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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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南洋の死神

 協調を保ちながらもそれぞれが独自の文化を持ちそれぞれの発展を遂げている東南アジアであるがその扇の要となっているのがシンガポールである。
 イギリスの植民地から独立したこの国は国土も狭く人口も少ない都市国家である。しかしその地の利と厳格な法治主義、人材育成により一大商業都市国家となった。その繁栄はかって植民地の寒村であった事など思いも寄らぬ程であり環太平洋地区の経済の中心地の一つと謳われる程である。高層ビルが立ち並び整然とした街にはゴミ一つ落ちていない。シンガポール政府の厳格な政治によるところも大きいがこの国の人達のモラルの高さが窺える。さながら南洋に浮かぶ真珠である。人工的と揶揄される事もあるが富と美を併せ持つ国、それがシンガポールなのである。
 そのシンガポールの空の玄関口であるシンガポール国際空港に一人の青年が降り立った。鋭い切れ長の細く黒い眼と光により茶にも見える細いくせのある黒髪を持つ引き締まった身体を持つ長身の東洋人の青年である。赤のカッターは上のボタンが開けられその下から黒いシャツが見えている。黒のズボンは動き易いスラックスである。彼の名は風見志郎、世界を股にかける探偵でありまたの名を仮面ライダーⅤ3という。
 かっては仮面ライダー一号こと本郷猛の後輩であり生化学研究室に籍を置き細菌の研究に従事する若き科学者であった。体操やモトクロスレースでも有名でありその将来を期待されていた。心優しい両親と自分を慕う妹に囲まれ何不自由ない幸せな日々を送っていた。だが彼はその全てを一瞬にして奪われることとなった。
 ゲルショッカー壊滅後死んだと思われていた首領が新たに結成した組織『デストロン』の行動を目撃してしまった事により彼は命を狙われる事となる。デストロンの行動は執拗であり遂には彼の両親と妹までもが彼の目の前で惨殺されてしまう。
 復讐を誓った彼はダブルライダーに自分を改造人間にしてくれるよう頼み込む。だが改造人間としての苦しみ、そして哀しみを知る彼等は一度はその懇願を振り切る。
 しかし二人を救うべく瀕死の重傷を負った彼を見て二人は考えを変えた。彼の命を救うべく彼を第三の仮面ライダー=仮面ライダーⅤ3に改造したのである。一号の技、二号の力を受け継いだ彼は立花藤兵衛や珠姉弟、そしてライダーマンこと結城丈二達と出会い共に戦い遂にデストロンを滅ぼしたのだ。デストロン滅亡後彼は日本を離れ表向きは探偵として世界を回り世界各地で暗躍する悪の組織と戦い続けた。クールな中にも哀しみと熱さ、そして暖かさを秘めた男である。
 その彼を見下ろす何かがいた。
 それは青白く燃える人魂だった。やがてその人魂は人程の大きさになるとそのまま人間の形をとりはじめた。
 右に眼帯をした髑髏の顔をしている。黒い髪が髑髏から直接生え不気味さを一層際立たせている。赤を基調とした軍服は肩等に豪奢な金モールを着けている。下は黒のズボンである。右手には大鎌がある。名をドクロ少佐という。
 ドクロ少佐、その名を聞いて震え上がらぬ者はいない。かって日本には忍者という暗殺、諜報を生業とする者達がいた。影に生き影に死ぬ。闇の中に潜み狙った者は必ず葬る。彼等の使う驚異的な体術、そして手裏剣やまきびしといった独特の不思議な形状の武器、これ等を総称し人々は『忍術』と呼んだ。
 彼等は戦国時代には日本を所狭しと暴れ回った。その力を恐れた織田信長は彼等の主な勢力の一つである伊賀を攻め伊賀の国において凄惨な殺戮戦を展開したのである。
 安土桃山時代に入ると他の者に混ざり日本を出る者も現われた。その中の一人が当時陰謀渦巻くイタリア半島へと渡ったのである。
 彼は傭兵として、刺客としてローマ=カトリック教会やメディチ家等多くの勢力に雇われた。そして多くの仕事をやり遂げてきた。生まれてから死ぬまで彼は闇に生き生を刈り取る仕事をしてきた。彼の心は人から人ならざる者、異形の者のそれと化してしまうのも当然の成り行きであったのだろう。
 現身は滅んだ。しかし魂は残った。彼は死神として甦り再び生を刈り取りはじめた。かっての生業としてではなかった。楽しみとして生を刈り取っていたのだ。その手に持つ大鎌で多くの者の魂を断った。イタリアの黒い夜を鮮血の帳で覆いローマやヴェネツィアといった美しい街を土色をした屍で覆い尽くした。彼こそはイタリアを影と闇の世界から支配し恐怖と絶望の色で塗り替えた悪夢の神であった。
 その子孫がドクロ少佐である。祖先忍術に咥え自らが鍛え上げたイタリア忍者集団DDDを率いその悪名を轟かせたデルザー軍団一の刺客とされ彼に命を狙われ生を全うした者は一人を除いていない。
 「あれが仮面ライダーⅤ3、風見志郎か」
 ドクロ少佐は出口に向かう風見を見下ろしつつ言った。
 「そうだ、あの男がいる限り我等の作戦は円滑に進められぬ」
 ドクロ少佐の周囲が一瞬闇に包まれた闇の中にレーザーが発せられるとその中から一人の男が現われた。
 蠍を模した金の兜に銀の鎧とズボンを着けその上から赤い戦抱と青のマントを羽織っている。黒い顎鬚を生やし手に斧と盾を持つこの男の名はドクトル=ゲーという。
 かってはライン川流域に昔からあった名門貴族の家の当主であった。医学者でもあり細菌研究において才を発し名を知られるようになる。このままいけば彼は細菌研究の権威としてコッホに並ぶ名声を得たかも知れない。だが時代が彼の人生を狂わせた。
 第一次世界大戦の敗北と大恐慌によりかって繁栄と強勢を誇ったドイツは一転して貧困と絶望の底へと落とされた。街には孤児や浮浪者が溢れ混迷と退廃が支配した。彼自身も自分と祖国の未来に絶望し酒浸りの日々を送っていた。ある時仕事先のミュンヘンで一人の男の演説を聞いた。それがはじまりだった。
 男の名はアドルフ=ヒトラー、オーストリア出身の政治家とは思えぬ程若い男は類稀な演説の才能と政治力、そしてカリスマ性を有していた。彼の演説に心打たれたゲーは早速ナチスに入党し悪魔博士と恐れられたメンゲレ等と共に忌まわしき生体実験へと没頭していった。ここで彼の中に隠されていた冷血さと残忍さが現われた。次々と罪無き人々を細菌や化学兵器の実験材料とし、そのおぞましい結果を見て血生臭い笑みを浮かべるのであった。
 ナチス崩壊後はスイス経由で中近東に渡りその地に潜伏しテロリストとして暗躍した。やがてデストロンに招かれ大幹部となり北アフリカで暴れ回る。その功績を認められ日本支部長に就任する。細菌戦を得意とする冷血で残忍な人物である。
 「ドクトル=ゲーか。そちらの方の準備は出来ているか」
 「安心しろ。最早九分九厘出来上がっている。あと数日で完成だ」
 「そうか。ではあとは主幹戦力となる怪人だけだな」
 「うむ、それだが」
 「それはわしが説明しよう」
 二人の後ろの床から突如として人が現われてきた。白髪と白髭の容貌魁偉な老人である。膝まである白衣と白マントを身に着けている。右手と左脚は生身であるが左手と右脚は機械となっている。ジンドグマの天才科学者幽霊博士である。
