのだ。

(何て強度だ! 私達の光線が全く通用しないなんて)
(このままでは不味い、何か手を打たなければ)

一瞬にして不利な状況に追い込まれてしまった。二人のウルトラマンが果敢に挑むもジュエルシードを取り込んだレッドキングはそんな二人のウルトラマンなど物ともせずに吹き飛ばす。圧倒的パワー。それこそがあのレッドキングの武器だったのだ。




     ***




「このままじゃ、ウルトラマンが負けちゃう。どうしたら良いの?」

 なのはの前ではウルトラマンとウルトラセブンが苦戦を強いられていた。あのレッドキングはかなり強い。光線を跳ね除ける豪腕に圧倒的パワー。ウルトラマンが二人掛かりで掛かっても全く歯が立たない相手なのだ。

「あの力は多分ジュエルシードによるものだよ。だから封印してしまえばあの怪獣はエネルギーを失って自己崩壊する筈」
「本当! よぉし、それなら!」
「待って!」

 レイジングハートを構えて怪獣に向っていこうとするなのはの肩をフェイトは掴んで引き止めた。

「何?」
「君一人の力じゃ結果は同じだよ。それに正面から撃ったんじゃ腕で防がれちゃう。此処は二人でやろう」
「うん!」

 二度目の共闘だった。本来ならジュエルシードを奪い合う仲なのだが今はそんな事を言ってる場合じゃない。このままあの怪獣が暴れ続ければ火山の噴火は更に酷い物になる。そうなる前にケリをつける必要があった。

「行こう、フェイトちゃん」
「うん」

 なのはとフェイトは互いに空を飛び、レッドキングの背後に回った。幸いレッドキングはなのは達には目もくれず目の前に居るウルトラマン達の相手をしている。
 今が絶好の機会だ。これを逃せばもう後はない。

「タイミングは私に合わせて! 行けるよね」
「勿論だよ!」

 自信を持ってなのはが頷く。互いに狙いをレッドキングの背中に合わせる。二人の持っていたデバイスの穂先に魔力が収束していく。

(あの子の収束魔法を見て考え付いた魔法。実戦で使うのは今回が初めて…お願い、上手く決まって!)

 祈るようにフェイトは目を瞑り、やがてカッと目を開いた。チャージは終わっている。後は引き金を引くだけだ。

「行くよ! サンダァァァ・レイジィィィ!」
「うん! ディバイィィィン・バスタァァァ!」

 なのはの桜色の閃光とフェイトの金色の閃光が互いに交わり一筋の閃光となりレッドキングの背中に命中した。命中したそれはレッドキングの肉を貫き、骨を砕き、中にあったジュエルシードを包み込んでいく。
 だが、余りにもパワーがありすぎたのかその威力に耐え切れずジュエルシードはそのまま粉々に砕け散ってしまった。

「しまった! パワー配分を誤った!」
「え?」

 ジュエルシードが崩壊したのを察知したフェイトが毒づく。なのははそれに気づかなかったのか首を傾げていた。
 そんな二人の前でジュエルシードを失ったレッドキングはそのまま地面に向かい倒れてしまった。そして、纏っていた溶岩が再び活動を開始し、レッドキングの肉を溶かし始めた。その巨体が溶けて液状になるのに5分も掛からなかった。
 闘いが終わったのを確信すると、二人のウルトラマンは空へと飛び去って行った。

「やったね、フェイトちゃん」
「うん、でも…」

 フェイトは地面に広がる冷めて固まった溶岩を見た。ジュエルシードは砕けて溶岩と混ざり合い無くなってしまった。これでは何の為に此処に来たのか分からなくなってしまった。そう思った時、フラリとフェイトの体から力が抜けるのを感じた。

「わわっ!」

 咄嗟になのはがフェイトを抱き抱える。最早自力で飛ぶ事が出来ない位疲労していたのだろう。額に触れると熱があった。

「フェイト!」

 其処へアルフが駆けつけて来た。使い魔としてご主人を心配するのは当然の事だ。

「なのは、フェイトは一体どうしたんだい?」
「分からない。酷い熱だし、このままだとちょっと危ないよ」

 なのはが心配そうな顔で言う。此処のところフェイトは無理をしていた。母の為にジュエルシードを集める事、そしてなのはを救えなかった罪悪感に板挟みされ続けたフェイトは自分を傷つける事でその思いから逃れようとしていたのだ。その結果がこれだった。
 既にフェイトの体は限界を迎えていたのだ。このまま続けていたら危険だ。

「アルフさん、此処は一度アースラの医務室にまで連れて行きましょう」
「アースラ? 何だいそれ」
「はい、時空管理局って所の航行船なんです」
「な、それは駄目!」

 突然アルフが腕をクロスして拒否する。

「どうしてですか? このままじゃフェイトちゃんが」
「御免なのは。気持ちは分かるけど今あたしらは管理局と鉢合わせするのは不味いんだよ」
「そ、そうなんですか?」

 今一納得は出来ないが納得する事にした。要するに今この二人は何らかの理由で管理局に向う訳にはいかないのだろう。だが、このままではフェイトがどんどん衰弱してしまう。何とかしなければならない。

「とりあえず、皆に相談してみても良いですか?」
「うん、でも早めに頼むよ」

 アルフにフェイトを預けると、なのははすぐさま地上へと降り立った。其処には既にハヤタやダン、そして本郷が集まっていた。

「ハヤタさん、ちょっとお話を聞いて貰っても良いですか?」
「ん? なんだい」

 なのははフェイトのことを話した。ただし、彼女が不利になる様な情報は隠してのことでだが。

「成る程、訳有りのようだね。しかしそうなると何処が良いか…」
「だったらアミーゴに行けば良い。おやっさんなら喜んで力になってくれる」

 名乗り出たのは本郷であった。それにはなのはも賛成だった。確かにアミーゴなら管理局と関わりがないしあそこのマスターである立花籐兵衛は話の分かる男だ。きっと力になってくれる。

「よし、それじゃ本郷君となのはちゃんは一足先に其処に向ってくれ。リンディ艦長には僕から話をしておく」
「すまない。それじゃ行こうか」
「うん!」

 なのはは頷いた。その後、本郷となのはと合流したフェイトとアルフは一路多々良島から日本へと単身向う事となった。




     ***




 その頃、此処はショッカー日本支部。其処には今一人の科学者が首領の前に跪いていた。

【良くぞ来てくれた死神博士。貴様の頭脳と科学力を用いて憎き仮面ライダーとヒーロー達を血祭りに上げて貰おう】
「お任せ下さい首領。この私の手に掛かれば仮面ライダーなど赤子同然に御座います」
【頼もしい限りよ。では任せるぞ】
「ははっ!」

 軽く頭を下げた後、死神博士は立ち上がった。眼下には彼が手掛けた怪人が集まっている。その姿は今までのどの怪人よりも凶悪で強力な姿をしていた。

「聞いての通りだ我等が偉大なるショッカー怪人達よ! 我等の手で憎き仮面ライダーを倒し、この世界を我等の手にするのだ!」

 死神博士の激を受けて全ての怪人達が諸手を挙げて歓喜の声を放った。その声は仮面ライダーこと、本郷猛にとって本当の地獄の始まりを告げる狼煙にも聞こえてくるのであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

青年の下を訪れた一人の青年。
彼は拳ではなく筆で戦う事を望んでいた。
だが、時代は彼の望む形では進まなかった。

次回「もう一人の仮面ライダー」

お楽しみに 
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