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蒼き夢の果てに

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第1章 やって来ました剣と魔法の世界
  第4話  爆発魔法の使い手

 
前書き
 第4話更新します。

 この『蒼き夢の果てに』と言うゼロ魔二次小説は、他の二次小説と比べて、少し展開が遅いと思います。ただ、原作小説通りの内容をトレースする物語では有りませんので、その辺りはご容赦下さい。
 

 
「ハルファス、防御用の結界を。アガレス、俺に強化を。ウィンディーネ、タバサとキュルケの護衛を」

 爆音が辺りに響いたと同時に、現界している式神たちに次々と指令を下す俺。
 何事かは判りませんが、爆音がここまで響き、頬に爆風を感じると言うのはただ事では有りません。ならば、準備を怠る訳には行かないでしょう。

 しかし……。

「あ、え~と、あの爆発音に関してなら問題ないわよ」

 何故か、少し呆れたような口調で俺にそう告げるキュルケ。少なくとも、彼女は非常事態に直面していると言う雰囲気では有りません。
 ……少し、俺が過剰に反応し過ぎたのでしょうか?
 それとも、この程度の爆発音が響く事ぐらいは日常茶飯事と言う事なのでしょうか。

 そう思い、少し離れた使い魔召喚が行われている場所に視線を向ける俺。其処は、少しざわざわとした雰囲気ですが、何者かに襲撃を受けたような状況では無さそうに見えます。

 それに、まさか、内戦状態の国の訳はないと思いますから、爆発音が響き、爆風が前髪を弄る事が日常茶飯事に成っている、などと言う事は有り得ないですか。
 何故ならば、そんな危険な情勢ならば、こんな見晴らしの良い場所で、魔法使いのタマゴたちが呑気に使い魔召喚の儀式を行う訳はないでしょう。

「あの爆発は、多分、あの娘が使い魔召喚を行っているのよ」

 俺と同じ方向……つまり、使い魔召喚の現場に視線を移したキュルケが更に続けてそう言った。その言葉と、彼女の発する気の中に、矢張り、呆れたような雰囲気が続いているので、先ほどの俺の対応が過剰だったと言う事に対して呆れていた訳ではなく、その使い魔召喚を行っているあの娘と呼ばれる存在に対して呆れている、と言う事なのでしょうか。

 但し、使い魔召喚魔法で爆発音を発する。まして、五十メートル程度は離れているはずのこの場で、それなりの爆風を感じると言うのは……。

「それは、変わった召喚魔法ですね。ここでは、使い魔召喚の際に、個人の魔法の属性が反映されるのでしょうか?」

 例えば、火属性の魔法使いの場合、炎の召喚ゲートを作り出すとか。

 確かに、そう言う例を聞いた事が無い訳でも有りません。
 もっとも、先ほど聞こえた爆音と衝撃波から考えると、何が呼び出されるのかは判らないのですが、呼び出した時の爆心地に、その使い魔が存在する事となるので……。

 これでは、無事に使い魔を召喚出来るとも思えないのですが……。

「そんな事はない」

 この一連の会話の中で初めて、タバサが俺の質問に答えた。
 それに、この質問に関しては、彼女が答えるのが正しいような気もしますね。
 その理由は、彼女は召喚士で、俺がタバサに召喚されて、彼女の使い魔となった訳ですから。

 それに、タバサの魔法の属性は未だ判らないのですが、少なくとも、あの俺が召喚された際には、炎や風、水や土などの精霊を感じる事は有りませんでした。
 これは矢張り、そのキュルケに『あの娘』と呼ばれている召喚士の魔法が特殊と言う事なのでしょう。

