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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第1話 ”逸脱”の火曜日

 
前書き
アットノベルスにも同名にて投稿させていただいております。それでは、どうぞ。 

 
 遠くで自分を罵り、非難する声が聞こえてくる。
 いや、遠くというのは少し違った。今、その青年の体は限界にきているのだ。
 青年の視界は血で染まって赤くかすみがかり、床に倒れ伏している事もあって相手との距離を上手く測る事ができていなかった。
 耳も聞こえない。激しい口調だと言う事はなんとなしに分かるが、では何を話しているのか、どこから声がするのかを把握することすらできなくなりつつあった。

 それでもその青年、鳥居純吾はこんな事を考えていた。

———良かった。

 人質となった少年を守ることができて。先程まで自分に群がっていた暴徒は詳しい事は分からないが、どうやら自分を倒せた事に興奮し夢中になっている様子だ。先に人質として捕らわれていた黄色いマフラーの少年に危害を加えることはなさそうだと思い、ほっと心の中で安堵する。

—————本当に、良かった。

 自分と契約していた仲魔、彼らを暴徒から守る事が出来て。守るといっても、力の象徴でもある彼らは存在するだけで危険であり、人質の身の安全と引き換えに携帯の中に戻しただけである。それでも、彼らが傷つき倒される様を見ることがなくて本当に良かったと思う。

三日前、世界が崩壊した“幽鬱の日曜日”、彼らは突然自分の前に現れた。戦いとは無縁だった自分が、それでも戦わなければ生き残れない極限の状態の中、ここまで来ることができたのは彼らが自分と一緒に戦ってくれたからだ。特に“彼女”には、世界の崩壊の時から何度も命の危機すら救われている。そんな仲魔達が、自分にこれ以上付き合って傷つくのを見たくはない。


————けれども、

「ごめん、みんな。ジュンゴ、もう無理みたい……」

 一つ、唯一つだけ彼にあった心残り。それは、今まで自分と生き残ってきた人間の仲間の事。彼女たちにもう会えない事が悔しい。仲間と思っていた人が今後どうなっていくのか、それにもう自分は関わる事ができない。今まで背中を預け、文字通り命がけの戦いを共に潜り抜けてきた仲間たちと共にいる事ができないのが心配で、不安で、本当に悔しい。


 段々と意識していても瞼が落ちてきて、紅い霞のかっていた世界が狭まってきた。
 紅。ふと、暗くなった瞼の内側に自分の血の色で無い紅が見えた。それは今まで共に生き残ってきた仲間の髪の色。
いつもどこか不機嫌で、怒るときは髪の色が示すように炎もかくやというほどに激しく怒る彼女。けれども、泣くときは大口あけて泣き、笑う時には本当に嬉しそうに笑う事のできる、この壊れた世界に生きているのが奇跡の様な人間味を持った彼女。

そんな彼女の幻影に震える手を伸ばし、もう声を出せないだろうと思っていた喉に最後の力を込め、呟いた。

「ごめんね、アイリ。ジュンゴ…約束、守れそうにない、よ……」

その言葉を最後に、鳥居純吾は、世界から、“消えた”。






 冬の寒空の下、妙にざわめいている森の中を、一人の少女が歩いている。

 風が強いのか、木々の葉ずれがいつもより強い。ざわざわざわざわという、木の葉のこすれる音が少女の耳を叩く。動物たちも騒がしい。鳥の羽ばたき、小動物たちがあげる不安そうな声。まるで冬眠を忘れたかのようだ。
それに……、普段の森ではまずしない、あまり自分にとってかぎたくない匂い。それが奥に行けばいくほど強くなってくる。

 肌で感じられるほどに違和感を覚える森の様子。その原因は彼女がここへ来た理由である、空から降りてきた青い焔だろう。
たまたま窓から見ていた彼女は、その光景にひどく興味を覚えた。ゆらゆらと青い焔が、森の中へ降りていく光景。

 それが彼女には、まるで自分が好んで読んでいるおとぎ話に登場する神や悪魔、そんなおとぎ話の住人がこの世界へ降り立ったかのような光景のように思えた。

少女の愛らしい口から、白い息が短い間隔で吐かれる。普段からこの森を歩きなれている彼女には、もうすぐ目的の場所につく事が分かる。だんだんと緊張の水位が上がっていき、息を吐く感覚が短くなってきた。
息を吸うのと同時に飛び込んでくるあの匂いの濃さも増してきている。少女の目的地まであと少しという所へ彼女は来ていた。

やがて左右の樹が途切れ、視界が開ける。少女が辿り着いたのは森の中心にほど近い、広場のような場所である。

まず左右を見回す少女。何本もの木々が重なり合ってその広場を構成している事が分かるが、後は普段と比べて木々が騒がしいくらいで何も異常はない。次に、中央。
と、その瞬間普段とは明らかな違いを広場の中央に見出し、目の前の光景に思わず悲鳴が口からついて出てきた。


「だ、大丈夫ですか!?」

目の前には、一人の“少年”が倒れていた。ひどい手傷を負っているらしい、黒い上着を着ているが、そこかしろ破れ血がにじんでいる。顔はニット帽で隠れて見えないが、白い息がかすかに上がっているのが見える。まだ間に合う、早く治療を!

