仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第22話
前書き
◆今話の登場ライダー
◆ヘルヴィ・メッツァネン/仮面ライダーSPR-10ハッカペルスパルタン
北欧某国の陸軍軍曹であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。女扱いされることを嫌う、粗暴で荒々しく大胆不敵な女傑。彼女が装着するハッカペルスパルタンは、全身を固める「バーディングアーマー」によって前面と側面を重装甲化している機体であり、右手側に展開される硬く短い片刃の刃「コヴァ・サペリ」が特徴となっている。当時の年齢は19歳。
※原案はただのおじさん先生。
エンデバーランド市内の治安維持を担う警察機関。その中枢である警察署はすでに壊滅状態であったが、生き残った警察官達は未だに職務を放棄することなく、シェードの侵攻に抗い続けていた。
そんな彼らの「無駄な抵抗」に終止符を打つべく現れたグールベレー隊員は、半壊していた警察署をさらに蹂躙し、辺り一面を火の海に変えていた。そこへ駆け付けて来たスパルタンライダーも、今は満身創痍となっている。
「お、おい! あんた、まだ生きてるのか!? 聞こえてるなら返事をしてくれ!」
「もういい、それ以上続けてたら本当に死んじまうぞ! 俺達だってこの街の警官なんだ、もう覚悟なら出来てる! 後は俺達に任せて、あんただけでも逃げるんだ!」
周辺を飲み込む火の海。その陽炎の向こう側に立つスパルタンライダーは、炎越しでもはっきりと分かるほどに傷付いていた。激しい損傷を物語るようにふらついている彼女に対し、警察官達は猛炎に隔てられながらも懸命に「退却」を呼び掛けている。
だが、この街を救うために馳せ参じたスパルタンライダーに、その2文字はあり得ない。故に彼女は傷付いた身体を引き摺りながらも、「仇敵」を睨みつけながらゆっくりと前進し始めている。
「……覚悟なら、私だってとうに出来てるよ。警官のあんた達が腹括ってるってぇのに……マルコシアン隊の私が逃げ出すわけないだろ」
スパルタンシリーズ第10号機「SPR-10ハッカペルスパルタン」。その鎧を託されているヘルヴィ・メッツァネン軍曹は唸るように呟き、警察官達の呼び掛けを敢えて無視する。
彼らの想いを軽んじているわけではない。命懸けで職務を完遂しようとしている警察官達の覚悟を知ればこそ、退くわけには行かないのだ。向こう傷だらけの重鎧が、その信念を証明している。
その重鎧は「仮面ライダーバスター」を想起させる荘厳な外観であり、特に前面と側面を重装甲で固めている「バーディングアーマー」は本機の象徴と言えるだろう。その徹底ぶりは股関節などの防護にも及んでいるが、後方は軽量化のためか、前面・側面と比べると幾分か薄い。
その一方で頭部も重装甲化されており、「仮面ライダーガッチャード」の眼にあたる部分を小さくし、そこに装甲を付け足したような形状だ。しかし本機の特徴は、その防御力だけではない。
彼女の右手側に展開されている、硬く短い片刃の刃「コヴァ・サペリ」。切れ味を追求しない「叩く」ためのその刃で、敵の装甲板を力任せに叩き割る。それがハッカペルスパルタンの運用方法なのである。
前面や側面の防御を固める一方で、背面の装甲を削ぎ落として軽量化を図っているのも、全ては高い突破力を獲得するため。強烈な馬力と加速力、そこに重い重量を加えて行う衝撃力任せの突撃。それはまさに、人型の砲弾そのもの。装着者の性格にはピッタリな、接近戦特化型スパルタンなのだ。
「さぁて……そろそろ私も『本気』出すとすっかなァ? 戦闘員如きがいつまでも調子に乗ってるのは……いい加減、癪だしなァ」
仮面の下で不敵な笑みを浮かべるヘルヴィは、炎の海やパトカーの残骸に囲まれながらも、恐れることなく前進する。灼熱の壁の向こう側に立つグールベレー隊員に対し、彼女は鋭い眼光を向けていた。辺り一面にはパトカーの残骸が幾つも転がっており、その凄惨な光景がこの戦いの激しさを物語っている。
ハッカペルスパルタンのバーディングアーマーを超える、強固な胸部プロテクター。その装甲を纏うグールベレー隊員に対し、打撃用の刃による攻撃はまだ一度も通じていない。