「実際、自分の目で確認して貰うのが一番早いわよね」

 キュルケがそう答えて、タバサがその意見に首肯く事によって同意する。
 自分の目で確認って、そんなに不思議な事が起きていると言う事なのでしょうかね。

 俺は、紅と蒼の魔法使いの少女たちから、再び視線を自らの召喚された現場へと戻しながら、そう思ったのでした。


☆★☆★☆


 そして、戻って来た召喚の儀式が行われている現場は……荒れていた。
 色々な意味で……。

「諦めろよ、ゼロのルイズ。魔法の才能のないオマエには使い魔召喚は無理だって」

 ギャラリーとなっている男子生徒の心ない一言に、キッと言う擬音付きの視線で睨み返すピンクの髪の毛の少女。その魔力の籠った視線で野次を飛ばした少年を睨みながら、首から掛けた十字架を象ったネックレスを人差し指と中指のみで触れる。どうも、彼女に取ってその行為は、自らの精神を落ち着ける作用が有る行為のように思いますね。
 ……って言うか、彼女の足元には、妙なクレーターらしき大穴が開いているのですが。
 あれが、先ほどの爆発音と衝撃波の結果と言う事ですか。

「召喚を続けて下さい、ミス・ヴァリエール」

 そんな殺伐とした雰囲気の中で、更に召喚の儀式を続けさせようとするコルベール先生。

 成るほど。彼は結構、厳しい先生と言う事なのでしょう。
 それに、この召喚の儀式は魔法学院の進級試験を兼ねている、と言う話でしたから、ここで使い魔召喚に成功しない限り、あの少女は落第すると言う事。

 これは、少々、厳しくなっても仕方がない事ですか。

「コルベール先生、時間の無駄ですよ。後ろもつかえているんだから、ゼロのルイズは飛ばして、先に僕たちの方を終わらせて下さい」

 先ほどの男子生徒とは別の生徒がそう言う。そして、その意見に賛同する、と言う相槌や、彼の言葉を積極的に肯定する雰囲気が、かなりの規模で発せられた。
 そう。場の空気は最悪。全体的にイライラとした感情が勝っています。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・……」

 そんな、あまり良いとは言えないような雰囲気の中で、使い魔召喚の呪文らしき言葉を紡いで行くピンクの髪の毛の少女。何か妙に長ったらしい名前ですけど、略してルイズと呼ばれているらしい。
 その少女。顔の造作は悪くはないですか。髪の毛は……どう見ても、地球人には見えないピンク色。肌は、タバサと同じ白磁。瞳は、俺の瞳と同じ系統の少し薄い茶と言う感じに見えます。おそらく、全体的に色素が薄いのでしょう。
 首からは、銀製の十字架を象ったシンプルなネックレス。魔法使いの杖は、タバサの物と違い、オーケストラの指揮者の持つ指揮棒のようなタイプの魔法使いの杖。

 この世界で遭遇する三人目の美少女と言う事に成りますか。

 しかし……。

「これでは、成功する魔法も成功しなくなるな」

 そう独り言を呟く俺。
 その独り言に重なる爆発音。そして、再び発生する爆風が俺の頬と前髪を嬲った。

 案の定、その爆発により発生した土煙が晴れた後には、少しホコリを吸い込んだらしく咳をしているルイズと呼ばれた少女が、先ほどまでよりも少し深くなったクレーターの底に存在しているだけであった。

「普通、召喚儀式と言うのは、精神を高揚させた状態で、しかし、頭脳は冷静で無ければ成功するモンやない」

 俺は、独り言を呟き続ける。
 いや、これは、どちらかと言うと怒りや苛立ちに近い感情か。
 ……って、俺まで場の雰囲気に流されるトコロでしたね。これは素直に反省ですか。

 しかし、コルベール先生の立場も判ります。それに、待たされている生徒達の苛立ちも判るのですが、この状況は流石にマズイと思うのですが……。

「失敗したとしても爆発が起きるぐらいだから、問題はないと思うけど」

 俺の独り言の中に、かなり否定的な部分を感じ取ったのか、キュルケがそう聞いて来た。
 ただ、彼女の言葉の中には、他の生徒が発しているような、ルイズと呼ばれた少女を揶揄するような部分以外の、何か別の感情を感じる事が出来たのですが。

