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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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16


 上陸したイスパニアにはきれいな並木通りとレンガ敷きの道があり、オレンジの木が山に生えている。そう、こんな並木道などが丸々と残るほどに、ほぼ無傷でここカルタリーヨプラナを支配下に入れた。

 無傷なのはここだけではない。カルタリーヨプラナに上陸をするその前も、景気づけとばかりに近くを通過するからと挨拶程度にバレアレス諸島に対する砲撃を行った。行きがけの駄賃の筈だったが、バレアレス諸島のすべて守備隊はこちらの大艦隊を見て降伏した。

 これは予想外過ぎて帝国軍もダキア軍も急いで、後発のバレアレスへの占領部隊を送ると共に東地中海艦隊の本拠地となりうるとして要塞化を進める意向らしい。それに連合王国の元支配下だけあって充実した港湾があった事から補給線は確保されたと言える。

 カルタリーヨの占領地でそんなことを考えながら、歩みを進める。上陸軍には車が与えられている。それに戦車もだ。

 街を見渡すがどこもかしこも白旗を上げていて、先行する俺やアルベルトが指揮車に乗りながら、ほぼ新品の機甲部隊で街を走り抜け、郊外にあるホテルまで走り抜けると、通信であとから来た部隊がすぐさま各地の占領を開始した。
 
 「おい、嘘だろ‥お前‥。」
 と思わず漏らしてしまった。すかさずアルベルトに「現実です。」と言われてしまった。

 これには訳がある。上陸後にホテルを借り上げて作られた、高級な部屋で中にチェスボードやらビリヤード台などもある。この臨時遠征軍本部の情報処理室に入ると早速、参謀本部から手紙があった。あぁ命令書だろうなと思って、アルベルトと時計を合わせて開封する。

 その中身は支配地を柔軟に拡げよと言う白紙の手形のようなフリーハンド過ぎる命令と共に、世界情勢が書いてあった。

 実質的には現状の通知書というべきものである。この世界情勢についての通知には大変なことが書いてあった。

 ダキア騒動とイスパニア動乱の影で、特にイルドアが反共社会主義を展開してはいたが、ついにイルドアの政党が、イスパニアにかかりきりの共和国、連合王国、帝国もダキアすらもイルドアに手を出せないと見ると、行動を開始したようだ。挙国一致イルドア社会党が軍人や労働者を集めて約5000人による首都にデモ隊の進軍を開始。

 各地を巡る際に、喝采に包まれ、統一されて少ししか経っていないイルドア人は国家としての意識が低い、都市国家気分が抜けてない巨大な町内会か神聖でもローマでも帝国でもない互助会内部紛争蛮族サークルの例の国家?集団?程度の国家意識しかなかったのだが、彼らが推進する方針の新たなイルドア、国家イルドア主義により強烈にナショナリズムを高めていった。

 言ってることはファシズム的な何かではあるが、敵は国内の共産主義としているだけであり、帝国的には危険性は低いと判断しているようだ。

 そのデモ行進は次第に参加者は増えていき、今は60万人にも広がった。あと3日で首都に着くと言われる中でイルドア警官隊が暴発し、参加者を射撃するがスクラムを組んでのデモ活動だったので逃げ場が少なく数千人の死傷者が出てしまい、挙国一致イルドア社会党の党首のベルート・ロッソネミコなどが逮捕されたらしいが、イルドア国民はこの措置に反発をしていると書いてある。

 特に警官隊の一部にべルートが国家の敵と言っていた共産主義者とマフィアが紛れ込んでいたことにより、政府は共産主義とマフィアに犯された巨悪と見る知識人からの援護射撃があり、イルドアの裁判官が初公判で愛国が罪になるならば、売国は功績となりうるのか?と言う判決の宣言により禁錮1年となったらしい。

 どう考えてもファッショだろうな。どうなってるのかはしらないがダキアの一件から加速度的にこの世界は戦争に収束しようとしてる。これは何者かの介入か世界の修正力かそれとも‥‥存在Xなのか。だとしてもターニャがそろそろ出てきてなんとかするだろう。俺はイスパニアでサヨナラするしな。

 今のところ共産主義者と軍国主義クーデターのどちらもどうにもならない殴り合いなのは間違いない。五十歩百歩っていうやつだ。

 「アルベルト、この戦い‥‥もしや、こちらの有利になるかもしれないな。」
 イスパニアに共産主義の国があったら困るのはイルドアもそうだ。同時に国内問題を反らすには簡単だ。他国に目を向けさせたらいい。

