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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第168話:錬金術への誘い

 新型の大型アルカノイズを雑魚のアルカノイズ共々焼き尽くして始末する事に成功した颯人は、手早く仕事を終えた自分を労う様に小さく息を吐いた。

「ふぃ~……面倒な奴だったが、流石に塵も残さず焼いちまえばどうって事無かったな」

 まさかここでも嘗てヒュドラ相手に活用した策が嵌るとは思わなかった。やはり再生持ちの敵には燃焼による継続ダメージが有効と言う事だろう。加えて今回は分身して攻撃力を単純に増やしたのも大きい。お陰で面倒な雑魚も纏めて殲滅できた。

「さて、奏の方はまだ時間掛かる感じか。それじゃあ響ちゃん達の援護にでも――」

 堅実だが熱くなりやすい翼、直情的な響、そして透と言う清涼剤にしてサポーターを事実上失ったクリス。この中でも危ないのはクリスだろう。普段透が周囲を守ってくれている為、周辺への警戒が疎かになり易い。優先して手助けすべきはクリスだろう。

 そもそもにして、改めて考えるとちと透にクリスを任せきりにし過ぎたかもしれない。今回の件に限らず、何かの拍子で透が出撃出来なくなった時の為に、クリスには透離れを促すべきだった。
 颯人はこの一件にケリが付いたら、相方をシャッフルした状態での訓練に力を入れるべきだと弦十郎あたりに進言しようと心に誓った。

 その時、突如上空から無数の銃弾が降り注いだ。

「うぉっ!?」

 降り注ぐ銃弾は地面に着弾すると着弾点を中心に黄金の結晶を出現させる。その威力にコピーで作り出した分身達はあっという間に消し飛ばされてしまった。

 一方本体の颯人はと言うと、こちらは銃弾が掠りもしない位置にばかり着弾した為銃撃は勿論生成された結晶も彼に影響を及ぼす事は無かった。直感的に回避せずその場に留まる事を選択していたのが功を奏したようだ。

 それよりも問題は、今の攻撃の意図だ。今のは明らかに本体の颯人を避けて行われた攻撃だった。つまり、この攻撃をした何者かはこの直前に颯人がコピーを作り出すところを見ている。

 その相手は直ぐに現れた。コピーの颯人が全員消え去った直後、彼の前にファウストローブを身に纏ったサンジェルマンが降り立った。

「おっとぉ? かのパヴァリア光明結社の幹部ともあろう方が、随分とフットワークの軽い事で」
「人材不足なのよ。おまけに局長は仕事を私達に任せっきりだし」
「んで? 俺に来て欲しいと?」
「そうね、それもあるわ。君が来てくれれば、色々な意味で助かるもの」

 三度目の対峙となる颯人とサンジェルマン。一度は彼女からの勧誘を蹴った颯人だが、いきなり攻撃して追い払うような真似はしない。それは相手から情報を引き出す事を目的としたものであるし、同時に自分にとって少しでも有利な状況を作り出す為の策を練る時間を作り出す為でもあった。

「その件はもう断るって。国家予算詰まれたとしても俺の首は横にしか動かないよ」
「らしいわね。だから、今は勧誘は諦めるわ」
「なら、この場はお引き取り願いたいんだが……?」
「そう釣れない事言わないで。カリオストロ達を納得させる為にも、君の力をちゃんと見ておかないといけないのよ」

 言いながらサンジェルマンは手にしたスペルキャスターである銃を構える。変身する前は華美な見た目のフリントロック式ピストルだったそれは、ローブを纏った事で形状を何処か近未来的にも見える形状の大型拳銃に変化させていた。
 その銃口が颯人に向けられる。同時に膨れ上がる闘志に、彼も迎え撃つようにウィザーソードガンの銃口を向けた。

 互いに銃口を向け合い牽制する2人。睨み合う中、颯人は先程の彼女の発言からやはり自分は結社には歓迎されていない事を察した。サンジェルマンは周囲から反対されながらも、尚颯人を招き入れたいと考えているらしい。

――やっぱり父さん絡みかね……やれやれ――

 胸中でボヤキながらも油断はしない。サンジェルマンの一挙手一投足に神経を集中させた。

 そして………………

「「ッ!!」」

 2人の引き金に掛けられた指が同時に動いた。互いに銃口から一発ずつ銃弾が吐き出される。

 二つの銃弾は引き合う様に真正面からぶつかり合う軌道を描き飛んでいく。だが颯人の撃った銃弾は、サンジェルマンの撃った銃弾をギリギリのところで避ける動きをし、そのまま彼女に向け突き進んでいった。