「召喚魔法の失敗とは、基本的に意図したモノと別の存在を召喚する場合が多い。
 そして、現状は最悪の状況下にある」

 俺は、キュルケとタバサを見つめながら説明する。
 但し、少しの引っ掛かりを覚えながら、なのですが。

 それは……タバサが俺を召喚出来た理由が判らなくなったから。
 キュルケは彼女の事を親友のタバサと呼んだ。

 しかし、俺を召喚した少女と、そのタバサと名乗っている名前からは、何故かしっくり来ない雰囲気を感じている。
 俺は、その部分を彼女が、俺に対して魔法名を名乗ったからだ、と納得したのですが……。

 本名を使用せずに、偽名を使ってランダム召喚を行う。これは、非常に危険な召喚作業と成ると思うのですが。

 俺は、じっと、俺を召喚した蒼き少女を、霊力の籠った瞳で見つめてみた。
 そう。それは何かを掴めるまで。この違和感の正体を見極めるまで。

 しかし、

 ……無理ですか。これ以上、タバサを見つめても判らないな。
 俺の見鬼の才能で判るのはこの程度まで。流石に、魂の本質まで完全に見極める能力を持っている訳ではないので、このレベルでも仕方が有りません。
 この俺が召喚された結果が、単なる召喚事故だったのか、それとも、ランダム召喚に因って彼女の属性や俺の能力が合致した結果なのか。今のトコロは、謎と言うしかないですね。

 それに、タバサの事はいずれ彼女の方から話してくれる時が来るでしょう。
 もっとも、俺の方も、未だ彼女に話していない事が幾つか有るのですから、これはお互い様、と言う事に成りますから。

「ギャラリーと成っている生徒たちから発せられる気は、揶揄や苛立ちなどの負の感情に属する気が大きい。
 対して、その感情をマトモに受けているルイズと言う少女からも、劣等感やその他の強い負の感情を発している。
 この状況で呼び出される使い魔は、誰がどう考えたってマトモな存在ではない」

 一応、先ほどまでの思考、及び行使した仙術に関してはオクビにも出す事なく、そう話し続ける俺。

 それに、現状で無理にランダム召喚を強行し続けたとしたら、多分、西洋風の考え方なら闇に属する魔物。東洋風なら陰の気の塊のような存在が召喚される可能性が高い。
 そして、召喚した魔物を封じて置く為の召喚円を描いていないこのランダム召喚で、召喚者の制御出来ない危険な魔物を召喚して仕舞った場合、どんな惨事を引き起こすかは……。

 あまり考えたくは有りませんね。

「タバサ。キュルケさん。出来る事なら、彼女の召喚の儀式を一度中断させて、別の場所で改めてやらせて上げる事は出来ないでしょうか」

 そして、ここでようやく、一番伝えたかった言葉を口にする俺。
 そう。少なくとも、このギャラリーが発している雰囲気を排除する必要が有りますから。
 もっとも、彼女自身が持っている劣等感も、かなり問題が有るとも思うのですが……。

 俺の言葉を聞いて、少し思案顔のキュルケ。そして、ただ、真っ直ぐに俺を見つめ返すだけのタバサ。

「ミスタ・コルベール」

 俺の説明に納得したのか、はたまた、晒し者状態のルイズと呼ばれる少女を気の毒に思ったのかは定かではないのですが、キュルケがルイズに召喚作業の続行を促しているコルベール先生に呼び掛けてくれる。

「何でしょうか、ミス・ツェルプストー」

 別に不機嫌な様子すら見せずに、キュルケに対してそう返事をしてくれるコルベール先生。どう考えても、時間が掛かっていると思われる現在の使い魔召喚の儀式の途中でも、キュルケの言葉に耳を傾けて貰える相手ならば、先ほど俺が伝えた内容を先生に伝えてくれたなら、ルイズの召喚作業を後回しにして貰う事も可能でしょうか。

 そんな、非常に自分に都合の良い事を考えた俺なのですが……。

「タバサの使い魔で、異国のメイジのシノブに意見が有るそうなので聞いて頂けますか」

 そんな俺の勝手な思い込みなど、あっさり粉砕してくれた上に、更に、俺に舞台の上に上がる事を強要するような台詞を口にするキュルケ。
 ……って、全部、俺に丸投げですか?
 しかし、普通に考えるなら、この場で俺に発言権はないと思うのですが……。

