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俺屍からネギま

作者:ゴン
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一族そして誕生

朱点童子討伐を終え、宿願を果たしたにも関わらず…御陵一族は悲しみに暮れていた。


何故なら、朱点童子討伐の立役者であり、今まで御陵一族を引っ張ってきた当主が亡くなってしまったのだ。
それは朱点童子との激戦で当主は重い傷を負っていたのだ。確かにあの時、当主は四人の中で最も余力があった……いや、余力があるように見えただけなのだ。短期間の内に、幾度も出陣し多くの大ボス格の鬼達を倒した上で朱点童子を討伐したのだ。

簡単に出来る事ではない。

何よりも御陵一族の人間は、短命の呪いで長くは生きる事が出来ないのだ。短期間の間で、大ボスとされる鬼と闘うのだ…無傷のわけが無い……傷をおったとしても 癒える前には出陣と……


既に限界ギリギリだった

…にも関わらず朱点童子を倒し

…阿修羅をも倒したのだ。


限界などとうに越えていたのだ。それでも…自分の代で終わらせると不退転の決意で臨んだ朱点童子討伐だ。…後悔何てものがあるはずもない。


唯一、後悔があるとするならば娘の花嫁姿を見ることが出来ない事だけだ。


しかしそれも…

「まぁ、他の男の所に行く所を見るよりはいいか…。」

と男にとっては憂う事でも無かった。



娘の聡明さは…強さは…
朱点童子討伐の折に、幾度となく見せ付けられた。心配する事はない…

娘を次期当主に任命する事は以前から決めていたし、後見を頼める仲間もいるのだ。


男は愛すべき娘と頼もしき仲間達、そしていつも一族を見守ってきてくれたイツ花に看取られつつ、微笑みながら眠る様に息を引き取った。




ーーーーーーーーーー

その後の御陵一族について述べていこう。



平安後期
御陵一族は朱点童子討伐の功により、帝の覚え目出度く、その実績と能力から全国に散っている裏御三家(北の真宮寺,南の隼人,中央の藤堂)と言われる魔力も身体能力も高く、魔を打ち払う事を古くから生業としている三家の統括を頼まれたのだ。


真宮寺家は剣の名門として…

隼人家は拳法家として…

藤堂家は術師として…


既に地方では名を馳せていた。
無論裏の世界に限った事では有るが…

その地方での有力な名家である。


御陵一族を中心に真宮寺家・隼人家・藤堂家を持って日本の霊場の守護や妖退治の役に任命しようとしていたのである。

しかし此れに待ったをかけたのが、安倍晴明を祖に持つ近衛家や四条家、九条家を中心とした所謂、宮廷術師と言われる連中だった。

彼らは、自分達よりも歴史が浅く、鬼の血を受継ぐ御陵一族を認める気など微塵も無かった。

しかし、帝が一度宣言した事を覆させる事を出来る訳もなく。


裏御三家統括は任じられた。最も御陵一族と宮廷術師との間には、明治維新の後に魔法使いや関東魔法協会と行った外部勢力から日本を守る為に、関西呪術協会を発足千年以上もの長きに渡り一定の距離が保たれた。


ーーーーーーーーーー

その後時代が移り変わりながらも、御陵一族は闇の世界の住人と闘い続けた。

御陵一族の者達は、その時代の移り変わりの中で多くの英雄や英傑達との邂逅もあった。

時には、貴族社会から武家社会へと変えた巨星や牛若丸と言われた天狗の弟子


時には、皇室への忠義に殉じた天王寺の妖霊星や倒幕したのち新幕府を開いた尊き血の将器



またある時には、戦国乱世にて魔王と言われた革命者やサル顔の天下人を始めとした大名らより士官しろと告げる者もいた。当時の当主は、時の有力者が相手でも一歩も引く事なく否と答えた。その威風堂々とした態度に有力者達は、ある者は興味が湧き,ある者は驚愕し,ある者は怒り,またある者はその迫力にまともに眼すら合わせられない者もいた。
ただ誰も御陵一族を攻める者は居なかった。御陵一族の名は裏の世界では既に名が挙がっており、その武勇は音に聞く程であった。また実際に御陵の当主と会見した際に、他の御陵の人間を見て皆一様に一筋縄にはいかぬと感じ、とある有力大名が「御陵一族を倒すには、万の兵を用いて決死の覚悟を持って戦う必要が有る」と語り、なくなく諦めるしか無かった。

