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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第245話:払い除く炎

 弦十郎が率いる部隊が風鳴総家への強制捜査に踏み切っていた頃、時間をズラす様にしてジェネシスによるS.O.N.G.本部への二度目となる襲撃が行われていた。今回の襲撃は彼らにとって正直寝耳に水であった。何しろ現状ワイズマン達が欲するものが本部にあるとは思えなかったからである。

「未来さんも聖骸の腕輪も、既に向こうにはある。なのにどうして?」

 エルフナインは手元のコンソールで外の様子を観察しながら、今回の不可解と言えるジェネシスの襲撃に違和感を覚えていた。彼女の言う通り、ジェネシスの……訃堂の最大の目標であった未来と未来に下ろされた神の力は既に敵の手の内にあるのだ。今更ジェネシスが大挙して訪れてくる理由などない筈なのに…………

「いえ、そうとは言い切れないわよ」
「了子さん?」

 そんなエルフナインの疑問に一つの答えを見出したのは、隣で同じく手元のコンソールを見て出動している装者達のギアや、装者達自身のコンディションをチェックしている了子であった。自他共に認める天才である彼女は、専門分野に対してではなくとも頭の回転は速くこの状況に対しても凡その予想を立てる事が出来ていた。

「ジェネシスって、裏で風鳴総家と繋がってたそうじゃない? そして未来ちゃんの洗脳はシャトーに居た時点で完全じゃなかった。風鳴 訃堂は、そんな未来ちゃんを奪い返される事が無いように協力関係にあるジェネシスを差し向けてきたのよ」

 言われればなるほど、納得のいく話だ。S.O.N.G.に所属する者達の事を考え、そしてジェネシスとの繋がりが明らかとなる事が秒読み段階になったとなれば、訃堂であれば躊躇なくこちらに勢力を差し向けてくる。最早取り繕う必要もないので、今度は政府と言う看板を背負った連中ではなく明確な武力を伴った勢力を、だ。

 不幸中の幸いと言えるのは、こちらが風鳴総家に対して部隊を向かわせたのと入れ違いになった事であろう。もしここで弦十郎達がジェネシスと鉢合わせしたり、出動する前にジェネシスが襲撃を掛けてきて風鳴総家に向かう事も儘ならない等と言う事になれば目も当てられない。

「いやホント……弦十郎君達が向こうに着いた後で良かったわ」

 了子がそう言って冷や汗を流すのも無理はない。何しろレーダー上には、敵魔法使いを示す赤いマーカーが数えるのも億劫になるほど表示されているからである。流石にフロンティア事変の時の米軍艦隊に襲撃を掛けてきた時程のふざけた数ではないが、正直潜水艦一隻に向ける数としては過剰もいい所。しかも過去の戦いでそれなりに数を減らしてきたと思った筈なのに、今本部に迫る魔法使いの数は30どころか40を超えていた。
 あまりの数の多さに朔也などは顔を青褪めさせてしまっている。

「おいおい、フロンティアの時にかなり数を減らした筈だろ? 何でこんなにたくさん来るんだよッ!?」
「恐らくこれも、風鳴 訃堂の手引きによるものでしょうね。私達が気付かない内に、ジェネシスはサバトを行って着実に手勢を補っていたようです」

 自分で言って、アリスは憤りに奥歯を噛みしめた。ジェネシスの蛮行を止める為に奮闘してきたと言うのに、それを未然に防ぐ事叶わず多くの犠牲者を出してしまった。きっと実際には今レーダーに映る倍の人数が犠牲となったに違いない。その為に生贄を差し出す事に――それも大半は同じ日本人だろうに――躊躇をしない訃堂の非情さは、アリスをしても度し難く反吐が出る思いであった。

 だがそんな気持ちも、モニターの隅に映るワイズマンの姿を目にすれば切り替わった。この戦場には敵の首魁が自ら出向いてきている。気を引き締めてサポートしなければ、戦場に出ている若者たちの命に関わる。




