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誕生

作者:伊佐子
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宿る

 
前書き
第二子として宿る。その時からの記録。 

 
祖母が亡くなった。兼ねてから心臓肥大症で寝たきりになっていた。享年52歳。
昭和38年では特に早い死でもない。
両親と姉は住み慣れた東京から横浜の実家のすぐ側の借家に転居。
実家にはまだ独身の母の弟妹がいた。
母方の親族会議となる。祖母の妹で跡取りの母のおばさんが、母に土地家屋の相続を決める。
「この子は勉強が出来なかったんだから相続させなきゃ可哀想だ。」
この決定は後々ずっと母が弟妹の恨みを買う不本意なものだった。
私を宿っている事に気づいたのは祖母が亡くなって三ヶ月後だろうか。
胎内で成長すると、お腹を良く蹴る。
次は男の子かも知れないと予感させるに充分だった。
次第に逆子で生まれそうな兆しがあったので、
母は逆子にならない体操をしていた。
実は私を産む前に一人中絶している。
一人で懲りていたらしい。
父に黙って中絶したので後で責められた。
母によると尿と一緒に流れたらしい。
それでもまたの妊娠で、わざと流産しようとしていた。
バスの後部座席に乗る、重い荷物を持つなど。
姉は転入前は近所でも人気者の天才赤ちゃん。
生まれてすぐ母が保健所に呼ばれた。
「この子は大学だけでなく大学院まで卒業出来る子です。こういう子は大事にしてください。」
母の弟妹も姉の事は可愛がっていた。
両親は職場結婚。父は車のアンテナを発明した。
車のアンテナの発明者は沢山いるので父一人ではない。
子供の時から万年級長でIQが学年トップ、成績はオール5。
勉強の出来なかった母を選んだのは働き者だからだった。
何もかも順調に行っていた。第二子を宿るまでは。
姉は3歳を迎えた。冬になった。
翌年の2月の夜だった。
父が仕事から帰宅した。
「小雪が散らついてたぞ。」
間もなく母が産気づいた。
産婆を呼んだ。一晩産婆がつきっきりだった。
姉は弟が生まれると聞かされていた事だろう。
明け方になって漸く生まれたのは女の子。
「また女の子か」。
すぐ産湯に浸かり、目ばかりやたら大きな私の名は
父は最初「瞳」という名前にしたかったらしい。
母が産婦人科の女医さんの名前がいいとそれを却下した。
こうして「伊佐子」と命名される。
朝になって私を見た姉の感想は、宇宙人みたいだったとの事。
この時の写真がまだアルバムにある。目が異常に大きな赤ちゃん。
母の弟は結婚して大阪に移り、母の妹は花嫁修行中だった。
この寒い中おしめを洗わせるなんて、大変な子だと感じたらしい。

 
 

 
後書き
記憶してないものの、人間一人の誕生は大変です。 
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