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伝教大師の霊木

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第一章

                伝教大師の霊木
 最澄はこの時唐への留学を終え日本への帰路に着いていた、今は穏やかな海を見てそのうえで船員達に話した。
「いや、今は海が穏やかで」
「何よりですね」
「荒れるとです」
「船も沈みます」
「そうなりますので」
「はい、あの鑑真和上もです」
 最澄は唐招提寺を開いた唐から来た高僧の話もした。
「かつてはです」
「本朝に来られる時にでしたね」
「嵐で船が流され」
「南の島に流れ着きましたね」
「そうしたこともありましたね」
「そうしたことを思いますと」
 それならというのだ。
「今海が穏やかであることはです」
「何よりですね」
「これも御仏のご加護ですね」
「我等を本朝に帰してくれる」
「全くです、穏やかな海はです」
 青く輝く海面を見ても言った。
「何よりも有り難いことです」
「左様ですね」
「ではこれより都に戻りましょう」
「そうしましょう」
 こうした話もしつつだった。
 最澄は共に留学した者達や船乗り達と共に本朝に帰っていた、そしてその時有明の海の東にだった。
 ふとある山に神々しい輝きを見てだ、船乗り達に話した。
「あの山に光がありますね」
「おや、そうですね」
「見れば」
「あれは何でしょうか」
「何の光でしょうか」
「気になりますので」
 それでというのだった。
「少し船を停めて」
「左様ですね」
「あの光を観に行きますか」
「一体何の光か」
「あの光は素晴らしい光です」
 最澄の学問と法力がそのことを教えていた。
「ですから」
「これよりですね」
「あの光のところに行き」
「そのうえで」
「どういった光か確かめましょう」 
 こう話してだった。
 最澄は船を停めてもらい船乗りや留学生達と共に山に入った、するとその前に一羽の雌雉が現れてだった。
 最澄にだ、穏やかな声で言ってきた。
「千手観音様に言われまして」
「そのうえでか」
「案内に参りました」
「では山の光は」
「はい、実はです」
 雉は最澄に話した。
「千手観音様のです」
「お力か」
「そうでして」
「そうであったか、そしてか」
「今からです」
 畏まって最澄に言うのだった。 
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