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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
ムオル〜バハラタ
  父の軌跡・後編(ユウリ視点)


 ムオルでの用事を終え、あとはヒックスたちの待つ船に戻るだけだったのだが、かつてこの村にいたと言われるポカパマズという人物が俺に似ているという謎を突き止めるため、俺たちは当時ポカパマズを介抱したという防具屋の店主に詳しく話を聞くことにした。
「やっぱりユウリも気になってたんだね」
 荷馬車を材木屋に一度預けたあと、歩いて防具屋に向かう道すがら、隣を歩いていたミオが期待に満ちた目で話しかけてきた。
「実は私もどうしてユウリがポンポコペンさんって言われてるのか知りたかったんだ」
 もはや原型をとどめてないぞ、ボケ女。
「あたしもユウリちゃんがなんでポコパンペスさんって呼ばれてるのかすっごく気になるもん☆」
 お前も覚える気ないだろ、ザルウサギ。
「なんだ、お前らもそうだったのか。オレもこいつがポンコツバカボケ勇者って言われてるのが気になって……」
「イオラ」
「ぎゃあああああっっっ!!」
 今までのストレスを発散させるかのように、俺は無数の爆発を生む呪文をバカザルに叩き込んだ。本来なら防御力の高い魔物でも致命傷を負わせることの出来る呪文だが、こいつに当てるときはいくらか威力を抑えている。とは言え無傷なのも俺の気が収まらないので、対象者の髪の毛をカリフラワーにさせるくらいのダメージは与えている。
「ナギちんの頭がブロッコリーみたいになっちゃってる!!」
「どうしよう、ナギが黒焦げのまま動かないんだけど!! ちょっとユウリ! いくらなんでもやりすぎだよ!!」
 ブロッコリーでもカリフラワーでもどちらでもいいが、そんなに騒ぎ立てるほど大したダメージは与えていない。そもそもバカザルが俺を馬鹿にした言い方をしたのが悪いんだ。俺は女二人に目くじらをたてられながらも、ふんと鼻を鳴らした。
 しばらく歩いていくと、道具屋が見えてきた。そこを左に曲がり、目に留まった看板を注視すると、防具屋らしき看板を見つけた。
 店の中に入るとまず目に飛び込んできたのは、カウンターに目立つように置いてある、古びた兜の存在だった。
「いらっしゃい!! おや、ポカパマズさん!!」
 防具屋の店主の全く予想を裏切らない反応に、俺は心の中でため息をつく。
「すまないが、人違いだ。俺はアリアハンから来たユウリという者だ」
 俺はポカパマズなる人物との違いをはっきり知らしめるため、先程と同じようにあえて出身地を名乗った。さすがに二人とも同じ出身地などという奇跡なんて起こらないだろう。そう思っていたが……。
「アリアハン!? ポカパマズさんと同じところから来たんですね!!」
「なっ!?」
 ポカパマズって奴もアリアハン出身なのか!? 俺は驚愕のあまり言葉を失う。
「その髪と目の色は、ポカパマズさんにそっくりですね。ひょっとして身内か何かですか?」
「!!」
 身内、という言葉に、ようやく俺は一つの可能性に思い至った。
 俺は昔からよく母親似だと言われていたが、母親の髪は青みがかった黒髪に、ライトグレーの瞳。対して俺は、茶色がかった黒髪に、ダークブラウンの瞳である。母親でないとすれば、まさか……。
 その瞬間、今朝がた見た夢の一部が脳裏に浮かぶ。火山の山頂で魔物と戦うあの黒髪の男。それは俺が幼いころ、母親のもとへとやってきた一人の城の兵士が口にしていた特徴とうり二つだった。
「あのー……?」
 防具屋の店主が訝しげに窺う。はっとした俺は、咄嗟に言い訳を言おうとするが、上手く言葉に出すことができないでいた。
「彼の国じゃあ、こう言う髪と目の色は珍しくないんだよ☆ ね、ユウリちゃん?」
「あ、ああ」
 機転を利かせたシーラが代わりに答えてくれた。こいつに助けられるなんて、今日の俺はどうかしている。
