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鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

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第一章 グレンダン編
シキという武芸者
  シキ・マーフェス【リメイク】

 
前書き
リメイクしました 

 

 まだ夜も明けない暗闇の中、少年は都市外縁部ギリギリに立っていた。
外縁部とは言うがほぼ荒野といった感じだ。其れもそのはず万が一の時にここは都市の最終防衛ラインと成る。もっともここまで侵攻されたのなら、ほぼ都市が死んだと言っていい。
まぁ、つまるところ遮蔽物の少ない外縁部は少年にとっていい修行場所だった。少年は手の中にある錬金鋼を復元させるために言葉を紡いだ。

「レストレーション」

 起動言語であるそれを唱えた瞬間、手の中にあった錬金鋼の形が変わる。箱状だった錬金鋼が鋭く、それでいてどこか美しい黒い刀に変化していた。少年は足に剄を流して走り出した。
その速さはかつて地上にいたとされる豹のようにしなやかで素早く、そして獰猛だった。
 それに彼の容姿も特筆ものだった。少女のようなのだ。いや、年相応の少女といっても過言ではないほどの整った顔、そして夜の月に照らされた艶やかな腰まで伸びる黒髪、その瞳は宝石を連想させる深い黒、どこをとっても完璧な少女、だが男だ。

「……」

 弾丸のような速さで動きながら少年は体の調子を剄で確かめる。
 剄は体中に張りめぐされた剄脈を伝って発生される特殊な生体エネルギーだ。薄く体中を覆うイメージで発生させれば、異常な部分に剄が邪魔されて分かる。
 幸いにして異常は見られなかった。
 ホッと一息つくと『準備運動』をやめる。
 そんな少年を待っていたかのように、薄く発光する花びらのような物体が少年の耳元に近づく。

『あらあら、おはようございます』

「ん? あぁ、デルボネの婆ちゃんおはよ」

 花びらから聞こえてくる声は優しくまるで孫に言うようだったが、残念ながら少年の祖母ではない。
 見知った声なのか少年は笑顔を向けながらその花びらに話しかけた。
これは念威繰者と呼ばれる者たちによって動く念威端子というもので、汚染物質のせいで長距離通信ができなくなった人類が唯一広範囲に渡る情報の収集・伝達を行うことができる手段だ。

『相変わらず早いですね、朝が』
「デルボネのばーちゃんだって十分早い…っよっ!」

 足元の地面を削り飛ばしながら、少年は先程よりも早いスピードで走る。
 もしも外縁部に目を向けるものがいても、一部の者しか少年を捉えることは出来ないだろう。
 少年のスピードはそれほど速かった。

『速いですねぇ。将来的にトップスピードではサヴァリスさんに追いつくのではありませんか?』
「いやぁ、あの人みたいになるにはもう少し修行しないと」

 端子は少年のスピードに追いついていない。だがバトンリレーのように短い間隔で端子が配置されており、走る少年との会話を可能にさせていた。
 おおよそ四周ほどだろうか、都市をぐるりと走り少年は徐々にペースを落とす。

『そういえば今日は武芸大会ですが大丈夫ですか?』
「大丈夫、というか毎朝見てるじゃんデルボネのばーちゃんは」
『まぁ、そうですね。これで負けたなどと言ったら貴方のお師匠たちにドヤされてしまいますしね』

 デルボネの言葉に少年は顔を青くする。
 少年が師事している人物たちはそんじょそこらの厳しさではないのだ。万が一でも有象無象の武芸者にでも負けたら洒落にならないことは確定している。
 もっとも少年は負ける気はサラサラなかった、というよりも負けられないのだ。

