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ボーイズ・バンド・スクリーム

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第19話 覚悟の重み

 
前書き
みなさん、おつマグです!今回は仁菜と桃香がダイヤモンドダストに戦線布告する直前の話ですね。アニメでいうと8話です。アニメ8周しましたが8話と10話は本当にいつ見ても泣けますよね…それでは、どうぞ! 

 
「お前、それ本気で言ってるのか?」

アゼリア川崎地下の丸福珈琲店にて。春樹は桃香に怒っていた。瑞貴の話をしている時だった。桃香はバンドを背負う覚悟がないことを悩んでいると瑞貴から聞いた。彼女から珍しく話がしたいと言われた春樹は川崎に出向いていた。そこで瑞貴の話になり「いいよな、白石は。順風満帆な人生で」と桃香は言った。

「えっ?」

「あんまり失望させるなよ。確かにあいつは白石大介の孫だ。メディアに出る機会は増えるだろうし、当然、曲にも注目は集まる。けど同時に演歌歌手の孫として比べられてしまう。ボーカルとして実力がなければ評価されない。祖父が偉大な分、期待も大きいんだよ」

「で、でもっ…続けられればいつかは評価されるんだろ。楽勝じゃん」

「“続けられれば”か…瑞貴のこと何も知らないんだな。あいつが挫折を味わってないって言い切れるのか?」

「一体、何が…」

「はあ…本当はあんまり言うなって言われてるけど。聞くに耐えないから言っとくわ。あいつ、サッカーで膝やって入院してたよ」

「なっ!?」

「左膝前十字靭帯断裂。高校3年の夏のインターハイ。ゴール前で相手のディフェンダーとの接触事故が原因だ。ありゃ、わざとやられたな。瑞貴はしなやかなドリブルと的確なシュート、視野の広いパスセンスが売りの技巧派フォワードだった。プロのスカウトも来てたぐらいだ。相手チームにも当然、警戒されてたし目障りだったんだろう。おおかた相手チームのキャプテンの指示だな。あいつゲス野郎だし。リハビリで回復したし日常生活に支障はないけど、瑞貴の思い描くサッカーはできなくなった」

「なんだそりゃ…酷すぎる」

「それでも、だ。あいつは自分にできる範囲で筋トレして、走り込みして。ボーカルって意外と体力いるだろ?ワンマンなんか1時間、2時間立ちっぱなしで動き回るわけだし。お前の歌に背中を押されたんだと。入院中にリハビリで挫けそうな時も、お前の歌、聴いてたみたいだぜ。『俺も河原木みたいに人を救える歌が歌いたい。そのためなら膝がぶっ壊れても、這いつくばってでも歌う』ってな。だから間違っても瑞貴に楽勝とか順風満帆な人生とか言うな」

左膝に爆弾を抱えながら、それを客に悟らせず堂々と歌う瑞貴を春樹は尊敬している。僅かながら桃香に対する口調が強くなってしまっていた。

「ごめん…私が悪かったよ。ほんと、私は…何言ってんだろ」

「お、おいっ!俺が泣かせたみたいだろ?涙拭けって。ハンカチやるからさ」

瑞貴がロックバンドのボーカルとして歌う覚悟の重み。桃香はそれを軽んじる発言をしてしまったことに気づき涙を流した。春樹は狼狽しながらもハンカチを彼女に手渡す。

「いいよ、お前は知らなかったんだし。ただ瑞貴がどれだけの覚悟でボーカルをしているかだけは誤解しないで知っといて欲しかったから。そんだけだ」

「うん…ありがとう。ごめん」

桃香は長野でのライブ後、仁奈と喧嘩し仲直りできずにいるらしい。まだ少し気持ちの整理がついておらず弱気になっているのだろう。

「で?結局、瑞貴のことどう思ってんの?」

「好き、なんだと思う。すばるの脇見ててムカついたし、瑞貴の車からダイダスのヒナの歌声流れてきてムカついたし…ファンの女と2人で並んで歩いてるの想像したら気が変になりそうで。水族館でも抱きついてみたり腕組んでみたり…」

「うわー、普通に重い女ムーブするじゃん。付き合ってもないのに」

「う、うるさいっ!」

「で、天下の河原木桃香様はどうすんの?告らねーの?」

春樹は彼女の痛いところを的確に突いていた。

「うっ…あいつはっ、いい男だよ?それはわかってるつもりだけど…今まで何とも思ってなかったのに、告白されて意識して好きになりましたっていうのも都合が良すぎるっていうか…」

「ふーん。俺から言わせてもらえば、お前らお似合いだと思うよ。価値観とか所作とか。雰囲気も近いのを感じるし。本当に好きなものには全力だけどビビっちまうところか、そっくりだし」

「工藤、それは…!」

「違うか。全力だからこそ、臆病になっちまうんだよな」

「うん…失うのが怖いんだよ。付き合った別れた、とか…よくある話だろ?けど、あいつとはそうなりたくないっていうか…関係性が壊れるぐらいなら今のままでいいっていうかさ」

「甘ったれめ。瑞貴なら『付き合うのも別れるのも、結婚するのも離婚するのも全部お前がいい』とか言いそうだけど?」

「うわっ、言いそう…」

「だろ?ま、悩め悩め。俺はそろそろ行くわ」

「どこ行くの?」

「ん?ダイダスのライブ。俺、今のボーカル普通に好きだし。みんながみんな河原木のファンなわけないだろ?自惚れんな、ばーか」

「はあっ!?お前ってやつは…せっかくお礼を言う流れだったっていうのに。ムカつくやつだな!」

「はいはい。仁菜と一緒に見に来れば?Zepp羽田だし」

「うるさい!早く行けっ!」

「河原木」

「なんだっ!?」

「人間、気持ちは変わっていくもんだぞ。お前の素直な気持ち、ぶつけてみろ。でないと、いつか瑞貴までヒナのファンになっちまうかもな?」

「っ…」

「冗談だよ。じゃあな」

去り際に重たいジョークを残して去っていく春樹。その姿を眺めながら桃香は今後のことを考えるのだった。 
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