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嘆きの木

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第二章

「いつも一緒にいますし」
「野山でもだな」
「一緒です」
「そうだな、私を大事にするのもいいが」
 アポロンはキュパリッソスに優しい笑顔で話した。
「イオスもだ」
「大事にすることですね」
「愛情も友情も貴んでこそだ」
 まさにというのだ。
「人も神も幸せになれる」
「だからですね」
「彼もな」
 そのイオスを見つつ恋人に話した。
「大事にするのだ、いいな」
「そうさせて頂きます」
「そうするのだ」 
 こう言ってだった。
 アポロンはキュパリッソスがイオスと共にいることを暖かい目で見守っていた、そのうえで彼との日々を楽しんでいたが。
 ある日のことだった、イオスは友人と共に一緒にいる時に怪我をしてしまいそのうえで死んでしまった。夏のある日のことだった。
 彼等の帰りが遅いことに心配になったアポロンは太陽から下界を見て彼を見付けた、そしてそこに行くと。
「イオスがか」
「はい、怪我をして」
「崖から落ちたか」
「誤って」
「鹿は崖を降りられるが」
 アポロンはその崖を見た、見れば。
 その崖は極めて険しく鹿でもだった。
「流石にこれはな」
「イオスも無理でした」
「そうだな、だが」
「それでもですか」
「まずはイオスを埋葬しよう」
 アポロンは敢えて穏やかな声で話した。
「そして弔おう、そのうえで忘れないでな」
「イオスをですね」
「そうしてだ」
 そのうえでというのだ。
「生涯覚えておくことだ」
「忘れられる筈がありません、ですが」
「それでもか」
「私は悲しいです」
 涙を流しつつの言葉だった。
「痛かったでしょう、ずっと鳴いていました」
「怪我をしてか」
「私は何も出来ませんでした」
「手当をしたな」
 イオスの骸を見て言った。
「そうだな」
「ですが助けられませんでした」
「だから言うのか」
「はい、助けられませんでした」
「そのことが悲しいか」
「これ以上はないまでに」
 まさにというのだ。 
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