「負けないよ、俺は。ガキ共を食わせて行かなきゃならない……」
『……無理はしないように』

 先程までのほんわかした雰囲気が一変し、鬼気迫る雰囲気に変わる。

「それにレイフォンに負けてられない」
『ふふっ、男の子ですね』

 だがそんな雰囲気をすぐに四散する。
 デルボネもなるべく深くは突っ込まずその後は当り障りのない会話を続ける。
 
「そろそろいいかな」

 さらに二周ほど走った少年は、最初に立った外縁部に立ち止まると今まで棒きれのように扱っていた刀をきちんとした構え方で持つ。

「シッ!!」

 風を切るように素早く上から下に振り、そのまま刃を返し下から上に振り上げる。
 徐々に剄を込め、腕の力を込めていく。
 一心不乱に振っていくうちに少年は一本の刀と同化していく。最早、風どころか空気を切り裂く勢いで振っていた少年は丁度、百回目の振り下ろしで刀を止める。
 そして刀を腰だめに構え、左手で刀身を持ち、右手は柄を握り締める。
 限界ギリギリまで剄を練り込み、制御を誤った剄が衝剄として打ち出され、岩場に直撃する。運が悪いことに砕けた岩が少年に向かって飛んで来る。

「……丁度いいな」

 そのまま少年は踏み込み、岩に向かって刀を振るう。
 サイハーデン刀争術、焔切り。
 直後、炎を纏った刀身が岩を両断した。

「ふぅ」

 少年はすぐに刀を待機状態に戻す。
 よく見れば黒かった錬金鋼が先ほど繰り出した焔切りの色のように赤く染まっていた。
 本来ならばこんな現象は起きることはない。稀に膨大な剄を持つ者が、剄のコントロールをしきれず、錬金鋼の処理を超えた剄を送ってしまうことが起きる。一種のオーバーヒートのような現象だ。
これができるということは、少年は膨大な剄を持っている証拠である。

『朝から良い物を見せてもらいましたよ、シキ』
「んにゃ、こんなの父さんに比べたらまだま――――」

 その時、遠くから鐘の音が聞こえる。朝を知らせる鐘の音だ。
 いつの間にか朝日が都市と少年、シキ・マーフェスを照らし出していた。

「それじゃ、そろそろ朝食だから帰るよ」
『ええ、ではまた』

 その言葉を最後に端子が空高く舞い上がり、都市全体に散っていった。
 それを見届けたシキは、ストレッチを軽く行ったあと家に帰るため、足に剄を込めて跳んだ。





 シキが孤児院に帰るため、文字通り跳んでいる頃、とある少女が子供部屋に入った。
 しかし部屋にいる者たちを生半可な起こし方では起きない。
それは今まで数々の強敵たちを起こしてきた少女にはわかっていた。そこで古来より強敵(寝坊助共とも読む)を打倒してきた武器の登場である。
 その手には利き手である右手にはフライパンを、そして左手にはおたま。少女はニヤリと笑う、これでこいつらはおしまいだと。そして勢いよく二つをぶつけた。

「こらぁ! 朝よ! 皆、起きなさい!!」

 その音に飛び上がる子供たちの中に一人だけ寝ぼけ眼をしながら渋々起き上がる少年がいた。そ名前をレイフォン・アルセイフという。
轟音で起きたレイフォンは朝で寝ぼけている頭を必死に動かして、目の前の少女にあいさつをする。

「お、おはよう、リーリン」
「うん、おはよ! レイフォン」

 そして、ニコリと笑うのは孤児院最強の少女、シキの姉であるリーリン・マーフェスだった。


「いただきます」
「「「「いったっだっきまーす!」」」」
 デルクの静かな掛け声のあと、数十人の子供の声が続き、軽い地響きのようにテーブルを揺らす。シキの家である孤児院の朝の光景であるが、その中にシキはいなかった。

