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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第198話:心と力を一つに合わせて

 奏・響・マリアの合体攻撃により、棺の首元に当たる部分に明確なダメージを与える事が出来た。だがそれでも尚棺は動きを止める事無く、それどころか逆に反撃で3人を氷の大地の上に叩き落してしまった。
 氷にめり込む勢いで叩きつけられた3人を心配して颯人達が集まると、それを待っていたかのように棺が赤い閃光を放つ。それが埒外物理によるものであるとアリスに聞かされた颯人と奏は、リフレクターで攻撃を防ごうとしたクリスを押し退け閃光の前に立ち塞がる。

 直後、彼らの居る場所に閃光が直撃。周囲を爆炎と、歪な形の氷が覆いつくす。

 弦十郎達がその様子をモニターで見守る中、あおいが棺の砲撃の解析結果を報告する。

「棺からの砲撃、解析完了……マイナス5100度の指向性エネルギー波――って、何よこれッ!?」

 超低温なんて言葉では片付けられない、あり得ざる解析結果にあおいも言葉を失う。その結果に、エルフナインも慄かずにはいられなかった。

「埒外物理による、世界法則への干渉……こんなの、原罪のギア搭載フィールドでは何度も凌げません……」
「そうね。”ギアだけでは”、とてもではないけど防ぎきるのは難しいわ。でも……」
「幸いな事に、あそこに居るのは……」

 衝撃の結果に思わず青褪めるエルフナインであったが、一方で了子とアリスの2人はその結果を受けても心配した様子が見られない。何故なら彼女達は、確信していたからだ。

 ”あの2人”が揃っていれば、例え埒外物理が相手でも案ずることはない……と。

〈イィィンフィニティ!〉
〈ブレイブ〉

〈〈プリーズ!〉〉
 砲撃の直撃地点が眩い光を放ったかと思うと、太陽をも思わせる炎が噴き出し周囲の氷を消し飛ばした。マイナス5100度と言う埒外の低温により作られた氷であっても、その2人が生み出す炎の前では何の意味もなさない。

「ふぃ~、間一髪ってところか?」

 額の汗を拭うような仕草をしながら呟くのは、淡い水色に輝く白銀の鎧を見に纏ったインフィニティースタイルとなったウィザードの颯人。その鎧は錬金術ですら再現する事の出来ない程の高度と強度を誇るアダマントストーンで作られ、この世のありとあらゆる攻撃から彼を守る。決して傷付く事のない鎧は棺からの砲撃も防いだのだ。
 だがそれでも仲間達までを守り切るのは難しい。砲撃の威力は一点集中ではないからだ。そこで活躍したのがウィザードギアブレイブとなった奏である。彼女の魔法は、猛き炎で仲間を鼓舞し守る事が出来る。不死鳥の様に奏の背中から広がった炎の翼が、颯人からの無尽蔵の魔力を受け取り仲間達を優しく包み埒外の超低温から守り切ったのだ。

「皆、大丈夫か?」
「えぇ、あなた達2人のお陰よ」
「流石の防御力だな」
「ちぇっ、こういう時の防御はアタシの専売特許だった筈なのに……」
「まぁまぁ」

 仲間を思い、愛する者を想う心が形となった温かな炎に包まれた響達の顔には笑みが浮かんでいる。その笑みから力を貰ったように、颯人と奏は周囲の氷を消し飛ばし再び棺への攻撃を再開した。

「「はぁぁぁぁぁッ!」」

 輝きと炎の軌跡を作りながら棺へと向かう2人に、仲間達も続き攻撃に加わった。

 その様子を離れた所から見ている二つの視線が合った。

「う~ん、これは……なかなかどうして、期待が持てるでありますな」
「ま、あのアダムを正面から打ち倒したって連中だ。ウチらじゃまるで敵いっこないデカブツ相手に、あれくらいは頑張ってもらわないと困るんだゼ」

 そうボヤくのは、雪原に溶け込む様に白いローブを頭まで被った2人の少女。こんな所で遠くから戦場を観察する辺り、その見た目の年齢も相まって只者ではないのだろう事が伺えた。
 その2人の脳内に、互いの声とは別の女性の声が響いた。

『ピンポンパンポーンッ! どう? そっちは順調かしら?』

 脳内に直接響く声……念話を受けて、少女の片方、黒髪の中に一房だけ赤い髪を持つ少女が答えた。

「棺の浮上を確認したところだゼッ!」
「本当に局長は、あんなモノの……棺の復活を阻止して、この星の支配者になろうとしたのでありますか……」
『今となっては分からないわね……、少なくとも、私達の目的は局長とは違う。こちらの狙いは棺の破壊ではなく、その活用だもの』