「ぁっ!?」

 銃弾が本来あり得ない軌道を描いて飛んでくるのをサンジェルマンの驚異的な動体視力は確かに捉えた。だが見えた所で回避は間に合いそうもない。已む無く彼女は迫る銃弾を腕を上げる事で受け止め急所への直撃だけは回避した。

 対する颯人は、真っ直ぐ飛んでくるサンジェルマンの銃弾を身を反らす事で回避した。来ると分かっている銃弾なら、変身した状態なら回避する事も容易だ。

 銃弾の回避に成功し、余裕を見せるように手の中のウィザーソードガンをクルリと回す。最初の一撃、それを制したのは颯人の方…………かに思えた。

 しかし、直後彼はあらぬ方向から飛んできた銃弾に背中側の右肩を撃たれた。

「ぐっ!? あぁっ?」

 何事かと背後を見れば、そこには今正に解けるように消えていく錬金術特有の幾何学模様があった。それを見ただけで颯人はピンときた。

「……銃弾を転移させたのか?」
「そう言う事よ」

 絡繰りを颯人が理解すると、それを証明するようにサンジェルマンが再び発砲した。しかも今度は、撃った一発が錬金術で数を増やし更には転移して四方八方から迫ってくる。自分の周りに錬金術の紋様が展開されたのを見て、逃げ場なしと判断した颯人は回転しながら何度も引き金を引いた。

「なろぉっ!」

 忽ち始まる、錬金術によりあらぬ方向から飛んでくる銃弾と魔法により不規則な軌道を描く銃弾による銃撃戦が始まった。サンジェルマンが引き金を引く度にあちらこちらから銃弾が飛んでくるのを、颯人の銃弾が撃ち落としていく。彼女が何処から銃弾を飛ばしてくるのか分からないので、颯人は引っ切り無しにあっちこっちに首を回さなければならない。気付けばサンジェルマンに対する警戒が疎かになっていた。

 その心の隙を彼女は見逃さない。颯人からの警戒が薄れたのを見て、サンジェルマンは連射力の高い銃撃から一撃の威力が高い銃撃に切り替えた。直撃すればただでは済まない一撃。意識が逸れている今なら、その威力は絶大だ。

 颯人が明後日の方を向いている隙に、狙いを定め引き金を引こうとする。

 刹那、颯人が居る場所から一つの音声が響いた。

〈コネクト、プリーズ〉

 音声が響くと同時に、颯人の前に魔法陣が出現し彼はその中に手を突っ込んだ。するとサンジェルマンの真横に同じ魔法陣が出現し、そこからウィザーソードガンを持った颯人の腕が姿を現す。

「なっ!?」

 マズイと思った次の瞬間には颯人は引き金を引き、サンジェルマンは持っていた銃を弾き飛ばされた。視線は弾かれた銃を追ってしまったが、頭では次の銃撃が来ることを予想していたのでそれを回避すべく銃が飛んでいったのとは別の方向に飛び込むように倒れ込んだ。お陰で追撃は何とか回避できたが、お陰でメインの武器である銃を失ってしまった。

「くっ、しかしっ!」

 だがサンジェルマンのファウストローブは手元に銃が無くても攻撃手段には事欠かない。両肩と足裏にも弾丸を発射するギミックが仕込まれていたのだ。それを用いて魔法陣から伸ばされた腕を銃撃する。

「おっとと!」

 慌てて腕を引っ込めた颯人。それに合わせて魔法陣は姿を消し、改めてサンジェルマンは落とした銃を回収しようと動いた。
 だが颯人はそれを許さない。再びコネクトの魔法を使うと、今度はそれに向けて発砲した。放たれた銃弾は魔法陣を通って別の場所から出現し、銃を回収しようとしているサンジェルマンに襲い掛かる。

「くっ!? この攻撃は……!?」

 サンジェルマンは即座にそれが先程自分が颯人に対して行っていたのと同じ攻撃である事に気付いた。彼は魔法を用いて、サンジェルマンと同じ事をやったのだ。

「こういうやり方もあるんだって、学ばせてもらったよ。流石源流が同じだけあって、出来る事もそっくりだ」

 言いながら颯人はウィザーソードガンをソードモードにして、更に武器の方のハンドオーサーに右手を翳す。武器を介してのコネクトの魔法、その効果により颯人の一撃は離れた所からでも相手の死角を斬撃で攻撃できるようになった。