ただ一つ良かった事は、御陵一族は裏の世界でのみ戦い,表の世界及び他の勢力の傘下に入る様な事は一切無かった。その為に、触らぬ神に祟りなしと不干渉を決め込んだ。

戦国の終わりには、義に生きる熱い魂を持った将達や天下安寧へと歩み続ける漢達との邂逅もあった。





さらに時代が過ぎ、長い鎖国した江戸時代から明治維新へと大きな時代のうねりの中でも、大きな出会いがあった。

対人・対鬼と違いはあるものの、共に京の治安維持に従事し時には共闘すら誠の志士とは友好を温めた末に誠の旗を譲り受け名を預けられた。

また海の様に大きな心を持った漢との邂逅もあった。


そして開国と共に、西洋の魔法使いが我が物顔で乗り込んで来た。あっという間に埼玉県のある地方(麻帆良)で一本の大樹を信仰対象にしている土着部族を攻め殺し、関東魔法協会を設立し公式な組織となった。その頃関西では、明治維新に伴い治安の回復が急務となっている事と関東魔法協会の献身的な情報封鎖により、連絡を受けるまでの時間ロスと関西の指揮系等がはっきりしていなかった為に対応が遅れたのだ。

この時御陵一族傘下にある裏御三家の藤堂家は、土着部族の救援に向かうも多勢に無勢といった所で奮闘の甲斐なく多数の者が討ち取られてしまった。
また藤堂家の敗戦を重くみた真宮寺家は、現地には向かわず関東と東北の境目にて待ち受ける形をとり積極的な行動は取らなかった。最も魔法使い側は、戦線の拡大は行わず関東魔法協会の設立に専念していた。


完全に後手に回っていた関西側だが、京を本拠地に置く関西呪術協会を設立し西日本及び麻帆良周辺を除く関東地方が支配下に公式したものの関東圏は関東魔法協会の支配力が強く、魔法世界からの増援が多く見込まれ戦争にでもなれば日本全土を飲み込まれる危険があった。
その為関西呪術協会は麻帆良奪還を行わなかった。しかし諦めたのではない後生に託したのだ、且つて御陵一族の初代当主が朱天童子討伐を子孫に託した様に……。弱腰と思われる者も多くいるだろうが、鎖国時代が長く魔法使い何て見た事など無かった為に魔法使い特有の広域殲滅魔法を脅威と感じた事やメガロメセンブリア(今後はM・Mに統一)の政治的圧力に攻勢が取れなかった。



関東魔法協会の出現により関西呪術協会は設立され、以前からあった御陵一族と旧宮廷術師の一族の水面下での争いは無くなり組織として一枚岩で闘う事を誓い合い、親密な関係を維持していくのである。






さらに時は過ぎ…………1971年6月 梅雨時期には珍しい快晴の日


御陵一族の館の広間にて、一人の男が落ち着きなく右往左往していた。
その落ち着きのなさに周りの者も呆れつつも、男を落ち着けようと周囲の者が声を掛けた。

「当主よ…気持ちは分かるが、少々落ち受け…。」

そう……この落ち着きなく右往左往しているこの男が、御陵一族・現当主 御陵 哲心、御陵一族のの中でも剣士の家系であり、歴代の剣士にも勝るとも劣らない腕前である。
過去…御陵の剣士には飽く無き向上心から御陵の剣術だけで無く、日本だけで無く海外の剣術すなわち古今東西の剣術を長き年月を持って修得して来たのだ。無論、当主・哲心も父親から知る限りの全ての剣術を覚え、自身も新たな剣術を修得し鍛錬を怠らなかった。


