ボーイズ・バンド・スクリーム
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第14話 再会、そして君と出会う
前書き
こんばんは!鮪です!今回はルパ智回です!それでは、どうぞ!
「智ちゃん?どうしました?」
「な、なんでもない…目の色が一緒だなって思っただけ」
「…ほんま偶然やな。ONES CRY OUTのベースしてる俊哉や。鈴木俊哉。よろしゅう」
「ドラムの健斗でっす!歳はなんとバンド内、最年少の17歳!福岡出身だよ!仲良くしてくださいっ!」
「自己紹介ん時ぐらい静かにでけへんのかいな…」
「俊哉さんと違って陽キャなもんで!すんませ〜ん!」
「誰が陰キャや。喧嘩売っとんのか己は?」
「俊哉さん、落ち着いてくださいって」
「まあまあ。私はルパといいます。南アジアの出身です」
「わ、わたしは海老塚智。仙台出身よ。宮城の」
「ちなみに俺は京都の出身や。京都人みんなイケズや思わんといてなー。俺、思ったことストレートに言うタイプやから。まどろっこしいの嫌いやねん」
「よ、よろしく」
俊哉はコーヒーにストローもつけず一気飲みしている。長身の男で手足が長く瓜実顔の美人だ。長い銀髪に、智と同じ赤い瞳。一見モデルの女性のようだ。豪快な部分もあるようだが所作の一つ一つが絵になっている。
智は子どもっぽいものや人が苦手だ。目の前の男性は物静かで飄々としており理想的な大人に見える。彼女は彼に興味が湧いた。
「ボーカルの白石瑞貴だ。俺のことは瑞貴でいい。ルパと智。改めて、よろしく」
「白石?もしかして、白石大介さんのお孫さんですか!」
「うん、そうだけど…」
「わあ…私、大ファンなんです!サインもらえませんか?!」
「いいよ。祖父ちゃんに言っておく」
「ありがとうございます!よく見ると目が大介さんにそっくりですね!ああ…瑞貴さん、好きになってしまいそうです…」
「だ、駄目だって!俺には河原木が…」
興奮のあまりかルパは瑞貴の顔を両手で掴み、まじまじと顔を見つめる。彼女の端正な顔が近くにあり瑞貴は思わずドギマギしてしまった。
「はいルパ、ストップよ。白石さんを困らせないの」
「うっ、もう少しだけ…」
「ダ、メっ!」
「ははっ。サンキューな、智。瑞貴でいいよ」
「わ、わたしは別に…」
ルパを嗜め瑞貴から引き剥がす智。瑞貴にお礼を言われると智は腕を組んで、そっぽを向いてしまった。
「鈴木さんって、えっと…」
「俊哉でええよ」
「じゃあ、俊哉さんって歳はいくつなの?」
「31やで。こいつら年長者をリスペクトせんからほんま腹立つわ〜。特に健斗とか健斗とか健斗とか」
「集中砲火キターっ!俊哉さん俺のこと好きすぎでしょ〜?」
「なあ瑞貴。こいつシメていい?」
「ちょっ、俊哉さんが言うと洒落になんないからっ!」
俊哉は口調とは裏腹に口元は少し笑っている。バンド内の中は悪くないのだろうと智は感じた。
「い、意外と歳が離れてるのね…わたしは16歳よ。ルパは22ね」
「って22歳?!年上、だったんですか…じゃあルパさんですね」
瑞貴はルパが自身より年上である事実を知り、今更ながら丁寧な言葉遣いで彼女に話しかける。
「敬語じゃなくていいですよ。今更ですし距離置かれてるみたいで嫌なので。むしろ瑞貴さんに呼び捨てにされたいですっ!」
「落ち着きなさいって」
「ははっ…分かったよ。今まで通りルパでいく。俺は20歳。出身は旭川だ。河原木桃香、新川崎(仮)のギタリストとは同じ高校の同級生だった。昔のダイヤモンドダストのファンでさ」
「そうだったんですね!うーむ。ギターの人が羨ましいです…」
「ルパ…現実を見なさい」
