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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第15話

 
前書き
◆今話の登場ライダー

◆エリック・ツィカーデ/仮面ライダーSPR-09ノイジースパルタン
 北欧某国の陸軍中佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。「お洒落」であることを追求する享楽的な人物であり、自らが求める華々しさのためならば死をも厭わない狂気のオネエ。彼が装着するノイジースパルタンは、超音波による攻撃を主体とする特殊な機体であり、シアン色のギター兼斧型武器「ノイジーアックス」が特徴となっている。当時の年齢は30歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。
 

 

 リペアスパルタンとラビッシュスパルタンがグールベレー隊員を撃破し、避難民達の列車を守り抜いていた頃。エンデバーランドの市内では、マルコシアン隊とグールベレーの戦闘がますます激化していた。

 観客がいない無人の劇場も、その舞台の一つとなっている。大規模なオーケストラのために設けられたこのホールでも、スパルタンとグールベレー隊員の「一騎打ち」が繰り広げられているのだ。

「イヤッハァァッ! 最初はシケた街かと思ってたが……この劇場は良いねェッ、気に入ったァアッ! 俺様のアツいサウンドがホールの隅々まで響き渡ってるぜぇえ〜ッ!」

 その舞台に立っているグールベレー隊員は、スポットライトに照らされながら狂気の笑みを浮かべ、愛用のエレキギターを掻き鳴らしている。だが、それはただのギターではない。戦斧のような刃が備わっている、戦闘用のギターアックスであった。

 さらにその胸部には超音波破壊砲が装備されており、そこからは周囲の壁を破壊するほどの強力な衝撃波が発生している。この破壊音波により、劇場内の座席や内装は無惨な姿に変わり果てていた。

「……まー。俺様に万雷の拍手を送るべきボケ市民共がここに居ないってのは……ちょっとばかし残念だけどなァ?」

 一通りの「演奏」を終えた後。グールベレー隊員は表情を一変させ、つまらなさそうに辺りを見渡している。襲撃当時、この劇場内に避難していた民間人達はすでに別の場所に退避していたのだ。もし彼らの移動が遅れていたら、この破壊音波によって甚大な人的被害が発生していたに違いない。

「……」

 陽気さと残忍さを兼ね備えた、やや特殊なグールベレー隊員。そんな彼を前にしているスパルタンシリーズの装着者は、仮面の下で剣呑な表情を浮かべていた。

「……随分と品性の無い騒音ねぇ。あなた、ちっとも『お洒落』じゃないわ」

 ドスの効いた声でそう呟くのは、屈強な男性軍人でありながら女性の言葉を使う「オネエ」――エリック・ツィカーデ中佐だ。彼が装着するスパルタンシリーズ第9号機「SPR-09ノイジースパルタン」は、すでにかなり損傷している。それでも彼は諦めることなく、眼前の仇敵を打倒するべくこの舞台に立ち続けていた。

 その外観は「魔進チェイサー」をベースに、右半身をシルバー、左半身を迷彩色に塗装したような姿だ。胸部には開閉式の超音波破壊砲が搭載されており、彼の手にはシアン色のギター兼斧型武器「ノイジーアックス」が装備されている。音波攻撃を増幅させる「ギターモード」と、超振動の刃を搭載した「アックスモード」の2形態を持つ専用兵器だ。

 彼は自身のものと同質の武装を持つグールベレー隊員を相手に、この劇場内で苛烈な「一騎打ち(セッション)」を繰り広げていたのである。だが、他のグールベレー隊員達の例に漏れず、この相手もスパルタンシリーズの「上位互換」に相当する装備を持っている。超音波破壊砲同士の撃ち合いにおいては、すでに一度競り負けている状況なのだ。

「へっ。俺様に近付けもしねぇ『下位互換』の鉄屑風情が、デカい口を叩きやがる。……俺様の破壊音波を増幅させてくれるこの劇場内じゃあ、てめぇに勝ち目はねぇ。そいつは散々思い知ってるはずだぜ?」

 「演奏」の音がより大きく反響するこの大ホール内においては、彼らが放つ超音波も通常時を大きく上回った威力となる。その「恩恵」を受けているグールベレー隊員は高らかに笑い声を上げ、ノイジースパルタンを露骨に見下していた。

「増幅の恩恵を受けているのはアタシも同じよ。……あなたの音楽はたっぷり聴かせて貰った。2度と聴きたくないくらいにね。そろそろ……『お開き』にしてあげるわ」

 しかしそれは、「同質」の武装を持っているノイジースパルタンにも言えること。彼は胸部の超音波破壊砲を展開しながら、ノイジーアックスをギターモードに変形させる。
 先ほどの撃ち合いは破壊砲単体のみでの小競り合いだったが、次は音波を増幅するギターも使用する「必殺技」。この撃ち合いで、確実に決着を付けようというのだ。その姿勢を前にしたグールベレー隊員も、好戦的な笑みを浮かべている。

