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傀儡

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第四章

「座っているだけと言われても」
「それなりの奴じゃないと出来ないですね」
「自分がお飾りだと思ってそこにいる」
「大事な時は特に」
「それで判子も押す」
「そうした奴じゃないと出来ないですね」
「そのことがわかった」 
 渡部は後悔と共に言った。
「本当にな」
「そうですね、全くの無能は傀儡も出来ない」
「むしろ傀儡はそれなりに有能ですね」
「自分が何なのかちゃんとわかっている」
「それ位でないと」
「傀儡をするのも難しい」
 渡部はこうも言った。
「選ぶのもな」
「誰でも出来るものじゃない」
「そうですね」
「傀儡もそれなりの能力があって」
「責任感もないとです」
「務まりません」
「とても」
「総理大臣でもいたな」 
 渡部はある輩も思い出した。
「あんなのが」
「ああ、あいつですね」
「鳥みたいな名前で元学者だった」
「祖父さんも総理大臣だった」
「東大出たあいつですね」
「あいつもな」
 この輩もというのだ。
「ああだな」
「ですね、今も好き勝手言ってますからね」
「おかしなことを」
「あいつも傀儡すら務まらなかったです」
「とても」
「座って判子押すだけでもいいんだ」
 その能力はというのだ。
「三国志の劉禅さんはそうだったな」
「よく駄目だと言われますけれどね」
「あれで三国で一番弱い国四十年もたせてますし」
「残酷でも暴虐でもなくて」
「信頼する相手に任せる度量もあって」
「今思えばそれなりだったな」
 劉禅、彼もというのだ。
「だから孔明さんも仕えたな」
「不平不満言わなかったみたいですね」
「劉禅さんが信頼してくれたんで」
「むしろそれに応えようとしていましたね」
「劉禅さんにしても」
「劉禅さんはそれなりだったよ」
 そう言える能力があったというのだ。
「値頃と違ってな」
「ですね、全くの無能は傀儡も出来ない」
「それこそ何も務まらない」
「そうですね」
「ああ、今更わかったよ」
 渡部は苦い声で言った、そしてだった。
 かつての部下達と共に居酒屋で飲んだ、その店の酒はいいものであった筈だが美味いと思わなかった。彼等はそれから美味い酒を飲むことはなかった。だが他ならぬ値頃は酒を飲んでまずいと思うことは生涯なかった。


傀儡   完


                   2023・5・16 
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