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狂犬病を侮るな

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第一章

                狂犬病を侮るな
 そのニュースを聞いてだ、ふわりの飼い主である国崎家の父親の文太は憤慨して妻の百合子に言った。
「狂犬病の予防接種はな」
「絶対よね」
「犬が家族ならな」
 それならというのだ。
「もうな」
「しないとね」
「ああ、それをしなかった犬がな」
 文太はさらに言った。
「人を噛んだんだよ」
「若し狂犬病だったら」
「怖いだろ」
「まず助からないからね」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「それをしないことはな」
「言語道断ね」
「そうだよ」
 妻に怒った顔で言った。
「本当にな」
「人を噛むことも問題だけれど」
「それ以前にな」
「狂犬病の接種はね」
「うっかりで済むか」
 それこそというのだ。
「何があってもだ」
「しないとね」
「だからな」
 それでというのだ。
「うちもな」
「ふわりにさせてるわね」
「あいつ等だってな」
 ふわりを捨てた彼女の前の飼い主達もというのだ。
「してたぞ」
「そうよね」
「最低限だよ」
「することね」
「それをしないことがな」
 まさにというのだ。
「失格だよ」
「家族としてね」
「全く、馬鹿な話もあるものだ」
 憤慨しての言葉だった。 
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