ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第145話 三虎との出会い!アカシアの家族の団欒!
前書き
話が長くなったのでタイトルを変えました、八王は次回登場して活躍しますのでお願いします。
グレートレッドがグルメ界にて零蝶たちと出会いまた時が過ぎた。
元々D×Dでは5本の指に入る最強クラスだったグレートレッドがグルメ細胞を得て強者達と戦い過酷な環境に身を置いて美味い食事を取る……そんな充実した生活を続ければ強くなるのは必然だった。
今では八王、もしくはそれらに匹敵する猛獣達とも戦えるほどに強くなっていた。
そしてアカシア達もまた自らを鍛えながらグルメ界を調査しつつ人間たちの戦争を何とかできないか模索していた。
あれから人間の数も劇的に増えて等々食材が足りないほどに人が増えてしまった、その結果人間界では戦争が勃発して食材を奪い合い日々が続いていた。
アカシア達がいるグルメ界は何の影響も受けていないがアカシアは人々の為に行動を続けていた。
「ふっ!」
「はぁっ!」
アカシア達の家の近くにある草原……そこでグレードレッドと一龍が戦いを繰り広げていた。
「握り箸」
一龍はグルメ細胞のエネルギーを具現化して箸のように形を変えた、そしてそれを両手に持ちまるで舞を踊るかのように軽やかに振るっていく。
その怒涛の攻撃をグレードレッドは金棒を使っていなしていく。この金棒はグレートレッドの鱗と牙にグルメ界の生物の硬い外殻などを溶かして作り上げた特注の武器でグレートレッドが力を底上げするためにアカシアに頼んで信頼できる鍛冶師に作ってもらったらしい。
今まではドラゴンの巨体と力、そして炎のブレスで圧倒してきたグレートレッド、しかしレガルゼーヴァに殺されかけた事でそれだけでは勝てない存在がいると痛感した。
故に人間体の状態でもしっかりと鍛え上げて実力の向上を目指していた。
「箸砲」
握った箸を凄まじい速度で投げつける一龍、グレートレッドはそれを金棒で迎え撃った。
「……雷鳴八卦」
グレートレッドは凄まじい速度で投げつけられた箸砲を更に超える光速の速度で弾き飛ばして一龍に攻撃した。
「迷い箸」
だがグレートレッドが攻撃したのは身代わりになった箸だった。一龍はグレートレッドの背後に回り込んで攻撃に移っていた。
「差し箸」
「ぐっ!」
背中を攻撃されて怯むグレートレッド、即座に反撃しようとしたが体の自由が利かなくなっていた事に気が付いた。
「マイノリティワールドか……」
「レッド、お前凄いな。既に体の器官が死に向かっているというのにケロッとしているとは」
「不思議な感覚だ、これが体の異常という奴か」
一龍は既にマイノリティワールドを発動させてグレートレッドの細胞の少数派を操り体の機能を停止させていた。グレートレッドでなければ死んでいただろう。
「しかし恐ろしい能力だな、マイノリティワールド……その力を使えばこの地上を支配できるのではないか?」
「そんな事に興味はないよ、俺は父さん達と一緒に飯を食っている日常があれば十分だ」
「ふっ、相変わらず謙虚な奴だ。だがお前だからこそそれだけの能力を使えるのかもしれないな」
グレートレッドの質問に一龍はあっけらかんに答えた。それを聞いたグレートレッドはアカシアだからこそマイノリティワールドという驚異の能力を使えるのかもしれないと思うのだった。
「おーい、兄貴、レッドー。美味い酒みつけてきたから飲もうぜー!」
そこに大きな酒壺を抱えた二狼が二人に声をかけてきた。
「コイツは美味いぜ、ドッハムの湧き酒って言うんだけど俺のフルコースに入れようかって思う程美味いんだ!」
「ほう、良い匂いがするな。前にアシュラサウルスを仕留めて作ったソーセージがあるからそれと一緒に貰おうか」
「俺にもくれ……ぶへぇ!?度数高ッ!?」
「わはは!相変わらず酒に弱ぇな、兄貴!」
酒を飲んでむせる一龍を見て大笑いする二狼、その横でマイペースにツマミを取りに行くグレートレッド……そんな三人をアカシア達は笑みを浮かべて見ていた。
