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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
ジパング
  勇者☆ミラクルチェンジ

 ヒイラギさんたちの頼みを引き受けたあと、私たちは約束通り彼女たちの家で一泊させてもらうことにした。
 けれどヒイラギさんの家に六人も寝られるスペースなどなく、ユウリとナギには納屋で寝泊まりしてもらうことになった。一応いつでも野宿出来るように準備はしてあったが、まさか室内で野宿する羽目になるとは思わなかったと後日ナギがぼやいていた。まあ、急に押し掛けてきた私たちが悪いのだが。
 そんなこんなで翌朝、太陽も昇りきらないうちに目を覚ました私たちは、ヒイラギさんが作る朝食を囲みながら、今後の対策を考えていた。
「問題は、そのオロチとやらがどこにいるかだ」
 ユウリの言うとおり、この場にいる全員が、オロチのいる場所を知らない。村の近くの洞窟にいるというのはヒイラギさんから話を聞いたので間違いないのだが、この辺りの地形は山が多く、あちこちに洞窟があるらしい。そのうちのどこに行けばオロチに会えるのか、それはヒイラギさんたちだけでなく、他の村人も知らないそうだ。
「でも生け贄の子はオロチのいるところまで行かなきゃならないんだよね? ヤヨイさんも知らないの?」
 私が尋ねると、ヤヨイさんは小さく頷いた。
「生け贄になる娘は、オロチにその身を捧げる前に身体を清めるため、ヒミコ様のところに向かうのが習わしなんです。その後どこに行くのかは、危険だということで関係者以外は一切の情報を知らされていません」
「つまり一度そのヒミコのいる屋敷に行かないとたどり着けないってことか」
 顎に手を置き考え込むナギ。できるならあまり大っぴらに行動したくないのが私たちの総意だ。
 詳しく話を聞くと、オロチが求める生け贄と言うのが、若くて美しく、さらには心と身体の清らかな女性なのだそうだ。ヒミコ様曰く、オロチの機嫌を少しでも良くするため、オロチに捧げる前にその生け贄である女性に『お清め』をさせる。そのお清めをすることによって、さらに清らかな生け贄になるんだとか。そのお清めが済んだあと、生け贄の女性はそのままオロチのいるところに連れていかれるのだという。
 だったら……、と私はあることに気づく。
「じゃあヒミコ様本人に直接聞いてみるしかないんじゃない? 私たちがオロチを倒すって事情を知ったら、きっと協力してくれるかもしれないよ?」
「そうだね♪ だったら早速……」
「あの、ユウリさんたちがヒミコ様に会うのはやめたほうがいいと思います」
「え!? なんで!?」
 ヤヨイさんの言葉に、騒然とする私たち。
「ヒミコ様は、他国からやってきた人をとても嫌います。この前も、どこかの国の宣教師がやってきてヒミコ様に挨拶に行ったそうですが、それきり屋敷から戻ってきてないと聞きます。噂によると、我が国の人心を乱そうとした罰で、ずっと拷問を受けながら地下牢に閉じ込めているとか……」
「ひぇっ!? それ本当!?」
「まあ、あくまで噂ですから……。ですが異国の人を受け入れないのは事実です。幸いユウリさんたちは昨日村人が騒いでいただけで、まだヒミコ様のお耳には届いてらっしゃらないようですが……」
 けれど噂が本当って可能性もある。特に派手な出で立ちのナギとシーラがヒミコ様の目に止まれば、問答無用で牢屋行きになる可能性も否定できない。
 そんなとき、再びピンと来た私は、あるアイデアを思い付いた。
「そうだ! 私が代わりに生け贄になって、オロチの場所を突き止めるとか!?」
 黒髪の私ならこの国の人と言われても違和感がないだろうし、ちょっと変装でもすればヤヨイさんとして振る舞うことも出来るのではないだろうか、と思ったのだが……。
