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私は怪異なんて苦手なのに、あの子が求めるから

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トラブルメーカーに引っ張られる日のルーティーン


 夕暮れ染まる境内。そこには狐の仮面をつけた少年と、少女がいた。

「これは天眼の蒼玉。この宝玉に念じると、いかなる真実であろうと見通すことが出来る。いいかい、これを君に渡すのは─」

 少年はそういいながらどこまでも透き通った、蒼い玉を少女に渡してくる。まだ幼い少女は占いに使うようなきれいな玉だなぁとしか思わなかった。

だけれども、本当にその玉に思いを込めるとどんな事でも本当のことが分かると理解すると、少女は躊躇いなくその玉の力を使うようになった。今日のご飯。無くしたものの場所。友達の秘密。知りたいこと思いのままに知ることが楽しかったのだ。

 しかしながら、その力は周囲の人たちを幸せにはしなかった。誰だって知られたくないことを知られるのは不快だし、ましてや暴露されてはたまらない。幼い少女にはその人の機微を十分に理解していなかった。



 誰々が誰を嫌いだ、誰の悪口を言っていた。誰々の好きな人は。○○先生はこんな悪いことをしている―。少女にとって、秘密を暴露され慌てふためく人々を見るのは楽しいことだった。ただ、行為の善悪を判断する力はなく、純真無垢だったのだ。

「何で知っているの。気持ち悪い。」
「誰かが幸せになるとでも思ったの。」
「許さない。あなたは絶対許さないんだから。」

 少女が犯した罪の大きさに気が付くのは多くのものを失った後だった。
結局、その宝玉を少年に返すことを決めた。だが、神社に行ってみるとその神社は閑散としており、少年には会えなかった。後日少女は都会に引っ越すことになり、神社に訪れることはもうなかった。それ以来、ずっと宝玉は使われることなく彼女の引き出しの奥に入ったままだ―。


 


 本をめくる。パラり。白馬の王子様が愛を告げる。パラり。少女は「私も好きです。」と愛のキャッチボールを成功させ、見事に二人はゴールイン。ありきたりな展開だ。どうせこの後は二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし―と続くのだろう。

 私─雪野雫(しずく)は次のぺーじを開くことをやめて、本を閉じる。教室は昼休みで、それぞれがグループを作ってご飯を食べながら喧騒を響かせている。
 
 私もご飯を食べ始めたいのだが、相方がお手洗いに行って帰ってこない。一人でも先に食べ始めればいいのではという人もいるかもしれないが、私はボッチで食べる辛さを知っている。周りは私なんて気にしていないのだろうが、なんだか疎外感が半端ないし、勝手に一人で笑われていないかと妄想をしてしまう。メンタルよわよわしい私にはその苦行は残念ながら耐えられない。

しょうがなく、相方を待つべく王子様と少女の愛物語を完結させようかと本に手を伸ばしたそのとき、彼女は急に現れた。彼女は教室のドアを全力精一杯横スライドさせてガシャンと音を立てクラス中の注目を集めながら、こう吐き捨てた。

「大変だよ雫。助けて、私呪われちゃったかも!」
「・・・は?何言ってんの?」

 突然意味不明なセリフとともに現れたのは私の友達の海内日葵(ひまり)だ。ポニーテール姿のいかにもな元気溌剌少女で、良く言えば素直で裏表のない天然キャラ、悪く言えば思考のないバカだ。ときたま突拍子の無いことをしでかしてはクラスの皆に笑われている。だからなのか、日葵の支離滅裂なセリフに一瞬クラスの皆は注目したけど、またお前か・・と、各々の世界に戻っていった。

 日葵はどかどかと私に近づいてくる。果たして私はご飯をやっと食べられると喜ぶべきなのだろうか、友だちの奇行
「助けて雫、私死んじゃうよ。」
「それさっき聞いた。クラス中に言ったじゃん。っていうかまずは落ち着いて、恐怖と驚きで顔面えぐいって。」

 何があったか知らないが、日葵はまるで夏休みの宿題を最終日に存在を忘れていたことに気がついたときのように焦っていた。私は興奮した猛獣を落ち着かせる調教師のごとく、両手をステイ、ステイと動かしながら、大丈夫、大丈夫、何があったかゆっくり言ってみ?と言ってあげた。そして、日葵は少し落ち着いた様子で話し出した。

