仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第24話
前書き
◆今話の登場ライダーと登場人物
◆アレクサンダー・フォン・シュタイン/仮面ライダーSPR-19パンツァースパルタン
北欧某国の陸軍少佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。坊主頭の寡黙な巨漢であり、我流の格闘技と機械弄りを得意としている。彼が装着するパンツァースパルタンは両腕にビームキャノンを搭載した2m級の大型機であり、自身が密かに開発・実装した近接格闘機能が特徴となっている。当時の年齢は26歳。
※原案はチャイロメガネ先生。
◆心堂一芯
北欧某国陸軍の外人部隊に所属していた少尉。明智天峯らを率いていた小隊長であり、戦火の中で部下達を失いながらもシェードの侵攻に抗い続けていた。当時の年齢は23歳。
※原案は可笑し屋ジャック先生。
――エンデバーランド全域を戦場とする、マルコシアン隊とグールベレーの武力衝突。その激闘の「余波」は、大勢の市民が避難している地下シェルターにも及んでいた。市外への脱出が叶わなかった彼らの多くは、地下に身を潜めていたのである。
頭上から響き渡って来る戦闘の轟音。その苛烈な衝撃音に力無き人々は恐れ慄き、ただひたすら明日の命を願うことしか出来ない。不条理に抗う力を持たないのなら、人は迫り来る運命に身を委ねざるを得ないのだ。
無論、それは本来あってはならないこと。だからこそマルコシアン隊のスパルタンライダー達は、この街の自由と平和を守るための戦いに身を投じているのだが――グールベレーの中でも「No.2」に相当する隊員の戦闘力は、生半可なものではなかった。
「……ふん」
孤児院跡地での戦闘を続けている隊長のランバルツァーと同様に、現時点でも生き残っているグールベレーの「副隊長」。部隊の中で最も大柄なその巨漢は、自身の対戦相手であるスパルタンライダーを徹底的に叩きのめしていた。不遜に鼻を鳴らす彼は、自身に挑んで来た哀れな鉄屑を見下している。
スパルタンシリーズ第19号機「SPR-19パンツァースパルタン」を装着している、アレクサンダー・フォン・シュタイン少佐。彼の鎧は副隊長の「砲撃」によってすでに大破寸前となっており、2m近くの巨体は仇敵の眼前で力無く横たわっていた。
「仮面ライダーゼロワン・ブレイキングマンモス」の形状をベースとする、約2mもの巨躯。その背部は「仮面ライダーガッチャード・ゴルドメカニッカー」を彷彿とさせる形状となっており、脚部には戦車のようなキャタピラレッグが装備されている。
そしてこの機体の最大の特徴は、丸太のように太い両腕に装備されている大型のビームキャノンだ。その火力は実戦投入されたスパルタンシリーズの中においても随一。戦車部隊出身である装着者の技量もあり、本機の戦闘力はマルコシアン隊でもトップクラスなのだ。
――しかし、その鋼鉄の城も今は満身創痍となっており、グールベレーの「No.2」たる副隊長の前で倒れたままとなっている。浅黒い肌と鋭い眼光、そして長い赤髪を持つ凶悪な面相の巨漢。その全長はパンツァースパルタンすら超える、250cmにも達していた。
そんな副隊長の両腕には、パンツァースパルタンのものよりもさらに高火力なビームキャノンが装備されている。この武装から放たれる圧倒的な熱線が、パンツァースパルタンの装甲を焼き尽くしていたのだ。
しかしパンツァースパルタンが敗北を喫したのは、相手の装備が「上位互換」だったから……ではない。地下シェルターの入り口を背にしていた副隊長は、パンツァースパルタンに対して常に優位な位置取りを保っていたのだ。
互いのビームキャノンは双方の装甲を破壊し得る火力を有しており、まともに撃ち合えばどちらもタダでは済まない。しかしシェルターを背にすれば、パンツァースパルタンは「流れ弾」による人的被害を警戒して迂闊に撃てなくなる。そこに付け込み、副隊長は彼を圧倒していたのである。
「……馬鹿な男だ。この俺と互角に渡り合えるほどの力を持っていながら、無力で愚かな弱者共のために勝機を捨てるとは。所詮、弱さを捨てられぬ人間など……こんなものか」
その策にまんまと嵌ったパンツァースパルタンが黒焦げの鉄屑と化すのは、時間の問題だったのだろう。非情になり切れず勝機を逃した愚かな人間を憐み、副隊長は鋭い目を細めている。意識を失ったのか、パンツァースパルタンは指1本動かす気配もない。
