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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第190話:繋がる奇跡

 場所は戻り、本部潜水艦の発令所には響を除く装者と颯人を除く魔法使いが全員集まっていた。その中には正体を晒した輝彦とアリス、そしてサンジェルマンの姿もある。

 彼らは一様に正面のモニターの光景に目を奪われていた。

「ありゃ……何だ……?」

 奏が全員の考えを代表する様に呟く。正面のモニターには、まるで巨大な蛹の様な物がビルとビルの間にぶら下がっている光景が映し出されていたからだ。
 一体自分達が離れている間に現場で何が起こったのか? それをいち早く知ったのは、ノータイムで現場と通信できる術を持ったサンジェルマンであった。

『カリオストロ、プレラーティ! あれは何? 一体何が起きたの?』

 念話で現場にいる仲間2人と連絡を取り合おうとしたサンジェルマン。向こうでも状況に思考が追い付いていないのか、サンジェルマンからの念話にその存在を思い出したかのように2人が答えた。

『あ、サンジェルマンッ!?』
『済まない、こちらも驚き過ぎて連絡が遅れたワケダ』
『構わないわ。それよりあれは何? まさか、局長が神の力を……!?』

 最大の懸念はアダムが神の力を手中に収めてしまう事であったが、しかしそれはカリオストロ達により否定された。

『安心して。少なくともアダムは神の力を手にしていないわ。勿論ティキもね』
『では、あれは何だ?』
『立花 響……だったものと言えばいいか』
『は……?』

 プレラーティの言葉が理解できずサンジェルマンが呆けていると、発令所でも現場で何が起きたのかの説明が行われた。

「信じられないかもしれないけれど、あれ、響ちゃんよ」
「は? 響? あれが?」
「どういう事?」

 了子の言葉に騒然となる装者達。無理もない。仲間の1人があんな訳の分からない蛹の様な姿になったと言われて、直ぐに信じろと言うのは無理な話だ。
 だがここには聖遺物、魔法、そして錬金術に理解の詳しい者達が集まっている。彼女らの知識と知能があれば、状況を理解する事はそう難しい事では無かった。

「まさか、響さんに神の力がッ!?」
「そんな、まさかッ!? だって彼女はただの人間。生まれながらに原罪を背負った人類に、神の力を宿す事等出来る筈がないッ!」

 一早く状況を察したアリスの言葉をサンジェルマンが即座に否定する。彼女ら錬金術師にとって、それは絶対の法則であり覆る事の無い筈の事実であったからだ。アリスも元パヴァリア光明結社の錬金術師としてその事はよく理解していた。
 しかし、何事にも例外と言うか抜け穴は存在するもの。奇しくも響は、その事実に囚われない例外的な事情を抱えていたのだ。

「……あっ!? 神獣鏡ッ!」
「なに?」
「どういう事?」
「そうかッ! だから響さんはッ!」

 アリスが何かに気付き、それにサンジェルマンと了子が反応を示す中、エルフナインは彼女が言わんとしている事を理解した。

「以前、フロンティア事変の折、響さんは肉体を蝕むガングニールの欠片の除去の為に未来さん共々神獣鏡の光を浴びました。神獣鏡とは、魔を払う浄化の輝きを放つ鏡。恐らくその影響で、響さんが魂に宿していた呪いが解かれたのかもしれません」
「そんな事が……なるほど確かに、それならば納得は出来る。浄罪され原罪を背負っていないのであれば、神の力も……」

 アリスの導き出した結論に、サンジェルマンが納得し頷く。正面のモニターに映し出されている状況をその場の者達がある程度理解できたところで、弦十郎がこの場に1人足りない事に気付いた。

「ん? そう言えば、颯人君はどうした? それにレギオンファントムは?」

 先程一際大きく本部が揺れたかと思ったら、それ以降妙に本部の中が静かになった。その事に弦十郎が疑問を口にすると、予想外の事態の連続に逆に落ち着きを取り戻していた奏の中に再び焦りが生まれた。