「ははっ、レッドもすっかりこの世界になじんだな」
「そうね、私達も嬉しいわ」
「奴は意外と俗っぽい性格でもあるから我はこうなると想定していた」
アカシアとフローゼはグレートレッドもこの世界になじんだと言い、零蝶はなんともなさそうにそう呟く。だがその顔は少し不満気だ。
グレートレッドもすっかりこの世界になじみアカシア達と仲良くなっていた、だが最近は一龍達の興味がグレードレッドに向いているのが面白くないらしい。
だが仕方ないだろう、子供だった頃と違い二人はもう大人だ。お姉ちゃんに甘える歳ではない、でもそれはそれとして面白くないと思うのは彼女の可愛い嫉妬だ。
「さて、そろそろ町へ配給しに行ってくるわね。行きましょう、零蝶」
「承知した」
「ああ、気を付けてな」
フローゼは日課の各地への食糧の配給に向かうため零蝶に声をかけて準備をする、そんな二人をアカシアは優しく見送った。
―――――――――
――――――
―――
「零蝶、貴方もしかしてレッドに嫉妬してるの?」
「……そんなことは無い」
「貴方彼の事になるとムキになるわよね。でも仕方ないわ、もう二人も大人なんだから姉に人前で甘えたりなんてできないのよ」
「むう……」
フローゼは人間たちが住む町に向かう際、零蝶が機嫌を悪くしていたことを察して声をかけた。彼女は弟たちに甘えてもらえずグレートレッドにばかり構って貰っているのが面白くないと思っていた。
「でも決してあなたの事を嫌いになった訳じゃないわ。二人とも私に貴方の好きなものを聞いたり姉として尊敬しているっていつも言ってるもの」
「それなら何故我に直接言わない?」
「男の子は大人になると素直になれないのよ、そこは分かってあげて頂戴」
「むう、フローゼがそう言うなら……」
フローゼにそう言われて零蝶は渋々ながらも納得した。そうこうしているうちに人間界に着いた二人は食料の配給を始めた。
「押さないでください、沢山ありますから」
「どうぞ」
戦争で食べ物を満足に得られない人間たちはこぞって集まってきた。二人は手分けしながらお弁当を配っていく。
「フローゼさん、いつも済まないねぇ。何の見返りもなく食料を分けてくれて……私達は何もできないのに本当に申し訳ないよ」
「気にしないでください、好きでやっていますから。こういうご時世ですからだからこそ助け合わないと……」
「フローゼさんはまるで女神様じゃな」
「そんな……ガラじゃないですよ」
この町は人間の老人と子供、若い女性が多かった、若い男性は戦争に駆り出され多くの命が失われていったのだ。
暗い雰囲気が支配する町だったがいつも明るく食料を配り元気をくれるフローゼを皆慕っていた。
「零蝶お姉ちゃん、遊んでー」
「いいぞ」
「零蝶ちゃんは今日も可愛いわね、頭撫でてもよいかしら?」
「構わない」
そして無表情だが面倒見が良く外見も可愛らしい零蝶は子供からはお姉ちゃんと、老人や女性たちからはマスコットのように可愛がられていた。
そして食料を配り終えたフローゼと零蝶は別の町に向かいまた配給をしていく。
「フローゼ、どうしてフローゼはこんな事をしている?」
「えっ、どういう事かしら?」
「配給の事。フローゼは何も得られないし時には酷いことをいう奴もいた。それなのに何故こんな事をするのか我には分からない」
零蝶はフローゼがこうして食料を配る行動をしている事に疑問を感じていた、お金ももらえないし中には偽善者と罵る者やもっと寄越せと文句を言う者などもいた。
因みにそんな連中は零蝶が殺意を込めて睨みつけたら直に逃げ去った。
「そうね、私がこういう事をしているのは私がしたいからしているの」
「したいから?」
「そう、私は皆の笑顔が大好きなの。こんな時代だからこそ私は私が出来ることをしたい。それが自己満足だとしても私はこれを続けていくわ」
フローゼは笑みを浮かべながら零蝶に語っていく。
「それに私は料理人、お腹を空かせている人がいるならそれがどんな人でも食べさせてあげたい。それが私の使命だと思ってるの」
「……我にはよく分からない。でもフローゼが凄いことは分かった」
