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東方守勢録

作者:ユーミー
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第三話

 迷いの竹林産竹の子のフルコースを堪能した後、俊司達はある一室に集まって幽々子の話を来ていた。内容はもちろんさっき俊司に話したこと。それをさらに細かく説明した感じだろうか。
「とまあ、こんな感じね」
 一通り説明が終わるとその場にいた全員が溜息をついた。怒りを通り越して呆れたみたいだ。
 ただ一人妖夢だけはずっと複雑そうな顔をしていた。やはり主人を守れなかった後悔は、今の話を聞いてさらに大きくなったようだ。幽々子もそれに気づいていたのか、しばらくの間慰めの声をかけていた。
「ところで幽々子。霧の湖にあいつらの拠点があるのは本当なの?」
「ええ。普段私はそこにいたもの」
 幽々子が言うには霧の湖に革命軍の拠点があるらしい。そこには捕虜を収容する施設があり、捕虜には労働や研究の実験台をさせているとのことだった。
 さらに、幽々子は衝撃的な事実を告げる。
「あと、そのチップを作った人たちも知ってるわ」
「どうせ外来人なんでしょ?」
「ええ。ほとんどはね」
 その言葉に辺りは静まり返った。
「研究してたのは全員で10人。その中にたった一人幻想郷の住人がいたわ」
「知ってる人?」
「ええ……『河城 にとり』よ」
『河城 にとり』は幻想郷で1とも言える機械に強い河童だ。修理や改造はお手の物で、新しい装置の開発も行う凄腕の持ち主である。ステルス迷彩なんてものも作ったくらいだ。
「何かの間違いじゃないんですか! にとりさんが……そんなことを……」
 妖怪の山つながりでにとりと親交があった文は一番驚いているようだった。それに文以外の全員もそう思っているはずだ。だが幽々子は静かに顔を横に振った。
「いいえ事実よ。私がこれをつけられる瞬間もあの子はいたもの。でも……訳ありみたいだけどね」
「訳あり……ですか?」
「ええ。捕虜の中にあの子の知り合いが数人いるらしいわ。それが原因らしいわね……現に私にも周りに聞こえないくらいの声量で「ごめんなさい」って言ってたもの」
 幽々子はそれだけでなく捕虜として捕えられていた人物の中に、知っている人物が複数いることを教えてくれた。きちんと見ていないため確信は持てないが、どうやらにとりと深く関係を持つ人達らしい。
「そんな……」
 革命軍のやり方に怒りを感じる文。だが今この場では手を強く握ることしかできない。そんな文をなだめるように霊夢や妖夢が声をかけていた。
 しかしこれで行動がしやすくなった。霧の湖に基地があるならばそこに行って捕虜を助け出すのが最優先事項になるだろう。それに知っている人がいるなら戦力確保にも繋がるし、重要施設があれば相手にも大打撃を与えることができる。
 あらかたその方針で行くことが決まってきた頃、静かに話を聞いていた幽々子がなぜか眉間にしわをよせたまま口を開いた。
「まって……その前にやるべきことがあるわ」
「……なにをするんですか? 幽々子様?」
「ここの防衛よ。妖怪の山には私たちが行くと同時に、ここにも兵士が送られてる。迷いの竹林があるから今は大丈夫かもしれないけど……時間の問題ね」
 幽々子が言うには永遠亭に送られている兵士は、妖怪の山に送られてきた兵士の三倍はあるという。へたすればこの人数で対応できるか微妙だ。妖怪の山のように幽々子のような強者が一人でも現れればピンチになるのは目に見えている。
 とりあえず今後は見張りを入れつつ、ここで待ち伏せをすることを決めて会議は終了した。各自不安にかられながらも部屋に戻っていく。
 その中で俊司は一人浮かない顔をしていた。
「……どうかした? 俊司」
「いや……なにもないよ、霊夢」
 そうは言いながらも一人空を見ながら何かを考え始める俊司。霊夢は少し不思議に思いながらもその場を後にした。
(また、なにかめんどうなことになりそうだな……)
 俊司は大きく溜息を吐いて不安になる心を落ち着かせる。するとポケットにいれていた白紙のスペルカードを取り出し、何かを決意したように気合いを入れていた。