「あの、私たち、その人のことについて詳しく聞きたいんですけど、その人はいったいどういう人だったんですか?」
 さらにミオが話を促してくれたおかげで、怪訝な顔を向けていた店主の警戒心が若干緩む。こいつにまでサポートされるとは我ながら情けない。
「確かポカパマズさんがここにいらしたのは、十年以上前のことです。ちょうど私は幼い息子と散歩をしていたんですが、村の入り口付近を通りかかったところ、彼が倒れていました。体中傷だらけで、私が呼びかけても全く返事がなかったんですが、幸い息はありましたので、急いで助けを呼び、家へと連れ帰ったんです。一目見て彼が歴戦の戦士だということはわかりましたが、なぜあれほどまでに傷だらけだったのか、結局彼は打ち明けてくれることはありませんでした」
 戦士なら魔物と戦うことには慣れているはずだが、手強い魔物にでも襲われたのだろうか。
「それから彼の傷が癒えるまで、私たちは懸命に看病しました。当時ここには回復呪文を使える人もいなかったのでだいぶ時間はかかりましたが、二か月ほどで完全に回復できました。ですが、怪我が治ってすぐに、彼はまた次の場所に行くと言って村を出てしまったんです」
「どこに行ったかは、わからないか?」
「はい、何も……。ですが、回復する間、息子のポポタにはとても優しく接してくださいました。まるで故郷に残した自分の息子を見ているようだと」
 その時俺は、夢の中の男の正体に気づいた理由を導き出していた。
「……そうか、ありがとう。仕事中邪魔したな」
 俺は店主に礼を言い残すと、背中を向けた。
「あの、もしアリアハンに戻ることがあるのなら、この兜をポカパマズさんに渡してもらってもいいですか?」
 店主の言葉に振り向くと、カウンターに堂々と置かれてある兜に目をやった。
「その兜は?」
「これはポカパマズさんが被っていた兜です。てっきり身につけて行くのかと思ったんですが、どうやら忘れてしまったようで、私の店に置いて行ってしまったんです」
 その不思議な存在感に目を奪われた俺は、吸い込まれるように兜に手を伸ばした。俺の頭より一回り大きなその兜は、あちこち傷だらけではあったが、壊れてはいない。むしろちょっとした町の防具屋に置いてあるものよりもしっかりとした作りだった。
 ふと兜の内側を見てみると、小さく文字が彫られている。暗くてよく見えないが、目を凝らしてみるとそれは文章のようだった。
「どうしたの?」
 俺の様子が気になったのか、間抜け女も一緒になって兜を覗き込む。いや、だからなんでお前はそんなに近いんだ。
「えーと、『親愛なる妻エミリア、そして息子ユウリへ』」
『!?』
 その一言に、全員がはっと息を飲んだ。
「……ユウリ、って……」
 文字を読んだミオも、戸惑いを隠せない様子で俺の方を見る。
「ひょっとしてポカパマズさんて、ユウリちゃんの……」
 シーラの言葉の続きを、俺が引き取る。すでに答えはわかっていた。
「ああ、俺の親父だ」



 俺の父親……オルテガは今から十三年前、魔王を倒しに行くと言い、家族を残し単身旅に出た。それから三年後。俺が六歳のとき、本人が家族の元に帰ることはなく、アリアハンの兵士によってオルテガの訃報は伝えられた。このときの兵士の話が、今になって夢の中に現れたのだろう。
 そのときの俺は、生まれてから今までほとんど会ったことのない父親が死んだと聞かされても、悲しいと言う感情は湧かなかった。それよりも、俺の横で俯き、止まらない涙を必死に抑えている母親の方が心配だった。むしろ母親を泣かせたそいつの存在を、疎ましいとすら思っていた。
 訃報を受けたあと、母親は俺のことを想ってか、気丈に振る舞ってはいたが、どこか無理しているように見えたのを覚えている。
 対して同居している祖父は、息子が魔王討伐に失敗したとわかった途端、俺を次の勇者に仕立て上げようと奮起した。アリアハンの王国騎士団で兵をまとめていた祖父は権限もそれなりにあったのか、平気で兵舎に俺を連れてきては、自分の部下と俺を戦わせた。