零蝶はフローゼの信念とも言える硬い決意を感じ取り彼女に敬意を持った。そしてそんな優しくて気高い彼女をますます好きになった。
「さあ、残りの配給を終わらせて帰りましょう。今日は貴方の好きな献立にしてあげるわ」
「なら我ハンバーグが食べたい」
「ふふっ、貴方の大好物だものね。分かったわ……あら、あれは何の集まりかしら?」
零蝶はハンバーグが食べたいと珍しく興奮気味に言う、それを聞いたフローゼは腕によりをかけて作ろうと思った。するとフローゼは荒れた平地に人が集まっているのを見つけた。
「ようやく捕まえたぜ、この悪魔が……!」
「お前のせいで俺達がどれだけ苦しい思いをしたと思ってるんだ!」
「ぐぅ……!」
10人ほどの男たちが一人の少年を押さえつけていた、その少年は恐ろしい目つきで一切怯みもせずに男達を睨みつけていた。
「今日こそお前を殺してやる!」
「ああ、首を切り落とせ!コイツの首を晒上げてやる!」
「剣を持ってこい!」
男たちは少年を殺すつもりの様で剣を持ってきて少年の首を斬り落とそうとした。
「不快、止めろ」
「あがっ!?」
だがそこに零蝶が割り込んで剣を持っていた男を蹴り飛ばした。相当手加減はしたが男は吹っ飛んで地面を転がっていく。
「な、なんだ!?」
「貴方達、止めなさい!そんな少年を寄ってたかって殺そうとするなんて……!」
「邪魔するな!コイツは俺達の村から何度も食材を盗んだ卑しい鬼なんだ!殺さねぇと気が済まねぇんだよ!」
「だとしてもやり過ぎよ!食料ならあげるからその子を許してあげて!」
「さっきからなんだお前は!何も知らないくせに偽善ぶるな!」
「さっさと消えろ!」
フローゼは何とか男達を説得しようとする、だが相当頭に血が上っているのか聞く耳を持たない。
「いう事を聞かねぇなら痛い目を見せてやる!」
「きゃあっ!?」
終いには一人の男がフローゼを殴ろうとした。
「ッ!!」
だがそれを見ていた零蝶は全身から恐ろしいほどの殺意を込めた覇気を放つ、それを浴びた男たちはまるで大きなお皿に盛りつけられた鼠が蛇を見たかのように体が硬直してしまう。
そしてプレッシャーに耐え切れず泡を吹いて気絶してしまった。
「フローゼ、大丈夫?」
「え、ええ……ありがとう、零蝶」
零蝶は驚いて尻もちを付いていたフローゼに手を差し伸べる。
「それでコイツらはどうする?埋める?」
「駄目よそんな事をしたら……この人たちだって戦争の犠牲者なのよ」
零蝶は埋めてしまおうというがフローゼがそれを止めた。
「人は衣食住の全てが揃ってはじめて理性を保てるのよ。人々が食料を奪い合い満足に食べられないこの状況ではこうなっても仕方ないの」
「……」
「貴方の気持ちは嬉しいけど暴力は駄目よ」
「分かった……」
フローゼは彼らがこんな暴挙に出てしまったのは空腹による怒りだと言い恨みは持たないと話す。零蝶は怒りを抑え込んで納得した。
「それでこいつらはどうする?」
「この人たちは治療して安全な場所に運んであげましょう。この子は……私が連れ帰って面倒を見るわ」
フローゼは倒れている子供の頬を撫でながら自分が面倒を見ると言う。
「この子がやったことは許される事じゃないわ、でもこんな酷い時代じゃ食べ物を奪わなければ生きてはいけない。だから私が教えてあげないと……奪うだけでなく分け合い分かち合う事も出来るんだって」
「フローゼがそう言うなら我は反対しない、アカシア達も同じ事を言う」
フローゼは少年に分け合う事も出来る事を知ってほしいと思い自分が教えようと話す。その後零蝶とフローゼは男達を治療して持っていた食べ物を全てそこに置いた。
「奪い合いにならないか?」
「そこは彼らの善性を信じるしかないわね……」
零蝶は男たちが食べ物を奪い合わないかと思ったが、フローゼは彼らの善性を信じようと言う。これ以上は何もできないしそうするしかないと零蝶は思った。
そして二人は少年を連れて帰路につくのだった。
―――――――――
――――――
―――
少年にとってこの世は奪うか奪われるかでしかなかった。少年が生まれた村は貧困によって狂気に駆られていた。