 その戦場、本部潜水艦の目と鼻の先の港湾施設付近では、S.O.N.G.に所属する装者及び魔法使いと、ジェネシスの魔法使いの群れによる戦闘が行われていた。

「おりゃぁぁぁぁっ!!」

 響が拳を握り締めて何発もの鉄拳を叩き込めば、それを喰らったメイジは銃撃の一斉射撃をその身で浴びたかのように歪な踊りを踊って大きく吹き飛ばされた。先発した仲間が一瞬で後ろへと飛んでいく有様に、その様子を見ていたメイジ達は素早く散って四方から響を包囲し的を絞らせないようにしつつ攻撃を仕掛ける。
 だが響は冷静に状況に対処した。徐に空中に飛び上がると、その身を捻って首に巻いたマフラーを大きく靡かせた。マフラーもシンフォギアの一部なので、響の思うままに動かせる。まるで二股の尻尾の様なマフラーが、周囲から迫るメイジ達を一気に薙ぎ払って束の間周囲に敵は居なくなった。

「ふぅ……」

 目に映る敵が居なくなった事に呼吸を整えようと僅かに気を緩めた。するとその瞬間を狙っていたかのように別のメイジが飛び掛かり、スクラッチネイルによる斬撃を響に叩き込もうとしてきた。

「させっかよッ!」
[RED HOT BLAZE]

 響へと襲い掛かろうとしていたメイジは、はるか遠くの後方から行われた狙撃を受けてもんどりうってひっくり返った。今正に窮地に陥ろうとしていた響は、それを救ってくれた見えない位置に居るクリスに感謝し彼女がいるだろう後方に向け手を振り通信機で声を掛けた。

「クリスちゃん、ありがとーッ!」
「バカッ! んな暢気な事言ってる暇あったら次に備えろッ!」

 言いながらクリスはスカートアーマーを展開し、マイクロミサイルの一斉射撃でメイジを次々と撃ち落とした。今回の戦闘は敵の数が数であり、しかもアルカノイズと違って自己判断で動く魔法使いが相手と言う事でクリスは明確に後方からの広域支援を主な仕事としていた。普段の戦闘では武器が射撃に偏っているにも拘らず透と共に前に出たがる彼女であったが、今回は本部潜水艦を守らなければならないと言う事で固定砲台の役割を担っていた。

 流石にイチイバルに適性を持つだけあって、クリスの全体を広く見渡す能力は確かなものであった。彼女が絶えず背後を警戒してくれているからこそ、前線で戦う装者達は気兼ねなく自身の目の前の敵に集中する事が出来る。

「それにしたって、数が多くて大変デスけどねッ!」
[切・呪りeッTぉ]

 切歌がぼやきながらも、鎌を飛ばし迫るメイジを撃ち落とそうとする。だが練兵して能力を底上げたメイジは雑魚を表す琥珀仮面であっても侮る事は出来ず、連中は複数人で固まって受け止める事で切歌の一撃を防いでしまった。

「デデッ!?」

 弾かれたり躱される事はあっても、完全に受け止められる事は無かったので思わず狼狽える切歌に隙を見て接近してくるのは白仮面のメイジ。手にしたライドスクレイパーを彼女に突き立てようと迫ったそいつの一撃を、気付いた切歌は咄嗟に残った柄だけで弾き戻ってきた鎌を振り下ろした。

「このぉっ!」

 上手い事メイジの攻撃をやり過ごした切歌だったが、敵は彼女に休む暇を与えず周囲から覆い被さる様に一斉に飛び掛かって来た。その光景に切歌がどれから対処するべきかと顔に焦りを浮かべた瞬間、横から飛び込んできた調がスカートを変形させた丸鋸で切歌に迫っていたメイジを軒並み膾切りにして吹き飛ばした。

「切ちゃんッ!」
[Δ式 艶殺アクセル]
「調ッ! 助かったデス、よッ!」
[凶鎖・スタaa魔忍イイ]

 切歌は調に助けられながらも、自身もそれだけでは終わらず調が取りこぼしたメイジを2本の鎌を交差させて変形させた、鎖の付いた手裏剣を投擲し仕留めていった。

 戦況は五分五分どころかS.O.N.G.に偏っている。だがそんな中でもマリアは油断する事無くセレナ、ガルドと共にメイジの相手をしながらこの戦場に来ているだろうワイズマンやメデューサの姿を探した。