「よっ! はっ! ほっ!」
「くっ!? ちぃっ!?」

 何処から飛んでくるか分からない斬撃に、今度はサンジェルマンの方が神経をすり減らす。手元に武器が無いので手足の装甲で何とか弾きながら、時にアクロバットな動きで回避しつつ落ちているスペルキャスターへと近付いていく。

 その最中、彼女の動きに隙を見出した颯人はそこを突こうと刺突を繰り出す。ウィザーソードガンの切っ先が魔法陣を通りサンジェルマンの背後を突こうと迫る。
 刹那、サンジェルマンは銃の回収の為に伸ばしていた手をそのまま後ろに持っていき飛んできた刺突を裏拳で弾く。その際に動きのバランスを取る為に大きく動いた足は、勢いそのままに彼女が展開した錬金術の幾何学模様の中へと入っていった。

 その足は颯人の直ぐ眼前に出現した別の幾何学模様から飛び出し、同時に足から放たれた銃弾が彼の鎧で弾けた。

「がっ!?」

「そうね。魔法も元は錬金術。出来る事は確かに同じだわ。つまり、逆もまた然りよ」

 今度はサンジェルマンからの反撃だった。彼女は彼女で、颯人の真似をして足を彼の直ぐ傍に出現させ一発お見舞いしたのである。
 幸いにも銃弾は鎧の上で弾けたので、衝撃以上のダメージは彼にはない。だがこれによって彼は一時的に動きを止められ、その隙にサンジェルマンはスペルキャスターを回収してしまった。

 これで状況は振出しに戻った。颯人はサンジェルマンに一撃入れられた箇所を手で払いながら、溜め息と共に立ち上がり大きく肩を回して気持ちを切り替える。

――流石に組織の幹部ともなると、一筋縄じゃ行かねえか――

 決して自分の方が優れているなどと自惚れていたつもりはない。だが同時に相手の裏をかき、不意を打つ事に関しては自信を持っていた。相手を驚かす為には、相手の裏をかかなければならないからだ。
 輝彦の息子として、プロのマジシャンとして活動してきた颯人は、大抵の相手であれば裏をかき騙くらかせられる自信があった。それについてこられたのは、彼としても何気にショックな事である。

「どうしたの? もうお終い?」
「はっ、冗談!」

 サンジェルマンからの挑発的な物言いに颯人は敢えて乗るようにウィザーソードガンで斬りかかる。するとそれを見た彼女も銃を変形させて赤い刀身を持つ剣にして迎え打った。

 アクロバティックな動きを交えながら、相手を翻弄する様に右へ左、時には飛び越えるような動きをしながら攻撃を仕掛ける颯人。まるで軽業師のように飛び跳ね、斬撃だけでなく蹴りも併用する。動きの中にはフェイントも含まれている為、最初サンジェルマンはそれに目がついて行けず攻撃を受けないようにするのが精一杯と言う様子だった。

 が、それも長くは続かない。次第に目が颯人の動きに慣れてきたのか、追従しさらには反撃するようになっていった。赤い刃がウィザードの鎧を傷付け、飛び蹴りは回し蹴りで受け止められる。そして彼が動きを止めるとサンジェルマンは即座にスペルキャスターを銃に戻し至近距離からの銃撃で引き剥がした。

「うぐっ!? くそ、なら!」
〈バインド、プリーズ〉

 動きに対応されるなら、相手の動きを押さえてしまえと颯人が魔法の鎖でサンジェルマンを拘束しようとする。四方八方から伸びてくる鎖。しかしサンジェルマンはそれを剣で弾き、肩や足の銃口から放たれる銃弾で弾いて凌いでしまう。
 それだけに留まらず、なんとその場でバインドと同じ効果をもつ錬金術の術式を組み、それで颯人を拘束しようとしてきた。

「嘘だろっ!? クソッ!?」

 今度は自分が追い立てられる側になった颯人。動き回ることで何とか拘束される事を逃れていたが、兎に角引っ切り無しに錬金術の鎖が伸びてくる為次の行動に移る余裕がない。
 これならウォータードラゴンになっていれば良かったと後悔するが、今更言っても仕方ない。今彼に出来る事は、鎖を回避しながら隙を見てサンジェルマンに一発ぶち込む事だった。流石に攻撃を受ければ鎖の制御も出来まい。

