仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第19話
前書き
◆今話の登場ライダー
◆大童傳治/仮面ライダーSPR-54オウガスパルタン
北欧某国の陸軍1等兵であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。真っ直ぐで情に厚い侍のような好青年であり、仲間達の無念を晴らすべく最も「危険」なスパルタンで戦地に赴いている。彼が装着するオウガスパルタンは純粋な破壊力にのみ特化した近接戦用の機体だが、あまりにパワーが強過ぎる曰く付きの代物でもある。当時の年齢は16歳。
※原案は妄想のKioku先生。
エンデバーランド市内の各地を戦場とする、マルコシアン隊とグールベレーの死闘。その激しさと周囲への被害はさらに増しており、現時点で生き残っているグールベレー隊員達が、その中でも上位に位置する「真の精鋭」であることを物語っていた。
これまでの戦闘で、スパルタンライダー達が辛うじて倒して来たグールベレー隊員達よりも、さらに手強い上位陣。その一角である1人の男は、建設途中であるビルの屋上で涼風を浴びていた。
建設工事の最中にシェードの襲撃を受けて以来、そのまま放置されていたのだろう。ほとんど骨組みだけとなっている建設中のビルは、真横に伸びた鉄骨や工事用の足場くらいしか足の踏み場もない、不安定な状態だ。
「手数もパワーもこちらの方が遥かに上。全てにおいて劣っている『下位互換』には万に一つも勝ち目などない。……それでもまだ、この俺に挑もうというのだな?」
心許ない足場に立ち、不敵な笑みを浮かべているグールベレー隊員。暗赤色のベレー帽を被っているその大男は、他の隊員には無い特徴的なプロテクターを装着していた。
彼が身に付けている金色の胸部装甲と肩部装甲。そこから伸びている3本もの「龍の首」が、不規則に蠢いているのだ。
まるで自我を持っているかのような動きを見せている3頭の金剛龍。その首が、胸部と両肩から生えている。そんな異様な外観のプロテクターを装着しているこのグールベレー隊員は、自分が今まさに打ちのめしているスパルタンの戦士を冷たく見下ろしていた。
装着者の脳波に呼応し、それぞれの動作で敵に喰らい付く3頭の龍。対戦者はただでさえ手強いグールベレー隊員に加え、その3頭とも戦わねばならないのだ。
改造人間のエリート兵士である本体だけでもかなりの強敵だというのに、不規則に蠢く龍の首まで相手にしなければならない。恐らくはあの仮面ライダーGでさえも、簡単には倒せないだろう。ましてや性能不足のスパルタンシリーズでは、この男に勝利するのは至難の業と言わざるを得ない。
――だが、そうと分かっても。何度その現実を、身を以て思い知らされても。このグールベレー隊員と戦っているスパルタンライダーは、満身創痍となりながらも立ち上がろうとしていた。
すでに生きているのが不思議なほどに傷付いているというのに、仮面に隠されたその双眸からは全く絶望の色が見えない。ヒビだらけの外骨格を纏い、鮮血に塗れ、それでも折れることなくこの強敵と対峙する若き兵士。彼は拳を構えることで、徹底抗戦の意思を示していた。
「……勝ち目ならあるさ。俺はまだ……諦めてない。俺が諦めない限り……この勝負が終わることはないんだ。俺はまだやれるぞ、グールベレー……!」
スパルタンシリーズ第54号機「SPR-54オウガスパルタン」。スパルタン計画の最終盤に開発された、その最新型を纏う大童傳治1等兵は、死んで行った仲間達の無念に報いようと拳を構えている。
その外観は「仮面ライダー裁鬼」を想起させる生物的な装甲で構築されているのだが、身体の色は青紫色、縁取りと腕の色は血のような赤黒い色になっている。さらに4本のツノの長さや大きさは、裁鬼のそれを大きく上回っていた。
太く逞しい腕は人工血管が浮き出ており、下半身には太くて大きな青紫色の尻尾が窺える。さらに背中には大型の背鰭が複数生えており、腕の色も縁取りの色と同様に赤黒い色で脈動していた。さながら、人の形を得た「怪獣王」のようだ。
そんな暴力的かつ野生的な外観の通り、このオウガスパルタンにはオプションとしての武装が存在しない。強力過ぎる膂力で全ての敵を物理で薙ぎ倒す……というコンセプトで開発された、非常に「危険」な機体なのだ。
開発主任のエドゥアルドや整備班のガーベッジ達も本機の実戦投入には難色を示し、一度は予算不足で頓挫した欠番機のように封印すべきという声も上がっていたほどだ。しかし傳治は敢えて、この曰く付きの機体を装着している。
制御不能レベルの怪力による、予期せぬ被害。そのリスクを伴う覚悟を持たなければ、人間を超えた存在である改造人間には勝てない。この国を護りたいと願った、仲間達の想いには応えられない。直感的にそれを理解していたからこそ、彼はこの機体を纏っているのだ。
事実、他の隊員達がすでに何人も戦死している中、彼は16歳という若手でありながら今も生存しており、グールベレー隊員との死闘を繰り広げている。怪物を狩るには、こちらも怪物になる覚悟を決めねばならない。それが、大童傳治という少年の決意なのだろう。
