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神の宿る木

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第三章

「夫婦は共にいると何かとあるというからな」
「それはその通りだ」
「実際夫婦では何かとある」
「あり過ぎて困る位だ」
「そうであるな、だからな」
 ヴィシュヌは落ち着いた声で述べた。
「私はこのままだ」
「ラクシュミー女神を探していくか」
「あらゆる世界を巡り」
「そうするか」
「そうしていく」
 こう言って木を探し続けた、そしてだった。
 ある世界でだった、彼はアシュヴァッタ、インドボダイジュと呼ばれる木のうちの一本の前に来てだった。
 その木の幹に右手の平を触れさせてだ、微笑んで言った。
「ラクシュミー、遂に見付けたぞ」
「よくぞ見付けて下さいました」
 この言葉と共にだった。
 ラクシュミーが木から浮き出る様に出て来た、そのうえでヴィシュヌに対して微笑んで言ったのだった。
「ここまで諦められることなく探して下さるとは」
「焦りや諦めは禁物と思いつつだ」
 ヴィシュヌはラクシュミーに彼も微笑んで答えた。
「探していた」
「あらゆる世界を巡って」
「神々の時間は無限、焦ることはない」
 こうも言ったのだった。
「そしてこの程度で焦ったり諦めたらな」
「それならですか」
「夫婦は共にいられるか」
 ラクシュミーにも言った。
「果たして」
「それは出来ないですね」
「だからだ」
 それ故にというのだ。
「私は心掛けてな」
「私を探してくれましたか」
「そうだ、それでこれでだな」
「はい、私を貴方の妻にお迎え下さい」
 ラクシュミーはヴィシュヌに畏まって応えた。
「どうか」
「うむ、これから宜しく頼む」
 ヴィシュヌも答えた、こうしてだった。
 二柱の神々あ夫婦になった、これがヴィシュヌとラクシュミーが結婚し夫婦になるまでの話である。
 以後ラクシュミーは富と吉を司る女神となった、そして彼女が宿っていたインドボダイジュの木も大事に扱われる様になった。そしてヴィシュヌの転生した姿の一つだとされている釈迦の入滅も見守ったのだった。インドに伝わる木の話の一つである。


神の宿る木   完


                   2023・7・12 
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