 念話の相手の女性の言葉に、もう片方の桃色の髪の少女が表情に影を落とした。

「それを……”彼ら”が許してくれるでありましょうか……?」

 少女の言葉に、相方の少女も念話の相手も答えない。不意に訪れた重い沈黙に、問いを投げ掛けた少女は耐えきれなくなったかのように口を開いた。

「ヴァネッサ、ミラアルク……私達、これで本当に「エルザッ!」もがッ!?」

 途中まで言葉を紡いでいた少女……エルザの口を、相方の少女・ミラアルクが慌てて塞いだ。

「それ以上は思ってても口に出すもんじゃないゼ。連中がどこで聞き耳立ててるか、分かったもんじゃない」
「……申し訳ないであります」

 ミラアルクからの言葉に、エルザがシュンと肩を落とす。《《もし》》彼女に犬の耳と尻尾があれば、力無く垂れているだろう落ち込み方だ。いっそ気の毒になるくらいの落ち込み方に、ミラアルクも申し訳ない気持ちになり彼女の肩を抱き寄せる。

「すまねえ。でも、今ウチらが生き延びるには、他に方法が無いんだゼ」
『そうね。そして、未来を掴む為にも……』

 念話の女性・ヴァネッサがミラアルクの言葉に続いた。

『私達は果たさなければならない。私達自身の、未来を奪還する為に……』

 念話越しにも尋常では無い意気込みを感じさせるヴァネッサの言葉に、エルザとミラアルクは黙って頷く。そして、再び彼女達の本来の仕事に戻り颯人達の戦いの様子を見守り始めた。

 2人の視線の先では、相も変わらず3人の魔法使いと7人の装者が巨大な棺を相手に激しい戦いを繰り広げていた。
 ただ先程と違うのは、棺が観測基地に大分近付いてきてしまっている事であった。お陰でまだ逃げきれていない職員が危うく戦闘に巻き込まれそうになることが多々あった。

「うわ、うわぁぁぁぁぁっ!?」
「逃げろぉぉっ!?」

 もう資料を運び出すどころの騒ぎではなく、急いで逃げなければ自分達の命も危ないと言う状況。我先にと逃げ出そうとする彼らにも、棺から放たれた迎撃機は容赦なく襲い掛かろうとしていた。

「いけないッ!? 基地の人達がッ!?」
「チッ! クソがッ!」

 どうやら颯人達の激しい攻撃により、棺は人間の姿をしたものを無条件に攻撃するよう狙いを定めたらしい。逃げ惑う基地職員にまで襲い掛かろうとする迎撃機を、クリスが必死に迎え撃つ。

「オラオラオラァッ!」

 ガトリングと小型ミサイルの掃射、更には広範囲の敵を一網打尽に出来る『GIGA ZEPPELIN』をもって次々と迎撃機を撃ち落としていく。が、それでもその攻撃を逃れた小型機や装者への攻撃の流れ弾が逃げ遅れた職員に迫る。

「きゃあッ!」
「させないッ!」

 危うく無数の光線に撃ち抜かれそうになった女性職員を、調が寸でのところで助けに入る。巨大な丸鋸を回転させてシールドにして無数の光線を防ぐことで女性の観測員を守るが、防ぎきれなかった攻撃の余波が女性を吹き飛ばそうとした。

 あわやと言うところ、響が素早く女性を抱きかかえて転がるようにして女性観測員を助けた。

「大丈夫ですかッ!?」

 直撃は避けたが、自分と違い生身の女性は思わぬ怪我を負った可能性がある。響は素早く立ち上がり女性の無事を確認しようとしたが、その彼女の目に自分を狙う無数の小型機とこちらに狙いを定めている棺が砲撃を放とうとしている様子が映った。

「こっちもッ!?」

 このままでは女性が巻き込まれる。どうすればいいかと響が悩んだその時、通信機にエルフナインの声が響いた。

『砲撃きますッ! ぶん殴ってくださいッ!』

 実体の無い光線による砲撃、しかも喰らえば埒外物理により超低温以下の低温で氷漬けになってしまうと言うそれを、エルフナインはよりにもよって殴れと言う。あんまりと言えばあんまりな指示に、しかし響は考えるよりも先に動いていた。

