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母を許した日

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第二章

「行ったこともね」
「ええと、お祖父ちゃんとはお母さんが小さい時に離婚して」
 娘は自分が知っている話をした。
「お祖父ちゃんすぐ後に事故で亡くなって」
「親子二人で育ってたね」
「そうよね」
「会いたくないのよ」
 久美子は夫と娘に眉を顰めさせて答えた。
「お母さんに」
「どうしたんだ、一体」
「お母さん怒ってない?」
「嫌い、いや憎んでるのよ」
 夫と娘にきっとした顔にもなって答えた。
「あの人のことは」
「あの人って」
「親でしょ?お母さんの」
「僕から見ても義理のお母さんだし」
「私のもう一人のお祖母ちゃんなのに」
「それでも嫌いなの、あの人はね」
 家族に自分の母、冴子とのことを話した。そして話し終えて心から湧き出る憎しみが籠った声で言った。
「それでなのよ」
「そんなことがあったのか」
「そうだったのね」
 夫と娘は久美子の話を最後まで聞いたうえで述べた。
「お母さんも色々あったのね」
「全教科満点でないと駄目なんて厳し過ぎるな」
「そうじゃないと怒って口も聞かないって」
「あんまりだな」
「それで喋られなくなって今更助けて欲しそうだったからよ」 
 今も憎しみに見ぢた声であった、その声で言うのだった。
「縁を切ったしね」
「僕達にも紹介しないんだ」
「そうなのね」
「これからもね」
 絶対にという言葉だった。
「そうするわ」
「いや、それはどうかな」
 夫は言い切った妻にどうかという顔で応えた。
「親は親だし厳しくても」
「どうだっていうの?」
「自分を生んで育ててくれたんだよね」
「ええ」 
 久美子は夫にその通りだと答えた。
「そうだったわ」
「そうだね、だったらね」
「許せっていうの?」
「縁を切って十年以上経ってるね」
「あなたと会う前よ」
「そんな昔のことだし」
 そうであるからだというのだ。
「もうね」
「許せっていうの」
「そうしたらどうかな」
「人を許すことも大事だってね」 
 娘も言ってきた。
「私学校で先生に言われたし」
「そうなのね」
「うん、だからね」
「お母さんもっていうのね」
「お祖母ちゃん許してあげたら?それでね」
 そのうえでというのだ。
「仲なおりしたら?」
「あの人と」
「お祖母ちゃんとね」
 こう言うのだった。
「そうして?」
「親は親だしもういいんじゃないかな」
 また夫が言ってきた。
「虐待とまではいかないし今は癌で喋られないんだね」
「そうなっているわ、実は生きてるかどうかもね」
「わからないんだね」
「あちらには全く行かないから」
「そうなんだ、けれどね」 
 それでもというのだった。 
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