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幽霊列車の車掌

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第四章

「本当にね」
「よかったっていいますと」
 今度は葵が尋ねた。
「何がですか?」
「だから最後まで蒸気機関車の車掌でいられてだよ」
 車掌は葵の言葉にも答えた。
「それでだよ」
「よかったですか」
「いや、ディーゼルとか電車とかね」 
 車掌はどうにもという声で言うのだった。
「風情がないよね」
「それ私達も話してました」
「ここに来るまでに」 
 二人で車掌に答えた。
「幽霊列車って蒸気機関車ばかりだって」
「それは風情がないからかしらって」
「そうだよ、電車の幽霊列車なんてどうだよ」 
 車掌はどうにもという声のまま話した。
「新幹線とか」
「ああ、風情ないですね」
「どうにも」
 二人もそれはと答えた。
「はっきり言いまして」
「そういうのとは無縁です」
「だからね」
 二人にそれ故にと返した。
「私はよかったよ、生きてる時に電車とかを見ても思ったよ」
「風情がない」
「そうだとですね」
「確かに蒸気機関車は厄介だよ」
 この列車の問題点も話した。
「いつも煙出してね、しかも燃料の石炭がなくなると」
「動けないですね」
「そうなりますね」
「そうなるしね」 
 それにというのだ。
「電車はどの車両も燃料補給出来るね」
「パンダグラフからですね」
「走ってる限りいつも補給出来ますね」
「そうした便利なものだよ」
 文明の利器と言っていい電車のその利点のことも話した。
「凄くね、しかしね」
「風情がない」
「どうしてもですね」
「そうだよ、だからね」  
 この風情から言うのだった。
「正直蒸気機関車が現役の間に定年迎えられてよかったよ」
「そうですか」
「そう言われますか」
「うん、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「今もこうしてだよ」
「蒸気機関車乗ってますか」
「幽霊列車に」
「蒸気機関車も引退したけれど」
 ディーゼル機関車や電車に譲ってのことであるのは言うまでもない。
「まだ走りたい車両があって」
「それで、ですか」
「幽霊になってですか」
「走ってるんだ、環状線をぐるぐるとね」
 大阪市内を回るこの車両をというのだ。
「回っているよ」
「そうなんですね」
「今からそうされるんですね」
「毎晩ね、ただ」
 車掌は二人にこうも言った。 
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