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未来を見据える写輪の瞳

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七話

 「やあやあすまんね」

 「すまんね、じゃねーってばよ!」

 「また遅刻ですよ! それも二時間!」

 「…………」

 波の国から帰還して丁度一週間。下忍第七班は本日より忍としての活動を再開していた。下忍達も久々の任務とあって張り切っていたのだが担当上忍であるカカシが盛大な遅刻。前から遅刻魔の素養があるとは知っていたものの、だからといって自分たちも遅刻して来るわけにはいかない下忍達は毎回毎回長い時間を待たされていた。

 「今日は人生という壮大な道に迷ってな。それより、任務に行くぞー」

 「疑う余地もないような嘘つくなってばよ!」

 「そーよそーよ!」

 騒ぐ二人と無言で苛立ちをぶつけてくるサスケを背にカカシは歩く。ただし、空に飛ぶ一匹の鳥をその眼に収めながら……





 「うむ、全員集まったな」

 とある一室。ここに今、里長である火影の他に、数十名の忍が集まっていた。時期や構成されているメンツから、ここにいる皆は何故ここに集められたかのか把握している。始まるのだ。あれが……

 「皆も察しているだろうが、今年の中忍試験は我らが木の葉の里で行われる。試験開始は一週間後。これより、参加する下忍を募る」

 中忍。それは忍のランクの一つだ。このランクになると、忍との戦闘がある高ランク任務の受注や、小隊の隊長として行動することもある。そのランクが負う責任は、下忍のそれの比ではない。故に、中忍になるための試験は相当過酷なものになる。故に、全ての里に置いて中忍試験を受けるには担当上忍の推薦が必要となる。

 「では、まず新人を請け負う上忍から前に出よ」

 火影の呼びかけに応じ前へと歩み出るのは三人の忍。はたけカカシ、猿飛アスマ、夕日紅だ。膝をついた三人は、順に己の意を口にする。

 「猿飛アスマ率いる下忍第十班。奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの。以上三名を、中忍試験へ推薦する」

 「夕日紅率いる下忍第八班。犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタ。以上三名を、中忍試験へ推薦します」

 「はたけカカシ率いる下忍第七班。うずまきナルト、うちはサスケ、春野サクラ。以上三名を、中忍試験へ推薦します」

 「む、全員か」

 今年下忍となった九名三班。そのすべてが中忍試験へと推薦された。これは中々珍しいことで、集まっている忍たちも一瞬だがざわめき立つ。然程時間を必要せず、ざわめきは収まったのだが、一人だけどうにも気持ちを抑えられぬものが居た。

 「待って下さい!」

 その者の名はうみのイルカ。アカデミーにてナルト達新人の子等を教えていた教師だ。彼は下忍になる前のあの子たちの実力を良く知っている。故に、止める。まだ、あの子達には早いと。

 「お言葉ですが、あの子達は既に木の葉の忍であり、私の部下です」

 しかし、それをカカシは一蹴する。確かに、付き合いはカカシよりイルカの方が長いのかもしれない。だが、あの子達はカカシ達がその目で下忍となることを認め、今回の中忍試験に推薦するに足ると判断したのだ。
 子供の成長は早い。イルカの元を離れまだ一年と立ってないとはいえ、今のあの子達を知らない貴方が口を出すことではないと。カカシの意見に同意なのか、アスマと紅も黙っているかを見据えるのみ。

 「………………」

 それを見て、イルカは子供たちが自身の元から旅立っていたことを再確認することとなった。

 「それでは、次に移る」

 火影の進行により、カカシ達と入れ替わるようにして他の上忍が前へと歩み出る。中忍試験は着々と迫りつつあった。





 「と、言うわけでお前たちを今度行われる中忍試験に推薦したから」

 カカシによって呼び出されたナルト達三人はカカシから書類を渡されると同時にそんなことを言い放たれた。

 「中忍……」

 「試験?」

 首をかしげるのはサクラとナルト。サスケは渡された書類に目を通している。

 「そ。下忍から中忍になるための試験」

 「お、おおおおおおおおお! いいじゃんいいじゃん! 腕がなるってばよぉ!」

 「試験かぁ……どんなことするんだろ」

 舞い上がるナルトと若干の不安を見せるサクラ。そんな二人をカカシが眺めていると、書類を読み終えたのかサスケが首を上げた。

 「おい、この試験で命を落としても構わないってのは……」

 「ああ、それ? 書いてある通り。中忍試験ともなると死者も出るから。他里も一緒に受けるわけだしそーいうのが必要なわけ」

 サスケが突きだした書類の中の一枚。それにはでかでかと誓約書の文字が書かれていた。サスケが言ったのはその誓約の中の一部だ。他里が一緒に受ける中忍試験では、こういった死んでも文句ありませんと書かせねばならないのだ。