「油断しないでッ! ここの何処かに、ワイズマンやメデューサが要る筈よッ!」

 マリアが鞭剣にした短剣を振るえば、蛇のようにしなる刃が不規則に動いて迫るメイジを切り落としていく。その合間を何とか抜けて肉薄しようとしたメイジも、続き飛んでくるビームダガーの投擲により叩き落された。

「でも、この数を相手にしながら探すのは……うっ」
「セレナッ!?」

 戦闘中であるにもかかわらず、突然セレナが気分が悪そうに胸を押さえてふら付いた。それに気付いたガルドは咄嗟に彼女を支え、同時に通信機からアリスの声が響く。

『セレナさんのバイタルに異変。ガルド、すぐ彼女に魔力の補充を』
「分かっている! セレナ、少しの辛抱だぞ」
〈プリーズ、プリーズ〉

 過去の絶唱の後遺症を押さえながら戦う為、セレナは負担の軽減の為魔力を用いていた。だが生粋の魔法使いでない彼女は、体内にプールされている魔力が底を尽くと緊急回避処置として錬金術的に生命力を消費して魔力を捻出してしまう。そうなる前にと彼女が身に纏っているシンフォギアとファウストローブのハイブリッドなアガートラームは、魔力が危険域に減少すると本人にも分かる様に意図的に体に負担が掛かる様になっていた。

 ガルドはそんな彼女の手に魔力譲渡の指輪を嵌め、ハンドオーサーを通じて彼女に自身の魔力を分け与えた。するとすぐにセレナの顔色は元に戻り、呼吸も安定するようになった。

「ふぅ……ありがとう、ガルド君」
「あまり無茶はするなよ」

 セレナのコンディションが元通りになった事に、マリアは迫るメイジの処理をしながらも安堵した。その安堵の瞬間、僅かに生まれた隙を縫うようにしてワイズマンが彼女達を通り過ぎ一直線に本部潜水艦へと向かっていった。よりにもよってワイズマンの突破を許してしまった事に、マリアは慌てて本部へと近付いていくワイズマンの背に「HORIZON†CANNON」を撃とうとした。

「しまった!? 行かせないッ!」

 左腕のガントレットに短剣を装填し砲撃形態に変形させて攻撃しようとするマリア。だがそれをさせじと、ワイズマンの後を追う様にやって来たメデューサが後ろを向いているマリアの背後から蹴りかかった。

「はぁっ!」
「あっ!? くぅっ!」

 背後からメデューサが迫ってきている事に気付いたマリアは、咄嗟に砲撃形態に変形した左腕のガントレットを振るいメデューサの飛び蹴りを弾く。その間にワイズマンは更に本部へと接近していた。

「抜かれたッ! クリスッ! そっちにワイズマンが行ったわッ!」
「俺が何とかッ!」
「行かせると思うのか?」

 ガルドがクリスの援護に向かおうとするが、それはメデューサが許さない。彼女が率いる手勢は全てが幹部候補の白仮面のメイジ。当然その能力は琥珀メイジなど比ではない。ただでさえ最近は琥珀メイジですら能力が上がっているのに、白メイジはその更に上を行く。その白メイジとメデューサに取り囲まれて、マリアとガルド、セレナは互いに背中合わせになりながら冷や汗を流した。

「くそ、マズイ……!」
「このままだとクリスさんがッ!?」
「こうなったら……あとは彼女のナイトに任せるしかないわね」

 ガルド達がメデューサとその部下による足止めを喰らっている間に、ワイズマンは着実に本部潜水艦へと近付いていく。だがその前に立ちはだかるのは、本部の最後の砦として控えていたクリスである。本部の直掩として後方からの援護射撃による支援に徹していた彼女は、マリアがワイズマンに突破されたのを耳にするとその迎撃の為両手にガトリングガンを構えスカートアーマーを展開させて更に背中から計4基の大型ミサイルを構えて一斉射撃の用意を整えていた。

「行かせねえぞ、クソ野郎ッ!」
[MEGA DETH QUARTET]

 準備に時間は掛かってしまうが、その分強力な広域殲滅攻撃が可能となる形態で待ち構えていたクリス。構わず接近するワイズマンに対し、クリスは躊躇わず引き金を引いて1人の人間を相手にするにはあまりにも過剰と言える攻撃をお見舞いした。