「あ、そうだッ! こんなことしてる場合じゃないッ! 旦那ッ! 颯人を探せるかッ!」
「待て待て、状況が理解できん。一体何が起こった?」

 立て続けに起こったごたごたでまだ状況の整理が出来ていない弦十郎が、焦る奏を宥めながら周囲を見やる。その視線にマリアとクリス、透は言葉を探して互いに顔を見合わせる中、輝彦が前に出て簡潔に状況を説明する。

「颯人の体が保てなくなりつつある。アイツは今、内側から出てこようとしているファントムを押さえながらレギオンファントムを相手に戦い続けている最中だ」
「何だとッ!?」

 鉛を飲み込んだような顔で輝彦が口にした現状に、弦十郎も漸く事態を理解しすぐさま朔也に周囲のカメラの様子を確認させた。

「藤尭ッ! 周辺のカメラに颯人君の姿は映っているかッ!」
「確認していますが、本部周辺にそれらしき姿は確認できませんッ!」
「ですが真新しい破壊痕が点在している為、追跡は可能かもしれません」
「どこだッ! 何処に颯人はッ!」
「待て、奏ちゃん」

 急いで颯人の後を追おうとする奏を輝彦が抑える。何故邪魔をするのかという目で奏が彼を見れば、そこには険しい顔をした輝彦の顔があった。

「颯人は私が追う。君はここに居るんだ。追跡なら、私の方が向いている」
「おじさん……でも」

 渋る奏だったが、そんな彼女の肩にサンジェルマンが手を置き輝彦に助け舟を出した。

「彼の言う通りよ。君はここまでの戦いで消耗している。彼を迎えに行く時の事を考えて、今は疲れを癒すべきよ」
「奏、今は……」

 輝彦とサンジェルマンに加え、翼からも宥められてやっと奏の心も落ち着いた。正直落ち着いては居られないが、ここで無策に動き回ってもいざという時颯人の力になれないのでは意味がないと思考が働く程度には冷静さを取り戻していた。
 無言で頷き、沈痛な面持ちで俯く奏。翼が彼女の手を握り、サンジェルマンが輝彦に視線を送れば彼はそれに頷く事で応えその場から姿を消した。

 一方モニターの向こうでも、響に神の力が宿った事に唖然としていたアダムが唐突に姿を消した事が念話でサンジェルマンに伝えられた。

 こうして、神の力を巡る激動の時間は一時の終わりを見せるのだった。




***




 それから、48時間もの時間が経過していた。その間輝彦の必死の捜索にも関わらず颯人の姿はおろかレギオンファントムすら見つけることは出来ず、また響にもこれと言った変化が起きる事無く無為に時間だけが過ぎていた。

 現場では大きな変化は起きなかったが、一方で裏方では事態が大きく推移していた。

『……立花 響が神の力と称されるエネルギーに取り込まれてから、48時間が超過……』

 本部では弦十郎が八紘と通信しているが、モニターの向こうの八紘の表情は芳しくない。それと言うのも、彼の下に入る報告が原因だった。

『国連での協議は最終段階。間も無く、日本への武力介入が決議される見込みだ。そうなるとお前達S.O.N.G.は、国連指示の下、先陣を切らねばならないだろう』
「やはりそうなってしまうか……」
『さらに状況が状況である為、事態の収拾に反応兵器の使用も考えられる』
「反応兵器ッ!? だが、あの中には響君がッ!」

 予想される国連の動きを前に、弦十郎も思わず目を剥く。八紘としても勿論それは許せる事態ではないと考えているが、悔しいかな言い分は国連側に分があった。特にアメリカは、自国の軍事衛星をディバインウェポンにより破壊されたと言う被害を被っている。それが口実となり、アメリカは特に鼻息荒く事態への介入に対して積極的であった。

