蒼と紅の雷霆
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X編:トークルームⅡ
前書き
本編世界も波乱万丈だけどイクス世界もセプティマホルダーとマイナーズが手を取り合うには更に時間が掛かるだろうな
《“モード・ダークネス”》
アキュラがジャケットの調整やEXウェポンの複製元(セプティマ)解析に使っている作業場でロロの獣のような叫びが響いた。
『ウガァーッ!!』
悪魔のような姿となったロロが主人であるアキュラのジャケットのABドライブと共鳴し、暴走させるとそのエネルギーでアキュラを傷付ける。
「ぐうっ!」
「アキュラ君っ!!ロロちゃん!?一体どうしちゃったの!?」
ロロの様子にただ事ではないと思って駆け込んだコハクはアキュラを支えながらロロを見つめる。
「何らかの要因で暴走しているようだな…これは…蒼き雷霆…?それにしては不安定だな…まあいい」
コハクと共に入ってきたソウが微妙な違和感を感じながらも人差し指をロロの眉間に押し当てると軽く雷撃を放って機能をクラッキングする。
『ウ…グ…ウゥ…ハッ!…僕…一体何を…?あ、アキュラ君!?』
「大丈夫だ…新しいEXウェポン…どうやら失敗のようだな…いや…元より“暴走”の力…セプティマ反応の増加も見られたし、これが在るべき姿ということか…」
『そっか…僕、新しいEXウェポンの実験で暴走しちゃってたのか…』
いくら暴走していたとは言え主人であるアキュラを傷つけたことはかなり堪えたようだ。
「ロロちゃん…」
「モニタリングデータから、ロロ自身への後遺症は見られないようだが…ダークネストリガー…強力な力ではあるが…使いどころは考えるべきだな。」
「………」
ソウはアキュラとロロを見て、何も言わずにこの場を去った。
(アキュラの心に温かなものが満ちた)
《何でもないよ》
今よりも遥か昔、自分が身も心も未熟だった頃だ。
自分にとって大切な物が奪われてがむしゃらにセプティマホルダーを討滅していた時期…。
そして何度目になるのか分からないソウとの戦いで敗北した時であった。
“貴様は相変わらず空っぽな奴だな…だから貴様は俺には勝てないんだ”
“な、何だと!?”
“分からないのか?父親の言葉に踊らされている操り人形に負けるわけがないだろう。どれだけ武装を新調しようが、中身が伴わない強さなど大した物じゃない。力を得るだけならガキでも出来る。今の貴様はただ手に入れた力を振り回して八つ当たりをしているガキだ。本当に強くなりたいなら目の前の出来事に踊らされずに本質を見れるようになるんだな。それが出来んようなら本当に貴様はガキ以下のゴミ人形だがな…”
それだけ言うとソウは背中を向けて仲間の元へと去っていった。
手を伸ばして止めようとした時、アキュラは目を覚ました。
「………忌々しい夢だ」
何度も敗北して地に伏した苦々しい過去の記憶を見たアキュラの眉間には皺が寄っていた。
最近はアキュラとソウの活躍により、スメラギの動きが以前と比べて鈍くなっており、少しだけ眠る余裕が出来たのだ。
アキュラの場合は寝ることによって体の調子を調整していたのだが。
隣のロロはスリープモードで、珍しくソウとテーラも眠っている…今の2人には睡眠が不要なのだが、人としての肉体を持っていた名残で睡眠に近いことをしている。
子供達も寝ているのが見えたが、1人だけ見当たらない。
もうほとんどの景色が灰色にしか見えないアキュラの目にロロや宿敵達以外で強い色と光を放つ少女がいない。
探し回ってしばらくしてようやく彼女を見つけた。
「ここにいたのか」
「あっ!アキュラ君、早いね。おはよう」
「こんなところで何を?」
相変わらずの色と光を放つコハクにアキュラは安堵しながらコハクが何をしているのかを尋ねた。
「武器のメンテナンスだよ。大人達が遺してくれた物がいくつかあるんだ。最近はアキュラ君とお兄さんのおかげで安心して眠れるようになったから何時も遅くまでメンテナンスしてなくて良いんだ」
「そうか…手伝おう。」
少しでもコハク達が安心して暮らせているのなら自分達の戦いは無駄ではないようだ。
「ありがとう。でも大丈夫、武器のメンテナンスは私のためにやってるっていうか…メンテナンスしてる間は無心になって、アキュラ君やお兄さんの身に何かあったんじゃないかって、思わなくて済むから…」
「……そうか」
「それで、どうしたの?何か私に用?」
「いや、あの2人まで寝ているのにコハクの姿が見えないから探しただけだ。」
「ふふっ。へー、そっかぁ」
「何を笑っている?」
「ううん。別に、何でもないよ?」
(アキュラの心に温かなものが満ちた)
《“トマト”》
「みんな見てくれ!トマトが良い感じに実ったぜ!」
キョウタが持ってきたのは良い感じに熟れたトマトだった。
