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エーギルの釜

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第三章

「持って来たのか」
「この通りだ」
 トールはその口を大きく開けて答えた。
「では宴を開いてくれ」
「少し待ってくれるか」
 エーギルはバツが悪そうな顔になって言葉を返した。
「お主達が死なずとも傷を負って帰って来ると思ってな」
「手当の用意をしていたか」
「そうだったの」
「ははは、それは杞憂だったな」
 トールはエーギルの話を受けて口を大きく開いて破顔大笑して言った。
「この通り俺もティールもだ」
「無傷か」
「そうだ、だがそれならな」
「馳走を用意してか」
「宴の用意をしてくれ」
 海神にあらためて言うのだった。
「いいか」
「それではな」
 エーギルも頷いてだった。
 そのうえで馳走を出させ宴の用意をはじめた、そのうえで神々の宴が開かれるとその時にであった。
 トールは釜と酒と手に入れた時の話をエーギルとティールそれに宴に参加している他の神々に話した、すると。
 エーギルはここでも仰天してだ、そうして釣った鯨を丸茹でしたものを豪快に切って食べている彼に言った。
「世界の果てまで行ってか」
「そこの海でな」
「ヨルムンガルドを釣ってか」
「あと一歩で逃げられた」
「わしの親父が怖がって釣り糸を切ってな」
 横にいてトールと共に鯨を食べているティールも話した。
「それでだ」
「逃げられたか」
「そしてその後でな」
 トールがまた言った。
「巨人達が大勢来てな」
「釜と酒を持ったお主達を襲ってか」
「俺は釜を置いてだ」
 その釜酒が並々と海の様に入っていて幾ら飲んでも減らないそこから酒をすくってそれで飲みながら話した。
「それからな」
「ミョッルニルを出してか」
「巨人共を全て返り討ちにしてな」
 襲い掛かって来た彼等をというのだ。
「それからだ」
「その酒が入った釜を持ってか」
「戻って来たのだ」
「そうだったか、とんでもない話だな」
 エーギルも酒を飲んでいる、そのうえでの言葉だ。
「聞けば聞く程、だが」
「それでもか」
「面白い話だ、その話を報酬としてだ」
 それでというのだ。
「またお主達がここに来たらな」
「そうしたらか」
「この釜はわしのものになったからな」
 トールが持って来てエーギルにやったのだ。
「だからな」
「その時はこの釜に常にだ」
 まさにというのだ。
「この様に酒を入れてな」
「そうしてもてなしてくれるか」
「そうする、ではこれからもな」
「ここに来たらか」
「ふんだんに飲もう」
 こう言ってだった。
 エーギルはトールにティールそして他の神々と共に酒を飲んだ、そうして宴を楽しんだ。北欧の海の神の話の一つである。


エーギルの釜   完


                2023・11・12 
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