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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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集結、そして新たなる敵

 日本のある都市にその男はいた。白髪混じりの髪に日に焼けた頑固そうな顔をしている。歳は四十代後半といったところか。背はやや小柄ながら歳を感じさせない引き締まった身体をしている。服は動き易い白いシャツにブラウンの上着、そして黒のスラックスである。
 男の名は立花藤兵衛。かって多くのライダー達に協力し父の様に慕われた人物である。
 かってはオートレーサーであった。年齢の為現役を退いた後は喫茶店を経営していた。同時にレーサーでもある本郷猛のトレーナーもしていた。彼に自分の果たせなかった夢を託していたのである。
 本郷がショッカーに拉致され仮面ライダーに改造されると快く彼を再び迎え入れた。そしてショッカーの存在を知った彼は共にショッカーと戦う決意を固めたのである。
 本郷猛、そして一文字隼人にとって彼はかけがえの無い人物だった。天涯孤独であり改造人間としての悲しみを背負う彼等にとって立花藤兵衛という人物はまさに父親そのものだった。
 彼は厳しかった。あえて二人に厳しい事を言い特訓を課した。それは正義の為、世界の為、そして本郷と一文字の為だった
のだ。ライダーは幾度となく絶体絶命の窮地を逃れてきたがそこに彼の果たした役割は大きかった。
 ショッカー壊滅後ゲルショッカーが現われる。二人の戦いは終わらない。それでも立花は常に二人を支えてきた。そして二人はゲルショッカーと首領を倒したのだ。だがそれで終わりではなかった。
 デストロン、ゴッド、ゲドン、ガランダー帝国、ブラックサタン、そしてデルザー。世界征服の野望をあくまで捨てない首領は次々に新たな組織を率い世界の平和を脅かさんとしていた。
 それに立ち向かうライダー達。その傍らにはいつも彼がいた。彼なくして仮面ライダーはなかったと言っていい。
 今彼は戦場を退きある喫茶店を開いている。店の名は『アミーゴ』。コーヒーが美味いと評判の店だ。
 その日は定休日だった。だが彼は店を開いていた。カウンターで一人コーヒーを入れている。
 それは何故か。誰か来る、彼の直感がそう教えていたからである。かって多くの死闘をライダーと共にくぐり抜けてきたカンがそう教えていた。
 一人の男が入って来た。黒い髪の中年の男である。顔は優しげであり服装も水色のシャツに白いスラックスと地味である。
 「あんたは」
 「谷源次郎といいます」
 それだけで充分だった。二人共お互いの事は風の噂でよく聞いていた。
 かっては平凡だが幸福な家庭を持つ一市民であった。だがネオショッカーに妻子を殺されてから彼の人生は一変した。
 スカイライダー筑波洋の大学の先輩であり志度博士の知人でもあった彼は彼等に協力した。そしてライダーやがんがんじいを陰に日向に支えネオショッカーを壊滅させる事に成功したのである。
 その後沖一也こと仮面ライダースーパー1とも巡り合った。彼をライダーに任命したのも谷だった。その姿にかっての八人のライダーの面影を見たからだ。
 スーパー1とドグマ、ジンドグマの闘いもまた熾烈なものだった。だが赤心寺やジュニアライダー隊をはじめ多くの協力者達が彼を救った。その中心人物もまた谷であった。二人のライダーの良き理解者でありまた父親替わりであった。現在はオートバイ店である谷モーターショップを経営している。
 彼は最初カウンターに座りコーヒーを飲んでいたが立花に頼まれカウンターに入った。見ればコーヒー豆や紅茶が揃えられシックな造りの趣味のいい店である。
 続いて二人の男が入って来た。
 「おやっさん、久し振り」
 滝だった。役も一緒である。
 「おう、元気だったか」
 立花の挨拶は意外と素っ気無い。だがその声は暖かい。
 「おやっさんもまだまだしゃんとしてるな」
 顔を綻ばせ憎まれ口を叩く。
 「ふん、まだまだ若いモンには負けねえぞ」
 対する立花もニッと笑う。
 「それでそっちの人は誰だい?」
 「役。役清明(えんの きよあき)ってんだ。俺の同僚だよ」
 「よろしく、立花さん、谷さん」
 役はペコリと挨拶をした。二人もそれに返した。
 暫く立花と滝はつもる話をしていた。滝が帰った後での日本の事、滝が会ったライダー達の事等を話していた。
 「そうか、あいつ等元気でやっているか」
 自分が共に闘ってきたライダー達の話を聞いて立花の顔は綻んでいた。
 「そういうおやっさんも随分活躍したんだな」
 滝も日本での立花の話を聞き嬉しそうである。
 「洋も一也も頑張っているんだな。わしも気を引き締めないとな」
 役からも話を聞いた谷も機嫌がいい。
 「もう一人面白い方にお会いしましたよ」
 役は谷に言った。
 「面白い奴?ああ、あいつだな」
 目元を緩めうんうん、と頷く。そこへ当の面白い奴が入って来た。
 「おう、来たか」
 谷が声をかける。がんがんじいだ。
 「何かわいが来る事わかってたみたいでんなあ」
 がんがんじいは困った様な顔で苦笑した。