「そこッ!」

 一瞬のタイミングを見極め、颯人はサンジェルマンに向けウィザーソードガンの引き金を引いた。放たれた銃弾は伸びてくる鎖の間を掻い潜るようにして突き進む。気付いたサンジェルマンが避けようと動くが、颯人はそれを妨害する様に魔法の鎖を伸ばしてサンジェルマンの逃げ道を塞いだ。

 これは貰っただろう……そう思った瞬間、彼はとんでもない光景を目にする。
 銀の銃弾がサンジェルマンに命中した瞬間、彼女の体が一瞬液状化したようになり銃弾が彼女を突き抜けていったのだ。

「ッ!? あれは……!?」

 それはどう見てもウィザードがウォータースタイルになった時のみ使えるリキッドの魔法だった。サンジェルマンは何時の間にか、リキッドの魔法を錬金術で再現しそれを自身に掛けていたのだ。

 流石にこの事態は予想外だったのか、束の間颯人の思考も止まる。その隙を見逃さず、サンジェルマンが伸ばした鎖が颯人の四肢を拘束した。

「やべ、ぐぅっ!?」

 空中から伸びた鎖で両腕を引っ張り上げられ、全身を×字に磔にされる。動けなくなった颯人に、サンジェルマンはゆっくりと近付いていった。

「くそ、魔法で感覚マヒしたと思ってたけど、錬金術ってのは何でもありかよ」

 悔し紛れに颯人が吐き捨てる。それをサンジェルマンは涼しい顔をしながら受け止め、そして銃を左手に持つと空いた右手で彼の頬を優しく撫でた。

「いいえ、君が思ってるよりも危なかったわ。その若さで、大したものだと思う」
「お世辞は結構。ってか、ガキ扱いは止めてくれねえか?」
「私からしたら実際子供よ。そして、同時にとても惜しいと思う」
「アンタらに敵対してる事が?」

 やっぱりまだ勧誘を諦めていないのかと颯人は顔を逸らし頬に触れている彼女の手から逃れようとするが、拒絶されたサンジェルマンは小さく溜め息を吐き首を左右に振って否と答えた。

「違うわ。君が、魔法の方を学んでいる事が、よ」
「は?」
「こう思った事は無い? 魔法より錬金術の方が自由度が高くて羨ましいと」

 思わず颯人は言葉を詰まらせた。確かに、それは何度か思ってきた事だ。フロンティア事変以前はそんなこと考えもしなかったが、錬金術師であるキャロルと戦った事でその考えを抱く様になっていった。

 魔法は指輪さえあれば即座に行使できるが、代わりに決められたもの以外は使えない。決められたフォーマットのない錬金術は、その気になればその場で術式を組めばどんなことでも出来る。その分錬金術は使用に際して生命力等を削るリスクがあるが。

「こうして君と戦って、確信したわ。君には魔法より錬金術の方が合っている。どう? 今からでもこっちにきて、私の下で錬金術を学んでみるつもりはない?」
「奏を捨ててアンタ達に付けってか?」
「そこまで極端な事は言わないわ。君が希望するなら、彼女も我々の庇護下に置いてあげる。どうかしら?」

 サンジェルマンの条件は少し考えさせられるものだった。颯人としては、奏が危険から遠ざかってくれることは望ましい。ジェネシスに並ぶ裏社会で大きな影響力を持つパヴァリア光明結社が奏を庇護してくれるなら、彼女の安全は保障されるだろう。そこに自分が錬金術を学べば、彼女の身の回りは安泰となる。

 一瞬心が揺らぎそうになる颯人だったが、しかし彼が行きつく答えはやはり変わらなかった。

「……お断りだ」
「理由を聞いても?」
「今更か? 何度も言ってるだろ。犠牲を正当化しようとするアンタらとじゃ、そりが合わないって言ってんだよ。大体この間、アンタらのボスがこっちの施設潰した所為で何人が犠牲になったと思ってる?」

 詰まる所それだった。人々を笑顔にすることに喜びを感じる颯人にとって、犠牲を是とするサンジェルマン達のやり方は受け入れられない。それに仮に颯人がパヴァリア側に移ったとしても、奏は翼や響達を見捨てられず残るだろう。そうなれば彼女と敵対する事になってしまう。そんなのは真っ平御免だ。

 颯人の答えに、サンジェルマンは心底残念そうに目を伏せ溜め息を吐いた。だが即座に気持ちを切り替えたのか、数歩後退ると銃口を颯人に向ける。

「そう……残念だわ」
「俺を殺すか?」
「殺しはしないわ。ただ、今後私達の行動を邪魔されては困るから、暫くの間眠っていてもらうだけよ」

 サンジェルマンの持つスペルキャスターの銃口に魔力が集まり熱を帯びていく。彼女は殺すつもりは無いと言うが、その光景には死を連想せずにはいられない。颯人は拘束を逃れようと体を捩るが、手足は鎖でしっかりと縛られている為抜け出す事が出来ない。

