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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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崩れ去る虚構の現実

 
前書き
反省はするが、後悔は……ちょっとするかも 

 
嘗てこれ程までに自分を憎んだ事は無い。いや、それは正確ではない。シャルル・デュノアとしての自分を憎んだ事は無かった。
シャルル・デュノアとしての教育は2年前から始まった。それは酷く辛いものだった。
しかし、耐えられた。いつか、シャルロットを取り戻す事を想えば我慢出来た。……彼と会うまでは
いつか、シャルロットに為るのでは無い。今、必要なんだ。今、シャルロットでないと意味がない。



――――――――――――――――――――――――
コックを捻る。冷たい水が体を覆うが、直ぐ様温水に変わる。
デュノア社の社長である自分の父親の伝手で押さえたホテルで、シャルロットはシャワーを浴びていた。
時間は戻る。

あの後、切嗣をホテルまで案内した。本来なら今日の役目はここで終わり後は家に帰ればそれでいい。
しかし、ここで余計な「ノイズ」が紛れこんだ。
どうしようもなく懐かしく、最近はもう聞くことの無かった「ノイズ」
家、昔母親と住んでいた小さな家。父親に引き取られ、現在居るべき場所となった家。
考えた瞬間、息が詰まった。
嫌だ、帰りたくない!
自分の帰る場所などとうの昔に失われている。家に帰っても寒いだけだ。家が、ホームが無いのだから……
「……帰りたくないのか?」
切嗣が心配げに声をかけてくれた。見るとその顔は、何か痛ましげなモノを見たように歪んでいた。
「……うん」
図らずも本音が漏れる。
「家に帰っても寒いだけだし……」
それだけで何かを察したのか、切嗣はシャルロットの手を握った。
「なら……今日はここに」
そう告げた時の彼は、今にも泣きそうだった。

そして、今シャルロットはホテルでシャワーを浴びている。……一応書いておくが特に深い意味は無い。単純に汗を流しているだけだ。それ以前に彼女は表向きは「シャルル」だ。
話を戻そう。彼女は切嗣と泊まる事になった。結果論から言えば、彼の本来の目的から考えれば成果は予想以上にあがっている。なので、父親に向ける顔は十分にある。
だが、そこに至るプロセスに打算は一切無かった。総て感情論で行動した結果だ。それが、彼女の心に縛りをかけていた。
――僕が動けば、切嗣に迷惑がかかる。
体を熱いシャワーが這う。しかし、彼女の心の凝りを溶かすには、余りに緩すぎる。
(どうすれば……助けて……)
…………
「上がったよ」
結局解決策は見付からないまま、シャルロットはバスルームを出た。さらしは巻いている。
「うん?ああ、分かったよ」
切嗣はパソコンを使って何か調べモノをしていた。
「じゃあ、僕も入ろうか」
そう言うと、パソコンはそのままに脱衣場に消えていった。
「何を調べてたんだろ?」
検索履歴も消さずに、そのままにしていくのだから重要なモノでは無いのだろう。悪いとは思ったが、好奇心に抗えず見てしまう。
「聖杯、泥、冬木……?」
彼が調べていたのは、何の事は無い普通のワードだった。
(……本当に何を調べてたんだろ?)
適当に画面をスクロールさせる。どれも注目するような情報は無い。
(キリスト、アーサー王、冒険、幸せの壷……)
ただあてどなく画面を見ていたが、それにも飽きてきた。
はぁ、と溜め息をつき2つ在るうちの1つ、窓側のベッドに横になる。
「切嗣、気付いてくれないのかな?」
窓にはシャルルとしての自分が映る。さらしを巻いて平になった胸に中性的な顔。今の自分には女としての魅力が無いから当然と言えば当然だが……
「それでも気付いて欲しいな」
「何をだい?」
「ひゃわっ!?」
急に後ろから声が掛かった。
「き、切嗣、驚かせないでよ!」
少し涙目になって訴える。
「ごめんごめん。驚かせるつもりは無かったんだ」
慌て否定するように手を振る切嗣。そんな切嗣をみて、つい可愛いと思ってしまった。
「それより何に気付けばいいのかい?」
しまった。確かに僕が女の子だって気付いて欲しいとは思ったけど、ばれたらそれはそれでマズい!
「あ、あはは。何でも無いよ。それより!」
「話題を反らす位知られたくないんだ」
「いいから!」
何とか強引に話題を反らす。
「そんな格好で寝るの、切嗣?」
「え、ああ。そのつもりだよ」
切嗣の格好は、黒のビジネススーツ。つまり完全に外着のそれだ。
「流石に不衛生だよ」
「そう言うシャルルもさっきと変わらないじゃないか」
「うっ」
痛い所を付かれた。ここに泊まる事はその場で決めたので、着替えを持っていなかった。
それでも、そんなよれよれの格好で寝るのはどうかと思う!
「それに僕は寝間着なんて持って来てないしね。今回は勘弁してくれないかな」
片目を瞑りながら、まるで娘に謝るように手を合わせる切嗣。
「はぁ、まあいいや」
何だか今日は疲れたし、早く寝たい。
見れば切嗣も欠伸を噛み殺していた。
「切嗣も眠いの?」
「最近はちゃんとした睡眠は取れてなかったしね」
そう言うと切嗣も横になった。
「すまないけど先に寝るよ」
おやすみ、と一言告げると眠りについた。
「寝るの早いな、よっぽど疲れてたのかな」
まじまじと切嗣の顔をみつめる。それは、まるで安心して眠る猫のように穏やかな寝顔だった。
「何だかな……」
この寝顔を見ていると、眠いにも関わらず、ずっと見ていたいという欲求が沸き起こる。
(でも、寝なくちゃ)
寝ないと、明日が辛い。切嗣と一緒に過ごすのにだらしない姿は見せられない。
そこまで考えると、彼女も目を閉じた。
明日を想って。

