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ニレの若木

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第一章

                ニレの若木
 トロイヤ戦争においてトロイアの若き将軍プロテシラオスは最初の海岸での戦いで死んでしまった。それを受けてトロイア軍を率いるヘクトールはその雄々しい顔を項垂れて言った。
「これからだったが」
「はい、残念です」
「あの様な優れた若者を失うとは」
「最初の戦いでそうなるとは」
「無念です」
「しかもだ」
 ヘクトールは周りに話した。
「プロテシラオスは結婚したばかりだった」
「ラオダメイア殿と」
「そうされたばかりでしたね」
「それなら尚更です」
「残念なことです」
「この死は私が伝える」
 軍を預かる者としてだ、ヘクトールは言った。
「そうする、では死んだ者達の亡骸を持って帰ってだ」
「はい、帰りましょう」
「トロイアに」
「今は」 
 周りも頷いてだった。
 死んだ者達プロテシラオスも含めてその亡骸を連れ帰って街に戻った、そしてヘクトールは死んだ者達の家に赴いてだった。
 その死を伝えた、そこでだった。
 ラオダメイア、長い腰までの黒髪に楚々とした灰色の目に白い肌と彫のある顔に気品をまとわせた長身の見事な肢体の彼女に話すと。
 その場で泣き崩れた、ヘクトールはその彼女に言った。
「手厚く葬る」
「はい、ですが」
「どうしたのだ」
「実は私は病を得ていまして」 
 ヘクトールにこのことを言うのだった。
「あと少ししかです」
「生きられないのか」
「その私の最後の願いですが」
「それは何だ」
「少しでいいですから」 
 こう言うのだった。
「あの人に会いたいです」
「そうなのか」
「実はあの人の像もです」
「造らせているか」
「ですから」 
 それでというのだ。
「その像にです」
「プロテシラオスの魂をか」
「込めて頂ければ」
 そうすればというのだ。
「私はもうです」
「いいのか」
「もう長くはないですから」
 それ故にというのだ。
「もうそれで、です」
「そうか、ではな」
 ヘクトールはその申し出を受けた、それで彼女をゼウスの神殿に連れて行って願いを話させるとだった。
 オリンポスでその声を聞いたゼウスは自ら冥界に行ってこの世界を治めている冥界の神ハーデス自分の兄弟でもある彼にこのことを話した。
「どう思うか」
「お主も思うところがあったからここに来たな」 
 ハーデスは事情を話した兄弟神にこう返した。
「そうだな」
「うむ」
 その通りだとだ、ゼウスは答えた。
「その通りだ」
「余命幾許もないか、ではな」
「最後の願いとなる」
「ではいいだろう、その女の夫の魂を一時な」
「冥界から出してか」
「女に会わせよう」
 こう言うのだった。
「そうしよう」
「うむ、ではな」
「夫の魂をその像に入れる」
 この断を下した、そうしてだった。 
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