だが、グールベレー隊員達の中でも上位に位置するこの大男には、そんなオウガスパルタンの膂力すら通じなかった。パワーでも重量でもオウガスパルタンを上回っていたこの隊員は、真っ向勝負で彼を叩きのめしてしまったのである。
スパルタンシリーズとしては強過ぎる「力」。エドゥアルドですら持て余していたその「力」さえ、グールベレー隊員を真正面から凌駕するには至らなかったのである。
その絶望的な現実を目にしてもなお、立ち向かおうとしているオウガスパルタン。そんな彼の勇姿を前に、グールベレー隊員は腕を組んだまま忌々しげにため息を吐いている。
「若さ故の無謀……か、哀れなものだな。我が軍門に下っておれば、命だけは救われていたものを。なまじ人間にしては上出来な強さであったばかりに、引き際を見誤るとは」
「ここで俺が引いたところで、その先にあるのは終わりのない蹂躙だ。それにッ……!」
グールベレー隊員の言葉を否定しながら、オウガスパルタンは全身に力を込め、人工筋肉を限界まで膨張させる。「中身」が噴き出そうなほどに浮き上がった人工血管が、その膂力の凄まじさを物語っていた。スパルタンシリーズの中でもかなりの「重量級」であるオウガスパルタンの重さにより、彼の足元がミシリと軋む。
「……俺が賢い人間なら、こんな危険な代物に命を預けたりはしないさ……! この鎧を着た以上、引き際なんて分かったところで意味が無いッ!」
「ふっ……覚悟はすでに決まっている、ということか。その若さで大した度胸だ……。良かろう、ならば望み通り……終わりにしてくれるッ!」
オウガスパルタンの蛮勇を嘲笑うように、グールベレー隊員は敢えて真っ向勝負に出る。真正面から完膚なきまでに叩き潰して心を折ろうと、彼は大きく両手を広げて身構えた。そんな彼と「決着」を付けるべく、オウガスパルタンは一気に間合いを詰め――組み掛かる。
「でぇあぁあぁああッ!」
「ぬぅぉおぉおおッ!」
双方の雄叫びが天を衝く瞬間。建設中ビルの最上階で激突した両者が、両手を組み合わせて「力比べ」を始めていた。互いに、純粋なパワーを追求した者同士。小細工抜きの、真剣勝負であった。
「ぐッ、うぅッ……!」
「……どれほど意気込もうと、人間ではこの程度が限界よ。貴様程度のパワーと重量で、俺を捩じ伏せられるとでも思ったか!」
だが、やはり優勢なのはグールベレー隊員の方だ。彼は圧倒的な体格と腕力を総動員し、オウガスパルタンを圧倒する。なんとか踏ん張ろうとするオウガスパルタンだったが、すでに両脚は消耗により震え始めていた。
さらにそこへ、グールベレー隊員のプロテクターから伸びている3頭龍が、怪しくうねりながら襲い掛かって来る。三つの首を持つ黄金龍の牙が、オウガスパルタンの頭部と両肩に噛み付いて来た。
「ぐわぁあぁあッ!」
「ふははははッ、どうだこの牙の味はッ! 選択を誤った愚か者よ、血の海に沈むがいいッ!」
3頭龍の牙はオウガスパルタンの生体装甲を容易く貫通し、傳治本人の肉体に沈み込む。そこから噴き出す鮮血が、オウガスパルタンの鎧の隙間から溢れ出していた。苦悶の声を上げる彼を嘲笑うグールベレー隊員は、彼をこの高所から突き落とそうと、足場の淵にまで追い詰めて行く。
「ぐぉっ!? き、貴様ァ……無駄な足掻きをッ!」
「……言ったはずだぞ。俺が諦めない限り……この勝負は終わらないッ!」
それでも、オウガスパルタンは諦めない。彼は3頭龍に食らい付かれたまま勢いよく足場を踏み締め、グールベレー隊員の剛腕を力任せに押し返していた。
一体、この身体のどこにこれほどの力が残っていたのか。土壇場で予期せぬ膂力を発揮したオウガスパルタンの鬼気迫る勢いに、グールベレー隊員は思わず瞠目する。
「ふん……この期に及んで、まだ無益な力比べを続けるつもりか? つくづく学習能力のない小僧だ!」
しかし、その勢いも長くは続かないだろう。グールベレー隊員とオウガスパルタンとでは、スタミナも違い過ぎるのだ。今に力尽き、形勢は元通りになる。そう踏んでいたグールベレー隊員は平静を取り戻し、オウガスパルタンの攻勢を耐え抜こうとする。
「……!?」
すると、次の瞬間。グールベレー隊員の体勢が突如、がくんと大きく崩れた。それは彼だけではなく、オウガスパルタンも同様だった。何事かと目を剥き、3頭龍の牙を離してしまったグールベレー隊員が、足元に視線を移した瞬間――彼は瞬時に状況を理解する。
「いかん、我々の体重でッ……!」
先ほどの踏み込みや、度重なる激突。その衝撃による「負荷」に、とうとう足場が耐えられなくなっていたのだ。ミシミシと軋んでいた足場がついに変形、崩壊して行く。足場を失った2人が宙に放り出されたのは、それから間も無くのことだった。
「うぁあぁああッ!」
「ぬぉあぉああッ!?」
地上目掛けて勢いよく墜落して行く、オウガスパルタンとグールベレー隊員。2人は鉄骨の網を掻い潜るように、地面に向かって急速に落下していた。この状況が意図的に作られたものであると察していたグールベレー隊員は、オウガスパルタンと空中で組み合い、忌々しげに仇敵を睨む。
(こ、この小僧ッ……! わざと足場を破壊することで、より体重が重い俺の体勢を崩し……地面に叩き付けようというのかッ! まともに戦っても勝てないからと、このような手段に出るとはッ……!)