「言ってる事全然わかりませんッ!」

 そう言いながらも響は律儀に砲撃に向け拳を叩きつける。するとどうした事か、砲撃は響を氷漬けにすることなく拳の先で光線が弾かれていた。

『拳の防御フィールドをアジャストッ!』
『即席ですが、エルフナインちゃんが間に合わせてくれましたッ!』

 本部からの遠隔操作で、棺の砲撃に合わせて錬金術を活かして響のバリアフィールドを最適化させ防いだのだ。それを成し遂げたエルフナインは、自らの行いを誇らしげに語った。

『解析からの再構築は、錬金術の原理・原則ッ! これがボクの戦いですッ!』

 遠く離れたエルフナインからの援護もあって、響は無事砲撃を防ぎきる事が出来た。その間に小型機の方はガルドにより撃ち落とされ、安全を確保した事で響は改めて逃げ遅れた観測員をその場から逃がした。

「急いでくださいッ! S.O.N.G.指定の避難ポイントにッ!」
「ありがとうッ!」

 最後の逃げ遅れた人たちが、雪上車に乗り込みその場から逃れようとする。それを見てかは分からないが、棺は形状を変え棘付きのタイヤの様になり雪上車を踏みつぶそうとした。

「そうはいくか、よっと!」
〈ターンオン!〉

 転がって来る棺を、颯人はアックスモードにしたアックスカリバーで切り上げる。破壊に特化したその一撃は、インフィニティースタイルのパワーも相まって棺を空中にかち上げた。

 その先には炎の翼を広げて空中に佇む奏の姿が。

「そうれいッ!」
[BLAZE∞STARDUST]

 奏は颯人によりかち上げられた棺に向け、炎を纏ったアームドギアを叩きつける。さながら大気圏に突入した隕石の様な一撃が、棺を氷の大地に向け叩き付ける。その威力は棺を叩きつけるだけに留まらず、氷の大地を砕いてその下の水中にまで押し込んでしまった。

「あ、しまった。この下湖だったっけ?」

 ここがボストーク湖と言う巨大な湖の上だと言う事をすっかり忘れて水中に叩き落してしまった事に、奏が思わずやってしまったと額に汗を浮かべながら氷の浮く水面に向け降下していった。
 すると突如として水中から棺が飛び出し、迂闊にも水面に近付いていった奏をアームで掴んで引き摺り込んでしまった。

「うわっ!?」
「奏ッ!?」

 颯人達が見ている前で奏が棺により水中に引き摺り込まれる。これには装者達も焦った。何しろ奏が纏っているのは魔法の力を得ているとは言えシンフォギア。シンフォギアの力の源は歌なので、歌を歌えない水中では否応なしにギアの出力が低下してしまう。

「いけない、奏ぇッ!?」

 奏の相方である翼が、まだ残っている小型機への対処も忘れて助けに向かおうとする。だがそれよりも先に動いたのは颯人だった。彼は奏が水中に引き摺り込まれたのを見るや、一も二もなく後を追う様に飛び込んだ。

「奏ッ!」
「がぼごぼッ!(くっ、……んのやろぉッ!)」

 呼吸の出来ない水中に引き摺り込まれながらも、奏は全身に力を込めて己を掴む巨大なアームを逆に押し広げる。それを颯人は見逃さなかった。奏が己の力で拘束を緩めると、彼は素早くアームに取りつき彼女を引っ張り出しながらアームを蹴り飛ばす。
 そして脱出した奏は颯人と頷き合い、一度湖底に潜り頭上の棺を見上げると今度は湖底を蹴り上げて一気に浮上。その勢いに乗りながら、2人は同時に魔法を発動させた。

〈〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉〉
「「ハァァァァァッ!!」」

 2人の必殺技を受け、棺は水中から押し出される。翼達が見ている前で、棺が水面を突き破り天高く舞い上がる程に吹き飛ばされた。
 その後を追う様に飛び出した颯人と奏。颯人は水中に引き摺り込まれた事で満足に呼吸の出来なかった奏を優しく抱き寄せ、ゆっくりと仲間達が居る所へ降り立った。

「げほっ! ふぅ、ちょいビビった」
「奏、大丈夫?」
「あぁ、この通り」

 流石のタフネス。ウィザードギアブレイブの超回復は伊達ではなく、奏は本当に問題ないように見える。その姿に翼や響は安堵し胸を撫で下ろした。

「はぁ~、良かった~」
「それより、あれ何とかしないと」

 安堵する響達に対して、マリアは険しい表情を頭上に向ける。そこには、颯人と奏の攻撃により大きく形を歪めながらも未だ原型を留めている棺が回転しながら落下してきている様子が見えた。