 無駄な抵抗を続ける彼に、魔力が十分に溜まった銃の引き金をサンジェルマンは目を伏せて引いた。

「…………ごめんなさい」

 そして放たれた強力な銃弾。防ぐことも避ける事も出来ないそれが自分に向けて飛んでくる光景に、颯人はせめてもの抵抗をと睨み付けた。

 しかしその銃弾が彼の体を射抜く事は無かった。銃弾が放たれた瞬間、2人の頭上を一機の戦闘機が通り過ぎそのコクピットから座席が吐き出された。そして脱出装置で空中に投げ出されたその人物は座席から飛び降りると、その身に鎧を纏い颯人とサンジェルマンの間に入り放たれた銃弾を明後日の方に向け弾き飛ばした。

「ッ!?」
「うぉっ!? えっ?」

 突然の事に颯人も一瞬混乱するが、次の瞬間飛び込んできた人影は手に持っていた矛の様な槍を振り回しサンジェルマンを遠ざけると同時に颯人の手足を拘束している鎖を切り裂いた。拘束を外され自由の身になった颯人は、一瞬よろけるも何とか着地し自分を助けてくれた人物の名を呼んだ。

「奏ッ!」

 颯人の声に奏は振り返ると、笑みを浮かべて応えた。

「危ないところだったな、颯人?」
「そんな事ねえ……と言いたいところだが、正直さっきのはヤバかった。ところで、奏がここに居るって事は……?」
「あぁ」

『シュルシャガナとイガリマ、ガングニールK、エンゲージッ!』
『協力してもらった入間の方々には、感謝してもしきれないですね』
『バイタル安定ッ! シンフォギアからのバックファイアは、規定値内に抑えられていますッ!』

 そう、奏とマリア、そしてエルフナインの行動が実を結び、遂に本当の意味での改良型LiNKERが完成したのだ。今頃は別の場所で、切歌と調、そしてマリアも響達の救援の為に駆け付けている。
 こうなったらもう百人力だ。何しろ今までネックだった、負担を殆ど考えず戦力が増えるのだから。

「お前が居てくれればアタシは何時でも全開だッ! 行くぞ、颯人ッ!」
「あぁっ!……って、それは俺のセリフだッ!」

 軽口を叩き合いながら、颯人と奏がサンジェルマンに向け突撃する。迫る2人にサンジェルマンは銃撃て対抗するが、奏の振るうアームドギアが銃弾を弾き意味をなさない。
 ならばと錬金術でゲートを作り、そこに銃弾を叩き込んで2人の死角から攻撃をお見舞いしようと距離を取りながら引き金を引くサンジェルマン。次々と放たれる弾丸の内、何発かはゲートを潜りあらぬ方向から2人に襲い掛かる。

 しかしこの攻撃を既に見ている颯人は、これに即座に対応してみせた。

「二度も通じるかッ!」
〈コピー、プリーズ〉

 颯人はウィザーソードガンを二挺に増やし、乱射して放った銃弾でサンジェルマンの銃撃を相殺した。その間に奏が接近し、大型の槍であるアームドギアを薙ぎ払う。

「オラァッ!」
「くっ!?」

 咄嗟に銃を剣に変形させその薙ぎ払いを凌ぐと、錬金術で作り出したゲートに向け刺突を放つ。その切っ先が出てくる場所は奏のすぐ後ろ、サンジェルマンは無防備な奏の背後を突くつもりだったのだ。
 だがそのゲートを使った攻撃は颯人により防がれる。サンジェルマンがゲートを作り出した段階で颯人は彼女の狙いに気付き、滑る込むようにソードモードにしたウィザーソードガンを滑り込ませて奏が後ろから刺されるのを防いだのだ。そして奏は、自分が攻撃される事を微塵も心配せずサンジェルマンへの攻撃に全力を注ぐ。

「喰らえぇぇぇぇッ!!」
[LAST∞METEOR]

 奏の放った『LAST∞METEOR』がサンジェルマンに襲い掛かる。これを障壁で防ぐのは無理と判断した彼女は咄嗟に大きく飛ぶ事で難を逃れた。

「くっ!? ん? 彼は……!?」

 奏の一撃を避ける事に成功し一瞬安堵するサンジェルマンだったが、直後に先程まで奏の傍に居た筈の颯人の姿がない事に別の焦りを抱いた。何をするか分からない彼を見失うなど、恐ろしいにも程がある。