 あれから数日後、革命軍の襲撃に備えていた俊司たちだったが、何日経とうが革命軍が現れることはなかった。ただ永遠亭を探している形跡が竹林のいたるところにあったところから、油断はできそうになかった。
この日不老不死の少女である妹紅と月の兎鈴仙、そして地上の兎『因幡 てゐ』は迷いの竹林で見回りを行っていた。
「……今日も何もなしか」
 辺りを見渡しても竹ばかり。どこにも怪しい人影や物体は見えそうにない。
 実は竹林一帯にはてゐお手製の罠が大量に仕掛けられている。この罠を見抜くのは非常に困難で、てゐが見抜き方を教えてもはまってしまうほどだ。現に鈴仙はもう五回ほど罠にはまっていた。
「鈴仙……さっき罠を見分けるコツを教えたばっかだよね……何回落ちた?」
「……五回」
 そう言った鈴仙は精神的に来ていたのか、かなりやつれているようだった。
「あははっ……さて、そろそろ戻るか」
 時計をみるともう十二時を過ぎていた。今頃永遠亭では昼食の準備が終わっているころだろう。もちろん待っているのは竹の子料理だが……。三人はたわいない雑談をしながら永遠亭へと帰り始めた。
 そんな彼女から数百メートルくらい離れた場所には、迷彩服を着た男たちが十人ほど彼女達を見ていた。
「どうだ、狙えそうか?」
「……ぎりぎりですね。竹がかなりじゃまですけど、狙えると思います」
 男は地面に設置した長い銃のスコープを除きながら彼女達を追っていた。銃口はまっすぐ彼女達を向いており、今すぐにでも発砲できる状態だ。
「5秒たったら第一目標の月の兎を射殺しろ。司令部からは、前衛に出てくるなかでは波長を操って戦うという変わった能力を持つらしいが……かなりやっかいな人物なんだとの報告だ」
「了解しました」
 スコープに付いた十字型の照準を、ゆっくりと月兎の頭に合わせて行く。それに合わせて、引き金に添えていた指の力が少しずつ強くなっていった。

 早く昼ご飯を食べようと帰っていた三人だったが、なぜか一人だけ浮かない顔をしていた。
(しっかし……なんか妙なんだよな。何もないってのは……)
 幽々子が永遠亭強襲作戦の事を話してからほぼ一週間くらいは経過している。それにも関らず、革命軍は大きな動きを見せてはいないことに妹紅は不安を抱いていた。
 迷いの竹林を熟知している妹紅は、他の誰よりも多く見張りに出向いていた。しかしいつも見つけていたのは、起動した後の罠ばかり。いい加減妹紅たちの前に出てきてもいいはずだ。だが革命軍はまだ目の前に現れていない。もしかすればただ油断させたいだけなのかもしれない。妹紅は次第にそう考えるようになっていった。
 (……考えても仕方ないか。あいつらが出てこない限り、私達も大きな行動は――)
 そう考えながら振り返った妹紅は、何かを察したかのように目を見開いていた。
視界に入りこんできたのは、なぜか光を大きく反射する物体だった。一瞬てゐの作った罠かと考えたが、彼女の作る罠にしては分かりやすい。だが目を凝らして見ると、かすかだが何か生きている者がいるのか、地面が少し動いていた。
(……まさか!!)
 妹紅は無我夢中で鈴仙とてゐの体を掴んだ。
「鈴仙! てゐ! こっちだ!」
「えっちょ!?」
「妹紅さん!?」
 妹紅は二人をかばうようにしながら、思いっきり右に飛んだ。
(くそっ! とりあえず撃つしかない!)
 すっかり狙いを定めていたが、急に進行方向を変えられ完全にくるってしまった。急いで狙い直すが、このままでは伏せられて狙えなくなってしまう。当たれば儲けものと考えながら男は引き金を引いた。
 大きな轟音とともに一発の弾が放出される。弾は竹林の中を駆け抜けるように飛び、少し竹にかすりながらも起動を変えずに飛び続ける。その先にはある少女のわき腹が捕えられていた。
「う……ゴフッ」
 弾丸は不老不死の少女の肉体を抉るように貫いて行く。少女はそのまま吐血しながら倒れこんでいった。
「妹紅さん!!」
 妹紅の右わき腹には一センチほどの穴が出来あがっていた。穴から血液が大量に出始めており、弾丸も貫通していないようだ。もしも不老不死である彼女でなければ、致命傷になっていたかもしれない。
(くそっ……もう少し反応がはやかったら……)
 太い針で突かれるような痛みに耐えながら、妹紅はぞろぞろと動き始める兵士達を睨んでいた。