 その最悪の事態を回避する唯一の手段は、取り込まれた響の救出と神の力の無力化以外にない。

『引き続き、局面打開に尽力してほしい。それがこちらの交渉カードになり得る』
「分かった……済まない、兄貴」

 通信が切れ、モニターから八紘の顔が消えると、発令所には重苦しい空気が流れる。

 国連決議による武力介入……ほんの数週間前のバルベルデと同じ状況に、今度はこちらが陥るなど想像すらできなかった。
 それに加えて、問題はもう一つある。

「颯人君の現在地は、未だ分かっていません。ウィズさ、あ、いえ、輝彦さんからの報告だと、途中で痕跡が途絶えていると」

 慎次からの報告に、弦十郎の後ろに控えていた奏が歯を食いしばりやり場のない気持ちをぶつけるように壁を殴りつける。

「クソッ! 颯人……今どこに……」
「落ち着けって、先輩」
「そうよ奏。気持ちは分かるけど、今は……」
「分かってる……分かってるけど……」

 今こうしている間にも、一歩一歩颯人は死へのカウントダウンを刻んでいる。そう思うとやり場のない不安が暴れて、ジッとしてなどいられない。

 この事態に、誰もが手をこまねいているかと言われれば決してそのような事は無かった。行方の分からない颯人に関してはともかく、国連の標的となりこのままでは諸共に反応兵器の餌食となってしまいかねない響の救出作戦は着実に進行していた。

 そのカギとなるのは、Anti LiNKER。ウェル博士の手製LiNKERを作れるようになった事で、同時に生成が可能となった適合係数を下げるこの薬剤。何に使うのかと言えば、これによって響と結合しつつある神の力を剥がそうと言うのである。

「ヨナルデパズトーリとディバインウェポン。どちらも依り代にエネルギーを纏って固着させたもの。まるで、シンフォギアと同じメカニズムだと思いませんか?」
「響君を取り込んだエネルギーと、ギアを形成する聖遺物の性質が近い物だとするならば……」
「Anti LiNKERで、ぽんぽんすーにひん剥けるかもしれないんだなッ!」

 絶望的な状況に希望が見えてきた。クリスと透が笑みを浮かべる中、発令所にサンジェルマンとカリオストロ、そしてプレラーティの3人が入って来た。その後ろにはガルドがつき、3人を監視するように見ている。

「そちらは順調の様ね」
「む、君らか」

 3人は現在一時的な協力者と言う立場で、限定的ではあるが本部内をある程度自由に行動する事が許されている。無論完全な自由と言う訳ではなく、行動に際しては常にガルドが監視につく形で、スペルキャスターも没収され更には錬金術の使用も禁じる為の腕輪が嵌められているが。

 最初彼女達をそこまで拘束するつもりは弦十郎にもなかったのだが、他ならぬサンジェルマンがそう進言したのだ。例え弦十郎や装者達が納得したとしても、外部はそれで納得するとは限らない。例えパフォーマンスであろうとも、S.O.N.G.やその関係各所に絶対に敵対しないと言う姿勢を見せる事は必要という判断の下での行動であった。
 このお陰で最初こそおっかなびっくりと言った感じで彼女達に常に銃口を向けんばかりの勢いで警戒していたスタッフ達も、とりあえずは安心できるようになったのは確かだった。

 その彼女達の登場に、強く反応を示したのは奏であった。

「どうだ、颯人はッ!」
「ごめんなさい。こちらでもアリスとの協力で錬金術を駆使してはいるのだけれど……」
「ゼ~んぜん見つからないのよ。一体どうなってるのかしら?」

 彼女達は輝彦とは別のアプローチで行方不明となった颯人の捜索に当たってくれていた。錬金術による広域索敵。一流の錬金術師が集まれば、例え姿が見えなくとも颯人の姿を見つけ出す事は容易な筈であった。
 しかし結果は芳しくなく、彼女達の力を以てしても颯人の所在は分からぬままであった。この状況に、流石のカリオストロも違和感を感じずにはいられず首を傾げた。

「考えられるとすれば、誰かが奴の居場所を隠しているか、なワケダ」
「誰かって……誰ですか?」

 不可解な事態と首を傾げるカリオストロに対し、プレラーティは薄々感じていた予感を口にする。傍から聞いていた未来が思わず疑問を口にすると、プレラーティはそちらを一瞥して口を開いた。

「……ワイズマン」
「ッ! ワイズマンだとッ!」
「確かに……あの享楽主義者なら在り得る話ね」
「性根のねじ曲がったあの男なら、こっちが慌てる様子を楽しむ為に手を施すくらいはするでしょうね」