「と、とにかくお姉ちゃんたちに知らせないと!」

少女—――月村すずかは携帯電話を取り出し、家にいるだろう姉たちに急いで連絡をとった。



「・・・それで、“彼”がその炎の正体だった、と。」

月村忍は自分の妹であるすずかに確認をとる。それにすずかが頷いて答える。

あの後、事情を知った姉がメイドのノエルとファリンを連れ少年を家に運び、応急手当をほどこした。今しがたできることは全て終わり、こうしてより詳しい事情を聴く流れとなったのである。

「まぁ、結果としては人助けになって良かったけど。おかしい、って感じた森の中に連絡もなしに入っていくなんて、不用心よ、すずか。」

「うっ、ご、ごめんねお姉ちゃん。けど、本当に気になったの・・・。」

忍は目を細め、その視線に非難の色を込めて妹を見る。彼女たちは“夜の一族”、人よりも優れるが故に、危機管理には気を配らなければならない。
今回は自分たちの敷地内の行動だったから良かったが、今後も連絡もなしに勝手に危ないかもしれない場所に行かれるのは、忍にとってとても迷惑のかかる事だった。

「いいわ、これから気をつけてね。それで、彼の事だけど、おかしい事……、いいえ、ちぐはぐな事だらけだわ」

 ちぐはぐ、と言いなおす忍。彼女から見た彼はちぐはぐな事だらけだった。
 まず、今の日本は平和なはずなのに、死にかけるほどの重症を負っていること。そんな傷は自分たち一族や、知り合いの一家のような特殊な事情がない限りありえないだろう。
 次に彼の服装。大柄ではあるが、彼は妹と同年代にしか見えない彼の着ている服はあまりにも大きかった。


だが、これらはまだいい。問題は・・・


「彼の持っていた携帯電話。見た目は今のものと似てない事もないけど、明らかにこの時代のものではないわ。それにこの【悪魔召喚アプリ】って代物。どこから来たのかは知らないけど、“未来”じゃあこんなものが流行っているのかもしれないわね。」

 手に持つ少年の持っていた緑色の携帯電話をいじりながら、忍はそう言った。
 今は彼女の手の中にある、少年の持っていた携帯電話。それに忍は驚嘆した。それは優れた技術にではない。驚いたのは、その技術が既存の技術を積み重ねていったらたどり着くであろうことが予想されることに、である。

 やがて出来るだろう、でも今は作る事の出来ない技術で作りだされた携帯電話。忍には、これはいずれ辿り着くだろう“未来”の可能性の一つの形に見えた。

「へぇ、確かに変わった形だね。」

「ちょっとすずか、まだ分からない事だらけなんだから、あんまり下手にいじると」

「えっ・・・。お、おねえちゃん!!」

 突然忍の手の中で光り出す携帯電話。忍とすずかはその事に驚きなんとか光を停めようと携帯をいじろうとするが、その光は更に輝きを増し、対応する暇を与えない。

 光の洪水の前に、姉妹は抵抗する事を諦め手で光を顔からさえぎった。
 初めは激しかった光が段々と薄れていくのが手をすり抜けて見える光の量から分かる。時間にして2、3秒ほどだろうか、光の濁流が充分に弱まるのを感じ、手を顔からはなすと



 目の前には、一人の少女がいた。



 腰のあたりまで伸びたつややかな黒髪に、少女のような可憐さと、大人の女性の妖艶さが併存する非常に整った顔立ち。女性らしさを十分に備えた肢体を白いレオタードのような衣服につつんでおり、顔立ちと併せて“この世のもの”と思えないほどの妖艶さだ。


 そう、この少女はこの世にいるはずがない存在のはずだ。
 何故なら、彼女は忍たち姉妹の前で、背中から蝙蝠の様な翼を生やして浮かんでいたからである。突然目の前に事といい、背中から生える翼の事といい、そんな事ができる、生えている人間なんて存在しない。

 少女の放つ美しさと妖艶さ、それに自分たちが息をのむ音を忍達は聞いた。

「あ、あなたは……?」

 警戒しながらも、恐る恐ると言った様子で忍が問いかける。正直、当たってほしくもないが、忍の予想が正しければ目の前にいる彼女の正体は間違いなく……


「はじめましてかしら、ニンゲン。わたしは鬼女リリム、その携帯の持ち主と契約していた“悪魔”よ」

 
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