 「御前さんの行動は解かり易いからな。で、洋はどうした?」
 「洋さんでっか?まだ来てまへんか?」
 「影も形も見あたらねえぞ」
 「おかしいでんなあ。わいより先に空港を出たんやけど」
 「先にって・・・。御前さんは何してたんだよ」
 「ちょっとうどん食ってました」
 「また食い物かよ、進歩無えなあ、相変わらず」
 「放っといて下さい」
 「まあいいさ。つまり洋は日本にちゃんと着いたって事は間違い無いのか。じゃあもうすぐここに来るな」
 五人は暫くコーヒーを飲むのも止め待っていた。
 バイクの音がした。それは店の前で止まった。
 「む・・・・・・」
 五人は直感した。やがて店の扉が開いた。そこに男達の姿があった。
 「・・・・・・・・・来たか」
 まず本郷猛が入って来た。続いて一文字隼人。そして風見志郎、結城丈二。その後ろには神敬介とアマゾンがいる。城茂、筑波洋。そして沖一也が最後に入った。
 九人のライダー達が揃った。皆顔には強い決意の色がある。
 「・・・猛、隼人、志郎、丈二、敬介、アマゾン、茂」
 立花は自分と共に闘ってきたライダー達の名を呼んだ。
 「・・・洋、一也」
 谷も呼んだ。それまでの和気藹々とした感じは無かった。緊張し張り詰めた空気が支配していた。
 「よく帰って来てくれた。御前達の元気な顔を見れてわしは嬉しい」
 「おやっさん・・・・・・」
 九人の戦士達も感慨深げだった。だがそこに感傷は無かった。
 「話は聞いている。また新たな組織が動き出したようだな」
 「・・・・・・・・・」
 ライダー達は口を開かない。それは肯定の沈黙であった。
 「またつらく長い戦いが始まる。だが御前達は今までそれ以上の戦いを何度もくぐり抜けてきた。絶対に負けるんじゃあないぞ」
 その言葉にまず本郷が声を出した。
 「当たり前ですよおやっさん、俺達は絶対に負けません」
 「まだまだカメラに撮りたいものもありますしね」
 「俺にも都合がありましてね。負けてやるわけにはいかない」
 「右手がね、言うんですよ。悪を倒せって」
 「いつもの事ですよ、奴等が出て来る時は。また倒してやるだけです」
 「アマゾン、負けない。悪い奴倒す、それだけ」
 「面白くなってきたじゃないですか、誰だろうがこの拳で黒焦げにしてやりますよ」
 「悪と戦う心があるから・・・俺はライダーですから」
 「人の夢、それを壊そうとする奴は許せません」
 九人の戦士達は口々に言った。声も顔も強い決意が滲み出ている。それを見て立花と谷は満面の笑みを浮かべた。
 「そうか、ならばわし等からは言う事は無い。その力の全てを以って倒して来い」
 “フフフフフ、果たして倒せるかな”
 何処からか声がした。
 「その声は!」
 皆聞き覚えのある、いや忘れたくても忘れられない声だった。
 “ライダー諸君、久し振りだな”
 全ての悪の元凶の声だった。倒れた筈の。
 「!?その声は・・・・・・やっぱり生きていやがったか」
 立花がその声を聞いて顔をしかめた。
 “立花藤兵衛、私はこの世に悪がある限り幾度でも甦るのだ”
 首領は叶笑した。
 “折角全てのライダーがこの日本に集結したのだ。もてなさなければならないと思ってな”
 首領の言葉は続く。
 「フン、折角だが断らせてもらうぜ。どうせ貴様の事だ、罠でも仕掛けているんだろう」
 風見が声のする方を睨みつけ言った。
 “フフフ。風見志郎よ、あの時と変わらぬ言葉だな”
 「そもそももてなしとはどういう事だ?貴様が俺達をもてなす筈が無いだろう」
 “神敬介よ、それは誤解だ”
 首領は笑みを含んだ声で返した。 
 “今日私は君達をパーティーに誘う為にここへ声をかけたのだ”
 「パーティー!?」
 その言葉に一同声を合わせた。
 “そうだ、場所は相模湖畔側の奇巌山”
 「何っ、奇巌山」
 城が声をあげた。かって七人のライダーが岩石大首領との最後の決戦を行なった場所である。
 “どうだ、君達と我々が再会を期すに相応しい場所だろう”
 「・・・・・・・・・」
 一同は言葉を出せなかった。おそkらく首領はそこで自分達に何かを見せるつもりなのだろう。しかしそれが何なのか、そこまでは解からなかった。そして必ず攻撃を仕掛けて来ると確信していた。
 “君達が来るのを楽しみにしている。ゆめゆめ拒む事のないよう”
 そう言うと首領の声は消えていった。
 「待てっ!」
 本郷が声をあげる。しかし声は消え気配も無くなっていた。
 「・・・・・・どうするつもりだ、御前達」
 立花と滝は九人のライダー達に問いかけた。それに対し彼等は答えた。
 「行くしかないでしょ、折角招待してくれたんだし」
 一文字が言った。
 「いきなり首領が出て来るとは思えませんが」
 筑波も口を開いた。
 「それに奇巌山をわざわざ指定してくれたんだし。あそこには特別な思い入れもあります」
 結城があの決戦に想いをはせる。
 「アマゾン負けない。罠があっても打ち破る」
 「これで決まりですね。今から行きましょう」
 「おお」
 沖の言葉に他の八人のライダー達は頷いた。店を後にして行こうとする。
 「御前達・・・またここへ来いよ」
 立花が背を向ける戦士達に声を掛けた。その言葉に本郷と一文字が振り向いた。
