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栄光の架橋

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第一章

                栄光の架橋
 俵嗣光、初老のサラリーマンで生まれてから大阪でずっと暮らしている彼はゆずには興味がなくてだ。
 曲名を言われてもだ、その四角く丸眼鏡をかけたややひょっとこに似た髪の毛が薄くなってきた顔で言うのだった。背は一七〇位で太っている。
「いや、わしゆずはな」
「知らへんですか」
「ちょっと興味がなくてな」 
 カラオケボックス等で職場の若い子にいつも言っていた。
「知らんわ、十代の頃はボーイとかチェッカーズでな」
「布袋寅泰とか藤井フミヤですね」
「そうした歌手が好きでな」
 それでというのだ。
「エックスジャパン、あとスピッツやな」
「スピッツいいですよね」
「何か二千年代以降は娘が好きで」 
 それでというのだ。
「特撮とかアニメの曲な」
「よく聴かれますか」
「そうしてるわ、まあこれでも色々と聴くつもりやが」
 それでもというのだ。
「ゆずはな」
「知らへんですか」
「そやから歌えんわ」
 こう言うのだった。
「ジャニーズもスマップとかトキオはええが」
「平成ジャンプは」
「ちょっとな」
「そうなんですね」
「それでゆずの曲は歌えんから」
 それでというのだ。
「若い子で歌ってや」
「わかりました」
 職場の若手の子達はいつもこう応えた、兎角俵はゆずというアーチストには興味がなかった。それは一生だと思われた。
 だがそのニュースを聞いて彼は深刻な顔になって言った。
「横田選手引退か」
「はい、脳腫瘍らしくて」
「まだ若いやろ」 
 会社の後輩に話をされて項垂れて言った。
「ほんまな」
「そうですよね」
「それで脳腫瘍ってな」
「大変ですね」
「引退しても病気に打ち勝ってな」
 そうしてと言うのだった。
「それでや」
「長生きして欲しいですね」
「ほんまな、まだ若いさかい」
 兎角このことを思うのだった。
「是非な」
「頑張って欲しいですね」
「これからもな」 
 こう言うのだった、生まれついての大阪人に多いが彼は阪神ファンなので切実に思うことだった。そして。
 彼の応援局についてもだ、ここで思うのだった。
「そういえば横田選手の曲ゆずの曲やったな」
「栄光の架橋ですよね」
 会社の若いOLの娘が応えた。
「確か」
「そやったな、何の曲かと思ってたら」
 それがというのだ。
「ゆずの曲か」
「そうですね」
「わしゆずには興味なかったけど」
 それでもと言うのだった。
「横田選手の曲やと思うとな」
「思うところありますか」
「ちょっと頭の中に入れとくわ」
 横田慎太郎の曲がゆずのその曲であることをというのだ。
「そうしてくわ」
「そうですか」
「これからはな」
 こう言うのだった、そのうえで日常を過ごしていった。仕事に家庭にと忙しく世相の暗さにも気を病んでいながらだった。 
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