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ボーイズ・バンド・スクリーム

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第15話 年長者の苦悩

「…で、瑞貴に相談なんやけど」

俊哉宅に来た瑞貴。そこで彼から相談を受けていた。瑞貴の家には口の軽い春樹がいるため内密な相談事には向かない。

「智のことですか?」

「さすがに察しがええな」

「あれだけ見つめ合ってれば分かりますよ。智のほうも気になってたように見えましたけど」

「あれはほんまに目の色が一緒で珍しかっただけちゃうか?ほら俺が都庁に行った時の話、したやろ?」

俊哉は元パティシエだ。調理師免許を取って上京し、ケーキ屋で働いた経験を経て自身の店をオープンした。しかし俊哉の完璧主義な性分が災いし、店を辞める従業員が後を立たず呆気なく廃業。途方に暮れて都庁をぶらついていたところにストリートピアノで演奏している少女のピアノを聞いて元気をもらった、と。その姿に惹かれたとも俊哉は言っていた。

「その女の子の話は聞いてましたけど。まさか智のことだったんですね」

「うん。俺が楽器を始めるきっかけを作ってくれたんや。一言お礼が言いたいねんけど…」

「それだけじゃないでしょ。好きなんじゃないですか?智のことが」

「そう、なんやろうな…けど15歳差やし。こんなオッサンがいきなり告白とかはでけへん。ただ、まずは会って話をしていきたいんや」

俊哉は俯き加減で胸の内を吐露する。彼はバンドではベース歴2年目戦士とは思えないほど正確無比だ。ライブで思い切りのいい弾き方をする。こんな弱気な彼を俊哉は初めて見る。それだけ本気で智に惚れたのだろうか。

「なるほど…智も人見知りみたいですからね。俺なら顔見知りだし歳も近いから連絡を取っても警戒されにくい。もしかしなくても仲介を頼みたいってことですか?」

「その通りや。さすがリーダー。元生徒会長なだけあるわ」

「茶化しても、ぶぶ漬けすら出しませんよ?」

「うわっ、鬼畜やな〜。しれっと京都人ネタもぶち込みおるし。頭の回転早いのも考えもんやな」

「他のメンバーは?俺以外とか…」

「無理やろ。春樹は口軽いし、健斗はアホやし、金清は宇宙人やし…てかよく考えたらこのバンド、常識人が全然おらへんくて笑うねんけど」

「いや、宇宙人って…」

「だってそやろ?金清と会話できんの、瑞貴だけやで?あの子の言ってることちんぷんかんぷんや」

「そんなことはないですけど…分かりました。仲介手数料は牛丼で手を打ちます。川崎西口の」

「ちょお待てや。あそこって確かルパと智のバイト先ちゃうんか?」

「だから足繁く通えばいいじゃないですか。で、サシで話す機会を作る。もしオッサン1人で通いづらいなら俺も一緒に牛丼、食べに行きます。俊哉さんの奢りで。それなら貸し借りなしでしょ?」

「そうやな。ほんまスマン…君も片想い中で気持ちの整理も大変やろうに」

「気にしないでください。毎回、特盛にしますから」

「うわっ、ど厚かましい…ファミリーパック買うて家で食べたほうが安上がりちゃうか?」

「それは言わないお約束ですよ。毎度あり!ごちそうさまですっ!」

「…君も言うようになったな。ほな、よろしゅう」

年長者が溜め息をつきながら瑞貴の条件を飲んだのは言うまでもなかった。 
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