少年は家畜である赤毛ブタのエサとして赤ん坊の時に死ぬはずだった。だがその赤ん坊は死ななかった、赤毛ブタはその赤ん坊を襲わずに赤ん坊は赤毛ブタの乳房に吸い付き母乳を貪る。
そんな異質な光景を見た人々は畏怖して異物として赤ん坊を排除しようとした、だが赤毛ブタ達に阻まれてそれは出来なかった。まるで主を守る番犬のように赤ん坊を守っていた。
赤毛ブタに育てられた少年は一人で行動できる歳になると村を飛び出して至る所で食材を奪い始めた。どんなに対策しても見破られ、武力で排除しようとしても子供とは思えない荒々しさでそれを跳ねのけた。
少年は奪い続けた、物心がつくころから人々に恐怖され殺意を向けられた少年は奪う事が生きる事だと思っていた。だれにも頼らずたった一人で生き抜いていった。
だが戦争が激化して食糧不足が進み盗む食材も底を突きた、流石の少年も奪う食材が無ければ何もできない。
力尽きて倒れていた所を捕まり殺されかけた、少年はこの世の全てを恨んだ。そして死ぬはずだった。
でも少年は死ななかった、黒い影が男の一人を吹き飛ばしてその後バタバタと全員が倒れていった。なにか温かくて優しい物が頬を撫でたような気がしたがそこで限界が来て少年は意識を失った。
……なにか良い匂いがする、鼻に香ばしくて食欲を湧かせる匂いがして少年は目を覚ました。そこは知らない天井だった、今まで洞窟など硬い地面で寝ていた少年は暖かくて柔らかいベットや毛布の感触に戸惑いながら視線を動かす。
直ぐ近くのキッチンで女性が鍋をお玉でかき混ぜていた、その近くには小さな少女がいて自分の方に振り替えると女性の腕をクイクイッと引っ張る。
「フローゼ、あの子が起きた」
「あら、丁度良かったわ。スープが完成した所なの」
女性は小さな器にスープを入れてこちらに持ってくる。
「もう何日もまともに食べていなかったのね。このスープには胃に優しい『ラブニンジン』や『キングビー』のローヤルゼリーが入ってるわ。きっと体もよくなるはずよ」
女性はスプーンでスープをすくうと少年の口まで運んだ。
「ほら、食べなさい」
少年は空腹のあまり無意識にスープを飲み込んだ。温かいスープは丁寧に材料をこされていて舌の上でいろんな食材の味が躍るように広がっていく。
いやそれ以上に少年は今自分が一体何をされたのか分からなかった。今まで自分に向けられた感情は殺意や恐怖しかなかった。だが女性や少女からは殺意は一切感じずに困惑した。
少年は必至にその味を覚えようとした、何度も咀嚼して味わいその触感が、温もりが消えないように……
それから少年は二人の献身的な治療によって回復していった。人に優しくされたことのない少年は二人の優しさに戸惑いつつも知らなかった感情を知って胸が温かくなっていくのを感じていた。
「もうすっかり元気になったわね」
「あ、ありがとう……」
少年はたどたどしくお礼を言った。言葉は習っていなかったが毎日言葉を大人たちからかけられていたのでカタコトなら話せるようだった。
もっともそのほとんどが『殺す』や『死ね』といった物騒な物が多かったのでフローゼが修正した、ありがとうも彼女から習った言葉だった。
「ちゃんと話せて偉い、二狼は最初全く話せなかった」
「あの子は特殊な生い立ちだから仕方ないわよ」
零蝶はかつて二狼が全く話せなかったことを思い出してそう言うと、フローゼは苦笑しながら二狼をフォローした。
そんな二人を少年は不思議そうに見ていたが突然大きな音が少年の腹から鳴った。
「グキュルルルッ!!」
「あっ……」
少年は恥ずかしそうにお腹を押さえる、そんな少年を見たフローゼは笑みを浮かべた。
「ふふっ、そろそろ普通のご飯も食べれそうね。零蝶、食材を狩ってきてくれるかしら?」
「了解した」
二人はそう言うと調理の準備に取り掛かった、まず零蝶が外に出て猛獣を狩り食材を運んできた。自分ではお目にかかれない高レベルの食材を簡単に運んで来ることに少年は大層驚いた。
そしてそれを調理して美味しそうな料理に変えていくフローゼ、そんな光景を見て少年はまるで魔法にかけられたかのように目を輝かせて見ていた。