 今思えば、魔王を倒すのに失敗した息子の汚名を、俺の名で晴らしたかったのかもしれない。もしくは息子を失った悲しみを俺と言う存在で憂さ晴らししていたのだろう。どちらにしろ、俺は今でもあのジジイに同情も尊敬も持つことはなかった。それほどまでにあのジジイが俺に向けた指導は、理不尽で非合理的で、耐え難いものだったからだ。
 だが皮肉にもジジイのおかげで、俺は嫌でもレベルを上げさせられた。十二歳でレベル25を越え、その三年後には30にまで達した。
 人間そこまで強くなると、自分が世間でどのくらい強いのか、嫌でも知りたくなってくる。それが自分の意思ではなくても、努力と時間を費やしたのは紛れもない事実だからだ。
 そんな適当な理由で、俺はある日、魔王を倒す決意をした。人生を変える決断にしては、随分とあっさりしていると、今でも自嘲している。今ごろになって気づいたが、もしかしたら無意識にジジイから逃げ出したかったからなのかもしれない。
 そんな理由もあったからか、俺が突然父親の残した軌跡を目の当たりにしても、感情的になることはないと思っていた。……そのはずだったのだが。
「ユウリ、ユウリ!!」
 肩を揺さぶられ、俺は我に返る。正面に見据えているミオの顔に焦点を合わせると、彼女はほっとした顔をした。
「やっぱりユウリ、様子が変だよ。本当に大丈夫?」
「ふん。お前に心配されなくても俺は大丈夫だ」
 俺は兜を置くと、店主に向かって言い放った。
「悪いが、この兜は渡すことはできない」
「え!?」
 突き放すかのような俺の言葉に、店主は一瞬たじろぐ。話の意味を理解できないようだった。
「もうそいつはいない。渡す相手がいないのだから、持っていっても無意味だろう」
――だって親父は、ネクロゴンドの火山で魔物と共に火口へと落ちてしまったのだから。もう二度と故郷に帰ることはない。そんな奴に、どうやってこの兜を渡せと言うのか。
「い、いないってそんな……。まさか!!」
 意図を汲み取ったのか、店主の顔が次第に青ざめていく。その様子を、俺はただ傍観者のように大して興味も持たず眺めていた。
 すると、店の奥から静かに扉が開く音が聞こえた。
 顔を出してきたのは、ルカと同い年か、少し上くらいの少年だった。彼は見慣れない人間にも臆することなく、じっとこちらを見つめている。やがて俺と視線がかち合うと、一瞬呆けた表情になった。
「あれ? お兄さん、何処かで見たことあるような気がする」
 防具屋の店主と目鼻立ちがそっくりな彼は、十中八九店主の息子だろう。彼は俺をまっすぐに見つめると、カウンターにいる店主のそばまで近づいてきた。
「こら、ポポタ。仕事中に入ってきちゃいかん」
「父ちゃん。この人誰?」
 父親の制止を無視し、ポポタと呼ばれた少年は俺を指差してそう言った。ここは俺が答えるべきなのか、判断に迷っていると、先に父親が口を開いた。
「この人は、ポカパマズさんの息子さんだそうだ」
「えっ!? そうなの!?」
 この年代でポカパマズのことを知っている人間に会うのは初めてだった。ポポタと呼んでいたと言うことは、この少年が――。
「ポカパマズさんのことを知ってるの?」
 ミオが少し背の低いポポタの視線に合わせて尋ねる。
「うーん、小さい頃の話だからあんまり覚えてないけど、父ちゃんがよく言ってた。僕が赤ちゃんのとき、その人に遊んでもらってたって。だよね? 父ちゃん」
「あ、ああ。先ほども言いましたが、ポカパマズさんは村を出るまでの間、よくポポタの面倒を見てくれてました。ポポタに会うたび自分の息子を思い出すと仰ってましたが、それはあなたの事だったんですね」
「……」
 胸の奥に刺さる小さな違和感に、俺は心の中で頭を振る。
 すると、何を思ったのか店主は親父の兜を持ち上げると、俺の目の前に差し出した。
「ユウリさん。これはやはりあなたが持つべきです。おそらくポカパマズさんは、この日のために兜を置いていったんですよ」
「いや、俺は……」
「ユウリ。私もこの人の言うとおりだと思う。だからユウリのお父さんはその言葉を残したんだよ」
