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東方守勢録

作者:ユーミー
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第二部
  第一話

「しっかし、この状況がいつまで続くんだ?」
「そうですね……ほかの人たちとは連絡も取れないですし、みんなどうなってるか……」
 永遠亭は竹林によって隔離されていたため、革命軍の進攻を受けることなく安全に守られていた。しかしそれが仇となって、周りからの情報もすべて遮断されていたのだ。食料を探しに出て行くこともあるが、革命軍に見つからないように最小の行動しかしておらず、誰かと接触することはない。したがって誰がどうなったかは分からないのだ。
 隔離された環境は不安とストレスをため込んでいた。そんな状況で行動ができるわけでもなく、それよりもいつ進行してくるかわからない革命軍への対策で精一杯になっていた。今だって深夜は当番制で見張りも行っている。二人の疲労もひどくなっていた。
「それもそうだよな……ん?」
 ふと眼を前へ向けると、急に竹が渦を巻くように歪み始める。最初は目の疲れかと感じていたが、辺りを見渡して見ると別にゆがんだようには見えない。どうやら空間がねじれているようだ。
「鈴仙こっちへ!」
「へっ? うわぁ!」
 妹紅はまだ気づいていない様子だった鈴仙を引き寄せると、念のため戦闘態勢をとる。目の前のゆがみは少しずつもとに戻り始めると、今度は空間が切り裂かれたかのように亀裂が入り始めた。
「えっ……これって……」
 亀裂はそのままひろがり、中から異空間のような物が現れる。その中には数人の人物がこっちを見ながら立っていた。
「敵じゃない……な」
「あら?お二人そろってどうしたのかしら?」
 現れた人物の一人は金髪ロングヘアーの妖怪。この空間……いや、スキマを作り出すことができるスキマ妖怪『八雲 紫』の姿だった。
「八雲紫さんじゃないですか! 無事だったんですね!!」
 久々に自分たち以外の生存者を見た鈴仙は、目をきらつかせて喜びをあらわにしていた。
「ええ。ところで、あなたのお師匠さんは?」
「師匠なら奥に……!?」
 鈴仙は師匠を呼びに行こうとした瞬間、紫の背後にいたある人物を見てピタリと足を止める。そこにいたのは周囲の人物とは明らかに服装の違う人間だった。
「紫さん!! その人物って……」
「その人物? ああ、俊司君のこと?」
「えっ?俺?」
 急に名前を出されて目を丸くする俊司。それまで気にしていなかった妹紅も、俊司の身なりを見て急に戦闘態勢を取った。
「がっ外来人じゃねぇか! どうしてここに」
 やはり二人も外来人は全員敵だと思っていたようだ。事情を話せば納得してくれるだろうが、またあの事を説明すると考えると、俊司も紫も思わず溜息を漏らしていた。
「あ~俊司君は敵じゃないから……」
 説明も面倒になった紫は、もはや肝心な部分をしゃべろうとはしなかった。もちろんこれだけで二人が意味を理解できるわけではなく、何を言ってるんだと言わんばかりにキョトンとしていた。
「えっ? でもこいつ外来人……」
「説明はあとでするから、とにかく呼んできてもらえる? 急患なのよ」
 紫はそう言って妖夢を前に呼ぶ。彼女の背中にはぐったりとしたままの幽々子の姿があった。
「わっ! すぐ呼んできます!!」
 驚いた鈴仙は大急ぎで師匠を呼びに中へ向かった。