「却下だ」
「ダメに決まってんだろ」
「絶対ダメ!!」
 三人に即座に否定され、言葉に詰まる。
「お前、バハラタで変態仮面男に誘拐されたのを忘れたのか? 結局予定が狂ってお前も怪我をしただろ。ザルウサギがあのとき呪文を唱えなかったら、お前はカンダタに殺されたか売られたかしてたんだぞ? これ以上無謀なことをするのは俺が許さん!」
「そーだよ!! ミオちんに何かあったらあたし賢者辞めちゃうから!!」
「うっ……!?」
 正論を言われ、ぐうの音も出ない。確かにあのときシーラが呪文でカンダタと応戦しなければ、私は今頃この世にいなかったかもしれないのだ。
「でっ、でもそれしか方法なくない? ヒミコ様に会う方法なんて、こっちが生け贄にでもならない限り、どう考えても無理だって……」
「待ってミオちん!! あたしにいい考えがあるっ!!」
 突然声を上げたのは、何故か目を輝かせているシーラだった。
「本当か? ザルウサギ」
「うん☆ だからもし成功したら今度からあたしのことちゃんと名前で呼んでね、ユウリちゃん♪」
 そう念を押すように言うシーラに、ユウリはたじろぐ。
「う……、善処する」
「だったらオレもバカザルじゃなくてちゃんと名前で呼べよな!!」
「バカザルはバカザル以外の何者でもないだろ」
 ……やっぱり二人とも気にしてたんだね。ナギも本当はユウリに名前で呼ばれたいのだと気づき、同情の視線を投げ掛ける。
「それじゃあ準備するからユウリちゃん、船まで一緒に来てくれない?」
「は? なんで俺が……」
 いいからいいから、とシーラは抵抗するユウリを押しとどめると、家から出ていってしまった。
「何しに行ったんだろ、シーラ」
「さあな。けど、なんとなく陰険勇者が面白いことになりそうな気がするぜ」
 二人を見送り、なぜかニヤニヤと笑みを浮かべるナギ。
 そんなことを言っているからユウリに名前で呼ばれないのでは? と私はふと思ったのだった。



 だが、二人が船に戻ってから、すでに三時間が経過していた。
「どうしたんだろ、二人とも……」
 船は村の入り口近くに停泊しているので、数十分ほどで着く。往復しても一時間程度で済むはずなのだが、どういう訳か二人は一向に戻ってこない。
 待っている間私とナギは、流石に外に出ると目立つので(特にナギ)、ヒイラギさんの手伝いをすることにした。
 ちなみにヤヨイさんは日が昇ると同時に例の納屋へと行ってしまった。明るいうちは村人に見つからないように、ずっと地下の壺の中で過ごしているらしい。
 早く彼女にはこんな生活をやめさせてあげたいのだが、あの二人が帰って来ない以上対策も立てられない状況だ。
「大方陰険勇者が駄々こねてて、上手くいってねえんじゃねえの?」
 ナギの指摘に、あながち間違ってないかもしれないと思ってしまう。
 そんな中、私はナギと二人でこの国特有の履物である『ゾウリ』というものをヒイラギさんに教わって作っていた。初めて見るものを作るのは難しいが新鮮でとてもやりがいがあり、気づけば二人で五足以上も作っていた。
「大変だあ!! 女神さまが現れた!!」
 すると突然、どこからともなく聞こえてきた村人の声に、私とナギはそろって開けっ放しの戸口の方に顔を向ける。
「どうしたんだい? ロクタさん」
 家の外にいたヒイラギさんが尋ねると、ロクタさんと呼ばれた男性は興奮した様子で顔を紅潮させていた。
「どうしたもこうしたも、村の入り口から見たこともないほど綺麗な女の人がやってきたんだ!! あれはきっと女神さまに違いない!!」
 するとロクタさんの声に反応したのか、近くにいた別の村人もやってきた。
「おらも見た! 昨日見た神様の御使いの方も一緒だった!あれは絶対に我々の国を作ってくださった女神様だべ!」
