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八方塞がり

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第四章

「それで何で攻め込んだんだ?」
「ベトナムモカンボジアに攻め込んでるしな」
「何かお互いに攻め込んだりしてるよな」
「共産主義なのに他の国に攻め込むのか?」
「共産主義勢力同士で戦争して」
「これ何でなんだ?」
「おかしくないか?」
 誰もが首を傾げさせることだった。宇山は彼等の疑問も議論も止められなかった。そうなってしまっていた。
 そしてソ連のアフガン侵攻についても何も言えなかった。やがて彼は冷戦についっても何も言えなくなった。
 そしてソ連でゴルバチョフが登場しグラスノスチとペレストロイカの結果多くのことがわかり東欧諸国の実態もわかった。そしてその貧しさも。
 そのニュースを聞いてだ。今度は彼の子供達が言うのだった。
「お父さん、東欧って何なの?」
「ソ連って何なの?」
「何であんなに何もないの?」
「それで偉い人達だけがいい暮らしをしてるの?」
「それは」
 ここでもだ。彼は言葉を詰まらせた。
「何ていうか」
「お父さん大学の先生だから知ってるよね」
「共産主義って悪い考えなの?」
「皆貧乏で偉い人達だけがいい生活をする考えなの?」
「それで弱いもの虐めがある社会なの?」
 子供だからまだ弾圧のことはわからない。それでこう彼に問うてきたのである。
「そんな酷い考えなの?」
「それが共産主義なの?」
「いや、それは」
 言葉を詰まらせたままだった。どうしてもだった。
 彼は子供達に答えられなかった。そうして。
 ドイツ統一も見た。統一とはいってもだ。
 東ドイツ、ドイツ民主共和国が西ドイツ、ドイツ連邦共和国に吸収合併される形になった。そしてそこでも多くのことがわかった。
「あれで共産主義の優等生だったのか」
「あれで東欧で一番いい国だったのか」
「服酷いな」
「ガムもなかったらしいな」
「いや、バナナもなかったらしいぞ」
 テレビで東ドイツの市民だった家族が西ベルリンに出てそのガムやバナナを家族で買って泣きそうな顔で喜んでいる。とても貧しい服で。
 その横で奇麗な服を着た西ベルリンの市民達がガムをくちゃくちゃさせながら楽しく話をしている。バナナの入ったお菓子を食べている子供もいる。
 そして車もだった。
「トラバントにベンツじゃな」
「全然違うな」
「これが資本主義と共産主義の差か」
「どれだけ酷いんだ」
 誰もが唖然となった。それにだった。
 統一して恐ろしいことがわかった。それは何かというと。
 旧西ドイツの旧東ドイツに対する復興の為の負担だ。それは。
「おい、あの西ドイツが赤字だってな」
「相当な負担になってるぞ」
「インフラとかがなってないらしい」
「一体どれだけの額がかかるかわからないらしいな」
「あれで共産圏で一番豊かな国か」
 それが欧州で一番豊かな国と統一してそれだったのだ。
「何か酷いな」
「あれが共産主義か」
「共産主義経済の実態だったんだな」
 誰もがわかったのだ。共産主義経済が如何に駄目だったかということを。そしてその他にも恐ろしいことがわかった。
 それは共産主義自体だ。それはというと。
 何もかもがあるものに似ていた。それは。
「一党独裁に秘密警察」
「個人への権力の集中」
「そして収容所」
「密告の奨励」
 この全部が揃った時に出される結論はというと。
「ナチスか?」
「共産主義は独裁主義だったのか」
「ナチスと同じだったのか」
「そっくりじゃないか」
 あの全否定されている民主主義、いや人類の敵とさえ考えられていたナチズムと共産主義の同一性に誰もが気付いたのだ。 
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