「ハッハハハ! おいおい、まるで正義のヒーローみてぇな口振りじゃねぇか! 俺様もお前も、自分の『音楽』を兵器に利用してる兵士! どんな御託で飾ったところで、結局ただの人殺しだろうがよ!」
「……」
「勝ち目が無いからってカッコ付けに走るのは止めな! もっと自分に素直になれよ……! 自分の想いをビートにするのがアーティストの仕事だろう!?」
「……アタシはあなたとは違うわ。人殺しを厭わない音楽に美学を見出すことはない。観客が居ないこの舞台だからこそ、刻めるビートがある。アタシの音楽の価値は、アタシが1番よく知っている。だから……万雷の拍手も必要ない。あなたとのつまらない『セッション』も……これまでよ!」
「……やれやれ、これが『音楽性の違い』って奴かァ? 仕方ねぇ、だったらせめてもの情けだ。お前の最期に相応しい、激アツなフィナーレをくれてやるぜッ!」

 この「一騎打ち(セッション)」に終止符を打つ。その「宣戦布告」に対して闘志を剥き出しにしたグールベレー隊員も、胸部の破壊砲を展開しながら愛用のギターアックスを構えていた。

 音がより強く反響するこの大ホール内で。音波攻撃に特化したスパルタンとグールベレー隊員が、最大出力の破壊音波を飛ばし合う。その衝突が齎す破壊力は、これまでの小競り合いとは桁違いの領域となるだろう。間違いなく、内装が吹き飛ぶ程度では済まない。

「それは……こっちのセリフよッ!」
「おぉおらぁあぁあッ!」

 だが――各々の音楽に「美学」を見出した2人の男に、躊躇いの色は無い。彼らは互いに吼え、全力の音波攻撃「ノイジープレッシャー」を繰り出すのだった。双方の胸部に搭載された破壊砲が強烈な衝撃波を放ち、互いのギターが奏でるパンクロックが、そのエネルギーを増幅させる。

「ぐぅうッ……うぅうッ!」
「ハハハッ、確かに『お開き』が近いようだなァッ! お前の破壊音波もなかなかの威力だが……俺様のビートの方が遥かにアツいッ! これで終わりにしてやるぜッ!」

 双方の「音楽」が齎す絶大な衝撃波は、この一帯に存在するもの全てを根刮ぎ吹き飛ばし始めていた。しかしこの壮絶な競り合いの中で、ノイジースパルタンは少しずつ押され始めている。
 やはり単純な性能面においては大きく上回っているグールベレー隊員の方が、真っ向勝負では優位となるのだろう。自身の勝利を確信した彼は、ノイジースパルタンを嘲笑いながらさらに「出力」を上昇させて行く。

「もっと、もっと出力をッ……!」
「おおお……!? 良いねぇ良いねぇ、そういう往生際の悪さは嫌いじゃねェッ! 燃え尽きる蝋燭が、最期に輝きを放つが如くッ! 死に際だからこそ捻り出される、アツく激しい命のビートッ! そいつを刻み込み、壮絶にくたばるッ! 最高にロックじゃあねーかァッ!」

 だがノイジースパルタンも、このまま負けるつもりは無い。彼は猛烈な衝撃波に押されながらも両足を突き刺すように地を踏み抜き、身体を無理矢理固定させている。
 ここで引き下がるくらいならば、死の瞬間まで「音楽」を奏で続ける。その意志を姿勢で示しているノイジースパルタンの勇姿に、グールベレー隊員は目を剥いて歓喜していた。これこそが、自分が追い求める「ロック」だと言わんばかりに。

「生憎だけど……アタシはあなたのロックに付き合ってられるほど暇じゃないのよ。この劇場も……そう言ってるわッ!」
「なにィッ……!?」

 だが、ノイジースパルタンの狙いは別のところにあった。突如、この大ホールが天井から崩れ始めたのである。彼の言葉にグールベレー隊員がハッと顔を上げた瞬間、巨大な瓦礫が嵐のように降り注いで来た。

(劇場が……崩れるッ!? しまった、俺様としたことがアツくなり過ぎてッ……!)