「ハッハッハー!! 燃えろ、俺の剄!」

 いたのは台所、シキとリーリンが切った野菜を剄の高等技術である化錬剄で変化させた炎で焼く。見る人が見れば、泡を吹いて倒れるほどの無駄遣いである。
 外力系衝剄の化錬変化、焔。
 しかしシキはそんなことは気にしない。適当にとある人物の真似をしていたら突然出来たのだ。真似をされていた、とある武芸者は腹を抱えて笑いこげ、面白げに自分の技を教え込んだの余談である。
 さらによく見れば、シキが何人もいるように見えるが、いる「よう」ではなく「いる」のだ。
 活剄衝剄混合変化、千人衝。
 コレはルッケンスと呼ばれるとある流派の技、それも秘奥をとある相手と戦っている最中に盗み取った技である。
 秘奥と呼ばれるくらいであるから、扱うどころか習得するのに何年もかけるはずの技がたった一度、見られただけで出来て、さらに台所で料理の補助に使われているとは思わないだろう。
 さらに信じられない点は千人衝は本来、残像攻撃の類で分身の術などではない。なにのだが、シキは膨大な剄を使って実体を持った千人衝を可能としている。
しかし五人まで、剄の消費が激しくて戦闘ではまともに使えないという欠点があるがこういう場面であれば重宝する剄技だ。ただし激しく疲れるので使用するのは十分だけと五人までという決まりがあるが。
 その補助は先ほどリーリンを含めた、女性陣がやっているため台所は女性が切り盛りしている状態であった。男性陣も料理ができるのだがシキ以上の人材がいないため黙々と朝ごはんを口に含んでいた。
 数十分後、ようやく片付けなどがひと段落したところでシキは余り物や食べ残しで作った朝ごはんを食べる。食べ残しを食べる理由はもったいないというのと、シキも九歳の子供という成長期にいる子供だからだ。

「……うまいなぁ」

 食べ物というのは、シキの中では神様のようなものだった。どれだけ力を持とうと、どれだけ人に頼られようと、食べ物がなければ助けられないとシキは知っている。
 まだまだ、育ち下がりの子供には似つかわしくない影が顔に張り付いていた。しかし、湿っぽいことが嫌いなシキは一気に食事を口に流し込んだ。当然、喉に詰まらせ勢いよくテーブルを叩く。

「みふ! みふをふれ!」(水! 水をくれ!)
「……」

 まだ椅子に座っていたデルクが無言でお茶を手渡す。
シキは涙目でそれを受け取ると、喉を鳴らしながら食道にある食べ物を流す。

「ぷはぁー! 死ぬ、マジで死ぬ! あんがと、父さん」
「あぁ」

 言葉が少ないが、これが不器用な養父の素だとわかっているシキは苦笑しながら感謝する。
 これがシキの朝の光景だった。





「なぜだ! なんでこんな子供にッ!!」
「……」
 お昼すぎ、湧き上がる歓声、幾多もの武芸者の血を吸ってきた地面、ここはグレンダンにある数ある闘技場の一つだった。
 青石錬金鋼の槍がシキを襲う。シキはそれを二つの銃で受け止める。
 対戦者の男は、若いが数多くの戦場に立ち、実際汚染獣と戦い生き残っている。だから少し驕っていた。それも仕方がないだろう、相手は十歳にも満たない子供で可憐な少女っぽい少年。男は余裕で勝てる決勝戦だとタカをくくった。
 だが、蓋を開けてみれば男は劣勢に立たされていた。

「くそっ! くそぉおお!!」
「剄息が乱れてるよ、冷静になりなよ」

 さらには自分のミスを指摘される始末である。男は更に激情に駆られた。
 対してシキは冷めていた。賞金のために参加した大会だったが、期待はずれにも程があった。初対面は、顔に傷が有り、中々鍛えられている身体で準備体操くらいにはなると思ったがそれすらならないというのため息しか出ない。
 朝の訓練の疲れがあり、もう終わらせてもいいが、銃衝術の練習と思い、受けだけに徹していた。
後は観客を飽きさせないようにところどころ攻めて、見せ場を作っていた。数年前、受けだけに集中しすぎて大会を崩壊させてしまったことがあるので、そうさせないための苦肉の策だ。

「ぶっ倒れろよぉ! ガキィ!!」
「……」
 
 冷めた目で槍を避けて適度に相手に向かって発砲する。
 適当に狙い定めたので男に当たることはない。しかしだ、未熟でも武芸者である男は手加減されていることに気づいてしまっており、それがさらに男の精神を逆撫でる。