「さあ、出来たわよ」
そしてあっという間に料理の山が出来上がった。少年は一目散にそれを食べようとしたがフローゼに止められてしまう。
「待って。まだいただきますをしていないでしょう?」
「いただきます……?」
聞きなれない言葉に少年は首を傾げた。そんな少年にフローゼは優しく問いかける。
「そう、こうやって手を合わせて食材に感謝するの」
「感謝……」
少年はフローゼの言う感謝という言葉の意味が分からなかった。だが自分を助けてくれた人がいうのだからと言われた通りに手を合わせる。
「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます」
「いただきます」
「……いただきます」
フローゼと零蝶の真似をした少年は直に料理に手を付けた。熱いスープに口を突っ込んで舌を火傷してしまう。
「アチッ!?」
「あらあら、そんなに慌てなくてもだいじょうぶ。落ち着いて味わって食べてね」
「分かった……」
少年はフローゼに言われたとおりに味わうように咀嚼する。今までは奪われることを危惧して早食いで食べてきたので味わう事を知らなかった、だからこそ少年は食の有難さに、そしてそれが幸せだという事を実感していく。
「美味しい……」
「良かった」
「あむあむ」
少年にとって食事は唯腹を満たす行為でしかなかった、だがフローゼの笑顔を見ていると満腹感ではない言葉で言い表せない何かが少年を満たしていった。
その後少年はフローゼと零蝶の元で過ごす事になった。少年は自分は出て行かなくても良いのかとフローゼに聞いたことがある、優しくされたことがないので不安に思ってしまったのだろう。
「遠慮しないで。貴方は好きなだけここにいていいのよ」
その一言はあれだけ他人に対して憎しみの炎を募らせていた少年の心を救ってくれた。見返りも求めずに純粋な愛情をくれるフローゼに少年は完全に心を許していた。
「我は?」
「えっと……」
「……しょぼん」
零蝶は自分は?という感じで指をさす、それに対して少年は困ったように頬を掻いた。見た目こそ唯の少女だが少年は零蝶の得体の知れない底知れぬ力を感じ取って少し畏怖していた。
決して嫌っている訳でない、どちらかと行けば敬意を持っている。少年にとって猛獣は人間と違って嫌いではない存在だ、自分を育ててくれた赤毛ブタには感謝しているし生きる為に食おうとする猛獣には共感が湧くからだ。
人間と比べればよっぽど純粋な生き物だと少年は思っていた。だがそれはそれとして零蝶はちょっと怖いと思っていた。
それを感じ取った零蝶はしょんぼりと落ち込んでしまいフローゼが慰めるのだった。結果的に一緒に暮らすうちに少年は零蝶に慣れたのか懐いていくのだった。
それからも少年は二人と生活を続けていった。今では自分から獲物を捕らえてフローゼに届けるくらいには彼女に懐いていた。
「がうぅ!」
「あら、立派な味サイね!」
「美味しそう」
少年はアジサイが背中に生えたサイを捕えて二人に見せた、まるで猫が取った獲物を飼い主に見せて褒めて欲しいと自慢するような感じで少年は胸を張った。
「早速調理するわね」
「がう!……ッ!」
その時だった、少年は知らない匂いを感じ取りそちらに視線を向ける。すると二人の男性がこちらに向かってきているのが見えた。
「フローゼ様!ただいま戻りました」
「久しぶりっすー!今帰りましたよー」
「一龍!二狼!お帰りなさい!」
それは一龍と二狼の二人だった、アカシアと共に大陸の調査に向かい漸く帰ってきたのだ。
フローゼは立ち上がり二人を迎え入れようとする、だがそれよりも早く少年が動き二人に襲い掛かった。
「があっ!」
「おっ、なんだなんだ?」
少年はまず二狼に襲い掛かった、爪を振るうが二狼は余裕そうにそれを回避する。
「ぐがぁぁぁっ!」
少年は直に追撃をしようとするが二狼に体の一部を指で突かれると痺れて動けなくなってしまった。
「がぁっ!?」
「フローゼ様、コイツなんすか?もしかして俺達と同じ感じっすか?」
「ええそうよ、貴方達の新しい家族になる子よ。仲良くしてあげて」