――――――――――――――――――――――――
翌朝、
眠れませんでした。
「う〜、眠い」
そう言う彼女の顔には大きな隈が出来ていた。
「は、はは。あまり馴染みの無い場所で眠れなかったのかな」
「うん、そうみたい……」
切嗣の予測に相槌を打つが、全くの嘘だ。理由は、昨夜12.30の光景を見れば大体分かる。
――――――――――――――――
「……あれ?僕、今男の人と一緒に寝てる?」

「いや、別々のベッドだからギリギリセーフなのかな?」

「いやでも、同じ部屋で寝るのは恋び……」←この時点で顔が真っ赤です。

二時間後
「いや、チェス版をひっくり返そう!何も、一緒の部屋で寝るのは恋人だけじゃない。家族だって……あれ、それって夫h……」←静かにベッドの上で転がってます。
――――――――――――――――
これが、昨夜の光景。
(何で急に意識しちゃったんだろ……?)
その答えは案外近くに在るのだが……気付くのは本人次第といったところか。
一方、その答えとなる人物は割と血色は良くなっていた。切嗣が最後に睡眠をとったのは学園を発つ前、つまり大体2日間程睡眠をとってない事になる。
(体が発達段階だからかな……睡眠に関しては無理が効かなくなってる)
依然の彼なら3日間くらい徹夜する事は普通だったのだが、今は2日間寝ないだけで限界が来る。……最も、アンフェタミンまで使って身体を酷使するのもどうかと思うが……
いずれにせよ、
「今日はゆっくり休むといいよ、シャルル」
「うん、ごめんね」
彼女は今日1日休むべきだろう。
気にするな、という風に首を上下させると、切嗣はシャルルの朝食を貰いに出ていった。
「……優しいんだな、切嗣」
一人、誰もいない部屋にフランス語が響いた。