 昨日見た神様の御使い? もしかして……。
 次第に広がる外のざわめきとともに、遠くから人だかりが近づいてきた。なぜ人だかりがこちらに近づいてくるのかというと、人を集めている張本人たちがこちらにやって来ているからだ。
 予想通り、一人はシーラである。だが、一緒にいる女性は誰だろう? 確かにものすごい美人だが、どこかで見たことがあるような……。
『ああああああっっっ!!??』
 突如上げた私とナギの絶叫に、ヒイラギさんたちはただただ目を丸くしていた。



「ちょっとシーラ!! 一体どういうこと!?」 
 ヒイラギさんの家に着くなり、私はシーラに何事かと詰め寄る。
「ふっふっふ☆ やっとアルヴィスの意志を継ぐことができたよ♪」
「アルヴィスの意志って……、あ!」
 アルヴィスの意志……。そう、それはユウリにお化粧を施すことであった。
 以前アッサラームにあるアルヴィスのお店を訪れたユウリは、なんやかんやでアルヴィスにお化粧を施された。そこで話は終わったかと思いきや、どうやらアルヴィスにとっては不完全燃焼だったらしい。
 そこでシーラと再びアッサラームに行った際、アルヴィスから自身の化粧道具を託された。それは、アルヴィスの意志を継ぐ行為でもあった。
 その約束をきっちり覚えていたシーラはあろうことか、このタイミングでユウリにそれを行ったのだった。
 それもただ化粧を施しただけではない。かつらやつけまつげなども用意されていたのか、シーラはアルヴィスから受け継いだであろう技術をこれでもかというほどユウリに詰め込んだのだ。
……なんだかもっともらしく説明しているが、結局ユウリに化粧をしたいというシーラとアルヴィスの個人的な願望なのである。
 ともあれ今のユウリは剣を持った勇者ではない。少しでも触れてしまえば壊れてしまいそうなほど儚く、それでいて完璧な美貌の娘と変貌していた。
 ちなみに今の姿を見てからずっと、彼は一言も話していない。精巧な人形のように表情を変えないユウリであるが、おそらく化粧の下は不機嫌マックスの状態だろう。その証拠に、さっきから私やナギを見る目が殺気立っている。
「も、もしかしてユウリさん!?」
 ヒイラギさんも、今頃ユウリに気づいたようで、腰が抜けそうになっている。
「ぎゃははははは!! やべえ!! 過去イチやべえ!! 最高かよ!!」
 いやいやナギ、そんな態度とったらあとでユウリに何されるかわかんないよ?
 流石に村人たちがいる前では呪文を唱えたりはしないようだが、彼の利き手である左手を見ると、握りしめた拳を小刻みに震わせている。
「これでヤヨちゃんが持ってる生け贄用の服を着せれば、立派なオロチの生け贄が完成するよ☆」
 女装した勇者をオロチの生け贄にするという発想はなかなか出ない。というかシーラだからこそ発案できた内容だろう。
「けどよ、ここに来るまでに随分大騒ぎになってんじゃねーか?」
「大騒ぎになればヒミコ様に気づいてもらえるからいいんだよ♪ オロチって、若くて美しい女の子が大好物なんでしょ? ユウリちゃんならきっとヒミコ様のお眼鏡に叶うと思うよ☆」
「お前が言うと語弊があるな……。まあ確かにヒイラギさんもそう言ってたけどさ。そもそもこの女装勇者に清らかさなんてあるのか?」
「大丈ー夫!! この姿ならいくらお金にがめついユウリちゃんでも、誰もが認める純真無垢な美少女にしか見えないって!」
 その言葉に、ユウリは今にも呪文を唱えそうな勢いでなにやらぶつぶつと呟いている。
「じゃ、じゃあヤヨイさんの服を借りたら早速作戦会議しよう!」
 怒りが頂点に達しようとしているユウリの機嫌を少しでも紛らわすため、私は空元気で声を張り上げたのだった。



 
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