 ワイズマンは奏達にとっても因縁のある相手だ。ルナアタック事変で奴と直接戦い、そして一蹴されたクリスなどは腸が煮えくり返る思いだった。
 最近は大人しいジェネシスも、この大一番で介入してくる可能性は確かになくも無い。特にここ最近の静けさは、この混乱を狙っていると考えれば納得できる。この機に乗じて邪魔な結社とS.O.N.G.を一度に潰そうと考えているのだろう。

「そうはさせっかよッ! 来るなら来いってんだッ! 前の借りの分も含めて返してやるッ!」

 ワイズマンとの再戦に意気込むクリスを、透が宥めるように肩に手を置く。

 その時、突如として朔也から通信が入った事の報告がなされた。それも鎌倉からの直通の通信。それが意味するものとは、つまり…………

『護国災害派遣法を適用した』

 正面のモニターに突如映し出されたのは白髪の目立つ1人の老人、風鳴 訃堂。開口一番彼が口にした言葉の無いように、弦十郎が息を呑んだ。

「はっ……!?」
「護国?」
〔どういう意味です?〕

 訃堂が何をするつもりなのか分からないクリスと透が怪訝な顔をするが、翼はその言葉の意味を理解して険しい表情になった。

「まさか立花を、第2種特異災害と認定したのですかッ!?」
『聖遺物起因の災害に対し、無制限に火器を投入可能だ。対象を速やかに、殺処分せよッ!』

 翼が上げる抗議の言葉を無視して一方的に告げてくる訃堂。これには弦十郎も反論せずにはいられない。

「ですが現在、救助手段を講じており――」
『儚きかな。国連介入を許すつもりか? その嚆矢(こうし)は反応h――』

 そこで突如通信が途切れた。何事かと弦十郎達があおいの方を見れば、何時の間にそこに居たのか奏が彼女の後ろから手を伸ばして通信を切るスイッチを押していた。

「え、ちょっ!? 奏ちゃんッ!?」

 まさか奏がこんな手段に出るとは思っていなかったので、あおいも面食らい振り返る。その彼女の目に、驚くほど冷めた顔で訃堂の消えたモニターを見つめる奏の姿が映った。
 奏は暫く通信を切るスイッチを押し続けていたが、まるで気が済んだかのようにゆっくりとスイッチから指を放しつつ呟いた。

「……颯人だったらこうしたさ。あんなの、聞く必要無いね。アタシらはアタシらで響を助ける為に動く。そうだろ?」

 思いもよらぬ奏の行動に、弦十郎を始め誰もが唖然とする中、カリオストロは堪らず噴き出しながら手を叩いた。

「あっはははっ! やるじゃんッ! そう言うの、あーし好きよッ!」
「まぁ向こうは今頃顔真っ赤で震えているワケダろうが……」
「あれもまた支配を強いる者……それに真正面から抗うのも、また一興ね」

 上から目線で一方的に告げてくる訃堂に対し、真っ向から反抗する奏の姿勢をサンジェルマン達はそれなりに気に入ったらしい。弦十郎はそれに対し後々が怖いと思わなくも無かったが、奏の言う事も尤もだと考えこの場で咎めるような事はしなかった。

「友里、現場周辺の動きはどうなっている?」

 訃堂という男の性格を理解している弦十郎は、彼が既に動いていると考え状況の確認を急がせた。果たして彼の予想通り、響の周辺には既に多数の攻撃部隊が展開されている事を知る事になる。

「響ちゃん周辺に多数の攻撃部隊の展開を確認ッ! 攻撃準備を整えているようですッ!」
「この様子だと、精々猶予は2時間ってところかしら? どうする、弦十郎君?」
「どうするもこうするも無い。急いで響君を救出するッ! 国連が動く口実をこちらが先に取り除いてしまえば、反応兵器も撃たれない訳だからなッ!」

