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東方守勢録

作者:ユーミー
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第七話

「紫様……?」
 紫の声に反応した妖夢は目を点にしたままそう言った。そんな彼女を少し呆れた顔で見ながら、紫はゆっくりと真実を伝えていく。
「妖夢、私は確かに切れとは言ったわ。けど殺せなんて言ったかしら?」
「ですが……」
「彼は敵だとでも言うの?私はそんな事一言も言ってないわよ?それとも彼が外来人だから?じゃあなぜ私は彼と一緒にここに来たの?」
 紫は質問攻めで妖夢を答えへと導いて行く。何も答えられず唖然としていた妖夢も、さすがに自分が勘違いをしていることに気付き始めたようだ。
「ということは……」
「彼は味方よ。私が外の世界から連れてきたのよ」
 妖夢はすっかり青ざめた表情で俊司のほうを見る。俊司はそんな彼女に「あはは……」と言いながら苦笑いを返すしかなかった。その後彼女は顔色を青から赤に一気に変えると、ものすごい勢いで頭を下げた。
「すすすっ……すいません!! まさか味方だなんて思ってなくて……どうお詫びをしたらよいか……」
 あまりの豹変ぶりに俊司は思わず呆気にとられたが、なんだか彼女らしいと思えはじめ自然と笑みがこぼれていた。
「お詫びって……別にいいよ。悪いのは紫だし」
「そんなことはありません! 味方だと見抜けなかったのは私の力不足です!」
 妖夢は涙目になりながらも謝り続ける。そんな彼女に俊司も圧倒され始め、何も言い返すことができなくなっていった。
 そんな二人を見ながら溜息をついた紫は、妖夢にゆっくりと近寄って優しく微笑みかけた。
「妖夢、悪いのはあなただけではないわ。だからその辺にしておきなさい」
「ですが紫様……」
「なら俊司君を仲間として認めてあげること。それでチャラでしょう?」
 紫がそう言うと妖夢は喚くのをやめて静かに俊司の方を見た。
「……それで……いいんですか?」
 妖夢は目に涙をためたままそう聞いてくる。そんな彼女に俊司はやさしく「いいよ」と言った後、静かに笑みを返してあげた。
 妖夢はその笑みを見てやっと立ち直れたのか、涙を拭き取り軽く溜息をこぼした。
「わかりました。それでよろしいんでしたら……そうします」
「そう。これで一件落着ね」
 そう言って笑みを浮かべた紫だったが、その場にいた誰もが何を言ってるんだと言わんばかりに冷たい視線を送った。
「いやしてねーよ。なんで俺と妖夢さんを戦わせたりしたんだ?」
 呆れた俊司がそう言うと、紫は思いだしたかのようにしゃべり始めた。
「ああ、そのことね。霊夢ちょっといい?」
「えっ? 私?」
 会話に入っていなかった霊夢は、急に呼ばれて少しキョトンとしていた。
「あなたも見たでしょ? 俊司君の能力」
「ああ、あれね。確かに能力っぽいわよね……それがどうかした?」
「やっぱり霊夢もそう思うわよね……いや、この能力彼自身発動しようとした覚えがないらしいのよ」
「えっ……それはさっきもそうなの?」
 霊夢の問いかけに俊司は何も言わず頷く。素人から見ればそれだけではおかしい点などわからないはずだが、どうやら霊夢は紫が言いたいことが分かったようだった。
(任意的には発動できないか……ただ使い慣れてないだけか……あるいはもともとそういう仕様なのか……)
「どう霊夢、何か違和感を感じないかしら?」
「そうね、少なくとも任意的に発動できない能力なんて初耳だわ」
 霊夢の言うとおり幻想郷の住人が持つ能力は必ずと言っていいほど自分で扱うことができる能力だ。それが例え扱いきれていなくても、簡単なことはできるしスペルカードにして応用することもできる。
 だが俊司の能力を考えてみればどうだろうか。任意で発動できないとなると、なぜそのような能力が出来てしまうのか不思議で仕方がない。それに能力からしてスペルカードにすることも困難だし、かといって応用できるような事もなかった。
「まあ、革命軍が来た時点で少しこの世界はおかしくなってるんだし、こんな能力ができてもおかしくはないんじゃないかな?」
 確かに霊夢の言うことも一理あった。幻想郷は外の世界と分離しているのに外来人が大量に入り込んでいる。それはこの世界の異変でもあってなにか変になってしまったものもあるかもしれない。となると早く問題を対処しないと厄介な事になりかねないだろう。
「そうね……記者さんはどう思う?」
「へっ!? わっ私ですか?」
 急に声をかけられた文はさっきの霊夢みたいな顔をしていた。
「う~ん……それが本当だったら、わたしはスクープとしか言いようが……」
「あなたに聞いた私が馬鹿だったわ……」