「トマトは強い日光が必要な野菜…この地下基地でよく育ったな。」
「へっへへー♪︎実は、まだアキュラ君達にも教えていない秘密の菜園があるんだよ!あ!言う機会がなかっただけだよ!仲間外れとかじゃないから、今度教えてあげるね?」
「いや、それはいいんだが…さっきからマリアが神妙な顔をしているが…何かあったのか?」
「トマト…苦手なのです…」
「トマトが苦手なのですか…確かにトマトは好き嫌いが分かれる野菜ですね」
調理されているのはともかく、生食となると食べられない者はそれなりにいる。
「んー、好き嫌いは良くないなー。よし!だったら私が、マリアが美味しく食べられるトマト料理、作ってしんぜよー!」
「トマトは各種ビタミンやカリウムなど栄養バランスに優れている他、抗酸化作用を持つリコピンを多量に含んだ野菜だ。
しっかり食べることだな。」
「全然食べないイクスに言われると、釈然としないのです…」
「というかイクスさん、やけにトマトに詳しいですね…」
「一般教養だろう?」
「やっぱり赤いからかな…?」
「しかし、トマト嫌いか…トマトは味よりも触感を苦手とする奴が多い…ならば、少し待っていろ」
ソウは外に出ていき、しばらくして大量の食料を持って戻ってきた。
「凄え!こんなにたくさんの食い物どうしたんだよGSの兄貴!?」
「何、大したことじゃない。この時期はスメラギの部隊が彷徨いているからその部隊を殲滅して食料を回収してきただけだ」
『さらっと言ってるけど何してんのさ?』
まるで買い物のように奪ってきたソウにロロは思わず引いた。
「キョウタ、先程のトマトを寄越せ」
「お、おう」
「コハク、鍋を貸せ」
「はーい」
ソウは必要な物を受け取るとまたこの場を後にしてしばらくして戻ってきた。
「出来たぞ」
持ってきたのは鍋一杯のトマトスープだった。
スメラギの部隊から奪ってきた食料もあって具もそれなりにある。
「食ってみろ」
「う、はい…です…」
器に入ったスープを押し付けられたマリアは恐る恐るスープを口にした。
「どうだ?」
「美味しい…です」
「うわあ、本当だ!美味しーい!」
コハクもちゃっかりご馳走になっており、美味しそうにスープを飲んでいる。
「こういう風に生食は厳しくともスープのように出汁にするなどの調理法もある。いずれ俺の知っているレシピを教えてやる」
「ガンセイヴァーさん…料理出来たんですね。」
「昔は体質的な問題があってな…それに食うなら美味い物が食いたいからな」
『意外と家庭的なんだね…物凄く意外…てっきり家事下手かと…』
「失礼なことを言わないで下さいポンコツアイドル。ソウはお兄様なのですから面倒を見る側として家事全般が出来るのは当然です」
『え…?』
パンテーラの言葉にロロは思わずアキュラを振り返る。
「何故俺を見る…ロロ…?」
『まあ、あなたが料理をする姿なんて想像出来ないしねぇ。あなたってコーヒーとか携帯食で済ませそうだし』
モルフォはアキュラが料理する姿が想像出来ず、寧ろコーヒーと携帯食で済ませそうな姿しか想像出来なかった。
(ソウとアキュラの心に温かなものが満ちた)
《彼女の面影》
「ねえ、アキュラ君?アキュラ君とお兄さんって付き合いが長いんでしょう?」
「不本意ながらな」
本当ならば互いに倒してすぐ終わりになるはずの関係だったのだが、今ではロロを除けば長い付き合いになっていた。
「じゃあ、お兄さんがどうして時々私を懐かしそうに見るのか分かる?」
「どういうことだ?」
「本当に時々なんだけど、アキュラ君を出迎えたりお話ししてる時に凄く懐かしそうに私を見てたの…何か元気が無さそうだったから聞けなくて…」
「…恐らくはロロのモード・ディーヴァとモルフォの基となったセプティマ…電子の謡精のセプティマホルダーだろう。ソウの身近な存在となるとそれしかいない。」
「電子の謡精って前にアキュラ君が話してくれた?」
「電子の謡精は本来のホルダーから因子を摘出され、別の人間に移植された経歴があり、その移植された人工セプティマホルダーがソウに近しい人物だったらしい。詳しくは知らんがな…電子の謡精のことを調べていた際にその人工セプティマホルダーのことも調べたんだが…実年齢と容姿が見合っていなかったな」
「年齢と見た目?」
「生前の年齢は13歳だったらしいが、資料で見た時はそれよりもずっと幼く見えた…恐らくコハクが重なって見えたのだろう…」
「そうなんだ…って、それって私が物凄く子供っぽいってこと!?」
「………………」
アキュラは何も言わずにそっと後ろを向いて去っていった。
「ねえ、アキュラ君!?どうして何も言ってくれないの!?ねえ!?」
無言で立ち去っていくアキュラを追い掛けるコハクであった。
(アキュラの心に温かなものが満ちた)
《歳の話》
「そう言えばアキュラ君って何歳なの?多分、私と同じくらいだよね?」
