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カメレオンと洪水

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第一章

                カメレオンと洪水
 ザイールのムブティ=ピグミー族に伝わる話である。
 最初世界には人間はいなかった、いないので誰も知ることはないし思うこともなかった。だがある日のことだ。
 カメレドンの夫婦が大きな木の枝にいて寝ていたが妻が言った。
「ねえ何か聞こえない?」
「そう言えば」
 夫も言われて気付いた。
「何か聞こえるな」
「そうよね」
「この音は」
 夫は音を耳をそばだてて聞いて言った。
「水の音だな」
「木の中だから」
「樹液か、しかし」
「樹液がこんな風に音を立てるなんて」
「ないな」
「ええ、そうよね」
 妻は夫にこう言葉を返した。
「やっぱり」
「そうだな、だからな」
 いぶかしみつつだ、夫は妻に話した。
「ここは樹を割ってみるか」
「そうするの」
「かなり大きな樹だから」
 それでというのだ。
「倒すことは出来ないが」
「それでもよね」
「割る位は出来るな」
「ええ、斧を使えば」 
 そうすればとだ、妻も答えた。
「出来るわね」
「だからな」
「ここは斧を使って」
「割るぞ、ちょっと家に帰ってだ」
 夫は決めた、それで妻に言うのだった。
「斧を取って来るな」
「では私はここで待っているわね」
「宜しく頼む」
 妻に残って状況を見守る様に頼んでだった。
 夫のカメレオンは一旦自分達の家に戻ってそこから斧を取った、そうして妻のところに戻ってだった。
 両方の前足で斧を持ち振るった、そのうえで樹に斧を二度三度と打ち付けた。すると割れ目が出来てそれがだ。
 樹の深い部分にまで達した、するとそこからだ。
「なっ、これは」
「お水!?」
 見れば樹液でなくだ。
 水だった、夫婦はこのことに驚いた。
「樹液でなくて」
「お水だったか」
「草木はお水を吸うけれど」
「樹液にならないで中にこれだけ残っていたのか」
「そして勢いが」
 樹の割れ目から出るそれがだ。
「凄いわね」
「ああ、ただ湧き出るだけじゃない」
「ここまで凄いとね」
「洪水になるぞ」
 夫婦でその凄まじい勢いで出る水を見て話した、水は忽ちのうちに洪水となった。そうしてであった。 
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