そんな彼に背を向けた副隊長は、ゆっくりと両腕のビームキャノンを構え始める。エネルギーの収束が始まった砲口は、地下シェルターの入り口に向けられていた。そこを破壊されれば、地下に逃げ込んだ人々はそのまま生き埋めとなってしまう。まさしく、絶体絶命であった。
「……!」
するとその時、1発の乾いた銃声が響き渡り――副隊長の側頭部に弾丸が命中する。蚊が刺した程度にも通じていない攻撃だが、ここぞというところで水を差された副隊長は、弾丸が飛んで来た方向へと忌々しげな眼差しを向けた。
そこに立っていたのは、自動拳銃を構えている1人の兵士。外骨格を着ているわけでもなく、特別な能力があるわけでもない。超人達が跋扈するこの戦場においては、取るに足らない「生身の人間」であった。
しかし彼の双眸に恐れの色は無く、その眼光は猛々しい勇気に溢れている。パンツァースパルタンを倒し、圧倒的な力を誇示して見せた巨漢に対しても、彼は全く怯んでいない。
「黙れッ……! 貴様のような、人の心すら捨てた怪物に……シュタイン少佐の何が分かるッ……!」
深く被った鉄帽の下から覗いている眼光で、副隊長の巨躯を射抜いている青年士官――心堂一芯少尉。彼は自身の眼前でパンツァースパルタンを倒されてもなお、1歩も退くことなく徹底抗戦の構えを見せている。
外人部隊を率いる小隊長だった彼は、多くの部下を殺され窮地に陥っていたところを、パンツァースパルタンに救われていた。そんな彼の恩に僅かでも報いるべく、この男は命を賭して、万に一つも敵うはずのない相手に挑もうとしている。
(明智、上杉、武田……! お前達だけでも生き残れよ……! 俺はもう無理かも知れんが……奴と刺し違えてでも、この使命を完遂してみせるッ!)
戦火の中で離れ離れになってしまった、3人の部下――明智天峯、上杉蛮児、武田禍継。彼らの身を案じながらも、心堂は目の前に聳え立つ圧倒的な巨漢を見上げ、ごくりと息を呑んでいた。
天峯達を覗く部下達は全員、この副隊長に殴殺されていたのだ。周囲に散らばっている、原型を留めていない無数の死体は、その一撃の凄まじさをこれでもかと物語っている。今まさに自分も部下達と同じ命運を辿るのだと、心堂は独り「覚悟」していた。
「……なんだ貴様、まだ居たのか。あまりに矮小で……視界にすら入らなかったわ。俺に気付かれぬうちに、さっさと逃げ出しておればよかったものを」
「ほざくな外道が……! 俺達のような外人部隊も、かけがえのない仲間だと認めて下さったシュタイン少佐のためにも……! 貴様に殺された部下達のためにもッ! 俺は絶対に……ここで退くわけには行かんッ!」
パンツァースパルタンことシュタインの分まで抗おうとする心堂。そんな彼の存在にようやく気付いた副隊長は、小蝿を見るような目で心堂を見下ろしている。その冷ややかな眼光だけで、命を刈り取れるのではと錯覚するほどの殺気だ。
その殺意を真っ向から浴びせられてもなお、心堂は副隊長の双眸から目を逸らさない。そんな彼の気高さを鬱陶しがるように、副隊長の方から視線を外してしまう。副隊長の狙いは、地下シェルターの入り口にのみ向けられていた。
「ふん……弱者同士で傷の舐め合いか? 付き合い切れぬわ。ならばそこで見ているがいい。貴様が慕った男の犠牲が、無駄に終わる瞬間をな」
「……ッ!」
人間如きの妨害など、いちいち気に留めるまでもない。そう言わんばかりに、副隊長は心堂を無視して地下シェルターにビームキャノンを撃ち込もうとしている。巨大な砲口に収束して行くエネルギーが、溢れんばかりに凝縮され始めていた。
この火力での砲撃を許せば、入り口が破壊され避難民達は生き埋めにされてしまう。いや、もはやその程度では済まない。熱線のエネルギーでシェルター全体が蒸し焼きにされ、避難民全員が一瞬のうちに焼き尽くされてしまうだろう。
「……やらせるかぁああッ!」
無論、そこまで分かっていて動かない心堂ではない。彼は咄嗟に、パンツァースパルタンが使用していたスパルタンハリケーンに跨り、その車体を急発進させる。
スパルタン用に調整されたモンスターマシンは本来、生身の人間に使いこなせるような代物ではない。それでも心堂は限界以上の膂力を振り絞り、スパルタンハリケーンのハンドルを握り締めていた。
「ぬぅあぁああッ!」
「むぅッ……!?」
そして、圧倒的な反動に振り落とされることなく――彼を乗せたスパルタンハリケーンが、副隊長の脇腹に激突する。まともなダメージこそ入っていないが、副隊長の巨体を揺るがすには十分な衝撃力だった。