「「「え?」」」
「「は?」」
「何?どうしてみんな固まるの?」
『あの…因みにコハクちゃんっていくつなの?』
「14歳だよ?ね?同じくらいだよね?」
『へ、へえ…14歳…(お父さんの見た目も14歳の頃なのよね…お父さんも別の意味で見えないし)』
「………ああ。そのくらいだったような気がするな…」
「やっぱりね!」
「イクスも14には見えないですが…コハクも別の意味で見えないです…そう言えばGS達は何歳…?」
「マリア、世の中には聞いてはならないことがいくつもあるのですよ?」
『お母さん、マリアが怖がってるから止めてあげて…』
地の底から響くような重圧を伴った小さな声にマリアは震えた。
(ソウとアキュラの心に温かなものが満ちた)
《近接武器》
拠点の広い場所でソウとアキュラは体術による組み手を行っていた。
アキュラもソウも普通の人間ではないが、ある程度体を動かしておかなければならないのは昔と変わらない。
コハク達も見学しているが、2人の動きが速すぎて目が追えないらしく、首を忙しく動かしていた。
「「………」」
無言で拳と蹴りを打ち合う2人。
『やっぱり、この2人って戦い方が似てるわよね』
『うん、どっちも高速戦闘だからね』
モルフォとロロが離れた場所でソウとアキュラの組み手を見守りながら呟く。
『でも、やっぱりお父さんと比べたらアキュラの近接攻撃はワンテンポ遅れちゃうわよね』
『そ、それは…まあそうだね。』
アキュラの近接攻撃はEXウェポンに依存しており、ビットがそのEXウェポンを再現するのに僅かなタイムラグがある。
それを考えると即座に遠近の攻撃を切り替えられるソウに劣ると認めざるを得ない。
『……やっぱりアキュラにもソウみたいな武器が必要なのかな?いやでも、今の技術でそこまでやるには何もかも足りないし…』
下手にアキュラの銃に追加武器をしよう物ならギリギリで保っているバランスが崩れる可能性がある。
ただでさえ限界ギリギリの状態なのだから。
ロロはソウと無言の組み手を継続しているアキュラを見守りながらアキュラの新装備について電子頭脳を働かせていた。
(ソウとアキュラの心に温かなものが満ちた)
《時代の終わり》
「お兄さんって、アキュラ君みたいにばびゅーって飛べるよね」
「マッハダッシュのことか。」
ソウの戦闘の基本とも言える高速移動技術。
紅き雷霆による電磁場を利用した通常のダッシュとは比べ物にならない速度で飛び回り、敵を翻弄する。
これに紅き雷霆の攻撃力が加わればそこらの兵器やセプティマホルダーも沈黙するしかない。
「ねえ、お兄さん。私も空を飛んでみたいなーって」
「…無理だ。今の俺の出力ではマイナーズの…特に鍛えてもいないお前を抱えてのマッハダッシュは不可能だ。防護膜を纏わせたところで良くて気絶、最悪死ぬぞ」
パンテーラでさえソウの瞬間速度についていけず、鏡による空間の接続での移動で誤魔化しており、モルフォはマッハダッシュ後は電子となって瞬間移動をしながらついてきているのだ。
この辺に関してはアキュラの機動力についていけるロロとの決定的な差だろう。
「そんなに凄く速く動くのに良く平気だね」
「昔はあれよりは遅かったが、あれくらい動けなければ最上位能力者に距離を詰められる…ガキの頃に痛感したからな」
自分に戦い方を教えてくれた人物は私情を抜きにすれば最高峰の実力者だ。
あっという間に距離を詰められて組み伏せられたことも少なくなく、真正面からやりあうのは得策ではないと判断して間合いを取りながら隙を見て攻撃するために編み出した技術だ。
後は昔のマイナーズの人間を抹殺するためだ。
昔のマイナーズは数で劣るセプティマホルダーを迫害しており、自分もパンテーラもマイナーズへの恨みは今でも根付いているが、憎しみをぶつけるべき旧世代のマイナーズは既に死んでしまっている。
今生きているのは差別を抱く余裕すらなく旧世代のマイナーズへの憎しみを受けている力なき者達だ。
「このマイナーズ虐殺は過去のマイナーズがセプティマホルダーにしてきたことへのツケ…なのかもしれんが、それをぶつけるべき屑共は既に死んでしまっている…」
「………」
「もう終わらせなければならんのだろうな……何の得にもならん時代は」
現在のマイナーズは数を減らし、セプティマホルダー…スメラギへの恐怖を植え付けられており、仮にここから数を増やしたところで迫害するだけの精神的な余裕も残されていない。
セプティマホルダー>マイナーズとなってしまった現在の世界で恐怖を植え付けられてしまったマイナーズは何も出来ない。
この2つの種族が共存するのは更に時間が必要だろう。
それこそ、現在の記憶が薄れる程の時間が。
(ソウの心に温かなものが満ちた)
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