 ぎこちない笑顔でそう答えた文に、紫は呆れたような顔をしてそう返す。すると文はなにか感に触ったのか、少しむすっとしたまま反論し始めた。
「ちょっと!! それどういう意味ですか! わたしは清く正しい幻想郷の伝統ぶ――」
「まあ、特殊能力ということにしときましょうか」
「そうね」
 霊夢と紫は文の話を聞くことなく結論をだしてしまう。
「……ちょっと~最後まで言わせてくださいよ~」
 どうやらさすがのお調子者天狗も少し落ち込んでしまったようだ。その光景をみながら、俊司と妖夢は何も言わず苦笑いをつくっていた。
「ところで、自己紹介がまだだったわよね?わたしは――」
「博麗神社の巫女、博麗霊夢さんですよね。そしてあなたが幻想郷の伝統ブン屋、射命丸文さんですよね」
 俊司は霊夢が自分の名前を言う前に彼女の名前を当ててみせた。初対面の相手に名前を言われ、霊夢は目を丸くして呆気にとられている。
「どっどうして私と文の名前を!?」
「そういえば……私の名前も言ってましたね」
「それは……」
 俊司は自分が彼女達の事を知っていた理由として例のゲームの話を始めた。そこに出てくる登場人物の話と出来事をすべて話して見ると、霊夢達三人は予想通り目を丸くして驚いていた。しかし驚きとは裏腹に彼女達には不信感が募っているようだ。
「内容はわかるけど……なんか……ね」
「うーん、信用性があればスクープとして取り上げるんですが……」
 二人とも予想通りの反応だった。外の世界にそんな物があるなんて考えられないし、ましてや自分達がたどってきた歴史もそっくりそのまま描かれているとなると何がなんだか分からなくなってしまう。
「あーなんて言ったらいいんだろうか……」
 こればかりは俊司も説明のしようがなかった。彼女達は実物を見ているわけでもないし、俊司自身が今実物を持ってきているわけでもない。それにお互い今日出会った物同士なので、すぐに信用しろと言ってもできないのは当たり前のことだ。
 どうするべきかわからず途方に暮れていた俊司だったが、そんな彼に助け船を出したのは紫だった。
「俊司君が言ってることはほんとよ」
「紫?それは……確信があるの?」
「当り前よ。私も何回か見たことがあるわ」
 紫なら自身がスキマを使って外の世界を眺めることも出来るし、場合によっては自ら外に出向くことだってできるはず。それならそのゲームの事を知っていてもおかしくはないはずだ。
 紫の話を聞いた霊夢達も、なんとか俊司の話を信じるようにはなったようだった。
「なるほどね……紫が言うなら……そうなのかもね」
「……ありがとう紫」
 礼を言った後、俊司はほっと胸をなでおろしていた。するとそんな彼をなにか興味深そうにみる少女が、メモ帳とペンを構えてゆっくりと近寄ってきた。
「ところで……俊司さんでしたっけ?フルネームは?」
「里中……俊司」
「ほほう……どうして外来人なのに私たちに協力したんですか?」
「いや、紫に連れてこられて……そうきめたから」
 二人のやり取りは取材を行う風景そのものだった。そんな光景を見ながら他の三人はまたかと言わんばかりに溜息をつく。
「ほほう……では……」
「ちょっと文!なにしてんの!」
 見かねた霊夢は少し怒り気味で文を止めた。さすがにやりすぎたかと文は申し訳なさそうにふるまっている。
「また取材しようとしてたんでしょ!」
「あやや……そりゃあ私は記者ですから……」
 文は苦笑いをしながら正当な言い訳をする。霊夢はいつも通りの文にまた呆れていた。
「はあ……まあいいわ。えーと……俊司だっけ?」
「あ……はい……」
「私たちのことは呼び捨てでかまわないわ。あと、敬語もなしで」
 霊夢は真剣な目つきでそう言った。少し気迫のような何かを感じ取った俊司は、少し体を震わせながらもそれに答えるように顔つきを変えた。
「……わかった」
 俊司が返事を返すと、霊夢はなぜか安心したかのように笑みを浮かべた。
「じゃあ、文続けてもいいわよ」
「えっ!!いいんですか!」
 そう言った文の顔は今までにない輝きを放っていた。当然のごとく俊司は彼女の質問攻めにあい始める。そんな二人を見て面白そうに見つめる霊夢と妖夢。そこは戦争中であることを忘れさせるかのような雰囲気があふれだしていた。
 しかし、そんな時間は長くは続かない。楽しそうにする4人をしり目に一人険しい表情をする人物がいた。
「ちょっといいかしら」
「どうしたの紫……変な顔して……」
 紫を見た四人は彼女の顔を見て一気に静まり返った。そして紫は静かに自分が感じ取っていた物を口にする。
「何か来るわ……私の勘だけどね」
 その一言で辺りは急激に凍りついた。
「……文」
「了解です!」
 霊夢の一言に反応した文は、大きく羽を広げて空高く舞い上がる。おそらく山の周辺を偵察に言ったのだろう。妖怪の山を知り尽くしている文なら辺りをくまなく探すことも出来るだろうし、幻想郷一のスピードを出す彼女なら敵に見つかってもすぐ帰ってくることもできるだろう。
