軍鶏鍋

「武市は暗殺に溺れたが」
「そういえばあの者は聞きませぬ」
「そうしたことをしたと」
「勤皇の者でも」
「人を直接手に欠けたとも聞きませぬ」
「武市それに薩摩の西郷殿ならわからぬ」
　後藤は彼等の名前もここで出した。
「確かに西郷殿は大器だが」
「はい、しかしその反面です」
「清濁併せ呑む方なので」
「必要とあれば刺客も送ってきます」
「事実傍にそうした御仁もいます」
「大久保殿が策を出すというが」
　大久保一蔵、西郷の幼馴染みにして常に彼の傍にいて軍師として彼を支えているこの人物がというのだ。
「どうも実はな」
「そうしたことは西郷殿が考えて」
「そして周りに言っていますね」
「刺客を送ることは」
「暗殺は」
「そうだな、しかしあの者は違う」
　龍馬、彼はというのだ。
「確かに剣の腕はかなりで短筒も持っているが」
「それでもですか」
「そういったものを暗殺には用いぬ」
「左様ですか」
「うむ、大丈夫だ」
　周りに確かな声で言った。
「だからな」
「それで、ですか」
「あの者と二人で会って」
「そして話をしますか」
「そうしてくる、わしもそれ位出来ずしてことを為せぬ」
　後藤はこうも言った。
「だから会って来る」
「わかりました、ではです」
「その様にされて下さい」
「二人で会われて下さい」
「それではな」
　こうしてだった。
　後藤も龍馬と会うことにした、そしてだった。
　彼は龍馬と二人で会って話すことにした、龍馬がいる旅館の入り口までは家老という立場から供の者達がついていたが。
　彼等を旅館の傍の茶屋に入れて休ませ自身は龍馬の部屋に向かった、そこに入ると龍馬が鍋の用意をしていた。
「おお、来たのう」
「？何だそれは」
　後藤はその鍋を見て言った。
「一体」
「これは軍鶏鍋ぜよ」
「鶏肉なのはわかったが」
「いや、わしはこれが好きでのう」
　それでとだ、龍馬は後藤に鍋の用意を進めつつ答えた。