「何でしょうか、シノブくん」

 そして、そんな俺を、彼の方からも舞台に引き吊り出そうとするかのような台詞を口にするコルベール先生。

 しかし、コルベール先生も人が好過ぎますね。確かに俺は、自分の意見の正当性を信じていますけど、残念ながらここでの俺は部外者でしか有りません。その俺の意見をあっさり聞き入れたりしたら、後々の教師の威厳に問題が発生する可能性も有ると思うのですが……。

 もっとも、これは仕方がないですか。それに、ここは乗りかかった船とも言いますしね。
 そう思いながら、かなり歩き難い足元を気にする風も無く、爆心地に向かって歩を進める俺。

 但し、このルイズと呼ばれる少女の順番を後に回して貰うのは止めて置くべきですか。
 流石にそれは、コルベール先生の立場が以後、かなり悪くなる可能性が有りますから。更に、もしかすると、ルイズと言う名前の少女に対して、何らかの融通を利かせたと言う風に取られる可能性も有ります。

 この使い魔召喚作業が、学校の進級試験に当たるのなら、それは許される行為ではないでしょう。

 それならば……。

「すみません。この国の召喚魔法についてはよく判らないのですが、私の経験から意見させて頂きます」

 一応、そう前置きを行った上で説明に入る俺。
 尚、突如登場して来た異国の魔法使いに、ルイズに対して陰の気を浴びせかけていた連中も俺の出方を伺うかのような雰囲気に変わり、場の雰囲気は少しの落ち着きを見せて居た。

「東洋では、召喚魔法を行使する際には、もう少し精神を落ち着かせてから召喚作業を行います。
 それで無ければ、失敗する可能性も高くなりますから。
 失敗をして何も顕われないのなら問題はないのですが、召喚魔法の場合、意図した存在とは違う危険な魔物を召喚して仕舞う危険性が有る為に、かなり慎重に準備をしてから、召喚作業を行うのです」

 もっとも、このルイズと言う名前の少女の召喚呪文は、暴発と言う結果を導き出している。……と言う事は、失敗とは言っても完全に何の反応も示さない失敗や、危険な魔物を召喚して仕舞うと言う類の失敗とは、一線を画する状態では有ると思うのですが。

 失敗は失敗でも、霊力の制御の失敗と言う状態なのではないのでしょうか。

「無理無理。いくら精神を落ち着かせても、ゼロのルイズが魔法に成功する訳はない。魔法の才能がゼロで無かったら、ゼロのルイズなんて呼ばれないよ」

 しかし、先ほどからゼロのルイズと揶揄し続けている男子生徒が、そう話の腰を折る。
 成るほど。魔法の才能がゼロだから、ゼロのルイズか。

 ……って言うか、自分をアピールしたいなら、もう少しスマートな方法が良いと思うのですが。
 まして、何と言うか……、オマエは小学生か? と聞きたくなるようなアピール方法だと思うのですよね、俺としては。彼から発する雰囲気から察すると、なのですが。

 確かに、少々気が強そうには見えますが、このルイズと呼ばれている少女も美少女には間違い有りません。そんな美少女の気を引きたいのは判りますが、オマエさんのやり方では逆効果でしょうが。

 それに……。

「魔法の才能はゼロではないと思いますよ。少なくとも、爆発魔法が発動している以上、彼女にも何らかの才能は確かに存在しています」

 俺が、そう反論する。但し、召喚魔法が爆発すると言う事は、霊力の制御をかなり苦手としていると言う事だと思いますが。
 それに、確かに霊力の制御に関しては、他人が教えるのは難しいとは思うのですが。何故ならば、この部分に関しては本人の感覚に頼っている部分と成りますから。

 そう。この部分に関しては、自分で、自分の感覚を掴むしか方法がないんですよ。俺の感覚で言うのならば。

 つまり、このルイズと言う名前の少女はぶきっちょで、その癖、大きな霊力を持っているが故に霊力の制御を失敗し続けている魔法使いと言う事なのでしょう。
 ある意味、才能が有り過ぎて、逆に魔法の才能がないように見えている、と言った方が判り易いですか。