 「おやっさん、その時はコーヒーを一杯お願いしますよ」
 「そう、キリマンジャロがいいな」
 「御前等・・・・・・」
 思えばこの二人と共にショッカーと戦ったのが全ての始まりだった。それから彼の戦いの日々が幕を開けたのだ。
 それまでの事が脳裏を巡る。彼の人生はライダーと共にあったのだ。
 「おうわかった、とびきり上等の豆を用意しておくからな」
 立花はにこりと笑った。二人はそれに微笑みで返した。九つのバイクの爆音が次第に遠ざかっていく。
 「行っちまいましたね、あいつ等」
 滝は次第に聞こえなくなるバイクの音を聞きながら立花に言った。
 「御前も行くんだろう、滝」
 カップを直しつつ滝に言った。
 「えっ、解かります?」
 その言葉に滝は驚いた様な顔をしてみせた。
 「その手のグローブを見ればな。何で脱がないんだ」
 見れば滝の両手にはグローブがある。黒い皮のグローブだ。
 「そりゃあね。あいつ等だけには苦労かけさせませんよ」
 彼はコーヒーを飲み終えニヤリ、と笑った。
 席を立った。役も一緒である。
 「おい、がんがんじいとかいったな。御前さんも行くんだろ」
 隣でケーキをぱくつくがんがんじいに声をかけた。
 「当然ですやん、洋さんが闘いに行くんやし」
 ケーキを慌てて口に入れ指をハンカチで拭きつつ言った。
 「そういう事です。じゃあ俺達も行って来ます」
 三人も店を後にした。二台のバイクと車の爆音が聞こえそれが遠ざかっていった。
 「行きましたね、皆」
 店に残った立花に谷は言った。
 「ええ、若いモンはやっぱり違いますよ」
 立花はその顔を綻ばせて答えた。二人共いい笑顔をしている。人生の深みと経験がそうさせるのだろう。
 「あいつ等の姿をまたこうして見られるだけでも嬉しいってのにまたああして戦いに行く姿を見れたんですからね。心配ですけど信じてますよ。あいつ等なら絶対にやってくれるって」
 「そうですね、私も信じてますよ、あいつ等を」
 谷も言った。店の外の道を戦士達が駆けていた。


 奇巌山、断崖絶壁と岩山の地である。草木は無く生物もいない。かってデルザー軍団が本拠地を置きここからストロンガー打倒及び日本征服の作戦を発していた。首領もこの地に潜み岩石の巨人と化して機を窺っていた。最後の戦いで七人のライダー達の前にその姿を現わしたのもこの地であった。ライダー達にとって忘れられない場所の一つであった。
 この地に今再びライダー達が来た。九人の戦士達である。
 バイクから降りた。そして本郷を先頭に戦士達は進む。行く先はかって首領と闘ったあの場所である。
 目の前に奇巌山本山が見える。かって大首領が眠っていたあの山だ。戦士達はその山を見据えた。
 「よくぞ来てくれた、ライダーの諸君」
 あの声がした。
 「私の招きによく応えてくれた。心から礼を言おう」
 自信に満ちた声だ。声全体から優越感が漂う。
 「ただそれだけを言う為だけに俺達をここへ呼んだのではないだろう、首領」
 本郷が言った。
 「確かにな。貴様が俺達にそんな話し方をするのは絶対に何かある時だ」
 一文字も同調した。
 「フフフフフ、流石だな。歴戦のダブルライダーよ」
 「下らんお世辞は止めろ、一体何の為に読んだのだ」
 二人は同時に言った。
 「まあそう焦る必要は無い。久し振りの再会ではないか」
 「言うなっ、貴様はあの時宇宙で死んだ筈だ」
 「それが今どうして俺達に話掛けている」
 神と筑波が口を開いた。
 「・・・・・・言った筈だ。この世に悪がある限り私は何度でも甦ると。そしてその新たなる力を諸君に特別に見せてやろうというのだ」
 「何っ、力!?」
 風見が敏感に反応した。
 「それはまさか・・・・・・」
 結城が辺りを見回した。辺りを不気味な気が支配する。
 「さあ、い出よ甦りし悪の僕達よ!」
 「なっ!!」
 戦士達は息を飲んだ。左右の丘の上に自分達を取り囲む様に今までの組織の大幹部達、デルザーの改造魔人達が立ち並んでいたのだ。
 死神博士、ブラック将軍、ドクトルG,キバ男爵、アポロガイスト、百目タイタン、ゼネラルシャドウ、ゼネラルモンスター、メガール将軍・・・・・・。日本で、世界各地で彼等が闘ってきた恐るべき悪の化身達であった。それが今全員彼等を見下ろす様に奇巌山に集結しているのだ。
 「くっ、何時の間に・・・・・・」
 城が舌打ちする。これだけの敵の気配を察知出来なかったとは迂闊であった。
 「何という事だ、ショッカーからジンドグマまでの全ての組織の大幹部がいるとは・・・・・・」
 沖も唖然としている。
 「ガルルルルルル・・・・・・」
 アマゾンが威嚇の咆哮を出している。
 「どうだライダー諸君よ、素晴らしい戦力だろう」
 首領の高笑いが響く。
 「ここに私は新たな組織の名を君達に伝えよう。その組織の名は・・・・・・・・・バダン!」
 「バダン!!」
 その名を聞いて戦士達の顔に緊張が走った。バダン、初めて耳にする名だ。しかしそこにえもいわれぬ禍々しさを感じていた。
 「フフフ、どうだ、良い名だろう。私が作り上げた最高の組織なのだからな」
 如何にも満足そうな声が響く。
 「私はここに宣言しよう。バダンは必ずや世界を征服すると」
 「戯言をっ、俺達がいる限りそうはさせん!」