「なめるなぁあああああああああ!!」

外力系衝剄の変化、背狼衝。
背中から発生させた衝剄の反動を利用し、男の姿がブレる。
シキは一瞬だけ眉をひそめ、横に回避した。直後、男の槍が先ほどまでシキが立っていた場所を通過する。

「そろそろ終わらせる」

 銃を槍に向けて数発発射する。
 着弾し、槍が横に大きく揺れるが男は無理やり腕の力を使い、懐に引き戻すとシキに向かって再び突き出した。
 しかし、シキは避けようとしない。男の目にはゆっくりと進む槍がシキの体に食い込む姿が――――。

「なっ!?」
「言ったろ? 終わらせるって」

 ――――なかった。シキに触れた瞬間、槍が砂のように砕けてしまったのだ。
 シキはそのまま男の頭に銃を突き付ける。
 外力系衝剄の変化、撃壊(げきかい)
 先ほど撃った銃撃は最初から武器の破壊を目的にしていたのだ。
 男は静かに息を吐くと両手を上げて降参の意を示した。激しい怒りなど武器を破壊された時に砕けていた。レベルが違いすぎるのだ、シキと男は。


 同時刻、レイフォンもシキと同じように闘技場に立っていた。
 違う点はシキが行っている大会よりも少し規模の大きい大会という点だ。実はシキも出たかったのだが、レイフォンと被るという理由で辞退していた。
 孤児院での眠そうな雰囲気とは一転、触れば斬れる刀のような雰囲気を醸し出しているレイフォン。

「……レストレーション」

 レイフォンは錬金鋼を復元する。それは身の丈はある剣であった。小さなレイフォンには不釣合いな剣。相手は子供が背伸びして武器を使っていると思っていた。
 しかし、それは違う。そもそもレイフォンは武器に頓着がない。武器などどうでもいいし、相手を叩き切ればそれでいい。

「はぁ!!」

 対戦相手が気合を入れた声で銃を撃つ。レイフォンが選択したのはとてもシンプルな答えだった。
 内力系活剄、旋剄。
 剄で脚力を強化し高速移動をしながらそれらを避ける。とてもじゃないが九歳の子供が出せる速さではない。対戦者である男は、レイフォンへの認識を改める。
 レイフォンは小刻みに右に左に動き続ける。男は銃口を忙しなく動かしながら、レイフォンを近づけさせないように乱射する。
 レイフォンは思い出す。悔しいが自分よりも強い武芸者である、家族の言葉を。

『んー? 銃を乱射されたらどうする? そりゃ避け続けるしかないだろ。いくら、お前でも直撃すればタダじゃすまないし、姉さんが黙ってない』

 レイフォンはここで下げていた剣を構え直し、持ち上げる。男はそれを見て警戒をする。もちろん油断をしないで。

『普通なら避け続けるの一択だ。だが、それはちょいとめんどくさい。だからさ』
「ふっ!」

 外力系衝剄の変化、閃断。
 剣に収束した剄を放つ一般的な技だ。しかし、レイフォンの膨大な剄を受けて普通では有り得ないほど巨大な刃が男の剄弾を消し飛ばしながら突き進む。
 男は驚きながら、身を屈め、転がりながらその飛来してきた刃を避けた。そして再びレイフォンを見るが既にそこにはレイフォンの姿はいない。目を動かしながらレイフォンの姿を探すがどこにもいない。
 右にも、左にも、正面にも……まさか?
 そう男が思って、上を見ると太陽を背にレイフォンがいた。その手には剄が収束されており刀身部分が巨大化したように見えた。