 中国湖北省武漢に生まれた優秀な科学者として知られこの国において彼を知らぬ者はいなかった。多少風変わりではあったがその俊英ぶりを遺憾なく発揮していた。
 だが突如として姿を消した。当時飽くなき研究意欲に捉われていた彼は次第に人の道に外れた邪な研究を望むようになっていた。そこをドグマの帝王テラーマクロに目を付けられたのだった。その招きに応じ彼はドグマに入った。そこで悪魔元帥と出合った。悪魔元帥がテラーマクロと袂を分かつと彼は悪魔元帥についた。彼の組織ジンドグマにおいては怪人の製造と細菌戦を担当し仮面ライダースーパー1を苦しめた。
 「幽霊博士」
 二人は同時に彼の名を呼んだ。彼はそれを聞きニタリ、と笑った。
 「怪人なら既に届いている。イギリスのブラック将軍から三体」
 「それでは足りぬな」
 ドクトル=ゲーの言葉に対し幽霊博士は笑った。
 「それに加えてわしが再生させたものが四体。合計で七体じゃ」
 「七体か。それだけあれば充分だな」
 「うむ。二人は基地建設を進めてくれ。風見志郎は俺がやる」
 ドクロ少佐が二人に言った。
 「うむ、任せたぞ」
 ドクトル=ゲーが答えた。
 「イタリア忍者集団DDD,その強さと恐ろしさ、とくとお見せしよう。ケケケケケケケケ・・・・・・」
 ドクロ少佐は不気味な笑い声をけたたましくあげるとその姿を再び燃え盛る青い人魂へと変えた。そしてそのまま中空へと消えていった。
 「仮面ラーーイダⅤ3、今度こそ貴様は我等に敗れることになる。この南洋の街においてな」
 ドクトル=ゲーはタクシーに乗り空港を後にする風見を上から見下ろしながら言った。その後ろには音も無く数体の影が現われていた。
 


シンガポールはその人口の大部分が華僑で占められ所々に中国文化の影響が見られる。だが世界でも有数の貿易都市でもあるこの都市国家は多くの国から多くの人々が来訪し生活する国際国家なのである。
 APECの本部も置かれ環太平洋地区の覆うの人達がいる。日本人やアメリカ人、中国人といった世界中を股にかける人達やASEAN各国は無論の事アラブやヨーロッパからも人が来る。それと共に彼等が持つ文化ももたらされる。
 その結晶の一つとも言えるのがシンガポールの象徴マーライオンである。『海の獅子』という意味のこの架空の生物は陸と海、中華と欧州、イスラム、そして南洋のそれぞれの文化が互いに混ざり合い影響し合う事により誕生したのである。
 タクシーから降りマーライオンを一瞥した後風見は予約していたホテルに入った。
 ホテルに入りフロントに挨拶し日本語新聞を買うとそのまま自分の部屋に入った。白を基調としたヨーロッパ風の落ち着いた雰囲気の部屋だ。中に入るとソファーにすわり新聞に目を通す。
 経済面での日本や東南アジアの動向の他にイスラエルとパレスチナの情勢が政治面に大きく取り扱われていた。他には中国の長江流域の開発やNASAの新型ロケット開発等が取り上げられている。
 中には変わった記事もある。ドイツの古城が謎の爆発により崩壊した事件やインドでの人に似た未確認動物の噂話を扱った記事等だ。
 「・・・・・・・・・」
 風見は表情を変えず落ち着いた様子で新聞を読んでいる。それを一通り読み終えたたんでテーブルの上へ置いた。白のカップに紅茶を注ぎ込み一口飲む。ミルクだけで砂糖は入れない。その方が茶とミルクの味を味わえるからだ。一杯飲み終えた時チャイムが鳴った。
 「誰だ?」
 ルームサービスは頼んでいない。ホテルのスタッフ以外に部屋は知らせていない。だとすれば何者か。ドアに手を掛け鍵を解こうとする。
 鍵が解かれる直前に何者かが部屋に押し入って来た。黒のスーツに赤のプロテクターとマスクを着けている。三人いた。
 「ギィッ」
 彼等は部屋に入るとそのまま部屋を見回した。明らかに何か、若しくは誰かを探している。
 焦った仕草で部屋中を見渡す。しかし探しているものは何処にも無い。その時上から声がした。
 「俺ならここだ」
 「ギッ!?」
 蹴りが上の壁から来た。一人がそれを喉と顎に直接受け後ろの壁に叩き付けられる。
 残った二人がギョッとして上を見上げる。そこに風見志郎はいた。刺客達が部屋に乱入する直前に跳び上がり壁に張り付いていたのだ。
 スタッと二人の前に跳び下りてきた。そして右手を前に出し身構える。
 「その格好ジンドグマではないな。貴様等一体何者だ?」 
 その問いに口で答えようとしない。無言で襲い掛かって来る。
 「ギィッ」
 叫び声と共に拳を繰り出す。風見はそれを右手で払いのけると左の正拳を相手のみぞおちへ叩き込んだ。そして返す刀で左にいた最後の一人の首に手刀を打ちつけた。
 「見たところ単なる戦闘員のようだが」
 倒れている三人のうち一人に歩み寄ろうとする。すると突如としてその一人の身体から緑色のガスの様なものが噴き出した。
 「なっ!?」
 それは植物の胞子のようだった。咄嗟に身の危険を感じ後ろに跳び退いた風見は無事だったが三人はそのまま胞子に包まれた。そして骨まで完全に溶けて消えてしまった。後には緑色の小さな水溜りが三つ残っていたがそれも霧消してしまった。
 「どうやら奴等は俺の事を既に知っているようだな」
 風見はそれを見て呟いた。部屋を出てホテルのスタッフには突然入った仕事で部屋を暫く開けるとだけ言った。そしてホテルを後にしてホテルの地下の駐車場に向かう。
 駐車場に置いていたバイクに乗った。事前に日本からこのホテルに運ばせていたのだ。青を基調としたカラーリングで赤と白の線が入れられている。装飾性の無い普通のバイクだ。エンジンをかけるとそのまま駐車場を後にした。
 道路に出バイクを走らす。向かうは海に面したとある公園である。
 風が潮の香りを運んで来る。風見はその香りを鼻で味わいながら己のこれまでの数奇な戦いの日々に思いを馳せていた。
 その始まりは偶然からであった。デストロンに殺害された人が溶解するのを目撃し珠純子という女性を保護したのが始まりだった。デストロンの改造人間ハサミジャガーに両親と妹を殺され自身もダブルライダーを救出した際に瀕死の重傷を負ってしまう。その彼の命を救う為にダブルライダーは彼に改造手術を施した。仮面ライダーⅤ3として復活した彼はハサミジャガーを倒し、太平洋上に姿を消したダブルライダーの遺志を継ぎデストロンを倒す為に戦う決意をした。彼の前に生物と機械の合成怪人やデストロンとの結託部族等が前に立ちはだかった。だがそれに打ち勝ち遂にデストロンを滅ぼした。デストロン壊滅後は世界各地を転戦し歴代の悪の組織と戦い続けた。長い戦いの日々だった。幾度となく死線をくぐり抜けてきた。だが彼はそれをつらいとも苦しいとも思ったことはない。心の中には常に両親と妹がいる。目の前で無残に殺された者達、これ以上自分のような境遇の者を出したくない、そう思うから彼は戦い続けてきたのだ。
 その彼を陰に日向に支えてきた者達がいる。彼等と会う為に彼は今この公園に来たのだ。
 遠くから足音が近付いてくる。二人いる。やがてその二つの足音は風見の前に来て立ち止まった。
 「お久し振りです、風見さん」
 「ああ、元気そうだな」
 二つの足音のうち一人は良く知っていた。インターポールの工作員である佐久間健だ。