「「「応ッ!」」」

 こうして響救出の為の作戦が開始される事となった。

 サンジェルマン達錬金術師は依然広域索敵により颯人を捜索し、奏達装者とガルド・透の魔法使い2人は響救出作戦の為現場へと向かう。

 そこでは既に訃堂により展開された攻撃部隊による攻撃が開始されていた。最新型と思しき戦車による砲撃が、響を取り込んだ蛹状の物体に次々と命中する。

『彼らは知らされていないのか? あの中に人が取り込まれてるんだぞッ!』

 通信で朔也が焦る声が聞こえる。それに対して奏は否と考える。訃堂の息の掛った連中の事だ。恐らく中に人が居ると聞かされても、彼らは攻撃を躊躇しなかったであろう。
 だがそれ以上に危惧すべきは、あの砲撃が逆にある種の引き金になってしまわないかと言う事だった。見れば砲撃を受けて蛹の外殻に罅が入っている。あれが壊されて中から響が出てくるのであればいいが、逆に砲撃が覚醒を早める危険性もあった。

 奏達が急行する中、状況は後者に傾いた。罅割れた部分から光が零れると、蛹を支えていた支柱が外れゆっくりと地面に下ろされる。そして地面に降り立った蛹から、巨大な人型のナニかになった響が姿を現した。

「アァァァ…………アアアアァァァァァァァッ!」

 ティキが変異したディバインウェポンに比べれば大分人型に近い巨人となった響は、叫び声と共に口から光線をしっちゃかめっちゃかに吐き出し残された周囲の廃墟を吹き飛ばしていく。見る限りにおいてあれに響としての意識は感じられず、暴走して闇雲に周囲を攻撃しているだけの様だった。
 不幸中の幸いなのは、あの状態の響が明確に何かを敵視してはいないと言う事だ。先程自分に砲撃してきていた戦車が視界に納まっているにも拘らず、反撃で吹き飛ばそうとしている様子が見られない。

 だがそれは意図して狙っていないだけであって、攻撃の対象にならないと言う事を意味してはいなかった。それを証明するように、デタラメに周囲を薙ぎ払っていた光線が攻撃部隊にも向けられる。
 喰らえば一溜りも無いだろうその光線を、マリアのアガートラームが展開したシールドで防ぐ。しかしその威力は1人の力で受け止めきれるものではなく、光線の威力を散らして戦車部隊への被害を最小限にとどめる事は出来たものの、攻撃を受け止めたマリア本人は吹き飛ばされてしまった。

「ぐっ!? ぐぅぅぅ、うあぁぁぁぁぁっ!?」
「「マリアッ!」」

 後ろに吹き飛ばされたマリアを、切歌と調が受け止める。幸いな事にシールドにより威力の大半が散らされていたのか、吹き飛ばされた以外にマリアに目立ったダメージは見られない。しかし装者の中でも特に鉄壁に近い防御力を誇るマリアのシールドを、粉砕してしまった一撃には切歌も戦慄せずにはいられない。

「あのデタラメな強さは、何だかとっても響さんデスよッ!」

 否が応でもあれが響であると認めざるを得ない。この状況に、戦車部隊は色々な意味で邪魔になると翼が彼らに撤退するよう告げた。

「この戦場はこちらで預かるッ! 撤退されよッ!」

 しかし戦車部隊の指揮官はそれに対して拒絶の姿勢を崩さなかった。

「国連直轄の先遣隊か? 我らは日本政府の指揮下にあるッ! 撤退命令は受けていないッ!」

「あの石頭共……! 状況分かってんのかッ!」

 戦車部隊の指揮官の返答に奏が吐き捨てた。一撃で戦車を数両軽々と粉砕出来てしまう威力のある光線を連射できる存在を前に、鈍足な戦車で何が出来ると言うのか。例え数発射撃を当てられたとしても、反撃で一網打尽にされるのが関の山だ。

 そんな事を奏達が考えていると、出し抜けに変身した輝彦が現れ次々と戦車の砲身を切り裂いた。突然の事態にハッチから身を乗り出していた指揮官が言葉を失っていると、その傍らに降り立った輝彦が指揮官の胸倉を掴んで持ち上げた。

「ならばこれで言い訳が建つだろう。失せろ、邪魔だ」

 そう告げて彼が突き放す様に指揮官を解放すれば、攻撃部隊は大人しく後退した。それを見送って、輝彦は奏達の元へと歩み寄る。
 やって来た彼の姿に、奏は何か進展があったのかと訊ねた。