「何処? 彼は何処に…………はっ!?」

 果たして颯人の姿は直ぐに見つかった。彼が居るのは奏の前方、『LAST∞METEOR』が通り過ぎていった先に彼は居た。

 一体どうやってあそこに移動したのかと考え、サンジェルマンは思わず戦慄する。恐らく彼は『LAST∞METEOR』により作り出された《《竜巻の中》》を通り抜けて行ったのだ。触れれば即座にその身を削り取られるだろう破壊の暴風の中、恐れず突き進むなど普通は出来ない。奏側の絶妙な力加減と、颯人の恐れぬ胆力、そして2人の間に信頼関係が無ければ不可能な芸当だ。

 あまりの出来事に慄くサンジェルマンに向け、颯人と奏は同時に必殺技をお見舞いした。

〈キャモナ! スラッシュ、シェイクハンズ! フレイム! ヒーヒーヒー!〉
[ STARLIGHT∞SLASH]
「「行けぇぇぇぇッ!!」」

 地上から同時に放たれる光と炎の刃。クロスして飛んでいくその刃を、サンジェルマンは障壁を張って受け止める。

「ぐぅぅぅぅ……!?」

 二つの斬撃と障壁がぶつかり合う。その瞬間、サンジェルマンの姿は爆炎に飲まれて消えた。

 上空で広がる炎を眺めつつ、颯人は奏へと近付いていった。2人は近付くと、どちらからともなく手を上げハイタッチする。

 すると奏は満足そうに笑みを浮かべた。

「へへっ……!」
「どうした? 随分とご機嫌だな?」
「ん~、そうだな……」

 今まで了子達を悩ませていたLiNKER完成の為に必要だったのは、ギアと装者を繋ぐ脳領域を突き止める事。その部位が司るのは、自分を殺してでも誰かを守ろうとする無償の想い。

 それを一言で表すなら――――

「……愛、かな?」
「何だって?」
「フフッ、何でもない!」

 何だか何時もと雰囲気が違う奏の様子に颯人が首を傾げていると、上空の爆炎の中から体のあちこちを焦がしたサンジェルマンが落下してきた。どうやら2人の攻撃には何とか耐えきるも、ダメージを完全に相殺する事は出来ずにいたらしい。辛うじて着地には成功したが、その体は満身創痍と言っても過言ではない状態だった。

 恐らくもうこれ以上彼女は戦えないだろう。そう思いつつも、颯人と奏は気を引き締めて警戒する。

「よぉ、まだやるか?」
「そうね……ここで諦める訳には、いかないから……」
「何でそこまで……そんなに今の世界が気に入らないってのかい?」

 2人に武器を向けられながらも、サンジェルマンは降参する様子を見せない。もう立っているのもやっとだろう状態であるにもかかわらず、だ。

「えぇ、そうよ。私はこの世界を変えたい……! そうしなければ、これまでに犠牲にしてきた者達の命が無駄になってしまうッ! 母さんだって……!?」
「母さん?」

 何やら気になる単語が出てきたのを耳聡く聞きつけた颯人。もっと詳しく話を聞こうとしたが、それよりも早くに今この場で最も聞きたくない声が3人の耳に入った。

「エキサイティング……」

「はっ!? あ゛っ?!」

「「ッ!?」」

 サンジェルマンが声のする方に振り返った瞬間、振り下ろされた刃が彼女の体を切り裂き赤い亀裂を走らせる。

 その亀裂の中に、狂気のみで動く怪人・レギオンファントムが入っていった。 
 

 
後書き
と言う訳で第168話でした。

今回は颯人とサンジェルマンの対決を描きました。魔法使いと錬金術師の一対一での対決。軍配は年の功があるサンジェルマンの方に上がりました。この戦闘でサンジェルマンが颯人が使う魔法と似た物を錬金術で構築して使用すると言うのは本作のオリジナルです。原作ではサンジェルマンはバインドやリキッドみたいな物は使っていません。本作では魔法の源流に錬金術があるので、その繫がりで魔法で出来る事は錬金術でも出来る、を描いた感じです。

響達そっちのけで戦う颯人達ですが、最後の方では遂にレギオンが牙をむきます。ここからレギオンは颯人の周りに頻繁に現れると思います。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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