 鈴仙が中に入ってから数分後、駆け足で戻ってきた彼女の背後には彼女の師匠らしき女性がついてきていた。白髪で長い髪の毛を一本の三つ編みにくくり上げており、紺と赤で作られたナース服のような服を着ている。
「こんな時に急患なんて珍しいのね? 何があったの?」
 師匠の女性はぐったりとした幽々子を見てもいたって冷静だった。そこのところは医者でもあり師匠である彼女らしい対応だ。
「訳は後で話すわ。とにかく幽々子をよろしく」
「わかったわ。ところで君は……」
「あっ……」
 彼女は俊司を見るなり不思議そうな顔をしていた。やはり彼女にとっても外来人は敵ということなのだろうか。
 この後の状況を考えて少し肩を落とす俊司。しかし目の前の女性は意外な判断を下していた。
「外来人なんて珍しいのね? 革命軍じゃないってことは……味方なのね?」
 彼女がそう言うと、俊司はびっくりしたように目を点にしていた。それにその反応をしているのは彼だけではないらしく、周囲にいたほとんどの人物がそんな反応をしている。永琳はそんな彼らの反応に溜息をついていた。
「物分かりがよくてなによりです……」
「君が敵ならここにいるわけないでしょ? あとでこの子のこともちゃんと教えてちょうだい」
 女性は鈴仙に二・三回指示を出すとそのまま中へと入って行った。


 妖怪の山での戦闘からはや三日がたった。
 あれから永遠亭の住人にも事情を話し、俊司たちは新たに永遠亭を拠点とし行動することになった。妖怪の山へ襲撃が来たことから全体的に強化されたが、迷いの竹林があることもあり革命軍が進行しているといった形跡は全く見られず、俊司たちにとってつかの間の休息となっていた。
 そんな中妖怪の山で現れた白玉楼の主『西行寺 幽々子』は依然として目をさますことなく、休息とは言えど気の抜けない状況が続いていた。永琳曰く危険な状況ではないし回復に向かっているとのことだが、疲労の関係で目覚めるのが遅れているかもしれないとのことだ。それでも俊司達の不安がはれることはなかった。
 なかでも従者である妖夢は一番心配しているようだった。連日幽々子のそばでずっと見守っているのだが、ろくに食事や睡眠を取ろうともせず四六時中彼女のそばにいようとする。そんな彼女に何を言っても彼女は従おうとはしなかった。
「幽々子様……」
 この日も妖夢は幽々子のそばで彼女を見守っていた。目の下にはクマがすっかり出来あがっており、彼女がどれだけ無茶をしているかを物語っている。そんな彼女を見守るかのように、部屋の外からある人物が彼女を見ていた。
「妖夢、幽々子さんは……まだ寝てるか」
「俊司さん……」
 俊司は部屋に入ると妖夢の横に座り幽々子の顔を見る。
「妖夢いったん寝てこいよ。もう3日も寝てないだろ?」
「私は大丈夫です。幽々子様のほうがもっとつらい思いをされてたはず……」
 彼女の気持ちはわからないわけでもないが、このままにさせておく訳にはいかない。ここに来る前に文から話を聞いていたのだが、妖夢は妖怪の山にいた時も睡眠時間をかなり削っていたらしい。そうなるといずれ彼女が倒れることは目に見えていた。
 とりあえず何とかしようとする俊司だが、何を言っても妖夢は動こうとはしない。無理やり連れて行くわけにもいかず途方に暮れる俊司だったが、ふと何を思ったのか懐から手帳を取り出した。
「そうだな……じゃあ寝ろなんて言わないから、ちょっとの間目をつむってくれないか?」
「……なんでですか?」
「目をつむっただけでも疲れが取れるって聞いたことがあってさ。それぐらいいいだろ?」
 そう言われて少し考え込んでいた妖夢だったが、軽く息を吐くと小声で「それくらいなら」と答えた。
 その後通り静かに目をつむる妖夢。俊司は軽く溜息をつくと手帳をポケットにしまい、何かを待つように天井を眺め始めた。