「喰らえぇぇぇぇぇッ!!」

 放たれる無数の銃弾にマイクロミサイル、そして4基の大型ミサイルが文字通り絨毯爆撃の様にワイズマンに殺到した。辺り一面を瓦礫の山に変えるほどの一撃は、忽ちワイズマンの姿を炎と煙で覆い隠し見えなくする。

 全てのミサイルを撃ち終え、燃え盛る前方の光景にクリスが固唾を飲んで見守っていた。一見するとこれで終わり、敵は跡形もなく消し飛んだようにしか見えない。しかしクリスは、この攻撃でワイズマンが倒せたとは微塵も思っていなかった。これで倒れてくれればいいなとは思いはするも、決して楽観も期待もせず、故に一部の界隈ではフラグとも言われる”その言葉”を口にするような事はしなかった。

 だが現実は非情である。例え”その言葉”を口にしようがしまいが、どうしようもない事と言うのは世の中にあるのであった。

 それを証明する様に、何の予兆も無くクリスの目の前にワイズマンが姿を現した。

「ッ!?」

 息を飲むクリス。ワイズマンはクリスの攻撃が自身に命中する寸前、テレポートの魔法で攻撃を逃れていたのだ。

 一気にクリスは窮地に陥った。ワイズマンに攻撃をやり過ごされて接近された事もそうだが、今の彼女は動くに動けない。今し方放った「MEGA DETH QUARTET」は準備に時間が掛かる事もそうだが、使用に際して自身をその場に固定してしまう。故に攻撃終了後に動けるようになるには僅かばかり時間が掛かった。

 それだけの時間があれば、ワイズマンであればクリスを好きなように出来てしまうだろう。あの性格だ、クリスをその場で始末するより、1人別の場所に飛ばしてそこで待ち受けている配下に袋叩きにさせる事もするだろう。1人奮闘するも孤立無援の中で消耗し、動けなくなったところを嬲り者にされズタボロになった所をS.O.N.G.に見せつける。あの性格の悪いワイズマンであれば容易に想像がつく。

 それを実行するかのように身動きが取れないクリスにワイズマンの魔の手が伸びようとして…………

「ワイズマン――――ッ!!」
「ッ!?」

 それよりも前にクリスの元へと駆け付けた透が、何発もの魔法の矢を撃ってワイズマンをクリスから遠ざけた。

「透ッ!」
「オォォォォッ!」

 クリスの横を通り過ぎてワイズマンに飛び掛かった透は、両手に持ったカリヴァイオリンを素早く振るい空中であるにもかかわらず体を回転させ勢いをつけて斬りかかった。ワイズマンもそれに対抗して両手に赤い光る刃を展開し迎え撃つが、透の怒涛の攻撃を前に後退を余儀なくされる。

 離れようとしたワイズマンに対し、地に足を付いた透の攻撃は止まらない。相手に付け入る隙を与えてはならないと、透は兎に角攻めて攻めて攻め続けた。

「ハァァァァァッ!!」

 ワイズマンの周囲を素早く動き回りながら、透が手にした剣を何度も振るう。それに何とか対応しているワイズマンも流石の一言であったが、傍から見ているクリスはその光景に違和感を感じていた。

「おかしい……何だ?」

 一見すると透がワイズマンを圧倒している様にも見えるが、そもそもの話ワイズマンはこの程度だっただろうか? クリスは過去に3度、ワイズマンと直接対峙した事がある。そのいずれでもワイズマンは得体の知れない不気味な強さを持っていたが、今のワイズマンからはその得体の知れなさが感じられなかったのだ。