結局、その日は二人ともホテルに引きこもった。シャルロットはその日を休養に当て、切嗣は調べモノをずっとしていた。
side 切嗣
「……やはり、見付からないか」
ノートパソコンに張り付いて約3時間が経過した。しかし切嗣の欲しい情報は見付からなかった。
学園に現れた聖杯の泥。それに対し、切嗣は一応行動を起こしていた。ただ、芳しい成果は挙がらなかった。
(ロンドンの時計塔にも行ってみたが、ハズレだったか)
この世界で魔術関連の手掛かりを得られるとすれば、時計塔しか無かったのだが無駄に終わった。
後、可能性が在るとすれば……
(コイツか……)
腕を持ち上げる。
腕には、相変わらず美しい銀細工のアクセサリーがあった。
(ISの産みの親である篠ノ之 束が最終的にアンノウンの判定を下したコア。前提で考えるのは不味いが頭に留保する程度には考えた方が良いだろう)
そこまで考えると、急に腹が空き始めた。このホテルには確か昼食は無かった。
「仕方無い。どこかで買って来るか」
椅子を引いて立ち上がる。
ガタッ、と切嗣が予想していたよりも大きな音がした。思わずシャルルの方を向いてしまう。
「ふああ」
案の定、彼を起こしてしまった。
「あ、切嗣。どこかに行くの?」
「起こしてしまったみたいだね……少し昼食を買ってこようと思って。何かリクエストはあるかい?」
そう言うとシャルルは目を輝かせてベッドから這い出した。
「だったら僕美味しいお店を知っているよ!」
「へ〜、じゃあ、そこに行ってみようか」
「うん!」
シャルルの食付き様が余りに凄まじかったので、つい切嗣も賛同してしまった。
…………それが地獄への片道切符になるとも知らずに。