対して、「上位互換」である敵方の刀刃は、バーディングアーマーに何度も深い傷を付けている。形勢は、火を見るよりも明らかだ。しかしそれでも、ヘルヴィは恐れることなく強気な大口を叩いている。
先祖代々続く、軍人の家系。その系譜の血を継ぐ彼女の肉体が、そうさせているのか。圧倒的に不利な状況だというのに、彼女は仮面の下で薄ら笑いすら浮かべていた。物々しい鉄仮面と荘厳な重鎧に隠された彼女の肉体は、その内側で熱く昂り、火照り、しとどに汗ばんでいる。
炎の熱に当てられてか、鎧の中はまるでサウナのようであった。彼女の肢体は濃厚なフェロモンを帯びた汗に濡れそぼっており、熟成された匂いが内側に充満している。
(……やっぱり、これだけ周りが暑いと……鎧に熱が伝播して、内側がサウナみたいになっちまうなぁ。ブラもパンティも、すっかり汗で水没しちまってらぁ……)
女性としてはかなりの長身であり、筋肉質でもある彼女の肉体は、まさに「女戦士」と呼ぶに相応しい身体つきであった。褐色の肌を際立たせる金髪はスポーティーなショートヘアに切り揃えられており、妖艶な美しさを誇る青い切れ目は、コヴァ・サペリよりも遥かに鋭い。
並の軍人よりも屈強な彼女の体格。それに見合うサイズと弾力、そして瑞々しい張りを誇示している二つの果実は、すでに100cmの大台に乗っているとも噂されている。六つに割れた腹筋と引き締まった腰つきには、無駄な脂肪など微粒子レベルでも存在していない。そのくびれは大きく膨らんだ安産型の巨尻を際立たせており、絶大な存在感をこれでもかと発揮させていた。
そんな彼女の美貌と極上の肉体は全て、ハッカペルスパルタンの仮面と重鎧に隠されている。鎧の内側に閉じ込められた彼女の肢体からは、極上のフェロモンを帯びた汗が滴り落ちているのだが、その濃厚な匂いが外部に漏れることはない。
それでも直に剣を交える中で、彼女が優れた才能を持つ「女戦士」であることを理解していたのだろう。グールベレー隊員は値踏みするような視線で、ハッカペルスパルタンの全身を見つめていた。
「ふっ、女だてらになかなか粘っているようだが……そろそろご自慢の装甲も限界ではないのか? 気の強い女も嫌いではないが、度が過ぎれば鬱陶しさが勝るな」
火の海に囲まれる中で、何度も繰り返した剣戟。その「太刀合わせ」を経たグールベレー隊員は、目の前に立ちはだかる下位互換の鉄屑が限界寸前であることを悟っていた。
いかに気力で己を奮い立たせようと、それで如何ともし難い力の差が埋まることはない。どれほど大口を叩いて自分を鼓舞しようが、自分を大きく見せようが、この状況ではハッタリにもならない。
そんなグールベレー隊員の「嘲笑」に、ヘルヴィは青筋を立たせる。薄ら笑いが消えた彼女の貌は、修羅の形相となっていた。
「……あぁ? 女だてら、だぁ? 私を舐め腐ってると……後悔するぞゴミ屑が」
「ふん、女扱いは気に召さんか? ならば、それを払拭し得る『力』を誇示して見せることだ。まぁ尤も……貴様のナマクラでは、俺の装甲を砕くことなど一生掛かっても不可能だがな!」
戦場で女扱いされることを最も嫌うヘルヴィにとって、グールベレー隊員の言葉は特大の「地雷」だったのだろう。ギリッと拳を握り締めて「忠告」する彼女に対し、グールベレー隊員はさらに挑発の言葉を浴びせる。
どれほど相手が怒ったところで、この性能差では自分の優位は揺るがない。むしろ怒れば怒るほど、動きに冴えが無くなり「隙」に繋がる。それを狙っての安い挑発であることは、ヘルヴィにも分かっていた。頭では理解していた。
「そうかいそうかい……そんなに私を怒らせたいのかい。いいだろう、乗ってやるよド畜生がぁあッ!」
しかし、それでも。黙って嗤われたままでいることは、戦士としての彼女のプライドが許さなかった。ヘルヴィが纏うハッカペルスパルタンは弾かれたように走り出し、コヴァ・サペリを振り上げ、グールベレー隊員に向かって突撃して行く。
(ふっ……相変わらず芸のない猪突猛進ぶりだな。こういう馬鹿の一つ覚えしか取り柄のない相手ほど、楽な相手はおらん。この俺の打撃を何十発も喰らって、なおも向かって来るタフネスと蛮勇は評価するが……そろそろ終わりにさせて貰おうッ!)