「あのね、私、日直の仕事で旧校舎行かなきゃいけなくって。あの今は使われていない旧校舎ね。そのとき旧校舎のトイレ使ったら、お化けが出たの。で、そのお化けに呪われちゃったんだ!」
「お化け?お化けってどんな。」
「私がトイレに入ろうとしたらね、床がギィギィって鳴り始めて、照明もチカチカしだしたんだ。で、なんか怖くて入ろうか迷ってたら・・・」
「迷ってたら?」
「出ていかなければお前を呪ってやるーって言われたんだよ!もうほんっとうに怖くて逃げだしてきちゃった。」

 うーん。すごいツッコミ所がたくさんあるというか、すごい怪しい。

「ちょっと待って。床の音とか、照明とかいうけど。旧校舎自体の建物が古いから別に不思議はないんじゃない?」
「そうかな。でも、呪ってやるーっていう声は絶対お化けだよ。旧校舎なんて誰もいないはずだし、そのときも周りに人はいなかったのに、声だけ聞こえたんだから、あれは間違いないもん。」
「えっと、どうせ聞き間違いじゃないの?ほら、恐怖心で存在しない声を聞いたんだよ。」

 日葵は聞き間違いじゃないと主張し続けるけれど、実際どうなんだろう。そんなお化けだなんて怪異は簡単に信じられないけれど・・。

「まぁ、出ていかなければ呪ってやるって言ったんだでしょ。だったら大丈夫だよ。もし、万が一仮に日葵の言うお化けが何かの間違いで存在していたとしても、日葵は素直に出ていったんだから大丈夫だよ。」
「本当かな。雫、私死んじゃったりしない?」
 日葵は私を見つめながら不安そうな表情を浮かべている。良くも悪くも純粋だから、人一倍お化けだとか信じやすいし、本当に怯えているんだろう。
「はぁ。大丈夫だよ、日葵。それよりご飯食べようよ。私もうお腹ペコペコだよ。」
「そうだね、とりあえず腹が減っては戦が出来ぬ、だよね・・」

 多分、使い方間違えてると思ったけれどめんどくさかったので言わないことにした。私はようやくご飯が食べられるとお弁当箱に手を伸ばした。今日はお母さんがトマト入れてないといいんだけど。そう思いながら弁当箱を開けようとしたとき、また日葵の声によって妨害されてしまった。

「そうだ、神社行こうよ。なんかお祓いみたないことすれば呪いも解けるよね!」

 なんだろう、日葵の目が今まで見たことないほどキラキラしている。宝くじでもあたったのかっていうぐらい嬉しそうだ。

「へー、いいじゃん。神社、行ってくれば。」

 私がそう言うと、日葵はきょとんとした感じで首を傾けてきた。え、まさか・・

「え、私は行かないよ。日葵と一緒に行く必要ないよね。」
「えーついてきてよ、お願い。ものすごい不安なんだ。私たち親友でしょ。」
「やだ。」

 日葵は両手を合わせてウインクをしながら可愛い感じでお願いしてくるが、それが効果あるのは男の子だけだと思うよ。私は別に日葵に付き合うのは構わないけれど、神社には複雑な気持ちがある。行きたいようで行きたくない。なんか懐かしさと羞恥心と期待と、良く分からない感情が綯い交ぜになって神社は苦手だ。

「私、放課後友だちと遊ぶ用事があって・・」
「え、雫って私以外に友達いないでしょ?部活動も入っていないし放課後暇だよね。」

 この子は悪意なくこういうこと言うんだよね。純粋さって怖い。

「私、雫のお母さんからいつも言われているんだ。日葵をよろしくお願いしますって。もし雫が友達の誘いを断るような子って知ったらお母さん悲しむだろうね・・」

 頼むからその落ち込んだ表情をやめて欲しい。お母さん、なんで娘抜きで娘の友人と娘の話するの・・。

「分かった、行くから、行くから。お母さんには言わないで。」
「え、本当!やった、これで百人力だね」

 百人力って・・。どうせ私が行ったところで出来ることなんてないけれど。まぁ気が晴れるなら行ってあげてもいいかな。こうして私と日葵は放課後、神社に行くことになった。




 
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