「もっとも、今日初めてこの国を訪れた私に、この国の魔法の才能を推し量る事は難しいですね。
 但し、召喚士としての才能を知る方法は有ります」

 確かに、この世界の魔法使いの才能に関しては、詳しい事は判らないのは事実。

 それで、召喚士に最低限必要な才能は見鬼の才です。これが無ければ実体の希薄な幽霊などの存在を認識する事が出来なくなるので、契約を交わす事さえ出来なくなります。
 そして、駆け出しの召喚士が契約出来るのは、大抵が実体化する能力に乏しい妖精などの類と成ります。

 つまり、そう言う妖精をこの場に呼び寄せて、その存在を視覚によって確認出来たのなら、その人間は全て見鬼の才を持つ人間と言う事に成ります。
 まぁ、ある程度の魔法の才能を持つ人間なら、この見鬼の才と言う能力は、当然、備えている能力でも有るのですが。

「コルベール先生。彼女に召喚士としての才が有るかどうか試しても構いませんか?」

 一応、俺としてはどちらでも良いのですが、そうコルベール先生に聞いて見る。

 それに、陽の気の神獣で有る俺としては、こんなトコロで陰の気を滞らされて、そこから発生した陰気に引かれて妙なヤツにやって来られても迷惑なのと、俺と(エニシ)を結んだ少女の周りからはそんな連中を排除しなければならないので、そう聞いてみたまで、なのですが。

「その試す方法と言うのは時間が掛かりますか?」

 頭から否定するでもなく、ちゃんと聞く耳を持ってコルベール先生は聞き返して来た。
 成るほど。悪くない対応ですね。

「時間は掛かりません。五分も有れば十分でしょう」

 ここは陽光溢れる春の草原。ここに妖精がいないで、何処に居ると言うのですか。余程、周りの雰囲気が悪くない限り、小妖精ぐらいは呼び寄せられます。

 ひとつため息のように息を吐き、そして、小さく口笛を吹き始める。

 高く、低く。

 口笛は微妙な旋律を奏でつつ、春の野を満たして行く。

 強く、弱く。

 その音色は、正に春の野を示す陽光。
 そして、春の野を吹き抜ける優しい風。

 刹那、俺の正面に、小さな影が顕われる。

 そっと差し出す俺の手の平に腰掛け、俺の奏でる旋律に合わせて首を振る小さき乙女。

 少なくない余韻と共に、口笛を終わらせる俺。
 そして、

「私の手の平の上に居る、小さき乙女。春の野に花をもたらせる花神(カシン)の姿が見えますか、ヴァリエール嬢」

 花神。西洋風に表現するのなら、ピクシーと呼ばれる存在に成ると思いますね。
 コイツは霊格が低いから、誰にでも彼にでも見える存在では有りません。それに、人間の前には滅多な事では姿を顕わせないヤツらでも有ります。

 オマケに、いたずら者でも有るのは確かなのですが……。

「確かに、緑色の服を着た、羽の有る少女が座っているわ」

 俺の問いにそう答えるルイズ。成るほど、彼女には、花神を視覚によって視認出来るだけの見鬼の才には恵まれている、と言う事ですか。

「ヴァリエール嬢。貴女には、見鬼の才が有ります。
 大丈夫。落ち着いて、ちゃんと自分の霊力を制御出来たなら、使い魔は召喚出来ますよ」

 俺は、少しの微笑みと共に、そう答える。これで、多少の自信が付く事は間違いない。

 ……って言うか、普通は、こう言う成功体験を積み重ねさせ続ける事によって、少しずつ自信を付けさせて行く物なんですけど。
 今までどんな教育が為されて来たか判らないのですが、この魔法学院と言うトコロは、結構、スパルタ教育を行う学校なのかも知れませんね。