「おいおい、偉い頑丈じゃねえか。ペテン師、さっき手ぇ抜きやがったな?」
「仕方ないっしょ? さっきは奏を水から上げるのが最優先だったんだから」
「それだけじゃないな。恐らく水中と言う場所が良くなかった。良くも悪くも水がクッションの役割を果たして、2人の一撃の威力を分散させてしまったんだろう」
「あの棺自体がとんでもなく硬いってのもあるでしょうけど……」

 そうこうしている間にも棺は彼らに向け落下してきている。このままだと全員纏めて落ちてきた棺に潰されてしまう。

「どうするデス? あのデカブツをどうやってぶっ壊すデスか?」
「狙うべきは、さっき破損させた喉元ね。ギアの全エネルギーを一点集束させるのよッ!」
「そう言えば、最近そんな技開発してたな」
「問題は当てられるかだが……」

 狙うべき的はかなり小さく、遠く、そして何より動いている。それを正確に狙い撃つのは正直に言って至難の業だ。しかし……

「大丈夫です。狙いをつけるなら……ね?」
「あぁ。そう言うのはアタシの得意分野だッ! タイミングはアタシが執るッ!」

「「「「「「「ギアブラスト」」」」」」」

 クリスを中心に、装者が全員一か所に集まり攻撃態勢を取る。ギアを構成していたエネルギーを攻撃に転用するため、必要最低限の機能を持つインナー姿となった彼女達を颯人達魔法使いは見守りつつ、落下してくる棺を魔法により固定しようと身構えた。

「ちと遠いが、まぁここからなら魔法の鎖で捕まえられるだろ」
「……ん? いや、そうは問屋が卸さないらしい」

 颯人達が見上げる中、棺が再び小型機を射出した。無数の小型機は回転しながら落下する棺の周りを縦横無尽に飛び回りながら光線を放ち、装者達を攻撃してくる。
 ギアを分解しインナー姿となった奏達に降り注ぐ光線を、颯人とガルド、透の3人が彼女達を守るべく動き回った。

「だぁ、くそッ! まだ出てくるのかよアレッ!」
「マズイな、リフレクターかチャフのつもりか」

 ガルドの推測は概ね正しい。棺の周りを無数に飛び回る小型機の所為で、クリスは満足に狙いを定める事が出来ずにいた。小型機に照準が向いてしまい、肝心の棺の首元にターゲットロックが出来ない。
 それでも彼女の心に焦りはなかった。

「大丈夫……大丈夫。焦る必要はねえ……」

 クリスが凪いだ心で棺を睨み付ける。彼女がここまで落ち着いていられるのは、偏にすぐ傍に彼女の事を心から愛し信じてくれる少年が居るからに他ならない。そして何より、彼女もまた彼の事を信じていた。

「颯人さん、ガルドさん! 僕の合図に合わせてください!」
「ん?……よし、分かった」
「やるか!」

 この状況、彼ら魔法使いに出来る事はそう多くはない。出来る事と言えば、小型機の迎撃から装者達を守る事。それか若しくは…………

「――――今ですッ!」
「そらぁッ!」
「おぉぉっ!」

 クリスの照準を妨げる、小型機を一時的にでも減らす事であった。

 透が声を上げた瞬間、3人は同時に手にした得物を空中に投げる。魔力を帯びながら回転する武器たちは、その余波で瞬く間に棺と装者達の間に僅かな間道を拓く。
 その瞬間、棺は破損した首元をクリスの方へと向け、クリスはその瞬間を見逃さず狙いを定めた。

「今だッ!」

「「「「「「「G3FAッ! ヘキサリヴォルバーッ!」」」」」」」

 装者7人分のエネルギーを一点に集中させた一撃は、狙い違わず棺の首元へと吸い込まれるように命中した。元より颯人と奏の一撃で大きく形を歪めていた棺は更に内側に高エネルギーを流し込まれ内部から爆発四散。完全に機能を停止させ彼らから離れた位置に落下した。

 それを遠目に見ながら颯人は戻ってきた武器を手に取りそのままそれで肩を叩いた。

「ふぃ~、これにて任務完了……か?」

 再び動き出す様子を見せない棺の姿に、颯人達は一仕事終えた事を確信し喜びを共有した。




 その様子を、遠くからさらに見ている者の存在に気付く事はなく。そしてその者達が、更にその場に居ない者にこの事を告げている事を、彼らは知る由もなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第198話でした。

ここで本作にもノブレの3人が登場しましたが、本作の彼女達は原作とは色々と状況が異なります。もしかすると原作以上に彼女達が苦悩するシーンを描く事になるかも?

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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