 当然と言えば当然だろう。あまりに強力な衝撃波を飛ばし合っていれば、「下位互換」のノイジースパルタンよりも先に、莫大なエネルギー同士の衝突など想定していないこの劇場自体が保たなくなる。ノイジースパルタンが全力攻撃の撃ち合いを仕掛けて来たのは、これが狙いだったのだ。

「うぉおおぉおおッ!?」

 大質量の瓦礫で生き埋めにされようものなら、グールベレー隊員といえどもタダでは済まない。彼は焦燥に駆られながらも咄嗟にその場から退避し、劇場の外へと飛び出して行く。やがて凄まじい轟音や猛煙と共に、この劇場は無惨な瓦礫と化して行くのだった。

「……ふぅっ。危ねぇ危ねぇ、もう少しで劇場もろともくたばっちまうところだった。増幅された破壊音波を敢えて全力でぶつけ合わせ、劇場そのものを崩壊させることによって相討ちを狙う……か。へっ、見上げた根性じゃねぇか。敵ながら、悪くねぇロックンロールだったぜ」

 瞬く間に崩落し、瓦礫の山と成り果てた劇場跡地。その惨状を前にしたグールベレー隊員は冷や汗を拭いつつも、自身の勝利に薄ら笑いを浮かべていた。この崩落では奴も生きてはいまい、という考えがその表情に現れている。

「さぁーてと、奴の死体を確認したら他の連中と合流ッ――!?」

 だが。ノイジースパルタンの残骸を見つけ出そうと、瓦礫の山に近付いた――次の瞬間。その瓦礫を内側から突き破るように飛び出して来たノイジーアックスが、グールベレー隊員の胸部に勢いよく突き刺さる。

 すでに近接戦闘用のアックスモードに変形していたノイジーアックスは、グールベレー隊員の胸部に装備された破壊砲もろとも、その胸の奥深くに突き刺さっている。これでもう、グールベレー隊員は攻撃の要となる破壊砲を使うことが出来ない。

「が、はッ……!? お、お前、まだッ……!?」
「……ダメじゃない、勝手に演奏を止めたら。まだ……アタシ達の『セッション』は終わっちゃいないのよ?」

 鮮血を吐きながら、驚愕に打ち震えるグールベレー隊員の眼前に。満身創痍の血だるまと化したノイジースパルタンが、瓦礫の山を押し除けるように現れる。彼の真の狙いは劇場の崩落そのものではなく、それによって油断したグールベレー隊員が隙を見せる、この瞬間だったのだ。

 ノイジースパルタンのノイジーアックスやグールベレー隊員のギターアックスには、対象にギターを突き刺して破壊音波を直接叩き込む「一撃必殺」が存在する。
 グールベレー隊員は、多少の性能差など簡単に覆せるその切り札(ジョーカー)の威力を警戒し、これまでノイジースパルタンとの接近戦を避けていたのだ。その「危惧」が、ついに現実のものとなってしまったのである。

(劇場の崩壊を誘ったのは、自分ごと生き埋めにして俺様を倒すためじゃあなく……単なる布石でしかなかったってぇのかッ!? コイツの真の狙いは、至近距離からの直接攻撃……! 全ては、俺様を「間合い」に誘い込むまでのメロディを描いた楽譜……! ロッ、ロックンロールにも程があるぜッ……!)

 もし。あとほんの一瞬でも早く、グールベレー隊員がノイジースパルタンの狙いに気付いていれば。「上位互換」のギターアックスで、この不意打ちも切り払えていたのだろう。
 だが、どれほど基本性能が上回っているとしても。不意を突かれたことによって反応が一瞬でも遅れれば、その攻撃をかわし切ることは不可能となる。刹那の一手が、この勝負の明暗を分けたのだ。

 そして――ここまで近付くことさえ出来れば。ノイジーアックスを突き刺す段階まで到達出来れば。グールベレー隊員と言えども、致死量の破壊音波から逃れることは出来なくなるのだ。

「さぁ……あなた好みの、激アツな『フィナーレ』よ」

 仮面の下で微笑を浮かべるノイジースパルタンは、相手に突き刺したノイジーアックスを容赦なく弾き鳴らし。相手に直接流し込んだ破壊音波を――その体内で「反響」させる。
 「エレクトロフィナーレ」と呼ばれるこの必殺技は、音波だけでなく電撃まで引き起こし。技を仕掛けているノイジースパルタンまで感電させながら、グールベレー隊員の肉体を、「内」と「外」の両面から破壊して行く。

「が、ぁあぁあッ……! こ、こいつは、ロック……だぜッ……! もっと、もっと聴かせてくれよ、お前のアツいビート、をッ……!」

 その「一撃必殺」によって、全身から鮮血を吹き出したグールベレー隊員は、血に塗れながらも狂気の笑みを浮かべ、ノイジースパルタンににじり寄る。ノイジーアックスを突き刺されたまま、彼は「最高のロック」を魅せてくれたノイジースパルタンの両肩を掴むが――そこまでが限界だった。

 その体勢のまま事切れた彼は、崩れ落ちるように倒れ伏して行く。そんなグールベレー隊員の最期を、ノイジースパルタンは冷酷に見下ろし――歩み始めて行く。そこからはもう、一瞥することもなかった。

「……言ったでしょ。あなたのロックに、付き合ってる暇はないのよ」

 傷付いた身体を引き摺るように、彼は劇場前に停められていた自身のスパルタンハリケーンへと歩み寄って行く。まだ仲間達が死力を尽くして戦っている今、自分1人が足を止めている場合ではないのだ――。
 
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