 そんな事を考えながら、このまま、俺の意図している流れにどう持って行こうかと考え(悪知恵)を巡らそうとした瞬間。

「嘘だ。そんな物の姿は、僕には見えないぞ!」

 先ほどの少年が大きな声を上げる。そして、更に続けて、

「土のライン・メイジの僕が、ゼロのルイズよりも、魔法の才能が劣っている訳がない!」

 ……と、大きな声で喚き散らした。
 その声に賛同する多くの声。大体、全体の八割ぐらいの連中が、花神の姿が見えていないらしい。

 ……魔法学院の生徒と言う割には、見鬼の才に恵まれていない落ちこぼれが多いな。
 こんな連中では、敵の放った、実体の薄い使い魔からの攻撃を認知する事が出来ないから、あっと言う間に死者の列に並ぶ事になる。

 悪い事は言わないから、さっさと別の道を探した方が良いと俺は思うけどね。

「いえ、シノブくんとミス・ヴァリエールの言っている事は真実ですよ、ミスタ・スゥード。
 私の目にも、彼の手の平に腰掛けた小さな羽を持った少女の姿が見えます」

 コルベール先生がそう、俺とルイズの言葉を肯定してくれる。
 成るほどね。流石に魔法学院と言う、魔法を教える学校で教師をしているだけの事は有りますね。アストラル体をちゃんと視認出来る能力を持っていると言う事ですから、コルベール先生も。

 そして更に、

「残念だけど、あたしにも見えているわよ、ピエール」

 キュルケも俺達の言葉をコルベール先生と同じように肯定してくれた。
 その言葉に同意するかのように、我が主の蒼き少女もコクリとひとつ首肯いて見せる。
 もっとも、彼女らは先ほどノームの姿を視認していますから、花神の姿を視認出来たとしても不思議では有りません。

 但し……。

「あんたの魔法の才能が低いから見えないんじゃないの?」

 キュルケがそうかなり挑発的な言葉を続けたのですが。

 ……って言うか、確かに、俺としてもその意見には賛同しますが、同時に、もっと言い方と言うモノが有るとも思うのですが。
 それに、そもそも、俺は魔法の才能を知る方法とは一言も言ってないはずなんですがね。

「あ、誤解しないで下さい。この花神が見える事によって証明されるのは、見鬼の才と言う召喚士に必要な才能の事で有って、魔法の才能の事では有りません」

 そう言って、場を鎮静化させようとするのですが……。
 但し、見鬼の才も持っていない魔法使いが大成する事は非常に難しいので、先ほども感じたのですが、さっさと別の道を探した方が良いとは思いますよ。
 俺自身はね。

 それも、生命を失う前に。

「どうです、ヴァリエール嬢。彼女、花神の主人に成って見る心算は有りませんか?」

 しかし……。これでようやく、俺の意図したトコロまで話しを持って来る事が出来たと言う事でも有ります。
 そう。俺は最初から彼女、ルイズと呼ばれている少女に使い魔を召喚してやる為に、わざわざ妖精を召喚して見せたのですから。

「え? わたしがその子の主人に?」

 ルイズが驚いたように聞き返して来る。

 そもそも、この使い魔召喚の儀式は危険過ぎます。俺から見ると、こんなやり方で事故が起こらない方が不思議なのです。
 それに、いきなり駆け出しの魔法使いに使い魔を召喚させるなんて言う事は、難しいに決まっているでしょうが。まして、衆人環視の中、こんな雑多な気が集まる場所では。

「ええ。私の国では、最初の式神を自らの師が召喚した存在と契約を交わす方法も存在しています。
 ヴァリエール嬢とこの花神との相性にもよりますが、多分、貴女なら契約を交わす事は出来ますよ」

 ずっと、馬鹿丁寧な口調のみで話しているので、そろそろ馬脚を現しそうなのですが、後少しの辛抱です。

 それに、ルイズに妖精を視る能力が有るのなら、俺の立ち会いの元でなら、式神使いではないルイズでも、交渉から式神契約までを行う事は難しくは有りません。
 少なくとも、自分の事を見える人間から契約を求められた場合、花神のような妖精族は、早々拒否する事は有りませんから。