「ワシは落ち着いている。そっその方らの方が、おっ落ち着いけえぃ。」

全く持って落ち着いていない…

しかし、それには理由がある。


「まぁ…やっと出来た子供が産まれる所何ですし気持ちは分かりますが、今できる事は有りません。ともかく座って下さい。」
と先ほど落ち着くよう声をかけた御陵 弦一郎の妻 美幸が声を掛ける。
弦一郎は槍使いの直系で有り高齢で有りながらも哲心の信頼が厚く一族の相談役の一人でもある。妻・美幸も元は一般人であったが、弦一郎の妻となってからは御陵一族を支えてきた賢女である。その二人に諌められては、哲心も座るしか無かった。

「う、うーーーん」 座ったものの落ち着きのなさは相変わらずであった。


その時

「オギャーー!オギャーーー!!」
大きな声で泣き出した。

その声を聞いた哲心は「…産まれた……。」と緊張が抜けるかの様に声を出した。

周囲の者は次々に声をかけた。

「おめでとうございます。」

「お目出度うございます、当主様!」

「皆、ありがとう。」

皆が皆、お祝いの言葉を紡ぐ中、美幸は興奮を抑えつつ声を掛ける。

「当主様、今は奥様とお子様の所へ行きましょう。」


「おお、そうだな。早速行こう。」
余りの嬉しさで締まりの無くなった顔で、哲心は立ち上がり歩きだす。



それに二十人余りの者が続くように部屋を出ようとしているの見て美幸は、呆れながらも強く「まずは当主様だけで様ございます。奥様もお疲れのはず、皆が行っては迷惑です。部屋に入らず待っていましょう。」と周りを諌めた。


部屋の前まで来ると、哲心は「では皆はココで待っててくれ。」と一言言い、中に入り襖を閉める。すると残った者の何人かは、ササッと襖に耳をくっつけ聞き耳を立てる。

(やれやれ、しょうがないですな〜。)
美幸は、諌めるのを諦め共に聞き耳を立てる。



哲心が部屋に入ると、布団で横になっている美しい最愛の女性とそのそばで産まれたばかりの赤子を抱いている眼鏡をかけた女性がいた。

「当主様、お目出度うございます。元気な男の子が…立派なお世継ぎが産まれました。」
眼鏡をかけた女性・イツ花が声を掛けた。

このイツ花、哲心が小さい頃から御陵一族で働いており、かくゆう哲心もまたイツ花に取り上げられたのだが、ずっと容姿が変わらない。その事を聞いてもいつも煙に巻くのだが、事情を知っているのは歴代の当主だけで他の者はまず知らない。
皆不思議に思っているが、イツ花が献身的に一族に仕えているのは自他ともに認める事実なので興味はあっても無理に聞き出す者はいなかった。

その時部屋の外で聞き耳を立てていた集団は、母子ともに健康であり男児のお世継ぎが産まれた事を知った事で色めき立った。
「静かにせよ、気持ちは分かるがココで騒いでは奥方に迷惑です。お前たちは他の者にも急いで知らせよ。お前達は宴会の準備じゃ、今宵は目出度い日故…財務の者に渋るなと言うておけ。……ホラっ早く行きなさい。」


美幸のテキパキとした指示に感心しつつも、哲心は二人に声をかけた。
「おおっ〜ありがとうイツ花。はるも良くやってくれた、身体は大事ないか?」

はるは、御陵一族の敷地内にて存在している孤児院で育った女性だった。
【御陵一族は朱天童子討伐後も活動していたが、その際親を無くした子供を見つけては親族を探していたが、皆が皆親族がいるわけでは無くまた親族がいても引き取る経済状態では無い事も多かった。その為に、御陵一族は敷地内に孤児院を建てて、独り立ち出来る頃合いまで育てて来た。子供達の中には、妖と間に産まれた子供や句族,烏族の混血や純血の子供もいた。