『テキトーに目くらまししてゴリ押せ』

 外力系衝剄の変化、轟剣。
 男は避けようとするがそれよりも落下し剣を振り下ろすレイフォンのほうが早かった。
 直後、轟音と共に闘技場が揺れた。


「シケてやがる……やっぱり、もうちょいデカイ大会に出るべきだったか」

 ジャラジャラと大金が入った袋を持ちながら、シキはそう呟いた。そう言っても、入っている賞金の額はそう簡単に出る金額ではない。しかし、孤児院の子供たちを食わせるのには少々足りないくらいだった。
 シキが大会に出た理由は、自分の力を試したいという理由と優勝した賞金で孤児院の経営に少しでも役立てて欲しいという思いだった。
 シキとレイフォン、二人のおかげでデルクの孤児院の経営は少しずつだが上に向いていった。だが、他の孤児院はそうであるかと言われれば否定するしかない。
 汚染獣との戦闘が当たり前の都市であるグレンダンでは、汚染獣戦で武芸者である親が死んで孤児が出ることが多い。強さを求めるグレンダンでは、弱い孤児たちを見る者などごく少数、いないと言っても過言ではない。

「クソっ、こんなんじゃ足りない」

 シキはもっと金が欲しかった、もっと、もっと……。

「シーキー!」
「ぬぉい!?」

 そんな思考を永遠としようとした時、突然後ろからの衝撃に驚く。
 いや、衝撃といっても女性らしさの塊が当たっているので実質衝撃など無いに等しいのだが、シキはその柔らかいものの感触に驚いていた。

「あぁん、シキ! 一週間ぶり! 元気にしてた? 試合見てたわよ、カッコよかったわ!」
「し、シノーラさん、お久しぶりです」
「シノーラでいいのに、それかお母さん!」

 満面の笑みでシキを抱きしめている絶世の美女、彼女はシノーラ・アレイスラ、シキがもっとも苦手とする女性の一人だった。最初に会ったのは五年前、まだシキが刀を持ち始めた頃だった。偶然、出会った彼女の姿を見てギョッとしたのをシキはまだ覚えていた。
 似ていたのだ、シキの顔が、シノーラという女性が。真っ黒な黒髪、挑戦的な瞳、顔の造形、目の色が緑ではなく黒という点と、癖があるシノーラのとは違い癖がない直線的な髪の毛を持つ点を除けばほぼ類似していた。
 シノーラ自体も驚いていたのか、二人は数秒ほど沈黙したあと大声で叫んだ。
 それ以来、街を歩けば高確率で出会うようになった。

「冗談言わないでください!」
「冗談じゃないわよ~、だってこんなに似てるんだもの。黙っていれば親子だわ」

 事実、シノーラが親と言っても差し支えないほどシキとシノーラはお似合いだった。それを知っているシキは顔を赤くしながら否定する。
 孤児であるシキは養父であるデルクの父親としての愛情は知っているが、母親の愛情というのに触れ合ったことがない。だから戸惑っているのだ。

「うー!!」
「照れるな照れるな! あーん、可愛いなぁ」

 おそらくシキの知り合いが見れば、全員が腹を抱えて笑うか。その可愛さに少し危ない考えを出すかもしれない。それほどまで照れたシキの破壊力は強力だった。

「シノーラさん、少し離れてください!」
「まだシキ成分を補給してないー!!」

 ギュゥウウウウ! とそんな音がするまで抱きしめるシノーラ。少し青い顔をしながらシノーラの体を叩くシキ……数十秒後、酸欠でぐったりとしたシキを見たシノーラが泣き出し、病院に砲弾のように突っ込んだのは完全なる余談である。


「足りない」

 一方、レイフォンも賞金が入った袋を持ちながらそう呟いた。
 彼もまた金が足りないと感じていたのだ。
 トボトボと歩く姿は先ほど膨大な剄で相手を圧倒していた少年にはとても見えなかった。
 そんなレイフォンがふと顔を上げるとこんな張り紙がされていた。
【天剣授受者選定式間近! 最後の天剣は誰の手に】
 眠そうなレイフォンの目が見開く。震える手でその張り紙を手に取る。
 天剣授受者、それはグレンダンでは最高の称号であり、一度なれば英雄として見られる。何より膨大な金は孤児院を潤し満たす。
 天剣になれれば、もうあんな場面を見ずにすむ。

「……天、剣」

 レイフォンはその輝かしい未来をもたらすであろう名前を口にした。
 
 

 
後書き
次回が終わったら天剣まで一直線です。 
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