 当然、仕事をして貰う際は、彼らに対しての正当な対価を払う必要が有るのですが。

 しかし……。

「いえ、それは無理ですよ、シノブくん」

 しかし、その申し出にルイズが答える前に、コルベール先生が待ったを掛けて来る。
 そして、

「シノブくんには複数の使い魔が付き従っていますが、我々には、一人に付き一体の使い魔しか認められていないのです。
 ミス・ヴァリエールが、シノブくんの呼び出した、そのカシンと呼ばれている小妖精と契約を交わして仕舞うと、結局、使い魔召喚に失敗したと言う事実しか残りませんから、彼女の落第が確定してしまいます」

 一人に付き一体の使い魔しか認められていない?
 成るほど。だから、俺が複数の式神を召喚した時に、周りからヤケに驚いたような気が発せられた、と言う事ですか。

「それは、知らぬ事とは言え、余計な時間を取らせ終ったようです。
 ただ、ヴァリエール嬢には、間違いなく召喚士としての才能は有りますから、心を落ち着けてちゃんと呼び掛けるように行えば、必ず答えてくれる存在は居ます。ですから、自信を持って召喚の儀式に臨んで下さい。この世界の魔法については判りませんが、私の世界での魔法に関してはイメージする能力が重要ですからね」

 謝罪の意味も込めてそう言ってから、元いた場所に引き下がる俺。
 それに、この俺の乱入したイベントでギャラリーの方の毒気は抜けたと思いますから、これで多少は場の雰囲気もマシには成りますか。

 まして、見も知らない相手とは言え、自分が肯定されて気分が高揚しない訳は有りません。
 ついでに、コルベール先生やキュルケ達に見えたモノが彼女にも見えたと言う自信にも繋がったはずですからね。

 但し、それでもランダム召喚故の危険性は残りますが。
 そうかと言って、何が呼び出されるか判らない以上、結界を施して仕舞うと、その結界が召喚作業自体の邪魔となるから……。
 現状では、戦闘待機モードで状況の推移を見守るしか策はないと言う事ですか。

 そう考えながら、ルイズに近づいて行った時に辿った道を逆に辿り、タバサとキュルケの方に戻る俺。
 尚、その俺の周りを、淡い光を放ちながら飛ぶ花神。
 もっとも、この行為自体は、ルイズの魔法の暴発から身を守る為に安全圏内へ退避すると言う事と同義語なのですが。

 ただ、コルベール先生だって安全圏に居るのですから、俺が安全圏に退避しても非難される謂われはないとは思いますよ。
 ……少し、言い訳みたいには聞こえますけど。

 えっと、そうしたら、そんな言い訳みたいな思考は何処か遠くにサラッと流して、

「ハルファス。ハチミツとスプーンを出して貰えるか」

 取り敢えず、前進有るのみですか。花神を呼び出したのなら、その報酬を渡す事が俺の式神使いとしてのルールですから。
 それで花神が喜びそうな物と言ったら、大体その辺りに成るかな。一応、ハルファスに頼んで調達して貰うハチミツですから、混ざり物の入っていない本物のハチミツを準備してくれるでしょう。

 軽く首肯いた後に、あっと言う間に用意されたハチミツ入りの瓶とスプーンを受け取る俺。
 そうしたら次は……。

「タバサ。このハチミツを花神にスプーン一杯分、振る舞ってやってくれるか?」

 少し、ハルファスから渡されたハチミツと、花神。そして、俺の主の蒼き少女を順番に見つめた俺が、タバサに対して、そう依頼した。
 確かに俺が召喚した花神ですし、その呼び出した対価を俺から渡すのが筋なのですが、それでもここは可愛い女の子から貰った方が、花神も気分が良いでしょう。

 そう思い、ハチミツ入りの瓶の蓋を開け、その瓶とスプーンをタバサに手渡す俺。
 少し戸惑いながらも、俺からふたつのアイテムを受け取り、スプーンですくい上げたハチミツを、花神に対して一匙差し出す我が蒼い御主人様。

 そして、タバサが差し出して来るその一匙のハチミツを美味しそうに飲む花神。その空間だけ妙にほっこりする雰囲気を醸し出している。
 但し、何故か、我が蒼い御主人様は表情を変える事は無かったのですが。

