| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

愛に飢えた少女

馬岱に案内されて、城の中に戻る。
ちなみに移動時間の間も黎は俺の腕に抱き着いている。

「あ~、黎。」

『どうしましたか?』

可愛く小首を傾げる姿を見て、このままでもいいかなと思ってしまう。
これ、狙ってやっていたら悪魔だぞ。
流される訳にもいかないので、しっかりと言葉にして言う。

「引っ付かれると歩きにくいし、周りの眼がな。」

主に龐徳にだけど。
今も殺気とか憎悪などの負の感情が籠った視線が、俺に向けられている。
龐徳の視線に気がついていないのか。

『周りの眼なんて気にしてなくていいのです。
 優華に勝ったのですから、もう私達の恋路に阻む物は何もありません。
 何なら、今すぐに愛の口づけを。』

眼を閉じて唇を近づけてくる。
馬岱は黎の行動を見て、どうなるかを想像しているのかニヤニヤ、と笑みを浮かべていた。
龐徳に関しては言うまでもなく、双戟を手に取って構えている。
って、構えている!?

「おわぁ!!」

黎を抱きかかえながら、後ろに下がる。
俺の首を狙った一撃は空を切った。
あ、危なすぎるだろ。
あと少し反応が遅れていたら、首から血の噴水をお披露目する事になっていた。
咄嗟とはいえ、黎をお姫様抱っこしている訳だが。
何を勘違いしたのか俺の首に腕を回してくる。

『これこそ愛の口づけをするうえで、絶好の機会。』

「いやいや、この状況でまだそんな事を言えるのかよ!?
 ねぇ、見えなかったの?
 君のお姉さん、武器振り回して俺の首を狙ってきたんだよ。」

しかし、黎は俺の言葉を無視してキスに没頭する。

「話を聞け!!
 お願いだから、聞いてください!」

『口づけを交わして、結婚してくれるのなら聞いてあげる。』

「えっ、黎ってこんなキャラなの?」

『きゃら?』

思わず素で思った事を答えてしまった。
その時、前方から鋭い殺気を感じ、前を見る。
双戟を構え、般若を連想させる顔つきの龐徳がそこに君臨している。
嫌な汗が俺の背筋を伝う。
おそらく、龐徳から見れば、イチャイチャラブラブしているように見えたのだろう。
さっきの勝負とは比較にならない速度で俺に接近してきた。

「ちょ!?」

首を狙った攻撃を後ろに下がって紙一重でかわす。
双戟の片方は柱に触れるが、豆腐のように綺麗に切断した。
俺の顔は今青ざめている、確実にだ。
何せ、自分の頬が引きつっているのが分かる。

「こ・ろ・す。」

「やってられるかぁぁぁ!!!」

脱皮の如く逃げる。
振り返らなくても分かる。
後ろから強烈な殺気が迫っている事を。

『これが愛の逃避行。』

腕の中に収まっている少女は、そんな呑気な事を竹簡に書いていた。

「これはこれで面白いけど、叔母さまの所に案内できないんだけど。」

この後、俺は一時間くらいリアル鬼ごっこをして、最終的に黎に説得してもらった。



「ここが、叔母さまの自室だよ。
 でも、叔母さまは体調が悪いからさっきみたいに騒がないでね。」

「俺じゃなくて、二人に言ってくれると非常に助かる。」

黎の説得で龐徳は何とか剣を収めてくれたけど、それでも棘のような視線は依然と続いている。
部屋に入ると、一人の女性が寝台に上半身を起き上がらせて、窓の外の景色を見ていた。
一目見た瞬間、何て儚げな女性なのだろうと思った。
触れれば壊れてしまいそうな、そんな印象を受けた。
俺達が入ってくるを見ると、笑みを浮かべて出迎えてくれた。

「いらっしゃい、蒲公英。」

「叔母さま、身体は大丈夫?」

「ええ、今日は調子いいみたいよ。
 優華も黎も元気そうね。」

『私は元気。』

「私も黎と同じです。」

「そして。」

馬騰の視線が俺に向けられる。

「初めまして、私は馬騰と言います。
 寝台の上からで申し訳ないわね。」

「気にしないでください、体調が優れないのでしょう。
 私は関忠、どうぞお見知りおきを。」

「ふふふ、そんなにかしこまらなくてもいいわよ。
 ここに尋ねた理由は何かしら?」

馬騰がそう聞くと、黎が一歩前に出て竹簡に文字を書いて行く。

『この人と結婚する許可を欲しい。』

「あらあら。
 ついに婿を見つけたのね、おめでたいわ。」

この言葉を聞いた限り、馬騰は結婚にあまり否定的ではないようだ。
このまま話を進められたら本気で結婚させられるな。

「でも、龐徳は納得しているの?」

視線を黎から龐徳に移す。
不満バリバリの表情をしている龐徳だが。

「私の試験には全部合格しました。
 納得していませんが、納得しました。」

矛盾した発言だが、龐徳も結婚には反対ではないらしい。
まずい。
これは非常にまずい。
俺がここに居る時点で、結婚には同意しているように捉えられてもおかしくはない。
本当は別に目的があるのだが、何としてもこの話を止めないといけない。
口を開こうとした時。