 「し、死ぬことも?」

 「ああ。だからよく考えてサインするように。それじゃあ俺はここで」

 ドロン、という音を残してカカシはその場から消え去る。きっと、この子等は三人で来ると信じて。





 木の葉のとある演習場。そこにある任務で殉職した英雄たちの名が記される慰霊碑があった。慰霊碑にはびっしりと名が刻まれており、中には最近刻まれたのであろう真新しいものもある。
 そこへ、一人の男が現れた。黒い髪を腰ほどまで伸ばした病的なほどに顔の白い男。男は慰霊碑の前に立ち、ジッと記された名前を眺める。

 「……!?」

 そして、見つけてしまった。一番見たくなかったはずの名前を。これで、先日重要書類保管庫へと忍び込んで(・・・・・) 閲覧した任務報告書が誤りでなどなかったことが証明されてしまった。

 「そんな……そんなのありかよ!」

 男は膝をつき、拳を地面に叩きつけながらむせび泣く。堪えようとしても堪え切れない涙が、滝のようにして眼から流れ出す。

 「ちくしょう……俺が、俺が殺したんだ!」

 もし、この場に彼と彼女(・・) のことを知るものがいたらこういっただろう。それは違うと。だが、そんなことは本当は本人も分かっていた。ただ、彼女が死んでしまったことの悲しみと彼女を守ってくれなかった() へのやつあたり(いかり) がそれを覆い隠してしまった。

 「………………」

 男は立ち上がる。その身に確かな殺意を宿して。その時、一迅の風が周囲を撫でた。男の髪が風に舞う。今まで髪で隠れていた男の右目は、燃える様な赤色に輝いていた。





 「!?」

 「どうした?」

 場所は変わって中忍第一試験の会場近くの建物の一室でくつろいでいたカカシは何か例えようのない冷たい気配を感じ取った。忍として経験豊富な彼が今まで感じたことの無い様なそれに、思わず目を見開いてしまった。

 「なんでもない」

 「そうは見えないわよ?」

 「ああ、顔が真っ青だ」

 同僚である紅とアスマが心配の声を駆けてくれるが、カカシは適当に返事を返すだけで上の空だ。生真面目とはとても言えないカカシだが、今のような対応を普段見せることは無い。紅とアスマは本気で心配になってきたが、それでも上の空なカカシにどうすることもできなかった。





 第一次試験も無事に終わり、合格した数十組の下忍班の担当上忍は木の葉の演習場、別名”死の森”と呼ばれる場所へ移動していた。第二次試験の内容は開始前にバラバラに配布された二種類の巻物両方をそろえ、森の中心にある建物へ辿り着くというものだ。この二次試験は数日にかけて行われるものであり、担当上忍達は試験終了までここに缶詰めにされる。

 「ねえ、カカシの奴大丈夫かしら」

 「何とも言えん。だが、アイツがああも動揺した顔を見せるってのは少しばかり気になるな」

 アスマと紅。そしてカカシも、受け持つ下忍班が無事合格したため死の森中央の建物へとその身を移していた。今二人の話に上がっているのはやはり先ほどのカカシについてだ。今現在、当の本人はここにつくなり、割り振られた部屋へ引きこもってしまっている。

 「思えば、あの後も何だか様子がおかしかったな」

 あの後、部屋に籠もる前にアスマはカカシに声をかけていたのだが、その時のカカシの顔を思い出す。下忍達がいなくて暇だと言っていた時や、眼を見開いて何かに驚いていた時や、上の空だった時とも違う。あれはまるで……

 「まるで、戦いに赴くかのような目をしていやがった」

 「………………」

 カカシの不可解な様子は二人に疑問と心配を抱かせるのみで、それが一向に晴れることはなかった。



 「…………」

 部屋に置かれた机に忍具を広げ、カカシは一つ一つ丁寧に確認し整備を行っていた。整備が終わると、禅と印を組み、チャクラを練る。久しく行っていなかった基礎修行だ。身じろぎ一つせず、ただ黙々とチャクラを練り続ける。
 これもみなあの悪寒と、その後感じた非常に嫌な予感のせいだ。便利と言えば便利なのだが、カカシの嫌な予感はよく当たる。それも、当たった時の大抵の場合が感じていたものより悪い方に強まって起きる。今回感じた予感は相当なものだった。それより悪化して起きるとなると、カカシも今の鈍った体のままではいざという時に対応できないと考えたのだ。

 「ふぅ……」

 数時間ほどチャクラを練り続け、今度は種々の印を高速で組んでいく。自身がよく扱う術を中心にいくつもいくつも休むことなく組み続ける。試験中は建物より出ることを禁じられているため余り派手なことはできない。だが、それでも出来ることをとカカシはやり続ける。
 はたして、一体なにが起こるというのだろうか。未だその影は、見えない。 
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