 デストロンの活動及びその野望はやがて世の人の一部に知られるようになった。それに対し危惧を覚えた各国政府の高官達により極秘でインターポール内で任命された特別捜査官達がいた。彼等の通称をデストロンハンターといった。その名の通りデストロンとその関係者達について捜査し逮捕する。場合によってはその命を左右する権限を与えられた者達であった。
 デストロンハンターは世界各地でデストロンと戦った。日本には六名のハンターが派遣されたがそのうちの一人がこの佐久間健だったのだ。そしてドクトル=ゲーと戦ううちに仮面ライダーⅤ3=風見志郎と知り合い彼に協力するようになった。暫くして別の任務で日本を離れその地で任務を続けるうちにデストロンは壊滅した。これで本来の部署に戻る筈だったが仮面ライダー、とりわけⅤ3との縁を買われ特別捜査官に留まった。その任務はライダーとの共闘及びそのパイプ役であった。
 この任務も彼は確実にこなしていた。そして多くの悪の組織と戦ってきた。そして今も特別捜査官の任にあり捜査を続けているのである。
 「上海でのジンドグマ中国支部壊滅以来ですね。またお会い出来て嬉しいです」
 「俺もだ。お互い明日はどうなるか知れない身の上だからな。ところで健」
 「はい」
 「シンガポールで何か起ころうとしているんだな」
 「・・・・・・はい。やはりご存知でしたか」
 佐久間の顔が暗いものになった。
 「さっき宿泊先のホテルに刺客が来た。赤いマスクと黒のスーツの連中だ。一見デルザー軍団の戦闘員に似ていた。心当たりはないか」
 「赤のマスクと黒のスーツですね」
 「そうか。知っているのか」
 「はい。我々が今追っている連中です」
 「何っ!?じゃあ奴等は・・・・・・」
 風見の目が光った。
 「それからは私に話をさせて下さい」
 それまで佐久間の横で黙って控えていた男が割って入ってきた。
 「君は?そういえば名前をまだ聞いていなかったな」
 見れば細面のアジア系の若者である。茶がかった髪をセンターで分けている。切れ長の一重の黒い瞳が白く端正な顔立ちによく似合っている。黒がかった濃い茶のスーツと紺のネクタイ、そして白いカッターの上から茶のトレンチコートを着ている。
 「役清明(えんの きよあき)と申します」
 「日本人か?」
 「はい。長野県警警備課より派遣されてきました」
 「ほう。長野県警から」
 「はい。突然上の方から通達を受けまして。階級は警部補です」
 「警部補、か」
 風見は少しいぶかしむ眼をした。
 「はい。インターポールでの肩書きは佐久間捜査官と同じく特別捜査官となっています。権限も同じです」
 「ふうむ。で役捜査官、話の続きを聞かせて欲しいのだが」
 風見の問いに役は頷き懐から一枚の写真を取り出した。
 「この人物をご存知ですね」
 写真に映る男を見て風見の眼の色が変わった。蠍を模した兜を被った黒髭の男、ドクトル=ゲーであった。
 デストロンの第一次日本攻勢において幾度となく死闘を演じてきた。特に四国を巡る攻防と日本全土に一斉攻撃を仕掛けた『日本全滅作戦』においては風見と日本をあと一歩のところまで追い詰めた男である。最後は捨て身の攻撃で勝利を収めたが彼を最後の最後まで苦しめ続けた宿敵であった。だが彼は死んだ。その彼の写真を今見るとは。
 「ドクトル=ゲー。死んだ筈だが」
 「はい。一度は死にました。貴方が倒しました」
 彼は仮面ライダーⅤ3との激しい一騎打ちの末に三浦海岸、八景浦にて壮絶な戦死を遂げていたのであった。
 「ですが彼は何者かの手により再びこの世に現われたのです」
 「何っ、誰の手によって」
 「それは解かりません。そして彼は今このシンガポールにいます。かってジンドグマの大幹部であった幽霊博士と共に」
 「幽霊博士ーーー。ジンドグマきっての天才科学者と謳われたあの幽霊博士がか」
 「はい。彼等はどうやらこの地に基地を建設しようとしているようです」
 「基地?このシンガポールにか」
 「はい。この国は小さいながらアジア太平洋地域の貿易、商業の中心地として繁栄しています。ここに基地をおけばアジア太平洋一帯をその影響下に置く事が可能になります」
 「馬鹿な、その様な事になれば数十億の人々が生命の危機に曝されることになる」
 風見は表情を変わらせた。
 「そうです。ですから今回貴方をお招きしたのです」
 「・・・・・・・・・そうだったのか。もっともそんなところだろうとは思っていたが」
 「はい」
 その眼に真摯な、強い光を灯し呟く風見に対し役は言った。戦いを決意した彼を戦場へ誘う、そういった声だった。
 「そして建設されている場所は何処なんだ?すぐに壊滅させないと大変なことになる」
 「それならば見当はあらかた着いています」
 佐久間が懐から地図を取り出して言った。
 「む、早いな」
 「はい。ここまで調べるのに苦労しましたよ」
 佐久間はそう言って苦笑した。
 「相変わらず隠れるのが上手い連中でしてね。かれど何とかここまで絞る事が出来ましたよ」
 広げた地図に赤丸が着いた場所がある。風見はそこを指差した。
 「ここだな」
 「はい。間違いありません」
 「だとすれば話は早い。すぐに乗り込むとしよう」
 「はい。ですが敵も手強いですよ」
 「やはり怪人がいるのか」
 「おそらく。しかも通常の改造人間達より更に強力な者がいる事が確認されています」
 役が風見に言った。
 「誰だ、それは」
 「はい、デルザーの改造魔人、ドク・・・・・・」
 その時風見達を無数の銃弾が襲った。佐久間と役は足下に襲い来る銃弾を素早くかわした。役のその動きは相当に訓練されている者のそれであった。
 「誰だっ!」
 銃弾は三人の後ろにそびえる一本の大きな木からだった。
 「ケケケケケ」
 不気味な、闇夜に木霊する死霊の様な笑い声が聞こえてきた。見れば気の上に赤と黒の軍服を身に纏ったドクロの男がいる。
 「奴だな、あんたが今言おうとしていたデルザーの改造魔人とやらは」
 風見は木の上の改造魔人に顔を向けたままで役に問うた。
 「はい。ドクロ少佐、デルザーの中でも特に格闘戦に秀でた男です。気を付けて下さい」
 「それに隠密行動にも秀でている様だな。敵ながらやってくれる」
 風見達は何時の間にか囲まれていた。先程ホテルで風見を襲った者達と同じ服装であった。
 「キィーーーーッ」
 奇声を発し戦闘員達が襲い来る。数人が手裏剣を投げ、残る者が直接攻撃を仕掛ける。見事なまでに息の合った攻撃だ。
 「くっ」
 投げ付けられた手裏剣をかわし、弾き返し、襲い掛かる戦闘員達に立ち向かう風見。見れば佐久間と役も戦闘員達と闘っている。
 「二人共、ここは俺に任せてくれ」
 「えっ、しかし」
 「どの道あいつの相手は俺しか出来ない。今のうちに次の行動の準備をしておいてくれ」
 風見の口調は強く有無を言わせぬものであった。それに二人は従った。
 「了解」
 「解かりました」
 二人はその場を離脱した。戦闘員の何人かが追おうとするが二人に倒される。
 風見は素早い蹴りで二人の戦闘員を倒した。斬り掛かって来た戦闘員を横からの手刀で吹き飛ばす。右から来た一人に
対し回し蹴りを入れると正面の最後の一人に正拳を入れた。
 「中々やるようだな」
 何時の間にか地に降り立っていたドクロ少佐が近付いて来る。対する風見も構えを取った。
 「ケケケケケ」
 音も無く来た。正拳三段突きが風見に襲い掛かる。