オウガスパルタンよりも、このグールベレー隊員の方が遥かに体重が重い。だがそれは、グールベレー隊員の方が落下時に受ける衝撃力が大きいということを意味する。オウガスパルタンは重量差を逆手に取り、グールベレー隊員を墜落死させるつもりなのだ。
(だが無駄なこと……! 俺の方がパワーも上回っている以上、空中での組み合いで体勢を入れ替えるなど造作もないことッ! 残念だったな小僧、地面に激突するのは貴様の方だッ!)
グールベレー隊員は圧倒的な膂力を活かし、オウガスパルタンを自身の下敷きにしようとする。だが、すでに彼は次の「一手」を用意していた。
「……はぁあッ!」
「うぐぉああッ!? 目、目がぁあッ!」
オウガスパルタンは、度重なる負傷によって溢れ始めていた自らの血を塗り付けるように――赤く染まった自身の手で、グールベレー隊員の顔面を鷲掴みにしたのである。自分の攻撃による出血で目を潰されたグールベレー隊員は、思わず力任せにオウガスパルタンを払い除けてしまう。
(い、いかん……! 奴の血で、目が見えんッ! しかも、奴の身体を手放してしまった……! これでは……奴の位置が、攻撃のタイミングが掴めんッ!)
それは致命的な「悪手」だった。組み付いた状態でさえあれば、体勢を入れ替えてとどめを刺すことは容易だった。目が見えずとも、それは可能だったはずだ。
しかしグールベレー隊員はこの土壇場で、その判断を誤ったのである。目が見えない状態でオウガスパルタンの身体を手放してしまえば、もう彼の居場所を把握することは出来ない。
(目が見えてさえおれば……龍の首で奴を仕留められたというのにッ! まさかあの小僧、そこまで計算尽くでッ……!?)
目が見えていれば3頭龍のリーチを活かして相手を捕らえることも出来たはずだが、この状況ではそれも叶わない。圧倒的に優位だったはずの彼は、ここぞというところで全てのアドバンテージを台無しにされてしまったのである。
「……ヴゥォアアァアァーッ!」
そして、地面への激突が迫る瞬間。飛び蹴りの体勢でグールベレー隊員に襲い掛かったオウガスパルタンは、怪獣の如き雄叫びを上げ、仇敵の胸板に渾身のキックを叩き込む。そして、その体勢から脱出する暇も与えぬまま――勢いよく地上に「墜落」するのだった。
「うぐッ……ぉああぁあああーッ!」
自身の重量。墜落の衝撃力。そして、オウガスパルタンのキック力。それら全てが合わさった必殺の一撃が大地を引き裂き、グールベレー隊員の肉体を粉砕する。
断末魔の絶叫を上げて四散する肉塊が、このキックの威力を物語っていた。その「とどめ」を決めたオウガスパルタンは、サッとその場から飛び退いて残心を取っている。
「……あり、得んッ……! 人間風情に、この、俺がぁああッ……!」
首だけになりながらも、自身の敗北を認めずに譫言を呟いているグールベレー隊員。そんな彼を冷たく一瞥し、オウガスパルタンは踵を返してその場を後にしていた。
「……『あり得ない』。そう思っていたことが……お前の敗因だ。何度も言ったはずだぜ、俺は絶対に諦めないってな」
そこには、かつてグールベレー隊員だったモノと――粉砕された金色の装甲。そしてバラバラに破壊された3頭龍の首が、辺り一面に残されていた。
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