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イベリス

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第百二十七話 告白その五

「何でもな」
「よくないですね」
「ああ、それで問題はヒヤシンスだな」 
 咲がカウンターの自分の席の横に置いたそれを見て言った。
「どうするかだな、幾らだったんだ」
「それは」
 咲は値段を話した、するとマスターはすぐに言った。
「その値段で買っていいか」
「いいんですか?」
「捨てたら駄目だろ、花だって生きてるしな」
 命あるものだというのだ。
「それに捨てるとその時はよくても後でな」
「何かありますか」
「あの時捨てなければよかったってな」
 その様にというのだ。
「こうした時は思うんだよ」
「そうなんですか」
「やけっぱちになって捨てたらな」
 そうすると、というのだ。
「後で後悔するものだ」
「捨てなければよかったって」
「だからな」
「捨てないでおくことですか」
「俺がその値段で引き取るな」
 咲が買ったそれでというのだ。
「それで家で飾るな」
「マスターの」
「店には飾らないでな」
「いいんですか?買ってくれて」
「俺も花好きだしな、奥さんだってな」 
「お好きですか」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「買わせてもらうな」
「有り難うございます」
「礼はいいさ、むしろな」
「むしろ?」
「謝らないとな」 
 こう咲に言うのだった。
「断わられたんじゃないだろ」
「はい」
 それはと答えた。
「告白しようとしたらお相手の人と一緒にいるのを見ました」
「そうだったんだな、いや御免な」
 マスターはここで咲に謝罪した。
「俺もまさかな」
「相手の人がおられるとはですか」
「知らなかったよ、それでな」
「私にですね」
「告白してもいいって言ったよ」
「マスターは悪いことしてないです」
 咲は俯きながら答えた。
「全く」
「そう言ってくれるかい?」
「事実ですから」 
 こう言うのだった。
「というか誰も悪くないですよね」
「俺を悪くないって言ってるくれるならな」
「はい、ただ私が失恋しただけで」
「相手の人がいてもとはならないな」
「ならないです」
 それははっきりと否定した。
「私は」
「それはいいことだよ、相手がいたらな」
「引き下がることですね」
「恋愛にルールはないって言ってもな」 
 それでもというのだ。
「守らないといけないものってのはあるんだよ」
「相手の人がいるとですね」
「引き下がるのもな」
「守らないといけないことですね」
「そうだよ、人の相手を取るなんてな」
 そんなことはというのだ。 
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