 風見はそれを手でことごとく払った。次に膝蹴りが来たがそれも肘で相殺した。
 今度は風見が攻撃を仕掛けた。その下顎へ向けて左アッパーを入れる。だがそれはドクロ少佐が右手で払った。逆にその右手を戻し風見の首へ横手刀を入れる。風見はそれに対し懐に飛び込みその右手を両手で掴むと百八十度旋回し背負い投げをかける。
 「むんっ!」
 だがその背負い投げをドクロ少佐は両足で止めた。受身ではなく地に叩き付けられる直前に着地しその足と背の力を使い踏み止まったのである。
 「クッ・・・・・・!」
 風見の投げを殺したドクロ少佐はその足を使い跳ねた。そして風見の背に両膝を入れる。
 「ぐおっ」
 もんどり打って前に倒れる風見。その機を見逃すドクロ少佐ではに。振り被った右手に大鎌が浮かび上がる。そのまま振り下ろす。
 風見はその危機を本能的に察知した。前転しそれをかわす。二撃、三撃と来るがそれ等を悉くかわす。しかし劣勢は明らかでありこのままでは勝機は無い事も明らかであった。
 (いかん、このままでは)
 しかしドクロ少佐の攻勢は熾烈である。風見は次第に逃げられなくなってきた。
 「止めだっ、死ねぃっ!」
 大鎌の先を風見に向けた。すると鎌の先から火炎が噴き出した。
 「受けろっ、ドクロ火焔!」
 紅蓮の炎が生物の如く不気味な唸り声をあげて襲い掛かる。風見はそれを真上に跳びかわした。
 その最中に身体を左へ捻った。そしてその遠心力を使いドクロ少佐の後頭部へソバットを浴びせた。
 「グォッ」
 この一撃にはさしものドクロ少佐も持ち堪えられなかった。地に倒れ込む。
 だが左手で身体を支える。そしてまだダメージに苦しむ身体を信じ難い力で起き上がらせた。
 「グググ・・・・・・」
 左手で後頭部を押さえながら顔を上げる。しかし視線の中に風見はいなかった。
 「おのれっ、何処だ」
 辺りを捜す。
 「ここだっ!」
 つい先程まで少佐がいた木の方から風見の声がした。木の方を振り返る。だがそこに風見はいなかった。彼等悪の改造人間達の永遠の宿敵、仮面ライダーがそこにいた。
 赤と白の仮面と緑の両眼、それはまるで蜻蛉の様である。緑を基調としたバトルボディの胸は銀と赤であり白手袋と赤いブーツを着けている。
 印象的なのは白い大きな襟に二枚の白いマフラー。そして腰にある二つの風車。ダブルタイフーンである。そのダブルタイフーンこそ彼が何者であるかを指し示していた。彼こそ仮面ライダーⅤ3、一号の技と二号の力を受け継いだ第三の仮面ライダーである。
 「おのれっ、変身したか」
 「デルザー改造魔人の一人ドクロ少佐、この仮面ライダーⅤ3が相手をしてやる!」
 「フンッ、返り討ちにしてやるわ!」
 「行くぞっ!」
 木の上から飛び降り急降下で鉄拳を浴びせる。
 「Ⅴ3パァーーーーンチッ!」
 「ムンッ!」
 ドクロ少佐はそれを受け止めた。そして大鎌を振るう。
 「トォッ!」
 Ⅴ3はそれをジャンプでかわす。ドクロ少佐もそれを追い跳躍する。
 「させんっ!」
 両者が同時にパンチを繰り出した。空中で激しい衝撃音が交差する。両者は地に降り立つと今度は間合いを取りだした。
 ジリ、ジリ、と間を離す。先に動いたのはドクロ少佐だった。左手に何かを取り出すとⅤ3めがけて投げ付けた。
 「ドクロマキビシ攻め!」
 それはマキビシであった。本来は敵の足止めに使用する忍術の道具なのだが彼はこれを飛び道具として使用するようだ。
 「無駄だっ!」
 Ⅴ3はそれに対し両手を顔の位置でクロスさせた。
 「細胞強化!」
 仮面ライダーⅤ3はダブルライダーに改造される際彼等の力と技の他に数々の特殊能力及び戦闘技能を与えられた。それは全部で二十六あり俗に『二十六の秘密』と呼ばれていた。
 この細胞強化もその一つである。細胞を変質させて硬質化する能力でありこれによりⅤ3は絶体絶命の死地を脱した事もある。
 「くうぅぅぅ・・・・・・」
 呪詛の声を漏らすドクロ少佐。
 「ならばこれはどうだぁっ!」
 大鎌を横に振り被り思いきり投げ付ける。Ⅴ3はそれを横にかわす。
 「甘いっ!」
 何と大鎌はブーメランの様に反転してきた。回転しつつ不気味な唸り声をあげⅤ3の背へ襲い掛かる。
 「これは避けられまい。死ねぇっ、仮面ライダーⅤ3!」
 大鎌がV3を真っ二つにするかと思われた。だがⅤ3は両足を後ろに旋回させ前転の要領でそれを蹴り飛ばした。
 「ぬうう・・・・・・」
 「今度はこちらから行くぞ、ドクロ少佐」
 ヘッドクラッシャーを浴びせた。ガハッ、と息を吐き出し怯むドクロ少佐に対し続けざまに攻撃を加える。
 「トォッ!」
 肩車で地に叩き付ける。少佐が起き上がるより先に天高くジャンプした。
 「Ⅴ3キィーーーーック!」
 Ⅴ3の得意技の一つである。ダブルライダーのそれと同じく敵への止めの一つとして使われてきた技でありこれにより今まで多くの怪人達を倒している。
 何かが砕ける音がした。例え戦車であろうと一撃で破壊するこのキックの直撃を受けて無事で済む者はいない。いや、いない筈だった。
 着地するⅤ3.ドクロ少佐は地に伏し倒れる筈だった。だが彼は立っていた。そしてⅤ3に対し不敵な笑みを浮かべている。
 「なっ・・・・・・」
 今度はⅤ3が驚く番だった。何と少佐は彼の蹴りを浴びても尚平然と地に立っているのだ。
 「ケケケケケ、Ⅴ3よ。この俺を舐めてもらっては困るな」
 「何っ!?」
 「俺は死神を祖に持つデルザーの改造魔人、これしきの攻撃で倒れる筈がなかろう」
 「ぐっ・・・・・・」
 「死神の末裔である俺の身体は普通の改造人間とは違うのだ。それを今貴様に教えてやろう」
 ケケケケケッ、と笑う。その単眼が光った。すると信じ難い事が起こった。
 「何ィッ!」
 さしものⅤ3も声を失う。何とドクロ少佐の五体が分裂したのだ。
 「受けてみよ、ドクロ分身!」
 分裂した四肢がそれぞれ別々に宙を舞いⅤ3に襲い掛かる。右手を叩き落としたものの背に左足の一撃を受ける。
 「グォッ!」
 それが合図だった。分裂した四肢と胴体が一斉にⅤ3を打ちのめしはじめた。これにはⅤ3も耐えられなかった。たまらず片膝を付く。
 「ケケケケケ、どうだドクロ少佐の秘技ドクロ分体、中々の味だろう」
 中空でドクロ少佐の首がカタカタと動いている。首だけは攻撃に参加せず己が身体の攻撃を見守っている。
 「ググゥ・・・・・・」
 Ⅴ3が受けたダメージは大きかった。だがそれでもなお立ち上がる。
 「ほお、流石はデストロンを壊滅させただけはある。中々しぶといな」
 四肢はまだ揺ら揺らと宙を舞っている。間を置き次なる攻撃を掛けて来るかと思われた。だがそうはしなかった。
 「今回はこれ位にしてやろう。だがこの闘いで貴様の実力はわかった。今度会う時は必ず消してやる」
 そう言うとドクロ少佐の単眼が再び光った。
 「ドクロ再生!」
 それまで宙を漂っていたドクロ少佐の四肢と胴がその言葉により首の下に集結した。そして元通りに復元するとまだ足下がふらついているⅤ3を指差して言った。
 「このシンガポールが貴様の墓となる。その時までせいぜい残り僅かな人生を楽しんでおくがよい。ケケケケケケ・・・・・・」
 そう言うと顔の前に手をかざした。
 「火焔隠れ!」
 炎がドクロ少佐の全身を包み込む。炎が消えた時ドクロ少佐も消えていた。
 「おのれっ、ドクロ少佐・・・・・・」