「おじさん、颯人はッ!」
「すまない、まだ見つからないんだ。だが……」
〈ヴィジョン、ナーウ〉

 残念そうに首を振った輝彦だったが、続き彼が使用した未来視の魔法で見える景色は明らかにこの近辺で戦う颯人の姿だった。しかもその姿は、先日に比べて大分異形化が進んでいる。

「これって!?」
「経緯は分からんが、この近くに颯人が現れると言う事だ。闇雲に探すのは止め、ここで颯人を待つ。危険かもしれんがそれが確実だ」
「となると、先ずは先にヒビキを止めなくてはな」

 ガルドが見上げた先では、何処か警戒した様子でこちらを見る変異した響の姿がある。彼女達は顔を見合わせて頷き合うと、彼女を救うために動き出す。

「じゃじゃ馬馴らしだッ!」
「ハァッ!」

 クリスがボウガンで射撃しながら気を引き、その隙に翼が影縫いで動きを封じようとする。しかし影縫いは所詮対人戦用の技。神の力を前には一時的に動きを封じる以上の効果は望めず、力技で振りほどかれてしまった。

「~~~~ッ! アァァァァァッ!」
「やはり対人戦技では効果が望めぬかッ!」
「だけどこの隙を無駄にはしないッ!」

 マリアが短剣の間に光の膜を形成し、それで巨体となった響を包もうとする。その間にガルドと輝彦が魔法による攻撃で彼女の動きをその場に釘付けにしようとした。

〈エクスプロージョン、ナーウ〉
「アァァァァァッ!?」
「チッ、魔力温存の為に威力を押さえているとは言え、軽く仰け反る程度か」
「だが動きは止められているッ! 今ならッ!」

 彼らの行動が功を奏し、響の巨体をマリアの光の膜が包み拘束した。光の膜でグルグル巻きにされた響は、拘束から逃れようと藻掻き暴れ始める。

「止まれぇぇぇぇぇッ!」
「アアァァァァァァァァッ!」

 動きを拘束されながらも、抵抗しようと口から光線を放とうとする。それを察して、輝彦と透、ガルドの3人が魔法の鎖を響の頭に巻き付けて思いっ切り顔を仰け反らせた。

「させるかッ!」
〈〈チェイン、ナーウ〉〉
〈バインド、プリーズ〉

 顔をのけ反らされた事で光線は空の彼方へと消えていく。幸いな事に今度は射線上に衛星がなかったのか、何処の国の衛星が破壊されたなどの報告は入ってこない。

 動きを封じられ、反撃も封じられたからか響は絶叫を上げて激しく暴れた。

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」

 響の拘束には成功したが、やはり相手は神の力を手にした存在だからか抵抗が激しい。マリア1人では止めきれずに振りほどかれてしまいかねない。
 それを放置する仲間達ではなく、切歌と調を始めとして装者達が彼女の元に集まり一緒に響を拘束するのを手伝った。

「ぐぅっ! ううぅぅっ!」
「マリアッ! 私達の力を……」
「束ねるデスッ!」
「1人ではないッ!」
「皆でアイツを助けるんだッ!」
「だから、戻ってこい響ッ!」

 装者達と魔法使い達の奮闘により、響の動きが止まった。この瞬間を彼女達は待っていたのだ。

「今だッ!」
「緒川さんッ!」

『心得てますッ!』

 戦車部隊が後退するのと入れ替わりで、この場に来た車両群があった。S.O.N.G.が指揮する特殊トレーラー達。その上部には、Anti LiNKERを注入する為のワイヤー付き巨大アンカーが搭載されていた。動きを止めた響の胸元に3発、尻に2発命中し、大容量の薬剤が注入される。それにより適合係数が急速に低下した事があおいにより知らされるが、同時に国連の協議が間も無く終了する事が八紘により伝えられた。もう一刻の猶予も無い。このままでは響個人を標的に、反応兵器が発射されてしまう。

 だと言うのに、この土壇場で何と響の適合係数が急上昇し始めた。神の力に備わる防御機構が、Anti LiNKERの理をリアルタイムで書き換えてしまったのだ。
 力を取り戻し拘束を引き千切った響により、彼女を拘束していた者達は諸共に振りほどかれてしまった。