 それにしても名前を呼ばれただけで相手の意図を読み取れるということは、やはりチームワークが良いということなのだろう。俊司も今の連携は驚いたようで、おもわず言葉を失っていた。
それから数秒後、偵察から猛スピードで帰ってきた文はすっかり青ざめていた。
「紫さんの言ったとおりでした!革命軍の軍勢がこっちに向かってます」
「やっぱり……人数は?」
「約五十人くらいです……」
 そう言うと俊司以外の全員が表情を曇らせた。最初はなぜ彼女達がそんな反応をとったのかわからなかったが、よくよく考えると簡単なことだ。
 先ほどあった革命軍のクルトを覚えているだろうか、彼は自分の能力をふんだんに使用して紫と俊司を危機に追いやった人間だ。もしその中に彼のような人間がいたとしたら……いや、彼のような人間だけでなく能力をも他人間が何人もいたといたらどうなるだろうか。考えるだけでも結果は明らかだった。
「五十対五か……」
 五十人という言葉に紫は険しい表情をしながら深く考え始める。五人いるとはいえ俊司はさっき妖夢と戦闘を行っていた時点で体力をひどく消耗している。妖夢はほとんど体力を消耗してないだろうが、メンタル面等も考えるとあまり無理はさせられない。かという自分自身もさっきクルトに散々痛めつけられたばかりだ。戦力は完全に向こうが有利だろう。
 何もしゃべることなくただ黙々と考えていく紫。そんな姿を見ていた霊夢は静かに彼女を見ていたのか、急に不満そうな顔をすると声をかけ始めた。
「……あんた気が狂ったの?」
「えっ」
 いきなり声をかけられた紫は目を点にしていた。
「あんたらしくないでしょ考えるなんて。あんたはいつものようにどっしり構えてればいいのよ」
「霊夢……」
「ま、どうせ考えたって作戦なんてないんだから。いつも通りやればいいのよ」
 そう言った霊夢だが、おそらく伝えたいのはそこではないだろう。こんな状況になってから自分を追い詰めることが多くなった自分を励ましてくれているようなものだ。そんな霊夢に紫は少し救われたようだった。
「……そうね。わかったわ……ありがと」
(霊夢に言われるなんて……私もまだまだね)
 なんてことを思いながら大きく深呼吸をする。
「じゃあ行き当たりばったりでいきましょうか」
 少し笑いながらそう言ってみると、他の四人も次第と笑みがこぼれた。どうやら気分転換にはなったようだ。
 しかし状況が変わったわけではない。とにかくいまはなんとしても耐え凌がないと後がない。ましてやここで俊司がやられてしまうと、彼を連れてきた意味もなくなってしまう。ここが一番の正念場だ
 そしてその時はゆっくりと訪れた。
「来ましたよ!」
 文が指をさしたところには、軍人の特徴でもある戦闘服をきた兵士がぞろぞろとこちらに向かってきていた。みた感じなにか特徴を持った兵士は見当たらない。少し勝機が見えてきていた。
「さてと俊司、あんた戦闘経験は?」
「えっ……さっきの一回だけ……」
「じゃあ無理しないでよね。あんたは貴重な戦力なんだから」
 戦わなくてもいいとは言ってくれない事に少し落胆しつつ、自分自身に鞭を入れて戦いに目を向け始める。
するとさっきまで感じていなかった疑問を急に感じ始めた。
「紫……これ……弾は?」
 さっきクルトと戦った際に撃ったのは一発だけだったが、別にリロードをしたわけでもない。それに渡されたのは銃のみで、変えのマガジンや弾などは渡されてはいないのだ。そうなるとあと何発撃てるのかだが、紫はなぜかキョトンとしていた。
「弾? たしか何発でも撃てるって言ってたわね……」
 紫の返答に思わず顔をひきつらせてしまう俊司。いくら幻想郷だとはいえどどんな武器だよと思わず突っ込んでしまった。
 しかしそんなことを言っている場合ではない。そう思いながら敵を見る。その時だった。
「えっ!? 紫……あれって……」
「あれ?……!?」
ある部分……いやある人物を見た瞬間、紫と俊司は思わず自分の目を疑ってしまった。それに二人だけではない。ほかの三人も同様に言葉を失ってその場所を見ている。
 その人物とは、そこにいた全員が知っている人物だった。
「あらあら……久しぶりね?」
 近づいてくるなり声をかけてくる女性。俊司達は言葉を失ったまま何もしゃべろうとはしない。
「ちょっとどうしたの~? 私のこと忘れちゃった?」
 女性は笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。別に忘れたわけではないし忘れる理由もない。ただ彼らはひたすら心の中でなぜと問いかけていた。
 そして彼女にもっとも縁のあった庭師が、静かに彼女の名前を呼んだ。
「……幽々子様?」 
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