 クリスが違和感を感じている間に、透はワイズマンを一瞬の隙を見て蹴り飛ばすとそのまま空中のワイズマンに向けて次々と魔法の矢を撃ち込んだ。

〈アロー、ナーウ〉
「ハァッ! くッ! このぉッ!」

 次々と打ち込まれる魔法の矢に、ワイズマンは防御が間に合わず体を大きく仰け反らせる。そこを見逃さず、透は一気に接近するとカリヴァイオリンを叩きつけようと迫った。

「でやぁぁぁぁぁぁっ!」

 ワイズマンはまだ透の攻撃で体勢を崩しており、回避も防御も出来るような状態ではない。

 このまま仕留めてジェネシスの首魁を倒せるか……と言うところで、透の肩を既にウィザードギアブレイブとなった奏が掴んで引き留めた。

「待て透ッ!」
「ッ!? 奏さん、どうして!」
「そいつはワイズマンじゃないッ!」
「「えっ!?」」

 突然奏は何を言い出すのかと透とクリスが困惑していると、奏は躊躇わず右手をハンドオーサーの前に翳した。

「直ぐ証拠を見せてやるッ!」
〈パリハレイト、プリーズ〉

 右手をハンドオーサーの前に翳し、魔法を発動した奏は左手に持っていた双刃の槍となったアームドギアを右手に持ってワイズマンに向けた。するとその槍の先端から青白い炎が噴き出し、ワイズマンの全身を飲み込み火達磨にした。

「うぐぉぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 周囲にワイズマンの悲鳴が響き渡る。その様子を見ていたクリスと透の2人は、次の瞬間起こった出来事に言葉を失った。

「えっ!?」
「な、何だッ!?」

 何と突如、ワイズマンの姿が焼け落ちる様にして変わっていったのである。輝彦が変身するのと色違いの魔法使いの鎧が崩れ落ち、後に残されたのは水色の仮面をしたメイジだけであった。その光景に奏はやはりと頷き槍を構えた。

「やっぱりな……颯人が言ってた通りだ」
「どういう事ですか、奏さん?」

 颯人はこの戦いが始まる少し前、ワイズマンがここに来ている事に違和感を感じていた。奴にとって今何よりも肝心なのは、洗脳された未来が奪い返されないようにすること。それを協力関係にあるとは言え、他人である訃堂に完全に一任するかと言われれば、あの性格を考えるとかなり怪しい。ここぞと言うところは他人に任せず自分で何とかする、それがワイズマンと言う人間だと颯人は確信していた。

 故に、彼はここに来ているワイズマンは姿だけを似せた別人の可能性が高いと考えていた。だがそれを証明する手立てがない。
 そこで颯人が考え付いたのは、奏が持つウィザードギアブレイブの特異性であった。彼女のガングニールが会得したウィザードギアは、直接指輪を必要としなくてもその場で即興の魔法を作り出す事が出来る。形態的には魔法よりも錬金術に近いものを持っていた。颯人はそれに注目して、奏に即席で敵の正体を露にさせる魔法を作らせたのだ。

「つまり、今日ここに来てたワイズマンはあのメイジが化けてた偽物って事かよッ!」
「そう言う事だ」
「ちょっと待ってくださいッ! 偽物のワイズマンがここにいるって事は、つまり本物は……!?」

 颯人の予想を信じるのであれば、今頃本物のワイズマンは風鳴総家で奪い返されそうになっている未来を逆に奪い取ろうと向かっている筈。あちらは訃堂との戦いでかなり消耗しているだろうから、そんな所にワイズマンが向かえば大変な事になる。

 危惧する透であったが、奏は自信をもって彼らを宥めた。

「落ち着けって。言ったろ? 颯人はこうなる事を予想してたって」
「え?……あっ!」
「そうか、じゃあ今頃は……!」









「よ、ワイズマン。久し振り……ってほどでもねえな」
「やれやれ……困ったものだね」 
 

 
後書き
と言う訳で第245話でした。

今回は一方その頃本部では、と言うお話。ワイズマンも来ていましたがそちらは実は偽物で、風鳴総家の方に本物が来ていました。尤もその策は颯人に見破られて、偽物は見破られた挙句本物も颯人と対峙する事となってしまいましたが。

あ、因みに今回奏が使った本作オリジナル魔法のパリハレイトですが、これはサンスクリット語で取り除く、払い除くなどの意味を持つ「pariharati」から持ってきています。

本当は風鳴総家での颯人とワイズマンの戦いの顛末とかも書きたかったのですが、キリが悪くなりそうだったので今回はここで。次回は颯人とワイズマンの直接対決となります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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