「うっ…でも、お二人は付き合ってるわけではないんですよね?」
「ま、そうなんだけど…俺の一方的な片想いだし」
「三角関係、形成ですねっ!燃えてきました〜♪」
「形作るなっ!なんでちょっと嬉しそうなのよ…」
「2人、面白〜い!でも瑞貴さんも隅に置けませんなー」
「揶揄うなよ…」
瑞貴に片想いの相手がいると知っても諦めずに食い下がるルパ。よほど祖父の大介が好きなのだろう。瑞貴は顔が母親似だが目は祖父とそっくりだ。まつ毛の長い切れ長で涼しげな目をしている。それは白石家の男性陣に共通した特徴でもあった。
「バンドは3ピースなんですか?」
「いや5ピース。ここにいるメンバーと、あとギターの金清にキーボードの春樹。よかったら見に来てくれ」
瑞貴はONES CRY OUTの名刺を差し出す。黒色の紙に白いフォントを乗せたシンプルな物だ。
「ありがとうございます!智ちゃん、私たちはどうします?」
「はい…よろしく」
「ありがとう。よろしくな」
智は少し逡巡した後、そっぽを向きながら瑞貴にピンク色の名刺を差し出す。beni-shogaはネットで曲を配信する2人組アーティストだ。界隈では有名である。正体は不明だったが目の前の2人がそうだったらしい。アーティスト名は2人のバイト先である吉野家から取ったのだろう。
「beni-shogaか…初めて聞いたわ」
「ネットで人気だよ!謎の2人組になってたけど。俊哉さん、おっくれってる〜♪」
「自分、殺されたいらしいな?火葬と土葬どっちがええ?」
「うひゃ〜!怖すぎワロタっ!」
「健斗、あんまり煽るな」
健斗が茶々を入れると俊哉が怒り瑞貴が嗜める。いつものバンド内のじゃれ合いだが、身内以外は盛り上がらないネタであり瑞貴はいつも適当なところで場面転換している。
「2人は吉野家でバイトしてるんだっけ?」
「はい!私っ、大介さんに憧れて吉野家でバイト始めたんですっ!僭越ながらバイトリーダーもさせていただいています!」
「そうなんだ…頑張ってるんだな。じいちゃんっ子だからさ。素直に嬉しい。じいちゃんもきっと喜ぶ」
演歌歌手の白石大介が下積み時台に吉野家でアルバイトをしていたという話は有名だ。親の反対を押し切り上京して売れない青春時代を過ごした。バイトながらも、その働きぶりが評価されていた。社員の覚えもめでたくメニューを提案したことがあったという。今でも残っているものがあるらしい。
「ありがとうございます!」
「やけにルンルンでバイト先の話、持ちかけて来たと思ったらそういうことだったのね…まあルパが良いなら」
「ふふっ。そう言えば智ちゃん?さっきから俊哉さんのほうばかり見ていますね。何か話したいことがあるんじゃないですか?」
「そっ、そんなことっ…ないわよ。目の色が一緒なのが珍しいなってだけだから」
「それはホンマに偶然なんやけどな。髪色はちゃうし…生き別れの兄妹とかではないやろ」
「そっ、そうよね…」
心なしか俊哉も智に話したいことがあるように見える。いつもより言葉の歯切れが良くない。瑞貴はこんな俊哉を初めて見た。
「少し話し込んでしもたな…ぼちぼち、ええ時間やし解散しよか?」
「ええ〜、もう少し話したいよー!」
「そうですね…名残惜しいですが解散にしましょうか。またお会いするということでっ!いいですよねっ、瑞貴さんっ!?」
「わ、分かったから。顔が近い近い」
「みんな、俊哉さんも。またね」
「…せやな。また話そ」
俊哉と智がお互いに話をしたいように見えたが、瑞貴と俊哉は夜遅くなる前に東京へ戻らなければならない。本日は解散ということになった。また会う約束をして。
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