鎧の強度でも、刃の威力でも相手を上回っている「上位互換」。そんな自分が敗れることなど万に一つもあり得ないと、グールベレー隊員は薄ら笑いを浮かべていた。勢いよく向かって来るハッカペルスパルタンに対して愛用の刃を構えながら、彼はとどめの一閃を繰り出そうとしている。
事実、このまま真正面からぶつかってもハッカペルスパルタンに勝ち目はない。彼女自身、それは理解していた。
――理解していたからこそ。挑発に乗り、怒りを露わにしつつも。全身を熱く昂らせながらも。頭だけは冷静に、「勝利」を目指していたのである。
「……らぁあぁああッ!」
「なにッ……!?」
考え無しに突撃している――かのように動いていたハッカペルスパルタンは、疾走している最中にパトカーの残骸を掴み、勢いよく相手目掛けて投げ飛ばしたのである。まだ車内にガソリンが残っている、いわば車型の爆弾。そんな質量攻撃を仕掛けられたグールベレー隊員は、予期せぬ「一手」に瞠目していた。
「……そんな付け焼き刃の攻撃が、この俺に通じるものかッ! 愚か者めッ!」
だが、その程度で仕留められるような甘い相手ではない。グールベレー隊員はとどめの一閃を放つために構えていた刃を振り抜き、パトカーの残骸を弾き飛ばしてしまう。壮絶な衝撃音と共に跳ね返されたパトカーは、ハッカペルスパルタンの眼前で大爆発を起こした。
その爆炎に飲み込まれたハッカペルスパルタンは、激しい火柱に包み込まれてしまう。いくら強力な鎧であるとはいえ、中身はただの人間なのだ。このままでは、ファラリスの雄牛となりかねない。
「でやぁあぁあッ!」
「……!? この女、炎の中を突っ切って……!」
だが、そんな火の海地獄を味わいながらも。ハッカペルスパルタンは恐れることなく猛炎の中を突き抜け、グールベレー隊員の眼前に飛び込んで来た。あまりに強力な炎を浴びたことで赤熱している彼女の姿に、グールベレー隊員は思わず慄いてしまう。
「……『付け焼き刃』が無駄かどうか、あんたの装甲で確かめてみなッ!」
「ぬぅおぉおッ!?」
その僅かな「隙」を見逃すことなく、ハッカペルスパルタンはコヴァ・サペリを振り抜き、渾身の一閃を相手の胸部に叩き込む。その打撃自体は、これまで何度も防がれた時と変わらない威力だったが――今回の一閃は、それまでとは何かが違っていた。
(……! ば、爆炎を帯びたこいつの刃が……熱くなっているッ! そ、その熱が、俺の装甲に伝播してッ……!)
パトカーの爆発による激しい爆炎。その熱を帯びて赤熱化していたコヴァ・サペリは、異常なほどの高熱を帯びていたのだ。その熱が胸部装甲を通じて、装着者であるグールベレー隊員の肉体を焼き始めていたのである。
炎の海に囲まれたハッカペルスパルタンの内側で、ヘルヴィの肉体がしとどに汗ばんでいたように。胸部装甲に苛烈な熱を流し込まれたグールベレー隊員の肉体が、悲鳴を上げ始めたのだ。
「うぐぉあぁあぁあッ……! き、貴様……恐怖という感情は無いのか!?」
「恐怖? ……あるに決まってんだろ。あんたが怖くないだけだ」
この現象が相手の狙いだったのだと悟ったグールベレー隊員は、危険を顧みない彼女の戦法に驚愕している。そんな彼を鼻で笑うヘルヴィの肉体は大量の汗で濡れそぼっており、褐色の柔肌からはむせかえるほどのフェロモンが滲み出ていた。
彼女が纏うハッカペルスパルタンはさらに体重を乗せ、赤熱したコヴァ・サペリの刃を相手の胸部装甲に押し付けて行く。それ自体の威力は低いが、刃を通して伝播して行く熱は、グールベレー隊員の肉体を焦がし始めていた。
「ぬぅあぁあッ! い、いかん……このままではッ!」
肉体を焼くほどの熱に恐怖を覚えたグールベレー隊員は、たまらず胸部装甲を脱いでその場から飛び退いてしまう。熱からは解放された彼だが、その判断は致命的だった。ハッカペルスパルタンはすかさず地を蹴り、高く跳び上がったグールベレー隊員に追い付いて行った。
「……ハッ!?」
「確かに私のコヴァ・サペリじゃあ、あんたの装甲は破れない。だが……肝心のあんた自身はどうかなァ?」
性能差にあぐらをかき、命を捨てる覚悟を持とうとしなかったが故の「悪手」。それを晒してしまったグールベレー隊員がハッと顔を上げ――ハッカペルスパルタンと視線が合った瞬間。その仮面の下で、ヘルヴィは悪魔のような嗜虐的な笑みを浮かべていた。
「叩き壊せぇえぇッ!」
「ぐはぁあぁあぁあッ!」
大上段から叩き付けるかのように振り下ろされた、コヴァ・サペリの一閃。切れ味を持たないその刃は、装甲を持たないグールベレー隊員の胸板に深く沈み込み、胸骨もろとも体内全てを一撃で粉砕してしまう。
その衝撃を受け、断末魔と共に勢いよく地面に叩き付けられたグールベレー隊員は、白目を剥いて即死していた。苛烈な轟音と共にアスファルトが裂け、周囲の炎が吹き消されて行く。
「す、すごい……! あ、あの怪物を……真っ向勝負で倒しちまうなんて……!」
「あれが……陸軍で開発されたっていう、新型仮面ライダーの威力なのか……!?」
その光景を目の当たりにした煤塗れの警察官達は、驚嘆の声を上げてハッカペルスパルタンの勇姿を眺めていた。ズシン、と地面に着地したハッカペルスパルタンはコヴァ・サペリに付着していた鮮血を振り払い、グールベレー隊員の骸を冷たく見下ろしている。
「……言ったはずだぜ。私を舐め腐ってると、後悔するってな」
自分の「忠告」を聞かなかった愚者の末路を見届けた彼女は踵を返し、警察署内に向かって歩き始めて行く。今もそこで戦っている「戦友」に加勢するべく、彼女はコヴァ・サペリの刃を静かに構え直していた――。
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