「了解っす!」
二狼は少年の頭をガシガシと撫でながらそう言った。少年はその状況でも敵意を消さず二狼を睨み続ける。
「まったく怯まねえなぁ、こりゃ人間というより獣だな」
「お前だって似たようなものだったぞ」
「いやいや兄貴、そんな訳ねえじゃねえか」
「二狼、お手」
「ワン……ハッ!?」
「犬になってるじゃねーか」
二狼は少年の荒々しい姿に獣みたいだと言う、すると一龍がお前も似たようなものだというと二狼はそんなわけないだろうと笑い飛ばした。
そこに零蝶が寄ってきてお手と言うと二狼は幼いころにしつけられた癖が出てしまい思わず手を零蝶の手に乗せてしまい一龍に突っ込まれた。
「その子、グルメ細胞を持っているな……」
「アカシア様!」
そこに遅れてきたアカシアが現れて少年がグルメ細胞を持っていることを見抜いた。
「安心してくれ、私は敵じゃない」
「あっ……」
アカシアは少年の目を覗き込み頭を撫でた。少年はアカシアの目にフローゼと同じ優しい光を感じ取り本能的に敵じゃないと判断した。
「アカシア、お帰りなさい。その子の事なんだけど……」
「事情は何となく把握した、大変だったな」
「平気よ。零蝶もいてくれたから」
「そうか、いつもフローゼを守ってくれてありがとう、零蝶。私も安心して旅が出来る」
「えっへん」
アカシアが零蝶の頭を撫でると彼女は無表情で胸を張った。
「さあ食事にしましょう。皆お腹空いたでしょ?」
「やりぃ!久しぶりにフローゼ様の飯が食えるぜ!」
「硬いパンや焼いただけの野菜や肉ばかりだったからな」
フローゼの言葉に二狼は喜び一龍は男ばかりで真面な料理は食べられなかったと呟く。
「さあ、お前も行こうぜ」
二狼は少年のノッキングを解いて家に向かう。少年もそれに続いた。
―――――――――
――――――
―――
「へぇ、お前フローゼ様に拾われたのか。しかも食材を盗んで殺されかけたって……ドジだなぁ!」
「むっ!」
「お前は腰に大きい葉を巻きつけた野生児だっただろう、普通にチ〇コもろに見えてたぞ」
「兄貴!それは言うなって!」
二狼は顔を真っ赤にして一龍にそう言うが、彼はそれを無視して少年に話しかける。
「俺達も君と同じでみなし子だ、仲よくしよう」
「う、うん……」
「何か俺と態度違くね?」
「二狼ははしゃぎ過ぎ、少し落ち着くべき」
「へ~い」
一龍に仲よくしようと言われ驚きながらも嬉しそうに頷く少年、それを見た二狼が不満げにそう言うが零蝶に落ち着けと言われてふてくされながら返事を返した。
二狼は別に少年が嫌いなわけではない、今まで自分が一番下の立場だったので弟分が出来て嬉しいのだろう。それでちょっとテンションが高くなってしまっているようだ。
「そういえば君は名前はなんていうんだ?」
「名前……ない」
「名前ねぇのか?なら俺が付けてやるよ。姉ちゃんが零蝶、兄貴が一龍、俺が二狼だから……三男で三郎だな」
「なんでそうなるんだよ、ならお前が次郎でいいじゃねーか。丁度呼び方も同じだし」
「だったらお前は一郎じゃねーか!」
そんな言い合いをする二人にフローゼは笑みを浮かべた。この騒がしい空気が彼女のお気に入りだからだ。
「虎……」
「えっ?」
「三虎と名乗りなさい、お前達は同じ穴の狢、よく似合ってると思うぞ」
「三虎……俺の名前」
少年は三虎と名付けられ自身の名前を何度も読んだ。今までお前だの悪魔だの散々な呼ばれ方をしてきた少年は胸が暖かくなった。
「え~、こんなヒヨッコが虎っすか?味サイしか仕留められないのに?三猫の方が良いんじゃないか?」
「このっ!」
「おっ、なんだやる気か?かかってこいや!」
「大人げないぞ、止めないか」
「ふふっ」
二狼が三虎をからかい喧嘩が始まる、それを一龍が溜息を吐きながら止めようとして零蝶は楽しそうに笑みを浮かべる。
そんな子供たちの交流を見てアカシアとフローゼはクスッと笑った。
「フフッ、こんなにも早く仲良くなってくれて嬉しいわ」
「また騒がしくなりそうだな」
お酒を一口のみアカシアは一息つく、そんな彼にフローゼは真剣な表情になって声をかけた。