 Ⅴ3が呻く様に言葉を発した。そしてガクリと再び片膝を着いた。
 
 「そうか、仮面ラァーーーイダⅤ3に重傷を負わせたか」
 指令室においてドクロ少佐から話を聞いたドクトル=ゲーは表情を変える事無く言った。
 「そうだ、これで奴の実力は判った。次に闘う時こそ奴の最後の時だ」
 「そう上手くいくかな」
 誇らしげに言うドクロ少佐に対して釘を刺した。
 「何ッ、どういう意味だ」
 激昂するドクロ少佐。
 「わしはこれまであの男とは幾度となく死闘を交えてきた。そして数多くの作戦を邪魔されてきたのだ。油断してはいかんぞ」
 「フン、それはこのドクロ少佐に言っているのか。死神の末裔にしてイタリア暗殺集団DDDの首領、あの程度の相手なぞ恐るるに足らぬわ」
 「では確実に仮面ラァーーーイダⅤ3を倒せるのだな」
 「無論!卑しくもデルザー改造魔人の一人、嘘なぞ言わぬ。貴公に言われずともやってやるわ」
 そう言うと火炎隠れにより姿を消した。
 「フォフォフォ、流石に自信家じゃのう」
 何処からか声がした。
 「・・・・・・来ておったか」
 声の主は幽霊博士であった。スゥッ、と物陰から姿を現わしてきた。
 「盗み聞きするつもりは無かったのじゃがな。フォフォフォ」
 「怪人達はどうなっている?」
 「無事に七体揃ったぞ。これで文句はあるまい」
 「礼を言う」
 「なになに、それには及ばぬよ。それでどう使うのじゃ?これからの作戦か、それとも基地の警備か?」
 「いや、まずは仮面ラァーーーイダⅤ3を倒す、全てはそれからだ」
 「ほほお、慎重じゃのう」
 「作戦を遂行するに当たっては慎重に行なうにこした事はない。ましてやラァーーーイダⅤ3がいるのだ。最大の脅威は全力をもって取り除く。これは戦略の常道だ」
 「流石はデストロンの大幹部よのう、フォフォフォ」
 「見ておれ仮面ラァーーーイダⅤ3、必ず貴様を倒す」
 ドクトル=ゲーが独白する。その後ろで幽霊博士が面白そうに笑っていた。


 ドクロ少佐は自らの部屋で骨のテーブルに座し一人酒を飲んでいた。部屋は骨で飾られている。異様な部屋だ。壁には自身の得物である大鎌が架けられている。
 「また一人で飲んでいるのかい?」
 何処からか声がした。女のものだ。
 「貴様か」
 壁からボゥッと人が浮き出てきた。赤い服とマントを着た女だ。首から上ははっきりとしないが何やら花の様な形をしている。この頭からこの女が人あらざる者であることが解かる。
 「つれないねえ。折角あんたの勝利を祝福しに来てやったというのにさ」
 「祝福?いらぬ世話だ。俺があの程度の奴に敗れる筈がない。俺が勝つ事は最初から決まっている」
 「言うねえ。流石はデルザーきっての刺客と謳われただけのことはあるよ」
 「戯れ言はいい。それより何の用だ?貴様が何の用も無くわざわざ中国から出向いてくるとは思えん」
 「ギヒヒヒヒヒ。実はいい情報が入ってねえ。オオカミ長官と鋼鉄参謀が作戦に失敗したって話だけれど」
 「何だ、そんな事か。その程度の情報なら俺もとっくの昔に知っていた」
 話を聞き憮然と失望の声を漏らす。それを見て女は楽しそうに笑った。
 「まあ話は最後までお聞きよ。オオカミ長官も鋼鉄参謀も作戦中ある男と会っていたんだよ」
 「ある男!?誰だ」
 再び顔をこちらに向けてきた。
 「おやおや、急に関心が湧いてきたようだねえ」
 さも楽しそうに笑う。それに対しドクロ少佐は少し腹を立ててみせた。
 「ごたくはいい。続けろ」
 「ヒヒヒ。まあ落ち着きなよ。まず鋼鉄参謀だがね、荒ワシ師団長と会っていたんだよ」
 「あの犬猿の仲の二人がか。珍しい事もあるものだ」
 「そしてオオカミ長官だがね、黒服の男と会っていたそうだよ」
 「何っ!?まさか」
 思わず席を立った。
 「まあまあ落ち着きなって言ってるだろ。で荒ワシ師団長も師団長で別の男と会っていたんだよ。白いマントの男とね」
 「奴か・・・・・・」
 「そうだよ。あの二人は前にいた組織でも喧嘩ばかりしていたそうだしねえ。今度も何かと主導権争いしてるみたいだよ」
 「フン、いくらあの二人が勢力争いをしようが無駄な事だ。どのみちあの男には勝てぬさ」
 「まあ今のままではね。だからこそ動いているんじゃないかい?」
 女は問いかける様に言った。
 「このまま動きが続けばどう転ぶかわからないよ。あたし達にも何かと分け前があったり利があったりするかもね」
 「・・・・・・・・・ふむ」
 ドクロ少佐は杯を置き思案ありげに腕を組んだ。
 「まあよく考えておいで。これからどうするかね」
 女は笑い声と共に消えていった。
 「そうか、面白い事になるかもな」
 ドクロ少佐も笑っていた。それまで発していたのとは異なる種の妖気をその身体から発していた。

 ドクロ少佐との戦闘後風見はホテルに帰っていた。そして佐久間、役等と共にドクトル=ゲー達が建設しようとしている秘密基地の所在が示されている地図を見ていた。
 「やはりアジア太平洋地域における一大拠点にしようというだけはある。これは相当な規模だぞ」
 風見はテーブルの上に広げられたシンガポールの地図のある一点を指し示しつつ言った。その地点はシンガポール国際空港に程近いチャンギの東にあり、また地下にも深く建設可能な場所であり基地建設には最適ともいえる場所であった。
 「確かにこの地点に基地を建設されると厄介ですね。それに三方が海で攻め辛い。陸の国際空港方面からしか行くしかない」
 佐久間がその日に焼けた顔に苦渋の色を漂わせ言った。
 「ですがそれこそ敵の思う壺です。おそらく陸に戦力を集中させているでしょう」
 役が自身の見解を表情を変える事無く述べた。これは正しい。この事は風見も佐久間も充分承知していた。
 「だとすればどうすべきか」
 「空から攻める手も考えられますがこれだと下から狙い撃ちにされてしまいます。かといって海からですと所持する武器も限られますし上陸の時に甚大な被害が出る恐れがあります」
 「海から?」
 佐久間の言葉に風見の脳裏にある考えが閃いた。
 「二人共、俺にいい考えがある。今回の攻撃は俺に任せてくれないか」
 「えっ、しかし貴方はドクロ少佐との戦闘でかなりのダメージを受けています。あまり無茶な行動は・・・・・・」
 「無茶は承知のうえだ。相手はあのドクトル=ゲー達だ。普通に戦ってそうそう勝てる相手じゃない」
 佐久間が止めようとするのを風見はあえて振り払った。
 「聞いてくれ。俺の考えはこうだ。まず・・・・・・」
 自分の考えを二人に話しはじめた。話を全て聞き終えると二人は意を決した顔で頷いた。
 「解かりました。それでいきましょう」
 「風見さん、この命貴方に預けます」
 「・・・・・・有り難う」
 三人はしかと手を握り合った。そして部屋を後にした。

 風見はマシンで基地の方へ向かっていた。すぐに公道に出た。
 「見ていろ。貴様らの邪悪な野望、必ずこの俺が打ち砕いてやる」
 そう言うとハンドルから手を離した。

 変っ身
 両手をゆっくりと肩の高さで右の真横に置く。左手は肘を九十度にさせている。
 そしてその両手を右から左斜め上へとゆっくりと旋回させる。すると風見の腰にベルトが現われ胸も銀と赤になっていく。
服も次第にみどりのバトルボディになり白の手袋と赤ブーツに包まれた。

 ブィッスリャアーーーーーッ!!