 「とすると、中佐はイルドアのパスタ巻き共がこちらに来ると?しかし、あの国は‥‥。」
 そう、命令書の資料の三枚目に失業率や増税などが書いてありとても戦争できる余裕があるようには見えないが、マジックはある。種が割れれば大したことがないマジックが。アスランは種が割れたら強くなるが。

 「アルベルト、考えても見ろ。この資料にある対外債務について、借りてる元がイスパニアなどで、イルドアはフランソワとイスパニアに分割支配されていた。独立時のインフラ代が彼らを苦しめている。なら、イスパニアに債権放棄させたらいい。そうなるはずだ。それに列強になってから時間が経ってないから実績も欲しがってるはずだ。諜報力だけは確かだからな彼らは。」
 そう、帝国のお寒い介入事情も知っているはずだ。そして、連合王国もフランソワも大してイスパニアに援助できないことも、国内の反政府共産主義者をピッケルを持った登山家集団で追いかけるが如く混乱してるはずだ。

 「なるほど‥‥バレアレス諸島は確かに地中海の要塞ではありますが、同時に位置を見ればイルドアを刺す形にも見えないこともない。ならば、国内不満と借金、帝国との友好を合わせればお釣りが来ますね。あの国の失業者も動員をかければ少なくなる。そして、多少死んだり戦費をかけても借金棒引きで考えればプラス収支。さらに言えば。」
 アルベルトはチェスボードに近づき、キングのコマを取ると逆さにして打った。

 「イルドアにはイスパニア元国王がいる。傀儡を作れる。総取りを狙ってるわけですね。帝国も特に中立を守るだろうイルドアにイスパニアが抑えられても痛くない。同時に敵対しても、イルドアにダキアと帝国からの二正面で工業地帯がある北イルドアならすぐ占領できる。そうなれば元々都市国家連合にすぎないイルドアは講和すると踏んで引き入れたといったところでしょうか。これもバークマン将軍の知略でしょうか?」
 知らんし、わからないが帝国外交部が下手を打ってイルドアにつけこまれた可能性が高い。が分かることは唯一だ。

 「この戦い。恐らく連隊だけでなく本国はさらなる増援をしてくるぞ。国家のメンツもそうだが、何より早く食い破った方が旨味がある切り取り自由のスモーガスボードの料理の取り合いだ。パイの早食いは得意かな?アルベルト参謀。」
 つまるところ、このフリーハンドに近い裁量権の塊のような命令書はそういうことだったのだ。

 同時に広げすぎて失敗したら勝手にやったよね?で終わらせて、堅実に少なくやったならば裁量権渡したよな?で尋問してくる査問委員会行き特別チケットというわけだ。中央参謀本部めやってくれる。あのレルゲンの励ましはこれを見越したのかもしれない。

 「大食いは得意ではありませんが、人を喰う行為なら士官の一人にいます。オルトー・スコールェという大尉なのですが魔術師と言われてます。」
 魔術師とかなんだよ。魔導師がそこら辺から湧き出るのがこの世界だろ。オルトーねぇ。

 「そうか。ではそのオルトーには陽動作戦を任せるとして、とすると兵は拙速を尊ぶだ。ダキアからやってきたんだから歴史あるイスパニア旅行も悪くないよな。このまま北上をして、カルターニャ地域を落とそう。背中からフランソワなどは笑い事じゃないぞ。」
 フランソワはカタツムリカエルムシャムシャ国土がほとんど畑で、国債をワイン払いしないとどうにもならない、現物支払いの賠償を断ったが為に自分たちが現物払いをする羽目になった、あの列強型落ちマトモな航空機無しのマジノでマゾ縛りプレイをしてる戦車分散戦力分散ついでに国内も分散してる面白国家ではない。

 この世界だとまだ大戦をしていないから立派な陸軍大国のマッチョな列強だ。毎日毎日砲弾でやり合い帝国と盛り合えるほどの陸軍を持つのだ。それと全面敵対となれば話ができなくなるほど両方の国民が死ぬ。わかりきったことだよな。割り切るしかないのか?