 横から口を挟んできたミオを一瞥すると、彼女はいつになく真剣な眼差しで俺を見据えている。
――こいつには見透かされたくない。俺は無意識に顔を背けた。
「ポカパマズさんがお兄さんの父ちゃんなら、きっとその兜はお兄さんに似合うと思うよ!」
 そう言うと、ポポタまでもが俺に兜を受け取るよう勧めてきた。
 ちらりと横目で見ると、後ろにいるシーラとバカザルも同じような雰囲気で俺を見ている。
 いつもならこんな状況などはねのけて、自分の意思で決めるところなのだが、この時の俺には、いったい何が正解なのかわからなかった。
「……わかった。その兜は俺がもらう」
 長考した挙句たどり着いた結論は、ポカパマズ……いやオルテガを父親だと認めることだった。
 人生でほとんどかかわりのなかった父親の存在をこんな形で認めることになるのは些か不本意だが、悩んだ末に母親の姿が思い浮かんだ瞬間、これは俺だけの問題ではないのだと気づかされた。
 あの時親父の訃報を聞いた母親が、本当にすべてを受け入れていたのか。俺の前では吹っ切れた様子だったが、本当はどう思っているのかわからない。だが、この兜に込められたメッセージを伝えることができたら、何か変わるのではないだろうか。
「そうですか! きっとポカパマズさんもお喜びになると思いますよ」
 店主は安堵した様子で兜を俺に渡した。ずしりと手にかかる兜の重みが、兜だけのものではないような気がしてならない。
「お兄さん、ポカパマズさんに会ったら、よろしく言っといてね!」
「こら、ポポタ!!」
 しっ、と嗜める店主に、息子はなんだかわからないといった様子で口を噤む。そしてそのまま店の奥へと戻っていった。
「すみません。どうかお気を悪くされないでください」
「構わない。こっちこそ気を使わせてしまってすまない。……ありがとう」
「とんでもない! ここでお会いできたのも何かのご縁です。道中お気をつけて」
 店主に礼を言うと、親父の兜を受け取った俺たちは防具屋を後にした。



 あれから荷馬車を取りに行き、ムオルを出たあと港町へと向かった。材木の仕入れを頼んだ船大工に話を付け、ついでに道中遭遇した魔物を討伐したことを伝えると、船の修理に必要な材料を全て無料にしてもらうことが出来た。
 港に戻って早速船へ向かうと、俺たちの到着を待ちわびていたかのようにヒックスたちが集まってきた。
「おかえりなさい、ユウリさん!」
 俺は返事の代わりに荷馬車から荷を下ろした。他の三人も協力して一斉に船の前に並べる。
「ありがとうございます!! すぐに修理に取りかかります!」
 ヒックスの言葉を合図に、他の船員も皆一斉に持ち場へ向かった。
「そんじゃあ、オレはこの荷馬車を返してくるわ」
「あ、じゃあ私も行くよ」
 バカザルたちが船大工の店に行くのを見送ったあと、俺はずっと小脇に抱えていた親父の兜に目をやった。
 あちこち傷が付いているが、防具屋の店主が手入れをしてきたからか、状態はかなりいい。だが、なんとなく装備する気にはなれず、片手を塞いでまでずっと持ち歩いていたのだ。何よりデザインが古くさくて、人前で身に付けるのは抵抗があった。
 結局この俺とおふくろの名前しか刻まれていないメッセージの意図はわからないままだ。そもそもこんな一生訪れないかもしれない辺鄙な場所に兜を置いとく理由も不明だが、親父なりに考えがあったのかもしれない。……出会った人々の話を聞く限り、そこまで考えるような性格とも思えないが。
「ユウリちゃんは、お父さんが嫌いなの?」
「!!」
 兜に気を取られ、すぐ横にシーラがいたことに気づかず一瞬身体をびくつかせる。
「……嫌いとか、そういう感情はないな。強いて言えば、『無関心』だ」
 普段なら『お前には関係ない』と突っぱねるところだが、今日の俺は調子が悪い。こいつに助けてもらったこともあり負い目を感じた俺は、素直に心の内を吐露した。
 俺の回答に、シーラは僅かに目を見張った。そしてすぐに寂しそうに俯く。
「そっか。ユウリちゃんらしいね」
