ボーイズ・バンド・スクリーム
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第22話 古傷と家族
前書き
皆さま、お疲れさまです!今回は仁菜が熊本に帰る少し前の話になります。瑞貴と仁菜の話が続きますが大事な話の一部なので。それでは、どうぞ!
「こんばんはー。瑞貴さん、今大丈夫ですか?」
「いいよ、入って」
瑞貴のアパートに仁菜が訪ねて来た。ちなみに春樹はバイト中で家にいない。熊本から彼女の両親が来たらしい。
仁菜は高校時代、いじめられていた。最初は別の女子がいじめられていたが仁菜がそれを庇ったため標的が変わる。学校一の人気者で男を取っ替え引っ替え。カーストで言えばトップだろう。仁菜はいじめで怪我を負い、病院に運ばれて高校を中退した。
瑞貴も高校生の頃はカーストを意識したものだった。男子はあまりないが、女子のほうがその辺りはシビアである印象だ。
「瑞貴さんはどう思います?」
仁菜の両親がバイト先である川崎の吉野家や、アパートに来たようだ。予備校をやめ、バンドを仕事にしていく決意をした仁菜。お金を工面してくれていた両親に手紙を添えて預金通帳を返したとのこと。彼女は現在アパートの鍵を変えられており、家に入れない状態だ。
「ちゃんと話して来いって言うかな。向こうも仁菜のこと誤解してるかもしれないし」
「桃香さんと同じこと言うんですね」
仁菜は膨れっ面でそっぽを向く。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「勘違いするなよ。仁菜は良い子だ。お前のいじめの話を聞いて腸が煮えくり返りそうだっ…!親が味方してくれなくて、お前は深く傷ついたんだと思う」
「だったらっ…!」
「帰らなくていいか?まあ俺が仁菜だったら帰りたくない気持ちも分かる。けど家族が壊れてからじゃ遅いんだよ…遅すぎんだ。お前に俺と同じ道は辿ってほしくないんだよ」
「なにがあったんですか?瑞貴さん、です」
「俺が父親から虐待を受けていた話はしたよな?」
「はい。私こそ全身の怒りという怒りが込み上げて沸騰しそうですっ…!」
「ははっ、ありがとう…これを見てくれ」
「これ、瑞貴さんとご両親ですか?大介さんも写ってる…瑞貴さん可愛い」
「そっ、それは今関係ねぇから」
瑞貴のために表情で、拳で、声で怒りを表現する仁菜。そんな彼女に家族写真を見せた。彼は当時、小学生であり仁菜の感想は無理もない。瑞貴は照れ臭くなりながらも身の上話を続けた。
父親の暴力のきっかけは両親の離婚。イギリス人とハーフの母親は大学のミスコンでも優勝するほどの美人だった。父親は真面目が服を着て歩く地方議員であり、家庭を顧みないほど仕事にのめり込んでいた。そんな夫婦には当然、軋轢が生じる。母親は愛情を求めて浮気。浮気相手の男と出て行ってしまった。
「…それからだ。父親から暴力を受けるようになったのは。けど顔だけは殴られなかったよ。母親似だからなんだろうな」
「クソ野郎じゃないですかっ!あっ、すみません…」
「ぷっ…いいよ。側から聞いてたらそんなもんだろ?ま、どんだけクソでも両親だからな。会って話したいとか、家族みんなで笑い会えたらとかさ…俺が子どもだったから、弱いかったから家庭が壊れてしまったんだとか。当時から色々考えた。答えは…出ないけど」
母親はただ愛されたかった。それが例え不倫という倫理的に間違った形だったとしても。父親は喪失感を酒と煙草と暴力で埋めようとした。また保身のためにも必死だった。汚職も何もないクリーンな市長でいるために。
「そうですよね。瑞貴さんの両親がクソすぎて。自分の両親がまだマシに思えてきました」
「仁菜、さっきからクソクソ言い過ぎだって。まあ清々しいからいいけど」
「はっ、すみません。つい本音が」
「ぷっ、S字カーブで曲がるどころかガードレール直進で突き破ってるぞ」
瑞貴は仁菜の率直な物言いに笑ってしまった。
「仁菜の両親、片道5時間以上かけて熊本からこっち来たんだろ?お前を嫌ってたら絶対そんなことしないさ。きっと大事な話があるんだよ」
「じゃあ会って来ます。無事に帰ったら…ひとつ、お願い聞いてくれませんか?」
「いいよ。何?」
「神社仏閣巡りに付き合ってください!」
「分かったよ。どこ行くの?」
「そっ、それはまだ未定ですけど…とにかく約束ですからね!今日もありがとうございました!」
「気をつけろよ!」
「ピュイッ!ピュイッ!」
「モモちゃんもありがとう!行って来ます!」
言うや否やアパートを飛び出す仁菜。瑞貴はそんな彼女を微笑ましく思い、話し合いが上手くいくよう祈るのだった。
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