 「では、まともな航空戦力がないイスパニアの空をダキア人に飛ばせますか。パイロットの隊長はバークマン将軍が選んだ腕っこきゴーランドとありますね。彼の僚機はグロプというそうですね。戦闘爆撃機なる試みがうまく行けばいいですが。」
 もうそれ、ダキアとかいうがパイロットはほとんど中身が帝国軍人だろ。アホじゃなくてもわかる。そりゃあ、ほとんど数ヶ月だとパイロットなんか作れないだろうけどさ。

 「どこまで勝利できると思う?」
 正直不安しかない。急がないとポルトガル的な国がないためマカロネシアはイスパニアのものだ。これを機に連合王国がここを確保するために参戦してくるかもしれない。そうなれば代理戦争を飛び抜ける可能性もある。

 「勝利ができるかなんて誰も知りませんよ。それがわかっていたら我々軍人の仕事はないじゃないですか。」
 それもそうだよな。それにしても不安要素は色々とある秋津島もそうだが、かなり原作が変わっている点もだ。もし、ターニャ・デグレチャフが軍人を目指さないとなったら大変だ。誰が地獄で踊るというのだろうか?

 俺だと力不足だ。明らかに力不足だ。なぜなら俺は一般人でしかない。一般の‥‥。うん?

 「アルベルト、伏せろ。」
 アルベルトの腕を引き床に叩きつけて伏せる。その瞬間に弾丸が部屋を通り抜けた。それにしても杜撰だな。手榴弾の一つも投げてこないとは。

 「痛い。何も叩きつけることは‥‥。」
 アルベルトのボヤキは置いておき、近くにあったビリヤードのキューを振り回し遠心力をつけると術式で肉体を強化して一気に逃げる相手が居そうな場所に投げ込む。しかし、この感じ。

 「外したな。ネズミはそこそこいるらしい。ここは戦場ということだな。正面から戦わずにゲリラ戦をしたがる。市民に紛れ込む。市民の被害は無視したやり口だ。」
 まったく、軍人なら遊撃戦などせずに居たらいいのに。なんのために軍服や腕章があると思うんだ?

 「狩りをしますか?」
 今更ながらに遅いが拳銃を出したアルベルトを見て、冷静になった。それは意味がない。

 「相手は遊撃戦を使ってこちらを足止めしたがってる。つまり、相手は劣勢だ。それに我々にはあとから増援が来る。その捜査に詳しい憲兵などを要請しよう。我々がすべきなのは遊撃戦に乗らずにただ支配地を広げることだ。」
 そう、それだけだ。狙撃などは当たらなければどうということはないハラスメント攻撃に過ぎない。それは後詰めに任せるとして、こっちは進まなければイルドアが美味しくイスパニア料理を完成させてしまう。

 そうなっては、それこそなんの意味もない成果もない遠征で、最悪職務怠慢からの銃殺もあるかもしれない。これは皇帝案件なのだ。

 「一回襲撃してきたということは今夜はこれ以上はないだろう。寝るぞアルベルト。まさか、寝れないと言わないよな?このくらいで寝れないのならば、大砲飛び交う鉛の雨の塹壕で寝れないだろう?」
 そして、アルベルトは苦笑しながらホテルの備え付けのウィスキーを開けてお互いに一杯飲むと寝ることになった。

 俺はその日、夢を見た。気持ち悪い紅茶のおっさんとハゲのおっさんが大好きなやつにコズミックに追いかけられまくるおっさんにうる星やつらされるような気色悪い夢だ。どんなことなんだよ。俺が何をしたんだ!これだから紅茶は嫌なんだと言う思い出いっぱいになったときに、緑の光を見た気がした。

 「朝か。」
 寝起きは最悪だ。いろんなことを差し引いても最悪だ。なんて言っていられないのが社会人の辛いところ。どうやっても職場に向かわなければならない。

 すぐさま着替えて、頼んだ覚えがないのにベルボーイが来たので縛り上げて問い詰めるとイスパニア共同体の刺客だという。一向宗とボリシェヴィキは同じくらいしつこいのだなと思いながら、随伴していた憲兵隊に突き出すと何故か青い顔をされた。

 「朝からルームサービスとは共同体もやりますね。」
 そうなのだ。独立主義者が多い地域だからこそ、共同体は無理強いできなかったのだ下手に無理強いしたら独立されてしまうのだから。

 クーデター中にこそ、別なクーデターや独立は起きやすい。やろうと思う使命感が奴らを動かせるのだから。

 襟元を正すと北征へと出かけることとなった。
 
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