「それでどうだったの、アカシア?」
「戦争は収まる気配はないよ」
「そう……」
「すべて私の責任だ、グルメ細胞など発見しなければ……」
「貴方のせいじゃないわ、あまり思いつめないで」
フローゼはそう言うがアカシアは責任を感じ取ってるのだろう。
グルメ細胞が発見されてから食のレベルは一気に跳ね上がった、だが美味なる食材を追い求めるうちに人々は手段を選ばなくなっていき最後には争いに発展した。
「『ペア』に聞いたんだ、少なくとも数年後、四獣が動き出すと……そして太陽も欠けるとな」
「まさか日食が本当に起こるというの?」
ペアという人物の名前を聞いたフローゼの顔に緊張が走った。
「ニトロは四獣を使って人間を大量に攫うつもりだ。無論そんな事はさせない、一龍をぶつけようと思う」
「ペアはそれを許すのかしら?」
「何とか説得するつもりだ、これ以上犠牲は出せない」
アカシアは真剣な表情でフローゼの目を見る。
「フローゼ、日食が起こればGODは必ず姿を現す。それを調理するには君の力が必要だ、危険な調理になるだろう。だがそれでも君でなければ調理は出来ない、どうか力を貸してほしいんだ」
「勿論よ、アカシア。私は貴方のコンビなんですから」
「ありがとう」
二人はそう言って頷いた。それをこっそり盗み危機していた零蝶はペアや四獣という名前に疑問を持った。
(我の知らない名前……アカシアが誰かとこっそり会ってるのは知ってる。でもどうして我には教えてくれない?)
零蝶は自分がのけ者にされていると思い少し悲しい思いをした。
実際アカシアはペアの事を零蝶にも話そうとした、だがペアを始めとした『ブルーニトロ』は零蝶とグレートレッドを警戒していた。彼らとの話し合いの機会を無くすわけにはいかなかったアカシアは仕方なく秘密にしたのだ。
(きっとアカシアには考えがある。我は我のできる事をするだけ)
零蝶はアカシアを信じると決めてこれ以上は聞かない事にした。自分はいずれ来るであろうE×Eの刺客達に対抗できるように力を付けておくのに集中しようと思ったからだ。
「帰ったぞ」
「あら、レッド。お帰りなさい」
そこにグレートレッドが帰宅して顔を見せる、大男の登場に三虎は驚いた。
「決着はついたのか?」
「ああ、俺の負けだ。デロウスは強かった、だが意気投合して友になったぞ」
「そうか」
零蝶にそう聞かれたグレートレッドが自分が負けたと答えた。グレートレッドはこの最近竜王デロウスに勝負を挑んでいた、結果は自身の敗北だったが馬が合ったのか親友になったらしい。
「レッド、新しい家族の三虎だ。仲良くしてあげてくれ」
「そうか。俺はグレートレッド、レッドとでも呼んでくれ」
「ど、どうも……」
アカシアの紹介にグレートレッドは三虎に握手を求めた。その大きな手に三虎はちょっとビビるがちゃんとそれに応じた。
「レッド!久しぶりだな!一体どんな戦いをしてきたのか教えてくれよ!」
「それよりもこの前の戦いの続きをしようぜ!今度こそ俺が買ってやるぜ!」
一龍と二狼は久しぶりにグレートレッドに会えて嬉しそうに駆け寄った。
「むう、あまり調子に乗るな。グレートレッド」
「なぜお前はそんなに不満げなんだ、零蝶……」
「三虎は我の味方、だよね?」
「えっ、えっ……?」
そして零蝶は不機嫌になり三虎も巻き込まれて困惑していた。
「フローゼ、色々不安はあるがあの子達が明るく生きられるような未来を俺は作りたい。だから最後まで着いてきてくれるか?」
「ええ、勿論よ。アカシア」
二人はそんな光景を見て必ず良い未来にしてみせると意気込むのだった。
後書き
三虎だ。今まで俺は人の温もりや優しさを感じたことが無かったけどフローゼやアカシア様、姉者、兄者達という家族が出来て毎日がずっと楽しくて仕方ないんだ。
こんな幸せがずっと続いてくれればいいのにな……
次回第146話『異世界からの襲撃!零蝶の覚悟と八王の集結!』で会おう。
次回も美味しくいただきます……でも何故か嫌な予感がするんだ。
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