 「そうともまた貴様の邪な野望を打ち砕いてやる!」
 本郷と一文字が言った。今にも飛び掛かりそうである。
 「それは出来んな、君達には」
 「何っ!?」
 戦士達がその言葉に即座に反応した。
 「君達は今日この奇巌山で死ぬからだ。この山が君達九人の墓標となるのだ」
 大幹部と改造人間達がジリ、と動いた。
 「そうか、その為にこいつ等はここにいるのか」
 「だがそう上手くいくかな?我々とてむざむざやられはしないぞ」
 風見と結城が身構えた。何時でも変身出来る体勢を取った。
 「それは違う。この者達は君達に最後の別れを告げに来ているのだ」
 「ほう、では貴様が直々に相手をしてくれるとでもいうのか?」
 「まずは御前、やっつける」
 神とアマゾンが言った。彼等も既に構えを取っている。
 「そういえば貴様はここで岩石の化け物になって出て来てくれたよな」
 「ネオショッカーの時は巨大な竜の姿だったな」
 城と筑波が次々に口を開いた。彼等は首領の巨大な姿を見てきているだけにその反応は素早い。
 「それとも罠か?まさかそんな卑怯な真似をする為にわざわざ俺達を呼んだんじゃないだろう?」
 沖が彼にしては珍しく皮肉を込めた。挑発し首領の反応を見たかったからだ。
 「甘いな、諸君よ。君達を倒すのに私が出る必要は無い。勿論罠なぞ用意はしていない」
 「ではどうするつもりだ?」
 本郷が問うた。
 「君達を倒すのは・・・・・・この男だ」
 中央に一人の男が現われた。それは改造人間だった。
 赤いマスクをしている。ライダー達のそれに酷似したそのマスクには左右に三つづつ、合計六つの溝があり両眼は緑である。口はシルバーだ。
 赤いバトルボディに銀の胴、両膝と肘には十字の何かが付いている。
 手袋とブーツは無い。だが手足はシルバーで胴と同じ様に輝いている。
 「な・・・・・・・・・」
 その姿を見てライダー達は息を飲んだ。そしてその改造人間から発せられる異様な殺気を感じていた。
 「我がバダンが生み出した最強の戦士、ゼクロス。これから君達を冥府へ送る地獄からの使者だ」
 首領がそう言い終えるとゼクロスは身構えた。左右にいた幹部や改造魔人達が姿を消す。
 「ムッ・・・・・・!?」
 「誰も邪魔はしない。君達はこの男の前に血の海の中に倒れるのを見届けるだけだ」
 首領は高らかに言った。その言葉が終わるとゼクロスは跳んだ。
 まるで天を飛翔するかのような高いジャンプであった。そして着地する。腰を屈め右手を上、左手を下にした獣の様な構えを取った。
 「行けっ、ゼクロスよ。ライダー達を全て血の海の中に沈めるのだ!」
 首領が叫んだ。それと同時にゼクロスが突進を始めた。速い、風の様な速さである。
 「来るか・・・・・・」
 「ならば相手をしてやる」
 本郷と一文字が構えを取った。
 「貴様がどんな奴か知らないが」
 「負けるわけにはいかない」
 風見と結城が変身の動作へ移ろうとする。
 「たとえどの様な敵でも」
 「倒す!」
 神とアマゾンも変身の構えへ移りはじめた。
 「ライダーとして生を受けた俺達」
 「悪を倒すのが使命だ」
 城と筑波は手袋を剥ぎ取った。
 「来い!ライダーの力見せてやる!」
 最後に沖が言った。それを合図に九人のライダーは同時に変身に入った。
 九つの光が輝く。そして九人のライダーが一斉に跳んだ。
 「行くぞ、ゼクロスとやら!」
 ゼクロスの突進をかわし逆に彼を取り囲んだ。闘いの火蓋が今切られた。
 「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは動かない。ライダー達もまずは隙を窺っている。
 ジリジリと間合いを詰めようとする。しかし彼の凄まじい殺気がそれを許さない。
 ゼクロスが両肩から白い煙を発した。
 「毒ガス・・・・・・いや煙幕か」
 「離れるな!離れれば奴の思うつぼだ!」
 ライダー達は一箇所に集まった。そして煙が晴れるのを待つ。
 煙が晴れた。それにライダー達は怖ろしい光景を見た。
 「こんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・」
 何とゼクロスが九体いるのだ。それぞれが構えを取りライダー達を取り囲んでいる。先程とは逆の状況だ。
 「奴は・・・・・・九体もいたのか・・・・・・・・・!?」
 だが気は一人のものしか感じられない。
 「いや、違う。奴は一人しかいない」
 スーパー1が言った。
 「という事は分身の術か。メカニックな外見して古風な真似をする」
 V3がそれに答えた。 
 「どっちにしろ同じだ。いくらいようがこれの前には通用しないぜ!」
 ストロンガーが叫んだ。他のライダー達が一斉に跳んだ。
 「喰らえっ、エレクトロサンダー!」
 地面に拳を叩き付ける。電流が地走りとなって周囲を覆う。
 ゼクロスとその分身達が雷に包まれる。
 分身はホノグラフだった。電流に覆われるとすぐに消え失せた。
 「どうだ、まやかしなんぞこんなもんだ!」
 だが本体は残っていた。雷に包まれたのは全て分身だった。既にもう一体分身を作っていたのだ。
 本体は跳んでいた。ストロンガーへ向けて蹴りを放とうとする。
 「来たか、予想通りだ!」