――――――――――――――――――――――――


嘗て衛宮切嗣は、聖杯の正体を見知り、それが壊したモノの被害を知った時思わず絶望の声を上げた。切嗣はその時、これ以上の絶望を味わう事は無いだろうとたかをくくった。しかし、この世界に来て改めて、その慢心を、考えを、覆された。
「馬鹿な……そんな馬鹿な!?」
その声は上ずり、聴いたものはその嘆きに目を伏せざるを得ないだろう。
それほどに、彼の声は絶望を孕んでいた。
「何で、これが……こんなモノが在るんだ!?」
彼を絶望に陥れた正体、それは
「泰山」
そう一言書かれていた。
前の世界でも、切嗣はこの店を訪れた事がある。
言峰綺礼の調査を行った際、彼は一ヶ所奇妙な記述に目が止まった。
「これは……?」
報告によると、言峰綺礼は毎日1回は冬木の「泰山」という店で麻婆豆腐を食べているというものだった。趣味思考の問題で流してしまえば良かったが、アレの危険性に誰よりもいち早く気付いた切嗣は言峰の特性を知るためにその店に足を運んでしまった。
……それが決定打だった。
「ヤツは……言峰綺礼は僕の予想以上に危険な人物だ!!」
そう言う切嗣の顔は酷く怯えていた。……因みに、彼の食事は2.3日流動食だった。
そして、世界線を超えて最大の壁が今まさに切嗣に襲いかかろうとしていた……
「切嗣〜、早くはいろうよ」
自分がシャルルだという事実を忘れて、可愛いらしく切嗣を店(地獄)に連れ込もうとするシャルロット。しかし、そんなことを気にする余裕が無いほど切嗣は怯えきっていた。
彼の顔には汗がダラダラ流れ、顔色は真っ青を通り越して真っ白だ。今の切嗣ならイギリス出身と言っても通じるかもしれない。
「じょ、冗談だろシャルル?」
店からは既に目が痛くなるような匂いが漂っていた。常識のある人間ならこの時点で引き返しているだろう。だが、
「もお、早く入ろうよ」
ガシッと擬音語が付くような勢いで腕を掴むシャルルは普通の範疇に入れていいのか?
そのまま引き摺られる様に入った店に居たのは
「いらっしゃいませ。何名かな?」
「言峰綺礼!?」
無駄にダンディーな声で喋る神父がいた。
「言峰……?残念ながら私はそのような名前は持ち合わせてございませんが」
「そう、なのか?」
若干、落ち着きを取り戻す切嗣。
「はい、私の名前はジョージ・ナカタと申します」
「やはりお前は僕の敵だ!!」
思わず後ずさってしまうが
「ナカタさん、麻婆豆腐2つね」
「シャルル!?」
逃げ道を完全に塞がれる。
「オーダー、麻婆豆腐激辛2つ!」
「待て、僕は食べる何て一言も」
反論虚しく、シャルルに椅子に拘束される切嗣。
「待て、何で普通に椅子に拘束具が付いているんだ!?どう考えても可笑しいだろこの店!?」
そこには、嘗てのクールな切嗣の面影は無い。
何やら厨房から声が聴こえてくる。
「最っ高にCooooooolだよ、旦那ぁ!」
「辛さとは常に鮮度が求められるのですよ、龍之介〜!!」
「ふっ、これも愉悦の一つのあり方」
……本当に大丈夫か、この店?
「逃げよう、シャルル!今ならまだ間に合う!」
訴える切嗣の目は本気だ。在る意味、原初の地獄を味わうことになるのだから。
「え〜、折角ここまで来たのに」
一方のシャルルの目は子供の様に輝いている。
「いや、しかし……」
そうこうしている内にやって来た。麻婆豆腐(地獄への片道切符)が。
神への感謝を済ませると、シャルルは麻婆豆腐を掻き込み始めた。
「ば、馬鹿な……」
シャルルは顔色一つ変えずに麻婆豆腐を食べている。
「信じられないか?」
いつの間にか隣にジョージ・ナカタが立っていた。
「私ですら、汗をかくあの麻婆豆腐を顔色一つ食べるだけの精神力……ISのパイロットとしつ終わらせるには惜しい才能だ」
「いや、そこは一生土の中に埋めておこうよ!?」
「アレは、3年前の事だ」
「いや、別に聞きたくないし喋らなくていいよ!」
何か唐突に語りだした。
「その日は夜も遅く、雨も降っていたのでそろそろ店を閉めようと思っていたところだ」
「だから、聞く気は無いと……」
第一、本人の前で昔の話を聞くなど……
「お願い、切嗣。聞いて頂戴」
「シャルル……」
いつの間にか、麻婆豆腐を食べ終わっていたシャルルは(※注、3人前です)切嗣の目をじっと見て言う。
そのただならぬ雰囲気に押し流され、改めてジョージ・ナカタの声に耳を傾ける。
「ふむ、では続けるぞ」
それにしてもこのジョージ、のりのりである。
「そんな寂しい夜に、一人の客が入ってきた。言わなくとも察しはつくな?」
話の流れからして、シャルルで間違いないだろう。
「その客は、ただ静かに泣いていた。何があったかは解らなかったが、恐らく何か辛いことでもあったのだろう。私は何も聞かずその子を椅子に座らせて……」
成る程、前の世界でも神父をやっていただけあって、この言峰(偽)は人格面は出来ているの……
「麻婆豆腐(激辛)をご馳走した」
「あんた子供に何食わせてるの!?」
そうでも無かった。傷口に塩を塗るとはこの事だろう。
「何を言っている?私特製の『辛そうで辛くない、寧ろ辛かった事を脳が認識してくれないラー油』を湯水の如く使った麻婆豆腐を無料でご馳走したのだ。問題なかろう?」
寧ろそんなものを傷心中の子供に食わせた挙げ句金を取ったら、そっちの方が問題だ。
「まぁ聞け。私が真に驚いたのはその次だ。……その子は目の前に置かれた麻婆豆腐をものの数分で平らげてしまった」
「……」
もう、切嗣に突っ込む気力は失われていた。
「それからだ。その子が何か辛いことが在る度に私が麻婆豆腐を食べさせるようになったのは」
いい話……なのか?
「Coooooool!! 最高だぜ、ジョージの旦那!俺は、その話を聞く度に涙が…… 」
「おおお!!なんと無惨な!こんな幼いけ少女に何故これ程までに残酷な仕打ちを!神よ、許すまじき!!」
いつの間にか、厨房からも例の二人が来ていた。
「はは、青髭さんも龍之介さんも大袈裟何だから」
そう言うシャルルもとても明るい笑顔を浮かべていた。
「……まぁ、いいか」
そう言う切嗣の顔も、多少は弛んでいた。
「ホントにシャルロットちゃんはいい子何だから!」
ビキッ
何かが壊れるような音がした。
「りゅ、龍之介〜!!」
青髭が明らかに狼狽し始め、言峰(偽)は鉄仮面に冷や汗をダラダラ流し始め、シャルロットは顔色が真っ青になっていた。そして
「あっ、いっけね。今はシャルル君だったか」
龍之介が全てをぶちまけた。


――運命の歯車がまた新たに回り始めた……おかしな方向に 
 

 
後書き
……色々突っ込みたい事がある人、どうそ感想版に書いてください。覚悟は……してます。(多分) 
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