 数十分後、あれだけ眠たくないと言っていた妖夢は、座ったまま器用に眠っていた。
「……はぁ、やっと寝たか」
 俊司は妖夢に目をつむらせることで彼女の眠気を誘い眠らせたのである。彼女なら眠気ごときで寝ようとはしないだろうが、やはり疲労がたまっているのだろうか、体はいうことを聞こうとはしなかったようだ。
 しばらく妖夢のかわりに幽々子の面倒を見ていた俊司だったが、ちょうど席を立とうとした瞬間、眠っていた妖夢がバランスを崩し、俊司の方に頭を乗せた。
「……おいおい。これでおきないとかどれだけ疲れてたんだよ」
 そう言いながら妖夢を横にさせよう手をかけた瞬間、彼女はなぜかその手を止めるように手を載せてきた。一瞬起きたのかと思った俊司だったが、依然と寝息をたてているところから起きているわけではないだろう。
(どれだけ無理してたんだか……それに、なんかこんなこと前にもあったような……)
 俊司はすぐそばで眠る妖夢の寝顔を見ながら、過去の思い出を思い出していた。


 それは俊司が小学校5年の冬だった。
 時刻は夜8時過ぎ。小学生はそろそろ眠りにつく時間帯だが、俊司はどうしてもジュースが飲みたいと親に頼みこみ、お金をもらって自宅近くの自動販売機へ行こうとしていた。
「っと、何飲もっかな……?」
 少年は楽しそうに鼻歌を歌いながら玄関のドアを開ると、そのまま道路に出て百メートルほど先の自販機へと歩き始める。その道中、幼波染みが住んでいる家があったのでふと玄関を見ながら前を通り過ぎて行く。
 しかしその途中で彼の足はぴったりと止まってしまった。
 玄関の前では体を震わせながらしゃがみこむ幼馴染の姿があった。彼女の目の前には小さな子犬が眠っている。どうやら世話をしているようだ。
「おい由莉香! 何やってんだよ!」
 声をかけてみると、由莉香は悪気のない笑顔を向けてきた。
「あ、俊司君」
「あ、じゃねぇよ! 小5になってなにわけのわかんねえことしてんだって!」
「子犬の面倒見てるんだ」
 そう答え由莉香は子犬をひょいっと持ち上げると俊司に手渡す。その子犬はというと、この日の下校中偶然見つけた捨て犬だった。由莉香曰く親に頼みこんでこの子犬を飼うことにしたらしい。にしてもこんな時間に一人で子犬を世話しているのはどう考えてもおかしかった。
「それ……親には言ったのか?」
「抜け出してきちゃった」
「お前なぁ……」
 少女は何の悪気もないのか、呆れたままの俊司の顔を見ながらずっとニコニコしていた。
 とにかく由莉香に寝るように注意して見るが、こう見えて頑固な彼女は言うことを聞こうとしない。それどころかこの時間でも起きている俊司はどうなんだと言い始め、へたにい返せなくなっていた。
 しかしどれだけ言おうが体は徹夜できるほどの体力があるわけがない。俊司と話している途中も、由莉香は何度か欠伸をしていた。
「ほら~。やっぱ眠いんだろ?」
「眠たくな……ふわぁぁぁ」
 否定しつつも大きく欠伸をする由莉香。俊司はそんな彼女に呆れながらも何とかしようと試みる。
「……はぁ。わかった。じゃあちょっと目をつむってろ」
「えっなんで?」
「いいから!」
「は~い……」
 俊司に言われるがまま目をつむり静かになる由莉香。俊司は着ていた服の上着を脱ぐと、スッと由莉香の背中にかけた。
 それから数分後、由莉香は静かに寝息をたてながら眠っていた。俊司は呼び鈴を鳴らし後のことを由莉香の親に頼んだのち、ジュースを買う気もうせてしまったのか、深く溜息をつきながらそのまま家に帰っていくのであった。


 そして現在似たような出来事が起きて約2・3時間後、つい居眠りをしていた少年はふと目をさました。依然と妖夢は肩に顔をのせたまま眠っている。
「……あれ? 俺も……寝てたのか……」
「ええ。案外かわいらしい寝顔だったわよ?」
「えっ……!」
 目覚めたばかりの彼に聞き覚えのある声がかけられる。そこにいたのはさっきまで眠っていたはずの幽々子だった。 
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