 両手を左斜め上で止め右手を脇に入れる。顔の右半分が赤仮面に覆われる。
 すぐに右手を再び左斜め上へ突き出す。そして左手を脇に入れる。顔の残る左半分も赤い仮面に覆われた。
 腰のダブルタイフーンが激しい光を発しつつ回転する。これこそ仮面ライダーⅤ3の命の源なのである。

 青を基調に赤と白で塗装されたマシンが空を駆る。ダブルライダーが開発したⅤ3のマシン、ハリケーンである。彼等の乗る新サイクロンが丸みを帯びた流線型なのに対しⅤ3のそれはスマートでやや鋭角的である。このハリケーンと共にⅤ3は今まで戦ってきたのだ。
 「行くぞ、悪の軍団。仮面ライダーⅤ3の力見せてやる!」
 空を飛翔する青いマシン。今光となり炎と共に悪の下へ飛んでいく。




 チャンギにほど近い岩の海岸線、潮に打たれる複雑にいりくんだ海岸を数名の戦闘員が見回りをしている。佐久間達の調査通りここが建設途中の基地であったのだ。
 「怪しい奴はおらんか」
 ドクトル=ゲーが彼等に問うた。
 「ハッ、何処にも見当たりません」
 「鴎の影一つありません」
 戦闘員達が敬礼をし答える。
 「うむ、ご苦労。だがこの基地の所在も目的も既にライダーに知られている。油断してはならんぞ」 
 「ハッ」
 戦闘員達は敬礼をしてその場を去ろうとする。ゲーも別の場所へ行こうとする。何気無く海へ目をやる。その時ふと海面の異常に気が付いた。
 「むっ!?」
 海面が何やら泡立っている。その泡は信じられない速さでこちらへ向かって来る。
 「カジキ!?違うぞ」
 「あれは一体!?」
 猛スピードで突進してくるそれが姿を現わした。そして海面を疾走して来る。それはハリケーンだった。その上にはあの男
がいた。
 「く・・・・・・来たか!」
 「まさか海中から!」
 ドクトル=ゲーと戦闘員達が絶叫するのをよそにⅤ3はハリケーンをダイブさせた。地に降り立つとアクセルターンをして
停止させ地に降り立った。
 「おのれっ、やれい!」
 「イィーーーーッ!」
 ゲーの命令で戦闘員達が襲い掛かる。ゲーはその間に照明弾を打ち上げた。
 「来い、怪人達よ!」
 「ムッ!」
 空に閃光が輝くや否や戦闘員と怪人達がその場に殺到してきた。
 ゲルショッカーの刺客怪人ネコヤモリ、デストロンの絞殺怪人ワナゲクワガタ、ゴッドの大鎌怪人死神クロノス、そしてブラックサタンの悪食怪人奇械人カメレオーンの四体であった。いずれも暗殺に長けた刺客達である。そしてドクトル=ゲーも当然そこにいた。
 「やはりいたか」
 「フン、久し振りだな。仮面ラァーーーイダⅤ3!貴様を倒す為に地獄から舞い戻って来た!」
 斧でⅤ3を指し示しつつ言う。
 「このシンガポールにおける我等が一大拠点を築くには貴様の存在が邪魔になる、消えてもらうぞ!」
 「黙れ!このⅤ3がいる限り貴様等の好きにはさせん、その計画必ず打ち砕いてやる!」
 「おのれっ、やれい!」
 まず戦闘員と共にワナゲクワガタと死神クロノスが来た。
 「クワーーーー」
 「シューーー」
 ワナゲクワガタが角から死巻と呼ばれる鉄の輪を取り出し投げ付ける。死神クロノスが得物である大鎌に炎を宿らせ振り被る。
 「むっ」
 それを見たⅤ3はまず左から来た戦闘員を蹴り飛ばした。死巻がその戦闘員の首に嵌り戦闘員は悶死した。
 次は右から来た戦闘員の頭を掴みアイアンクローをかける。そこへ死神クロノスの大鎌が浴びせられる。その直撃を背に受けた戦闘員は即死した。
 「おのれっ」
 それを見たドクトル=ゲーの呪詛の声が漏れる。そこへ跳躍したⅤ3の反撃が来た。
 「Ⅴ3反転キィーーーーック!」
 まず死神クロノスへ一撃を浴びせた。そしてその反動を利用してもう一度空高く舞い上がり空中で向きを変えワナゲクワガタへも一撃を加えた。
 二体の怪人は断末魔の叫び声をあげ爆死した。Ⅴ3は左右からその爆風を浴びつつネコヤモリと対峙する。
 「ウニャアアァァァーーーーーッ!」
 猫そのものの気味の悪い鳴き声をあげネコヤモリは口から炎を吐き出した。
 「無駄だっ!」
 だがそれはⅤ3には通用しなかった。炎をかわすとそのまま懐に飛び込んだ。
 「Ⅴ3パァーーーーーンチッ!」
 ネコヤモリの顔面へ正拳を浴びせんとする。しかしそれはネコヤモリの計算のうちであった。
 さっと身を屈めると左手の指にある吸盤をⅤ3の胸に押し付けた。このネコヤモリの吸盤は相手のエネルギーを吸収する力があるのだ。
 奇声を発する。その猫の頭と家守の頭、二つの頭をもって必勝の笑みを浮かべる。だがそれはⅤ3の策である。
 「甘いっ!」
 その左手を掴むと思いきり投げ飛ばした。海面に叩き付けられたネコヤモリは大爆発を起こした。
 「来いっ!次は誰だぁっ!」
 そこへ幽霊博士が駆け付けて来た。三体の改造人間も一緒である。
 ガランダー帝国の毒針怪人ハチ獣人、ショッカーの鎖鎌怪人蟷螂男、ネオショッカーの食人怪人ハエジゴクジンである。いずれも戦闘用に造られた怪人達である。
 「来たか」
 「済まぬ。遅れてしまった」
 「いい。奴を倒せられればな」
 「うむ」 
 四体の改造人間に取り囲まれるⅤ3、四方から戦闘員と怪人達が一斉に襲い掛かって来た。
 「ギェーーーーッ」
 「ギギィーーーーッ」
 蟷螂男の鎖鎌がⅤ3の右腕を絡め取る。そこへハエジゴクジンが左手の指から燐粉を放つ。
 「オオゥッ!」 
 鎖鎌で絡め取られた右手を思いきり引いた。蟷螂男はその力に引っ張られ燐粉の盾にされた。
 次にその身体を鎖を使って振り回した。怪人達はそれをかわす事が出来たが戦闘員達はこの攻撃により倒されてしまった。
 「止めだぁっ!」
 大きく上空に振り上げ地面へ叩き付ける。さしもの蟷螂男も爆死して果てた。
 仲間の仇を討たんとハエジゴクジンが迫る。それに対しⅤ3は横から手刀を浴びせた。 
 「Ⅴ3チョオーーーーップ!」
 鋼鉄の柱を一撃で叩き折る一撃である。これの直撃を受けハエジゴクジンも怯んだ。そこへすかさず攻撃をかける。
 「Ⅴ3パァーーーーンチッ!」
 ハンマーの如き一撃が顔を直撃した。ハンマーの如き一撃が顔を直撃した。ヨロヨロと後ずさると背中から倒れ込み爆発四散して果てた。