句族や烏族は、朱天童子討伐後に比較的早く人間との融和を考え実行してきた。それにより句族や烏族との協力体制はとれており、現在も隠れ里にてひっそりと生活している。混血の子供や純血の子供の中に外見が異端の者がおり、句族や烏族の者達は仕来りや伝統を重んじている為に自身の血族でも育てる様な事が見られなかった。また、気性が激しく手に負えないといった者も少なからずおり、そういった御陵一族は子供も引き取って育てていた。

引き取った子供達に対して分け隔て無く愛情を注ぎ、時には我が子と同じように怒り,躾た。子供達には、一定の教育を与えると共に,礼儀作法や武術の鍛練を行ってきた。そして独り立ち出来る頃合いまで育て、後に本人の希望に沿って仕事先や進学先を斡旋してきたが、中には御陵一族と共に闘いたいと言う者がおり、そういった者は御陵当主 直属 新選組へ入隊させ、其々に合った仕事を与えた。
半分が御陵一族の館や孤児院の経営や後方支援(上記で美幸が言っていた財務とは此方に分類される)の仕事を任せられたが、中には親が術者だった者や武術の才能を開いた者もいた為に、新選組の戦闘能力は関西呪術協会でも屈指の実力で有名な京都神鳴流や関西呪術協会の長を務める近衛家ですら、簡単に手が出せる組織では無くなった。
元々、孤児院上がりの者が多くいた為に御陵一族への忠誠心は極めて高かく、孤児院上がりでは無くても他のはみ出し者達が集まっている為に、一筋縄ではいかない曲者揃いであった。】



はるが疲労を見せながらも頷くと、哲心はイツ花が抱いている我が子を見て驚いた。
「何だこの子の魔力は!…ワシの何倍もの魔力を秘めているでは無いかぁ、はるよ…まことに大事はないか!?」

そう産まれた赤子は多大な魔力を秘めており、本来であればこれ程の魔力を持った赤子を産めば母胎が無事に住む訳がない、母子ともに死んでしまう事も充分考えられたにも関わらず母子ともに健康であったのが俄かに信じられなかった。

驚く哲心に対してイツ花も同意する様に話す。
「御当主様が驚かれるのも無理ありません。私も大変な難産になると覚悟していましたが、お世継ぎいゃ…若様が自身の力で魔力の放出を抑え、母胎に負担をかけない様に配慮してくれました。まさかこの様な事が起きるとは、このイツ花も驚きを隠せません。」
普段はおちゃらけている事が多いイツ花が、神妙そうに話す姿に哲心も我が子の凄さをより一層感じていた。


「何と……その様な事があったのか…しかし、この子の魔力は御陵の血が成せる業かも知れんのう…。」
遠くを見つめながら哲心にイツ花が慌てて声を掛ける。

「当主様〜驚かれるのは分かりますが、早く若様を抱いて上げて下さい!そしてバーーンとカッコいい名前をおつけください!」


「ははっそうじゃの、ほれワシのとこに来い。どうじゃワシが、お前の父じゃぞ〜〜。お前は御陵の跡取りなのじゃから、強く・賢く・立派な剣士になるのじゃぞ〜。」

あっという間に、親バカの顔になった哲心にはるは呆れながら声を掛ける。
「お前様、その子にはまだ早うございます。御陵の子とは言え、今産めば産まれたばかりです。」

イツ花も続くように声を出す。
「そうですよー、早くババーーンとお名前をつけて上げて下さい。」


二人に言われた哲心は苦笑いを浮かべつつ、赤子をよく見てから気持ちを切り替えた。
「すまんすまん…。

うん、面構えも申し分ない。お前を見ていると何か大きな漢のなる気がするな…

…よしっ決めたぞ!…

…お前の名前は初代様からとる!

今日からお前は、陣…御陵 陣だ。

初代様の様に偉大で誇り高き漢となれ!!!」


この初代と同様の名前をつけられた御陵 陣に待ち受ける苦難が有るとは、まだ誰も知る由はない。
 
 

 
後書き
裏御三家(北の真宮寺、中央の藤堂、南の隼人):小説版・サクラ大戦より 
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