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料亭の奥の部屋

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第一章

                料亭の奥の部屋 
 その料亭は赤坂の昔ながらの料亭である、それこそ明治の頃からの歴史がある由緒正しい店である。
 その店の奥にとりわけ立派な部屋がある、そこは色々な噂がある部屋だった。
「明治の元老の人達がですか」
「よく行ってたらしいな」
 八条物産東京支社の中でだ、都信也が後輩の小松誠に話していた。都は細めで長方形の顔で黒髪を右に分け背は一七六位でやや腹が出ている。小松は茄子の様な顔で色黒でスポーツ刈りで丸い目で背は一八〇以上あり痩せている、その彼に言うのだった。
「伊藤博文や山縣有朋がな」
「それは凄いですね」
「うちの会社も接待でな」
「使っていますか」
「ああ、ただな」
 都は小松に小声になって話した。
「あの部屋には噂もあるんだ」
「噂?」
「出るらしいんだよ」 
 こう言うのだった。
「何でもな」
「出るって」
「だから明治の元勲とかな」
「昔の凄い人達がでるか」
「よく使っていたからな」
 だからだというのだ。
「それでな」
「その人達の幽霊がですか」
「そうした話がな」
「まさか」
「いや、幽霊はいるだろ」
「それは」
 小松も否定しなかった。
「東京もそうしたお話多いですしね」
「そうだろ」
「俺も先輩も出身八条学園ですが」
「あの学園幽霊とか妖怪の話多いしな」
「俺一度中等部のグラウンドで観ました」
「俺博物館で観たよ」
 学園の中にあるというのだ。
「幽霊じゃないけれど小人をな」
「幽霊はいますね」
「妖怪とかもな、だからな」 
 それでというのだ。
「あの料亭もな」
「若しかすると」
「出るかもな」
「そうなんですね」
「真相はわからないけれどな」
 そんな話がその料亭には出ていた、だが二人はたまに接待で同席するだけでその部屋に行くことはなく。
 支社長の八条儀九恰幅のいい初老の白髪頭の彼もだ、接待の時に部下に密かにこう囁いたのであった。
「あの部屋だけれど」
「噂はですね」
「聞いているけれど」
「真相はですね」
「私も知らないんだよ」
「幽霊が出るという」
「明治の元勲の人達の。入ったことがないからね」
 その部屋にはというのだ。
「だからだよ」
「そうですか」
「うちの会社もね。うちのグループでね」 
 八条自動車も系列である八条グループのというのだ。
「入った人は」
「どなたですか?」
「総帥さんかな」
「えっ、そこまでなのですか」
「だから明治の元勲の人達とか」
「歴史に出て来る様な」
「そんな人達が利用していた」
 そうした部屋だからだというのだ。
「とてもね」
「支社長でもですか」
「使えないよ、あそこはあの料亭でも特別な」
「そうしたお部屋で」
「私もだよ」
「使っていないですか」
「だから何がいるのか」
 支社長は難しい顔で述べた。 
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