 「チィーーーーーッ!」
 残る二体の怪人のうち来たのはハチ獣人であった。嘴から毒針を飛ばしつつ四本の腕を振り回しⅤ3を突き殺さんとする。
 まず右上の突きが来る。それを上からの手刀で叩き折る。
 左下から来た。右足を振り上げこれも折った。
 次は左上からだ。右手で止める。
 最後の右下からの一撃は左のソバットで払う。これで四つの手は全て封じた。
 それでもまだハチ獣人は諦めない。嘴に新たな毒針を出しそれでもってⅤ3を刺し殺さんとする。
 Ⅴ3はそれを止めた。そして後ろへ思いきり投げ飛ばした。
 「ヂィーーーーーッ!」
 断末魔の叫びと共にハチ獣人は空を舞いネコヤモリと同じく海面にて爆死して果てた。これで残るは奇械人カメレオーンのみである。
 「ルロロロロロ」
 奇怪な鳴き声と共にフッと姿を消す。
 「ムッ、何処だ」
 周りを見回すⅤ3.そこへ見えない刃が襲い掛かる。
 風の音だけでそれをかわす。そこへ蹴りと思われる一撃が来る。
 「グオッ」
 顎を撃たれ倒れるⅤ3.そこへ再び見えない刃が来る。
 「クッ」
 左に転がり危機を脱した。だがその時見えない刃がかすった。血が飛ぶ。
 それが決め手となった。返り血が透明となっているカメレオーンに付着した。
 「そこかっ」
 倒れた状態のまま蹴りを浴びせる。怯んで保護色お解いた隙に攻勢に転じた。
 まず連続してパンチを仕掛ける。怯んだところで身体を空高く投げる。そして自らも跳んだ。
 「Ⅴ3ダブルアタァーーーーック!」
 落下してくるところに膝蹴りを入れた。落ちながら空中で爆発四散して果てた。
 「見事だ、仮面ラァーーーイダⅤ3よ。今度はわしが相手をしてやる」
 宿敵ドクトル=ゲーが前に出て来た。右手に持つ斧が妖しく光る。
 「行くぞっ!」
 「オオッ!」
 両者の斧と拳が撃ち合わされる。ドクトル=ゲーの斧が不気味な唸り声と共に打ち下ろされる。
 金属音が響き渡る。流石はデストロンにおいてその名を知られた男である。生身であろうとⅤ3を相手に引けを取らない。五分に渡り合っている。
 「やりおるわ。あの時とは比べ物にならぬ位に強くなっておる」
 「くっ、貴様こそな」
 両者は間合いを取り言葉を交わす。
 「だがそれもここまでだ。決着をつけさせてもらうぞ」
 右手で構えを取る。何者か、別のものに変化しようとしているようだ。
 「ムッ、まさか・・・・・・」
 「そのまさかよ。フフフフフ・・・・・・」
 ニヤリ、と笑うドクトル=ゲー。そこへ新たな男が来た。
 「待てドクトル=ゲー!それは俺の獲物だ!」
 声の主はドクロ少佐だった。手勢の戦闘員達も引き連れている。
 「来たか、ドクロ少佐」
 「そうだⅤ3、今度こそ貴様の息の根を止めてやる。この基地の完成の前祝いとしてな」
 大鎌を手に間を詰めて来る。
 「基地、か」
 Ⅴ3は意味ありげに言った。
 「そうだ、アジア太平洋地域における我等の一大拠点となる大基地だ」
 自信に満ちた声で言った。
 「そうか、残念だったな」
 それに対しあえて不敵に言った。
 「何っ!?」
 「周りを見てみろ」
 「フン、気でも違ったか・・・・・・・・・何ィィィィィィッ!」
 ドクロ少佐達の顔が凍りついた。周りを戦闘服の男達に取り囲まれていたのだ。
 「残念だったな。基地は俺達が制圧させてもらったぞ」
 男達の中にいた佐久間健が取り囲まれたドクロ少佐達に言った。
 「風見さんの計画通りですね。まさかこんなに上手くいくとは思いませんでしたよ」
 役もいた。何故か彼だけスーツである。
 「おのれっ、これは一体どういう事だⅤ3!」
 「貴様等が俺に気を取られて戦力を集中させているうちに潜入したのだ。インターポールの存在を軽く見ていたな!」
 幽霊博士の苦虫を噛み潰した様な問いに答える。
 「残るは貴様等だけだ。逃げられんぞ!」
 「おのれ・・・・・・」
 「最早これまでか・・・・・・」
 ドクトル=ゲーと幽霊博士が腹立たしげに漏らす。二人共手を構えた。ゲーは二度目である。何かしらの切り札があると
いうのか。
 「待て二人共、それにはまだ及ばぬ。ここは落ち延びよ!」
 その二人をドクロ少佐が制止する。
 「ドクロ暗殺部隊、血路を開け。そして二人と共に安全な場所まで撤退せよ!」
 「イィーーーーーッ!」
 主の号令一下戦闘員達が動いた。そしてインターポールの強者達へ突進していく。
 「さあ二人共今のうちだ、さもないと敵の手に落ちてしまうぞ!」
 大鎌で突破口を指し示し二人に叫ぶ。
 「ドクロ少佐、貴公はどうするのだ!」
 ゲーが退却を急かすドクロ少佐に問うた。
 「知れた事、俺の任務を果たすだけ。仮面ライダーⅤ3の首を挙げてやる」
 「馬鹿なっ、この状況じゃぞ!お主も来るのじゃ!」
 幽霊博士が叫んだ。それまでの飄々とした彼からは想像もつかない激しい口調だった。
 「俺は暗殺を生業とする死神の末裔。狙った獲物は必ず殺る。それだけだ」
 「む・・・・・・・・・」
 その言葉に二人は絶句した。そして頷いた。
 「解かった。仮面ラァーーーイダⅤ3は貴公に任せる」
 「然る場で落ち合うのじゃ。死に急ぐでないぞ」
 「ケケケ、俺の事なら心配無用だ。さあ行くがよい」
 「うむ」
 二人は頷くとその斧と義手を振り回し戦場を離脱した。
 「クッ、待て!」
 インターポールのメンバーが追撃を仕掛けるがドクロ少佐配下の戦闘員達の手裏剣を駆使した撹乱戦法に阻まれ思うように追撃出来ない。そして彼等は戦線を離脱していく。
 「これで良し」
 ドクロ少佐はⅤ3と対峙しつつそれを横目で見て言った。満足気である。
 「後は貴様を倒すだけだ。このドクロ忍術の粋、見せてやろう!」
 そう言うや否や大鎌をサッと構えた。
 「ドクロ火炎!」
 公園でも見せた火炎攻撃である。Ⅴ3はこれに対し間合いを離した。
 「ドクロ機関砲!」
 Ⅴ3に息をつかせる間もなく今度は機関砲を放つ。
 「トォッ!」
 Ⅴ3はそれを後方に大きく宙返りをしてかわした。白い二枚のマフラーが宙で大きく翻る。
 「褒めてやるわ。ここまで俺を楽しませてくれたのは貴様で二人目だ」