 確かにそれはストロンガーの計算通りだった。ゼクロスが跳び上がり攻撃を仕掛けて来るのは。だが彼はここで一つ致命的な計算ミスを犯していた。
 その蹴りは余りにも速かった。ストロンガーの予想を遥かに超える速さだった。蹴りはストロンガーの胸を直撃した。
 「ぐおっ!」
 すんでのところで急所を外した。だがかなりのダメージであることに違いは無かった。
 「ケケーーーーッ!」
 そこにストロンガーの仇とばかりアマゾンが襲い掛かる。両腕の鰭が黒く光る。
 「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは無言で右手をかざした。肘の十字が浮き出る。
 それは四つの刃を持つ手裏剣だった。振り向きざまに放つ。
 「ケッ!」
 跳びながらであるがアマゾンはそれを右の鰭で弾き返した。この時手裏剣にのみ注意を奪われていた。
 ゼクロスが来た。
 跳び上がり左ソバットを放つ。左手で防ごうとするが間に合わない。アマゾンのこめかみを直撃した。
 吹き飛ばされるアマゾン。ゼクロスは更に攻撃を仕掛けようとする。だがその前にスーパー1が立ち塞がる。
 既に両腕をパワーハンドにチェンジさせている。その力を以って捻り潰そうとする。
 両者共力比べに入ろうとする。スーパー1は渾身の力を込めた。だがそれでもゼクロスは動かない。
 「何っ!?」
 逆にゼクロスが動いた。スーパー1の渾身の力もものともせず彼をねじ伏せた、そして思いきり放り投げる。
 かろうじて受身を取るスーパー1。入れ替わりにライダーマンが立ち向かう。
 まずネットアームを撃ち出す。その中にゼクロスを捉えた。
 「やったか!」
 しかしゼクロスはそのネットを両手で引き千切った。そしてライダーマンへ向かおうとする。
 「ならばっ!」
 アタッチメントを変える。今度はロープアームだ。
 ロープアームをゼクロスへ投げ付ける。ロープは彼の首をくくった。
 「これならどうだ」
 しかしそれに対してもゼクロスはその機械の如き態度を崩さない。冷静にロープを見ている。
 両手でロープを掴んだ。そしてあっという間にそれを引き千切った。
 「馬鹿なっ、俺のロープは怪人すら絞め殺すというのに・・・・・・」
 Ⅹライダーがライドルを抜いた。ホイップにして切りつける。
 間合いを離す。Ⅹライダーはそれを追うがそれより速く手裏剣を飛ばしてくる。
 ライドルで叩き落す。それは予想していた。
 右手の甲から何かが飛び出てきた。それはスチールワイヤーで出来たマイクロチェーンだった。
 それも叩き落そうとする。だがライドルにからみついてきた。
 「・・・・・・」
 その瞬間ゼクロスは右手から電流を発してきた。かなりの高圧電流だ。速い。Ⅹライダーとて避けられなかった。
 「うおおっ!」
 高圧電流がⅩライダーを打つ。咄嗟にライドルを離しそれ以上のダメージは避けたもののかなりの痛手だった。
 ゼクロスは甲にチェーンを収めた。そして今度は左手のチェーンをⅩライダーにからませようとする。チェーンが飛ぶ。だがその先端を何かが弾いた。
 「!?」
 ゼクロスがそれが飛んできた方を見た。そこにはホッパーを飛ばしたV3がいた。
 「ホッパーにはこうした使い方もあるんでな」
 そう言うと少しずつ間合いを詰めていくV3。対するぜクロスも顔だけでなく全身を向けてきた。
 「行くぞ!」
 V3が大地を蹴った。ゼクロスも同時に大地を蹴った。
 「ムン!」
 パンチを繰り出す。ゼクロスも同時にパンチを繰り出す。
 二つの影が交差した。両者はまたもや同時に着地した。
 「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは相変わらず言葉を発さず振り向いた。そこにはV3の背があった。
 暫しV3は動きを止めていた。だがすぐに片膝を着いた。
 「は、速い・・・・・・」
 技を出したのは同時であった。しかし技の速さは違っていたのだ。ゼクロスのパンチはV3の胸を正確に打っていた。
 「地上ならともかく、空ならばどうだ!」
 スカイライダーが跳んだ。セイリングジャンプで空中に浮かんだ。
 「さあ来い、空中戦ならば負けはしない!」
 急降下して襲い掛かる。一撃目はかわされた。
 「だが・・・次はどうだ!」
 左足で蹴りを繰り出す。ゼクロスはそれを右手で受け止めた。
 「まだだ!」
 左の蹴りの力を反動させ空中で前転した。右足で踵落としを浴びせる。今度は左手で受ける。
 そしてその右手を掴んだ。空中へ放り投げる。
 「その程度!」
 勢いが落ちると姿勢を取り戻そうとする。だがその時ゼクロスは膝の十字から何かを出していた。
 それは小型の機器だった。手に取るとスカイライダーへ向けて投げ付けた。
 「まさか!」
 スカイライダーは体勢を整えず慌てて飛び上がった。それまでいた場所が爆発し爆風が彼を打った。
 「・・・・・・まさか小型爆弾まで持っているとは」
 スカイライダーは爆風に打たれつつ呟いた。 
 その下では一号と二号がゼクロスと対峙していた。かって多くの強力な怪人を倒してきた無敵のダブルライダーである。
 「行くぞっ!」
 まず一号が動いた。素早く懐に飛び込み手刀を浴びせる。
 二号はあえて動こうとはしない。だが的確に場所を変え一号のサポートに回っている。