取るに足らないと見下していた相手から思わぬ一撃を喰らってしまった副隊長は、大きく体勢を崩してしまう。シェルターに向かって撃ち放つはずだった熱線は、明後日の方向に飛び去っていた。
心堂の捨て身の特攻が、シェルターに居る人々を間一髪のところで救ったのだ。しかし――その弾みで。
「……うぐぁあぁあぁはぁぁあッ!」
眼前を横切った熱線の「余波」が、心堂の両眼を焼き尽くしてしまったのだ。スパルタンハリケーンから転倒した心堂は、視力が失われた両眼を抑えてのたうち回る。彼の悲痛な絶叫が、この戦場に轟いていた。
「うぉおおっ、あ、あぁあっ……!」
「……つくづく愚かだな。矮小な人間如きが俺の邪魔を企てるからだ。もはやこのシェルターの終わりを見届けることも叶わないだろうが……せいぜい、音だけでも楽しんでいけ」
そんな心堂の様子を見下ろしていた副隊長は、忌々しげに彼の身体を蹴飛ばし、今度こそシェルターを焼き払おうとする。だが、それでも心堂は諦めない。
「……うぐぅううッ!」
「なッ……!? 貴様、そんな身体でまだ……!」
彼は両眼を焼かれ視力を絶たれながらも、副隊長が立てる物音だけを頼りに地を這い、仇敵の片足にしがみ付いていた。常軌を逸した彼の「意地」には、さすがの副隊長も瞠目せざるを得ない。
「行か、せんッ……! シュタイン少佐も……俺の部下達も、この戦場に散った全ての兵士達もッ! 誰もが皆……守るべき人々の明日を願って、その命を賭したのだッ! その献身さえも踏み躙ろうというのなら……無力だろうと愚かだろうと、退く理由になどなるものかッ! 行かせんと言ったら行かせんッ!」
精神が肉体を超越したとでも言うのか。副隊長の太い脚にしがみ付く心堂は、生身の人間とは到底思えないほどの凄まじい力で、副隊長を食い止めようとしている。
「……狂人め。貴様のような、往生際の悪い弱者が最も始末に負えぬわ。そんなに先に殺して欲しいというのなら、叶えてやろうではないか。抗えぬ運命に翻弄されて終わる、その矮小な人生を悔やむがいい」
そんな彼の鬼気迫る覚悟を目の当たりにした副隊長は、この「危険因子」を早々に始末せねばと、再びビームキャノンを構えていた。狙うは、自身に刃向かう愚かな人間。心堂一芯という存在を、ビームキャノンの熱線で跡形もなく消し去ろうとしていた。
だが。足元に這いつくばる心堂に向けて、副隊長が至近距離でビームキャノンを撃ち放とうとした瞬間。その砲身を何者かに掴まれ、強引に持ち上げられてしまった。
「……そこまでだ」
「ぬッ……!? 貴様、この期に及んでまだ……!」
何事かと目を剥いた副隊長の視線が、低くくぐもった声の主と交わる。副隊長の巨躯を睨み上げ、ビームキャノンの砲身を掴んでいたのは――満身創痍のパンツァースパルタンであった。
「しょ……少佐……!」
「……待たせたな、少尉」
心堂の奮闘と絶叫により仮死状態から目覚めた彼は、即座に状況を把握して立ち上がっていたのだ。
パンツァースパルタンの巨体が地を踏む際の轟音。そして、装着者であるシュタインの一言。それらの音を耳にした心堂は、目が見えずともパンツァースパルタンの復活を悟り、歓喜に肩を震わせていた。
そんな心堂の姿を仮面越しに一瞥した直後、キッと仇敵を睨み付けたパンツァースパルタンは、相手のビームキャノンをさらに高く掴み上げ、無防備な状態にしてしまう。その体勢のまま、今度は腰を落としてもう片方の腕を構えていた。
「……生憎だが俺達は、運命などに左右されるほど自分の人生を安売りした覚えはないッ!」
「ぬ……!?」
次の瞬間――腰だめの姿勢で構えられた片腕のビームキャノンが、ぐるりと半回転してトンファー形態へと変形する。それは、副隊長らが事前に隊長から与えられていたデータには無い形態だった。
(なんだ……あの形状は!? 奴の装備データにあんなものは無かったはずだ! あれではまるでッ……!)
力任せに片腕を持ち上げられ、無防備に脇腹を晒している副隊長。彼は眼前のトンファーから繰り出される攻撃を予測し、咄嗟に防御体勢を取ろうとする。
「とにかく防御をッ――!」
だが、自身の知らない装備が出て来たことに対する動揺が、僅かに反応を鈍らせていたのだろう。
「――ヌゥヴォアァアアアーッ!」
副隊長が防御の構えを取るよりも、僅かに速く。激しい雄叫びと共に振り抜かれたトンファーの一撃が、無防備な脇腹に炸裂した。
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