 スタッと巨大な岩石の上に降り立ったⅤ3に対し言った。
 「ほう、それは光栄だな」
 Ⅴ3はあえて余裕を含んだ声で返した。
 「だがそれもここまでだ。そのレ煮俺の最大の技で苦しまずに葬ってやる。行くぞ!」
 大鎌を放り投げるとパッと身構えた。
 「ドクロ分体!」
 上空に浮かび上がると頭部と胴体、そして四肢が分裂した。公園での戦いでⅤ3に重傷を負わせたドクロ少佐の必殺戦法だ。
 あの時と同じく両手両足がⅤ3に襲い掛かる。今度は胴体も来ている。
 「死ねぇっ!」
 ドクロ少佐が叫ぶ。四方八方から死が迫り来る。その時だった。
 「トォッ!」
 空高く跳んだ。そして太陽を背に身体を丸める。そして急降下すると共に三回転した。
 「Ⅴ3回転フルキィーーーーーック!」 
 回転から得られるその力と急降下により得られる力、二つの力を両足に乗せた。そしてその蹴りを渾身の力を以って宙に浮くドクロ少佐の頭部に加えた。
 「グゥオッ!」
 ドクロ少佐の頭部は直撃を受け弾き飛ばされる。地に叩き付けられ毬の様に三四回大きく跳ね地で回転し動きを止めた。
 「グ、グググググ・・・・・・」
 苦悶の声を出しながらもまだ生きていた。頭部が地に叩き付けられると同時に落ちて動かなくなった両手両足、そして胴体がピクッ、と動きジリジリと頭部のある方へと集まっていく。そして一つ、また一つと合体していく。
 「ク、ククッ、Ⅴ3、何故俺のこの頭を狙った・・・・・・」
 頭を左手で抑えつつヨロヨロと立ち上がりながらⅤ3に対し問うた。
 「貴様があの技を仕掛ける時頭だけは動かなかった。それは分裂した身体の動きを頭で全てコントロールしているからだ」
 「グゥッ、気付いたか」
 「ならば頭を狙えばいい。そうすれば他の身体の動きも止まる。そう考えたのだ。まさかこれ程のダメージを与えるとは思わなかったがな」
 「そ、そうだったのか。流石は仮面ライダーⅤ3。オ、俺の負けだ」
 「止めを差してやろう。行くぞ!」
 Ⅴ3が再び跳び上がろうとしたその時だった。何処からか濃緑色の毒々しい液体がⅤ3へ向けて放たれた。
 「ムッ!?」
 Ⅴ3は咄嗟に後ろへ跳びそれをかわした。
 “ギヒヒヒヒヒヒ、流石だねぇ、あれをかわすなんて”
 不気味な女の声がした。
 「誰だっ!」
 “ライダーⅤ3、それはあんたが思っている通りのことさ”
 「くっ、そうかまた来たか」
 声の方へ身体を向ける。そこにはマントを羽織った花の様な頭の形をした女のシルエットが立っていた。右手には頭と同じ形をした先端の奇妙な形の杖がある。
 “折角だけど今あんたとやり合うつもりは無いよ。ただ今あんたにドクロ少佐を倒されちゃあ困るんでね。その為にわざわざシンガポールまで出向いて来たんだよ」
 語りながら杖を悠然と構える。
 「さあ、ドクロ少佐今のうちだよ。ドクトル=ゲー達のいるところまで落ち延びな」
 「う、うむ。かたじけない」
 そう言うと右手を顔の位置でゆっくりと下から上へ上げた。
 「ドクロ火炎隠れ!」
 炎が沸き起こる。そしてドクロ少佐の身体はその中に消えていった。
 「クッ、待て!」
 追おうとする。だがそのまえにシルエットの女が杖の先から例の緑の液体を吹きかけてきた。
 「ムッ!」
 「言っただろう、やらせはしないって」
 「クッ・・・・・・・・・」
 その間にドクロ少佐は完全に炎の中に消えその炎も完全に消え失せていた。
 「これで良し、と」
 「貴様・・・・・・」
 怒るⅤ3が攻撃を仕掛けんと身体中、とりわけ両足に力を込めんとする。
 「およしよ。今あんたとやるつもりは無いよ。あたしも忙しいんでね」
 そう言うとマントで身体を包みその中に消えていった。
 “次に会う時を楽しみにしているよ。もっともあんたがそれまで生きていれば、の話だけれどね”
 「ぬかせ!この仮面ライダーⅤ3、決して貴様等には屈さん!」
 “ヒヒヒ、そうかい。なら楽しみにしているよ”
 影はそう言い残すと消え去り気配も何処かへと去った。
 “イヒヒヒヒヒヒヒヒ”
 しかし不気味な笑いは暫くの間その場に残っていた。



 やがて佐久間と役、そしてインターポールのスタッフ達が戻って来た。風見も既に変身を解いていた。
 「風見さん、無事でしたか」
 「ああ。残念だがドクロ少佐には逃げられてしまった。そっちは?」
 「こっちもです。結局振り切られてしまいました」
 「そうか。ドクトル=ゲーとはいずれ決着を着ける時が来るな」
 「はい・・・・・・」
 風見は海を見た。先程までの死闘が嘘であるかのように静かで青く澄みきっている。
 「おそらくドクトル=ゲーやドクロ少佐だけじゃない。今まで俺達が戦ってきた多くの強敵が地獄の底から甦ってきている。
いや、奴等だけじゃない。まだ見た事の無いとんでもない奴がいる筈だ」
 「・・・・・・・・・」
 皆何も語らない。それは今回の死闘で皆骨身に染みていた事なのだ。
 「ドクロ少佐と戦っている時邪魔が入った。この毒液を吹き掛けて来た奴だ」
 そう言って足下でケロイド状に溶けた岩を指差す。
 「正体はよく解からなかったがおそらくデルザーの改造魔人の一人だろう。それもかなり腕の立つ奴だ」
 岩はまだ溶けていた。シュウシュウと白い煙を出している。
 「シンガポールでの奴等の計画は潰えた。だがまだ世界の何処かで奴等は暗躍している。俺はこれからそれを探し出し
一つ残らずこの手で叩き潰してやる」
 「先輩・・・・・・・・・」
 「風見さん・・・・・・・・・」
 風見の強い決意に佐久間も役も言葉を失った。幾多の修羅場をくぐり抜けてきた彼等もその決意には心を打たれた。
 (父さん、母さん、雪子、見ていてくれ。俺は必ずこの世の悪を全て討ち滅ぼしてやる)
 風見は二人に別れを海に背を向けるとその場を後にした。海が彼の中に秘めた激しい心を鎮めるかの様に碧く優しい色をたたえていた。

 南洋の死神  完


                               2003・12・5 
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