 一号はゼクロスに隙を与えようとしない。次々に攻撃を仕掛ける。流石にこれまでの幾多の死闘をくぐり抜けてきた経験が生きている。
 連続してダメージは多く与えられないが隙の少ない攻撃を仕掛ける。ゼクロスに揺さぶりを仕掛けようという作戦だ。
 それに対してゼクロスは防戦するだけである。そこには感情の揺れなど一切見られない。
 「何という奴だ、これだけの攻撃を受けても・・・・・・」
 蹴りをだそうとする。この時一号は小石を踏んだ。ほんの僅かではあるがバランスが崩れた。そしてその崩れを見逃すゼクロスではなかった。咄嗟に屈んだ。
 足払いを仕掛ける。一号の軸足である右足を打った。
 「うわっ!」
 「本郷っ!」
 二号が飛び出す。一号はバランスを崩しながらも後方に宙返りをする。そして両手で着地しそれをバネにして跳ねて両足で見事に着地した。
 ゼクロスはその隙を見逃そうとはしなかった。だが間に入ってきた二号に阻まれ思うように進めなかった。
 間合いが離れた一号の替わりに二号がきた。多彩な技を繰り出す一号とは違いパンチ主体の攻撃である。
 だがその重さが違った。その一発一発が一号のものと比べて重いのである。速さは若干一号の方が上だがその分重さが乗っておりガードの上からでも響いてくる。
 二号もまた攻撃の手を緩めない。ゼクロスを押し潰す様な攻撃だ。
 しかしゼクロスは微動だにしない。まるで人形の様にガードし続ける。これに対しそれまでの各ライダーとの闘いで彼の強さを知る二号もまた下手に隙のある攻撃は仕掛けられない。必然的にパンチが多くなる。
 「まだ立っていられるか」
 パンチに更に威力を入れた。腕の筋肉に力が入った。
 これが失敗だった。それによりスピードが僅かに殺された。二号も気付かない程の差であったがゼクロスにとってこの差は歴然たるものだった。
 拳を受け止めた。そして横に払った。二号は何とか受身を取ったものの地面に叩き付けられそのダメージは思ったより大きかった。
 「大丈夫か、一文字」
 「ああ、戦闘には支障は無い。しかし何てえ力だ」
 駆け寄って来た一号に言った。
 起き上がる。その目の前では他の七人のライダーに囲まれながらもゼクロスが悠然と立っていた。
 構えは取っていない。ただ立っているだけである。しかしその全身から絶大な気を発している。
 「何て奴だ。これだけの数を相手に互角以上に渡り合ってやがる」
 二号が舌打ち混じりに言った。
 「これだけの戦闘力を持つ奴に会ったのは初めてだ。首領があれだけの自信をみせただけはある」
 一号も二号の言葉に同調した。彼等だけでなく他のライダーも皆傷ついている。
 「一対一では勝てないな」
 「ああ、あれをやるしかない」
 二人は頷き合った。そして他の七人のライダーに言った。
 「皆、あれをやるぞ」
 一号は言った。その言葉を聞いただけで他のライダー達の間に戦慄が走った。
 「危険な賭けだ。もし失敗すればもう我々に奴を倒す方法は無い。やるしかないんだ」
 二号も言った。その言葉には力強い、他の者達を説得する力があった。
 二人の言葉に一同頷いた。そしてゼクロスとの間合いをとりはじめる。
 「行くぞ、我々の最強最大の合体技・・・・・・」
 一号が構えを取る。それに合わせ他のライダー達も構えを取る。
 「・・・・・・・・・」
 ゼクロスはライダー達の輪の中にいる。まるで機械の様に彼等の動きを見ている。
 「ライダァーーーオーールキィーーーーック!!」
 ライダー達が一斉に跳んだ。そして急降下し四方八方から同時に蹴りを繰り出す。
 蹴りは一直線にゼクロスを襲う。九人のライダー達の渾身の蹴りだ。如何にゼクロスとてかわしようがなかった。
 蹴りがゼクロスを一斉に撃った。凄まじいダメージを受けゼクロスの身体は制止した。
 ライダー達が飛び退き離れる。その間ゼクロスは微動だにしない。いや、出来なかった。
 「やったか・・・・・・」
 それでもゼクロスは立っていた。全身から白い煙を発しながらもまだ立っていた。
 「まさかまだ・・・・・・」
 いや、さしものゼクロスも全ライダーの攻撃を同時に受けては無事ではいられなかった。がくりと片膝をついた。
 「・・・・・・やったか」
 それを見てライダー達も力尽きた。倒れこそはしなかったが最早これ以上の戦闘は不可能だった。
 「フハハハハハハ、流石だな、ライダー諸君」
 そこへ首領の声がした。
 「まさかゼクロスを退けるとはな。また一段と腕をあげたようだな」
 「首領!」
 ライダー達が叫んだ。
 「今日は退くとしよう。ゼクロスも負傷していることだしな」
 「何を、まだだ!」
 ライダー達はふるい立った。尚も戦おうとする。
 「無駄だ、最早諸君等は立っているのがやっとだ」
 「くっ・・・・・・」
 その通りだった。それを気力で支えているのだ。
 「次に会う時を楽しみにしている。その時こそ君達の最後だ」
 その声と共にゼクロスは跳んだ。そして何処かへ姿を消した。
 「行ったか・・・・・・」
 一号がゼクロスが去ったのを見届け呟いた。
 「ああ。それにしても怖ろしい奴だった」
 二号が言った。その言葉に他のライダー達は沈黙した。
 後ろから滝達の声がする。助けに来たらしい。