「くそっ! やつら気づきましたよ! 弾丸は第一目標ではなく第三目標に的中!」
「ちっ……よりによって不老不死のほうに当たったか。第二目標ならまだよかったが……」
 完璧な奇襲だと思い込んでいた革命軍は、予想外の事態に少し戸惑いを見せいていた。そんな彼らを隊長らしき男が落ち着かせると、すぐさま次の作戦に移ろうとする。
 だが再び彼女達を見た兵士達の士気が上がることはなかった。
「たっ……隊長! やつら姿を消しました!」
「なっ……そんなはずは……」
 部隊の隊長は双眼鏡を使い3人を使認するが、3人の姿をとらえることはできない。見えていたのは地面にこびりついた血だけだった。
「まだ近くにいるはずだ! 探せ!」
「了解!」
 兵士達は周囲を警戒しながら、少しずつ彼女達がいた場所に向けて歩き始めた。

「撃って……こない?」
 周囲を警戒しながらこっちに向かってくる彼らを見ながら妹紅はそう呟いた。
 実際のところ彼女達は全くと言って動いていなかった。というより傷ついたまま彼女を連れて姿が見えない場所まで逃げるのは無理だろう。ならなぜ彼らはこちらを見失ったのだろうか。
 少し考えていた妹紅は、何かに気がついたのかふと鈴仙のほうを見てみる。すると案の定鈴仙の目は赤く光っており、彼らに何か細工を加えているようだった。
「鈴仙……なに……してるんだ?」
「波長を操って私たちを見えなくしてます。妹紅さんは早く傷を治してください……」
 鈴仙の波長を操る程度の能力を使えば、相手の注意力や気分等を直接いじる事が出来る。そのため目の前の兵士達と鈴仙達が発している波長をいじることで、むこうはこちらの存在に気付けないのだ。
「てゐ。少しの間時間を稼ぐから、その間に向こうが何人か偵察してきて」
「おっけー。まかせてよっ……と」
 てゐは勢いよく飛び上がると、竹から竹へと飛び移りながら兵士の数を数え始めた。
「よけている間に被弾したってことは、右にいた私をねらってたんですね……もっとよく確認しておけば……」
「しかたないさ。私があの時気づけただけでもましさ」
 妹紅の言うとおり、あの時気付いていなければ鈴仙の命はなかったかもしれない。それに光の反射がなければ気付けてなかったのだ。へたすればそのまま全滅の可能性もあっただろう。
 しかし余計な事を考えている暇はない。とにかく現状を何とかしないと、永遠亭に戻ることも困難だ。
「数えたよ!10人くらいだね。それに相手のほとんどは軽装ぽかったし、疲労がたまってるみたい」
 幸い敵は一小隊分だけのようだ。これなら三人でも十分戦える。だが使用する武器と銃の弾速からして、まだ相手の方が有利と言えよう。
「よし鈴仙、私だけ相手に見えるようにしてくれるか?」
 妹紅は急に立ち上がるなりそう言った。
「えっ……でも……」
「もう大丈夫だからさ」
 妹紅の右わき腹にぽっかりと開いていた穴はすっかり消え去っていた。地面には肉体が再生したと同時に排出された弾丸も落ちている。戦闘できるくらいには回復しているだろう。
 少し不安になりながらも静かにうなずいた鈴仙は、そのまま波長をいじり始めるのだった。
「いたぞ!」
 兵士が指さす方向には、さっきまで見えていたなかったはずの妹紅の姿があった。革命軍の部隊は一斉に銃口を妹紅に向け威嚇していく。だが妹紅はそれを見てびくともしなかった。
「スナイパー次撃てるか?」
「いつでもいけま――」
 スナイパーはもう一度スコープを除いた瞬間、全身が凍りつくような寒気に襲われていた。
 スコープから見えているのは、さっき射撃したはずの少女だ。だがどういうことか、引き金に添えた指どころか体が全く動こうとしない。本能的に何かを察知しているようだった。
 それから数秒後、彼女は後ろに隠していた右手を前に出し始める。そこに握られていたのは一枚の赤いカードだった。
「たっ……隊長! スペルカードです!」
「なっ……総員退避!!」
 スナイパーに言われようやくスペルカードに気付いた男は、すぐさま兵士達に退避命令をだす。
 だが彼らと彼女の距離はすでにスペルカードの範囲内となっていた。

 蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』
 
 

 
後書き
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