 これは、かなり厳しい戒律か、それとも誓約に当たるモンが有るのかも知れませんね。

「花神。実は、もうひとつ頼みが有るんやけど、良いかいな?」

 俺の言葉に、ハチミツを飲んでいた花神が、一度、飲む事を休み俺の方を見つめ、

「ハイ。良いですよ、何がお望みですか」

 ……と答えた。

 その声に反応するタバサとキュルケ。
 ふむ、成るほど。このふたりに関しては、花神レベルでも、ちゃんと言葉を交わす事が出来ると言う事ですか。

「あんた、話せるの?」

 花神の方に向かって、キュルケがそう話し掛けた。
 それに、手の平サイズの羽の生えた小さな女の子が、突如話し出したら大抵の人間は驚いても不思議ではないでしょう。

「ハイ。当然、話せますよ」

 花神が元気に答える。まぁ、春に属する陽気の塊ですから、この子はこんな感じに成るのかな。
 いや、無駄に元気が良いのは小妖精全体の特徴ですか。

「ここは、少し危険な魔法を行使している場所やから、少しの間……そうやな。この召喚儀式が終了するまでの間で良いから、俺に付き合ってくれないか。
 報酬は、後、スプーンで三匙、ハチミツを御馳走するから」

 もっとも、本当はハチミツ程度なら瓶ごと渡しても良いのですが、そこまで大盤振る舞いをしても意味は有りません。

 確かに、今回はこの世界で最初の呼び掛けに応じてくれた相手ですから、有る程度多い目の報酬を準備しましたが、あまり気前が良すぎるのも問題が有ります。以後、何か他の事を頼む時に足元を見られる可能性も高く成りますからね。

「了解しました。この召喚儀式全体が終了するまでお付き合いしちゃいます」

 矢張り、無駄に元気が良いだけ、のような気もしますが、それは小妖精全体の特徴ですし、陰気の塊のような対応をされたらこっちまで気が滅入って来ますからこの対応の方が良いですかね。

「そしたらタバサ。約束通り、後三匙分のハチミツを振る舞ってやってくれるか」

 何か、この状態だけを切り取って見ると、俺とタバサ、どちらが召喚者で、どちらが使い魔なのか判らないのですが……。
 しかし、俺の頼みに嫌な顔……と言うか、表情ひとつ変えずに、コクリとひとつ首肯き、新たにハチミツを一匙すくって花神に差し出す我が蒼き御主人様。

 不機嫌な雰囲気とは別の感情を発しているから、不敬な使い魔に対して怒りを感じている訳ではないとは思うのですが……。

 刹那、再び周囲に轟く爆音。
 そして、空気を震わす衝撃波。

 そして……。

 
 

 
後書き
 先ず、第3話で主人公が使用した仙術は、タバサの冒険でエルザが使用した蔦を操る魔法の簡易版のような感じになると思います。
 あれは、蔦を伸ばした後に、自在に操っていますから、主人公が使った仙術よりは高度な魔法となると思うんですよね。違うのかな。

 次。
 私は、原作小説内に余分なキャラが一人でも入り込んだ段階で、原作通りの道筋を進む事は不可能だと思って居ります。
 それに、この二次小説の主人公は、原作知識無しですから、無理に原作通りに話を進めようとはしませんからね。

 最後、【念話】について。
 これは、龍の技能に属する部分です。
 そもそも、龍体に戻った時に、デカい口を動かして話し掛けて来たら、龍としての威厳も何も無くなって、妙にマヌケな空間に成って仕舞いますから。

 主人公が龍体に自在に変化出来るように成るかどうかは、微妙な線なのですが。
 神話や伝承に詳しい方。もしくは、私がにじファンで連載していた二次小説を知っている方ならば、簡単に想像が付く方法を用意して有るのですけどね。

 それでは次回タイトルは、『二人目の日本人』です。

 鎮魂(たましずめ)。ルビの確認。

 追記。
 移転作業と並行して新しい話を作製しているのですが……。進まない。本来ならば、今日中に57話を完成させて、もうひとつの方の15話に取り掛かりたいのですが。
 それでも、未だ、5話以降の分を暁用に変えていない。
 矢張り、移転を優先させるべきか。
 
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