「それにしても圧倒的な力だな」
 大幹部と改造魔人達が暗い一室で立ったままモニターを見ている。その中の一人が呟いた。
 身体の右半分は機械である。チューブが目につく。
 左半分は生身の身体である。右が青、左が赤のその身体はまるで冥界の女王ヘルの様である。下半身には黒いズボンとブーツを履いている。
 頭髪の無いその頭には巨大な金属の飾りがある。そしてその中央に紅い宝玉が埋め込まれている。彼の名はマシーン大元帥、デルザーの改造魔人の一人である。
 エジプトの歴史は古い。それを示すものとしてピラミッド、象形文字、岩石男爵の偉大な祖先スフィンクス等がある。
 その一つとしてミイラがある。これはファラオや神官達の遺体を独自の技術により保存処置を施したものだ。
 かって偉大なファラオがいた。名は歴史には残っていない。だがその時代に生きた人達にとって忘れられない偉大な王であった。
 法を定め河を治めた。エジプトの歴史はナイルにより築かれた。そのナイルを治めたのである。そして畑を開き皆の腹を満たした。葡萄や麦の酒で喜びを教えた。
 文化を興し人としての豊かさを教えた。獣を討ち侵略者を退けエジプトの土地を広げた。名君であった。
 その為彼が死んだ時民達は嘆き悲しんだ。遺体は慣例によりミイラにされ巨大なピラミッドに置かれた。そして砂漠の中に多くの宝と共に眠ることとなった。
 時代は流れ彼の事は歴史の中に埋もれてしまった。人々はその名を忘れた。ただ偉大な一人の王がいたという言い伝えのみが残った。だがそれは最早伝説であった。
 更に時代は流れた。墓泥棒達も知り得ない砂の奥深くに彼の墓はあった。その中には誰もおらずただ静かに眠っていた。
 だがある時彼は目覚めた。ミイラとは霊魂が戻った時の為に戻るべき身体を残す為に為されるものである。そのミイラに彼は戻ってきたのだ。
 彼は墓を出砂の海から出てきた。そして人の世に再び現われたのだ。
 彼は自分の身体の事に気付いていた。人の王にはなれないと知った彼は夜の者達の王となった。
 その彼の下に一人の異形の者がやってきた。ある者の使者だという。
 王は彼と会った。彼は言った。王の力を欲しい、と。
 その使者の主は欲していた。更なる力を。その為に王を自らの下へ誘っているのだ。
 王はそれを承諾した。そして魔の国に入り改造魔人となったのだ。
 そしてマシーン大元帥が誕生した。デルザーの中でも特に絶大な力を誇り秀でた戦略と統率力で知られている。
 「全てのライダーのデータを収集して開発しただけはある。あのライダー達と互角以上に渡り合っている」
 「うむ。苦労しただけはある」
 アポロガイストが言った。
 「流石は元ゴッド第一室長だ。見事な仕事だ」
 マシーン大元帥は彼をねぎらう言葉をかけた。
 「こんな事は仕事のうちに入らん。俺の仕事はⅩライダーを倒す事だ」
 「そうか。では奴の首級をあげるのを楽しみにしている」
 そう言うと再びモニターに視線を移した。
 「これならば問題無い。我等が悲願は必ずや達成される」
 「そういえばこやつの開発は貴様がしておったのだな」
 地獄大使が彼に言った。
 「うむ。ある者を基にしてな」
 「ある者?」
 ゼネラルモンスターが尋ねる。
 「うむ。貴様がペルーで作戦行動中に捕らえた者のうち特に優れた者を使わせてもらった」
 「あのセスナを操縦していた日本人の若者か」
 「そうだ。あれだけの人材、使わぬわけにはいくまい」
 マシーン大元帥はそう言うとニヤリ、と笑った。
 「ところであの男には姉がいたな。新聞記者をやっていた」
 荒ワシ師団長が言った。
 「うむ、一緒に捕らえていた筈だが。どうしたのだ?」
 「死んだ」
 ゼネラルモンスターの質問にマシーン大元帥は答えた。
 「正確に言うと殺された。ヤマアラシロイドによってな」
 「ヤマアラシロイド・・・あの男か」 
 その名を聞いてアポロガイストは嫌そうな声を出した。
 「ゼクロスの改造前に目の前で電気椅子に架け処刑した。バダンに肉親への愛なぞ不要と言ってな」
 「そうか。さぞかしいい叫び声を出したのだろうな」
 荒ワシ師団長が嬉しそうに呟いた。
 「わしとしては改造人間にするつもりだったのだがな。その前に執行してしまったのだ」
 「奴も怪人軍団の長。それなりの事をしなければ示しがつかんのだろう」
 地獄大使が言った。
 「うむ。おかげでゼクロスの感情を除去するのは上手くいったがな」
 「何っ、あの男には感情が無いのか?」
 メガール将軍が尋ねた。
 「そうだ。それどころか痛みも感じない。奴の身体の九十九パーセントは機械となっている。能以外は全て機械だ」
 「そうか。つまりわし以上の機械人間ということか」
 魔神提督がその言葉を聞いて言った。
 「そういうことになるな。しかも自己回復能力も高い。おそらく先程の戦闘の傷はもう回復している頃だ」
 「なんと・・・・・・。そして奴はこれからどうなるのだ?怪人軍団に入るのか?」
 地獄大使が尋ねる。
 「首領のお言葉だと怪人達とは別らしい」
 「それではわし等の中に入るのか?そうだとすればあ奴が最高幹部か」
 「いや、最高幹部はもう決まっている」
 不意に首領の声がした。
 「首領・・・・・・・・・」
 一同畏まる。首領はさらに言葉を続けた。