「「「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」」」
「ぐっ!?」
「くそっ!? 何てやつだ……」

 圧倒的な神の力を前に、窮地に立たされる装者達。倒れた装者達に、響がダメ押しに光線を発射してきた。

 迫る光を前に、真っ先に前に出たのは奏であった。

「オォォォォォッ!」
[LAST∞METEOR]

 奏のLAST∞METEORが響の放った光線とぶつかり合う。神の力を前に、奏は1人食らい付き拮抗する。

「奏、無茶よッ!?」
「無茶でも何でも、やって見せるッ! まだこの後は、颯人を迎えに行かなきゃならないんだッ! だから……さっさと戻ってこい、響ぃぃぃぃぃっ!!」

 魂を震わせるほどの奏の叫び。それに反応したのか、響の動きが一瞬止まった。了子とエルフナインはそれに目敏く気付き、目を輝かせた。

「反応があった!」
「今です、未来さんッ!」

『響ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!』

 響に打ち込まれたのは、ただAnti LiNKERを注入する為だけのアンカーでは無かった。ワイヤーを通して伝わるのは、電気信号となって伝わる未来の声。それを聞いた瞬間、奏の声に鈍らせていた響の動きが完全に止まった。

『響ちゃんの活動、止まりましたッ!』
『適合係数の上昇によって、融合深度が増している今ならば、電気信号化された未来さんの声は依り代となっている響さんに捻じ込まれる筈ですッ!』

 これが響救出の為に導き出された結論だった。彼女を元に戻す為、自分を失った彼女に正気を取り戻させる為には、依り代となっている彼女の心を大きく揺さぶる必要がある。その為のAnti LiNKERであり、未来もその為に力を貸してくれた。
 神の力を、ただの人間の声により押さえつける。アダムがこの場に居れば信じられなかっただろうが、この光景を前に了子は1つの想いを抱いた。

――これも、愛のなせる業かしらね――

『今日は響の誕生日なんだよ? なのに……なのに、響が居ないなんて、おかしいよッ!』

 涙ながらの未来の声が、神の力に取り込まれた響の心に沁み込む。深い所に囚われた響の意識が、未来の声により引き上げられる。

『響……お誕生日おめでとうッ!……ううん、きっとこの気持ちは……ありがとう、かな?』

『響が同じ世界に生まれてきてくれたから、私は、誰かと並んで走れるようになったんだよ』

『誰かとなら、1人では超えられないゴールにだって届くかもって気付かせてくれた』

 ひたむきな響へと向けられた愛が、囚われた彼女の心を呼び戻す。

――未来ッ! 私の陽だまりッ!――

――響ッ! 私のお日様ッ!――

 響き合う2人の心に反応するように、神の力が形となった巨体が罅割れ崩れていく。

 その胸の部分から、気を失った響が解放された。彼女の解放に、未来はトレーラーから飛び出しゆっくりと降りてくる彼女を受け止める。

 その朗報は即座に本部へも届いた。

「響ちゃん無事ですッ! 生きてますッ!」

 届いた吉報に弦十郎が安堵に息を吐き出すと、正面のモニターに八紘の喜色を浮かべた顔が映し出された。

『こちらでも状況を確認している。国連による武力介入は、先程否決された』

 否決の裏にはこれまでS.O.N.G.が上げてきた功績に加え、斯波田事務次官が蕎麦のコシの強さの如く粘り強い交渉を続けてくれたおかげであった。

 人と人との繫がりが力となって、反応兵器の使用という最悪の事態を逃れられたと誰もが思った。

 その時…………

「太平洋上に発射された、高速の飛翔体を確認ッ! これは……!?」
『撃ったのかッ!?』

 最悪は、まだ過ぎ去ってはいなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第190話でした。

本作ではサンジェルマンが颯人捜索の為に尽力してくれている為、戦車部隊撤退の理由作りは輝彦に行ってもらいました。指揮官の胸倉掴んだりとちょっと乱暴ですが、彼としては一刻も早く颯人を見つけたいという思いとか苛立ちも混じっていた感じです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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