 何をもってこいつはこんなことを聞いてきたんだ? 彼女の意図がつかめず、俺は無言で彼女を見つめる。
「あたしもいっそ、無関心になれたら良かったのに」
 その時、ダーマでの出来事が思い起こされる。こいつがダーマの大僧正である父親をどう思っているかは知らないが、少なくとも父親はこいつに愛情を持って接してはいない。本当は聡明な彼女も、その辺りはわかっているはずだ。
「お前は、父親のことを嫌いになれないのか?」
 俺の問いに、彼女は閉口する。別に答えを求めているわけではないのだが、特に他に話すこともないので沈黙していると、
「……そうだね。あたしはただ、普通に家族として愛されたいだけなんだと思う」
 そうためらいがちに答えた。
「そうか」
 俺には父親なんていないも同然だから、父親に対する愛情なんてものは持ち合わせていないが、それが母親だと置き換えて考えたら、こいつの言うことも少しは納得できる。
「だからかな。時々ミオちんやナギちんが、羨ましいって思うときがあるの」
 確かに間抜け女の家族なんかはきっと、理想の家族なんだろう。バカザルも父親はいないが、ナジミの塔のジジイや母親はバカザルのことを考えて行動しているのがわかる。
「子供は親を選べないからな。俺も未だにジジイに対しては嫌悪感しか持てない」
「それってユウリちゃんのお祖父さんってこと? そんなにひどい人なの?」
「今思い出せるだけでも十回は殺されかけたな。勇者の修行とは名ばかりで」
「うわあ……。結構壮絶な人生歩んできたんだね」
「お前も似たような立場だと思うが」
「あたしなんか気楽なもんだよ。弟のマーリンの方が色々背負わされて大変だと思う。あたしは逃げただけだから」
「弟のあの性格ならそうでもないと思うけどな」
 俺のもっともな感想に、なぜかシーラは苦笑する。そして、何か思い付いたように目を輝かせた。
「そうだユウリちゃん。ミオちんのところに婿入りすればきっと楽しいと思うよ♪」
「何の話だ!?」
 突拍子もない発言に、俺は思わず声を荒げる。だが、目の前の賢者は俺の反応を楽しむかのようにニヤニヤしている。
「あたしたちが知らない間にるーくんとも仲良くなってるし、いい義兄弟になるかもよ?」
「お前……やっぱりアルヴィスたちと同じ人種なんだな」
「だって二人とも、全然進展ないんだもん。超ド級に鈍いミオちんはともかく、ユウリちゃんはもっと素直になんなきゃ」
「大きなお世話だ。それに、今は色恋沙汰より魔王を倒すためにやらなきゃ行けないことがある。下らん感情に振り回されて命を落とすことになったら元も子もないだろ」
 そう、魔王を倒すのに、余計な感情は必要ない。一度芽生えたあいつに対する感情も、今は捨てた。そうしなければ、先へ進むことは出来ないからだ。
「うん。でも、否定はしてないよね。自覚はあるんだ?」
「……これ以上余計なことをしゃべったら、今まで立て替えてた分の酒代払ってもらうぞ」
「すいません出過ぎたことを言いました!!」
 あっさり訂正するザルウサギに、俺は呆れた顔で息を吐く。
「お待たせ~! ……二人とも、何かあった?」
帰ってくるなり、ミオは俺たちを見渡して訝しげな顔をした。
「別に。こいつが今まで俺が立て替えてた酒代を払うって話をしただけだ」
「そんな話してないよ!! ユウリちゃんの意地悪!!」
 怒りを露にしながら俺に文句を言うシーラ。そこへ何も知らないバカザルがやってきた。
「お? 何か知らねえけどこの陰険勇者に苛められたのか? なんならオレがカタキを……」
「ベギラマ」
 ごおおおおっっっ!!
「いや今のナギ全然悪くないよね!?」
 やれやれ、うるさい連中だ。おちおち感傷に浸る余裕もない。
 俺はすっかり忘れ去られた兜を再び小脇に抱えると、一足先に船へと戻った。

 
 

 
後書き
ムオル編、終わりです。

ちなみにユウリの母はアリアハン一の美人で、オルテガの一目惚れでした。
うちのオルテガは面食いです。 
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