 「バダンの大幹部及び改造魔人達を束ねる最高幹部、その者は・・・・・・」
 モニターが消える。真っ暗闇になった部屋に一人の男が現われた。
 「この男だ」
 「き、貴様は・・・・・・!」
 その男の姿を見て地獄大使の声が震えた。
 「久し振りだな、地獄大使。いや、ダモンよ」
 驚きと怒りの表情の地獄大使を前に彼をダモンと呼んだその男はニヤリ、と笑った。

 「・・・信じられん。あれだけのダメージがもう回復してしまっているとは」
 治療室の中で横たわるゼクロスを見ながら白衣の男が驚嘆の声を漏らした。
 「最早何処にも破損はありません。全快しております」
 助手の一人が報告した。
 「これがバダンの最強の改造人間、ゼクロスか。怖ろしい力だ」
 「これだけの回復力は今まで見たこともありません。ガランダーのキノコ獣人以上です」
 「そうだろうな。おそらくこれまでのどの改造人間よりも強いだろう。・・・・・・しかし」
 「しかし・・・?」
 その言葉に助手は突っ込んだ。
 「感情が全く見られない。改造人間とはいえこの様な者は見た事が無い」
 「だからこそ最高の改造人間ではないのですか?感情があればそのぶん余計な事をしてしまうでしょうし」
 「うむ、しかしまるで機械だな」
 白衣の男は表情を暗いものにした。
 「博士」
 助手はここで表情を厳しいものにした。
 「あまりその様な事は仰らない方が。何処で誰が見聞きしているかわかりませんよ」
 「・・・そうか。そうだったな」
 「はい。私はここで話した事は忘れますし」
 「そうだな。私達はここで何も話はしなかった」
 「そうです」
 二人はゼクロスの検査を再開した。それが終わるとゼクロスは無言のまま部屋を後にした。
 (本当に機械だな、あれでは)
 博士は今度は口に出さなかった。ただ心の中で呟いただけだった。
 
 ゼクロスはそのまま廊下を歩いていく。そしてある部屋の前に来た。
 入口の側のボタンを押す。シャッターが左右に開く。ゼクロスは部屋の中に入っていった。
 「お帰り、ゼクロス」
 ベッドとテーブルの他は何も無い部屋だ。装飾等は一切無い。がらんとして無機質な部屋だ。
 その中に一人の壮年の男性がいた。黒い髪を持ち眼鏡をかけたアジア系の男である。
 ゼクロスは相変わらず一言も発しない。ただ無言で部屋の中央に歩を進める。
 彼の顔が変化した。仮面が変質していく。
 口が変わった。人の口になる。引き締まった口許だ。
 次に頭部が変化した。黒いパーマをかけた髪が現われる。
 仮面が次第に薄れていく。眼はまだ緑のままだがまず赤い部分が消えていき肌が露になっていく。
 そして黒い部分も消える。アジア系の青年だった。精悍な顔立ちの青年である。
 眼が緑のものから人のものになっていく。黒い瞳である。しかしその眼には感情は一切見られない。
 バトルボディが消えていく。中からカーキ色の軍服が現われる。ソ連軍の軍服に似ている。引き締まり筋肉質の身体によく似合う。
 「報告は聞かせてもらった。全てのライダー達を相手に見事な初陣だ」
 「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは男の方を見た。無言のまま会釈する。
 「首領も暗闇大使もお喜びだ。これならばライダーとて恐るるに足らず、とな」
 ゼクロスはその言葉には答えない。首領や暗闇大使といった名に対しても反応しない。
 「これから始まるであろう我がバダンの世界征服計画において君は重要な役割を果たす。その主な仕事はライダー達の抹殺だ」
 「・・・・・・・・・」
 「やがて次の作戦が下されるだろう。それまでは身体を休めておいてくれ」
 ゼクロスは無言のまま席に着いた。男はそれを黙って見ていた。
 (やはり感情は無いな。バダンの記憶除去、そして洗脳の技術はやはり完璧か)
 男はそう思い忌々しげに顔をしかめた。
 (実の姉を目の前で殺したうえで洗脳する・・・何という非道なやり方だ)
 口には出せない。もし出したなら彼の命は無い。
 (そして彼はその事を一切知らないままバダンの野望の駒にされていくのか。そしてその拳を血で染めていくというのか)
 唇を噛んだ。血が滲み出る。だがそれには構わない。
 (ライダーといえど彼には適わない。最早打つ手は無いか)
 絶望が彼の心を覆っていく。暗澹たる思いだ。
 「ライダー・・・・・・」
 その時彼は無意識にその言葉を漏らしてしまった。それはゼクロスの耳にも入った。
 「・・・ラ・・・・・・ライダー・・・・・・」
 ポツリとゼクロスが言った。一言だけだが。そう、彼が言葉を発したのだ。
 「何!」
 男は思わず叫んだ。感情を全て消された彼が言葉を出す筈が無いからだ。
 「ど、どういう事だ・・・・・・」
 男は狼狽した。有り得ない事だった。
 「もしかして・・・・・・・・・」
 男の心に希望が宿った。光が今暗闇の中から甦りそれを打ち破らんと輝きはじめた。

 集結、そして新たなる敵  完



                                  2003・11・12

 
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