「でも、関忠さんは納得してないみたいよ。」

俺の思っている事を見透かされたような発言を、馬騰の口から聞こえた。
黎と龐徳と馬岱は驚いた顔をしながら、こちらを見てきた。

『縁様、納得してないの?』

「まさか、私の黎と結婚できない訳?」

さっきと言っている事と行動が全く逆なのだが。
それをツッコむと話を進まないので、無視して自分の意見を言う。

「確かに初対面に等しい俺に、これだけ好意を向けられるのは嬉しい。
 でも、失礼ですが俺は結婚なんてしている余裕がありません。」

「どうして余裕がないのかしら?」

「俺は王になるからです。
 この国を自分の国にする為に。」

馬騰を除いて、その場にいた全員がさっきより驚いた表情を浮かべる。
しかし、馬騰だけはさっきと変わらない優しい表情をしていた。

「最初に会った時に眼を見た時に、何か感じたけど、王になりたいのね。」

そう言うと少しだけ目を瞑った。
次に目を開けた時には、芯の通った眼をしていた。
さっきまでの儚い雰囲気がどこかへ消える。

「なら、一つだけ質問していいかしら?」

「どうぞ。」

「貴方はこの土地が欲しくて、攻めてきた州牧だと仮定しましょう。
 戦力差はほぼ同じ。
 さぁ、貴方はどうする?」

「まずは話し合いですね。
 戦力が同等だと、こちらの被害も大きい可能性が出ますからね。」

「もし、話し合いに応じなかったら?」

「攻めます。」

即答だった。

「俺が先陣に立ち、出来るだけ自軍の被害を少なくするように努力します。
 大将の首、つまり貴方の首を取り、速やかに戦を終わらせます。」

その言葉を言った瞬間、後ろから殺気が襲い掛かる。
殺気の本人は確認するまでも龐徳だろう。
自分の主人を殺すと目の前で言われたのだから、殺気を出しても不思議ではない。
でも、馬騰はその殺気に気がついたのか。

「優華、殺気を抑えなさい。
 彼はまだ話を終えていないわよ、そうでしょう?」

馬騰の言葉に同意するように頷く。

「ですが、それは貴方の事を知らないという条件付きです。
 今では深い仲ではないですが、知り合いという事になります。
 何とか説得しますよ。」

「それに応じなかったら。」

「説得に応じるように状況を作ります。
 どんな手を使っても。」

「なるほどね。」

俺の言葉を聞いて、対象は殺気が納まった。
馬騰は俺の言葉に満足しているのか、笑みを浮かべて言う。

「黎、諦めなさい。
 彼は本気よ、結婚も納得いかないと思うわ。」

馬騰は俺の覚悟を聞いて納得してくれたようだ。

『それは話を聞いて分かった。
 だから、別の方法を考えた。」

黎も納得してくれたみたいで良かった。
後は孫堅の書いて貰った手紙を見せて。

『だから、縁様について行く。
 縁様が王になった時に改めて結婚を申し込む。』

「えっ?」

「「えええええええええええ!!!!」」

俺と龐徳の声が重なる。
この話はもう終わったと思ったんだけど、黎はまだ諦める気は全くない。
これには馬騰も予想していなかったのか、少しだけ驚いている。

「それでいいの?」

馬騰の問いかけに、黎はしっかりと頷く。
黎は頷いた後、部屋を出て行った。
旅の準備をしに行ったのだろう。

「ちょ、ちょっと待ってよ、黎!」

本当に俺について来るのだと知った龐徳は、黎の後を追い駆ける。

「ごめんなさいね。
 多分、黎は貴方が断っても無理やりついて来るわよ。」

「えっと、何で俺なんですかね?」

「愛に理由はないわよ。」

そう言って言葉を区切る。

「あの子の身体には私の夫の血が流れているの。
 母親は違うけどね。」

「それって。」

「娘の馬超とは腹違いの姉妹。
 黎の母親は生んで、少ししてから病気にかかって死んだわ。
 残った黎を夫が連れて来たの。
 少し複雑だったけど、家族として向かい入れたわ。
 でも、どう接すればいいのか分からなくてね。
 あの子自身も自分が娘でない事を知っていたらしくて、私達とは積極的に係わろうとしなかった。
 そんな黎に話しかけたのが優華よ。
 優華の優しさに触れて、よく懐いてたわね。
 それがきっかけで、黎と距離が縮まって今は普通に話し合う仲までになったわ。」

「だから、龐徳はあれほどまでに黎を。」

「ちょっと過保護すぎるけどね。」

馬岱の言葉に少しだけ同意する。
でも、それだけ大切なんだろうと実感する。

「だからこそ、人一倍に愛に飢えているのだと思うわ。
 そして、自分の全てを捧げる事のできる人に出会った。
 関忠さん、娘をどうかお願いします。」

話を聞いていたら断れない状況まで追い込まれていた。
馬騰は始めから、ここまで話を持っていかせるために話をしたのだろう。

「策士ですね。」

「伊達に年の功をつんではいないわ。」

このやり取りだけで、馬騰は俺が何を言っているのか分かったのだろう。
俺自身、あそこまで言われたら引き受けない訳にはいかない。
何より、黎こと馬良は軍師有名な将だ。
こちらにはメリットは充分にある。

「馬騰さんに渡したい物があります。」

そう言って、孫堅直筆の手紙を渡す。
手紙を受け取り、書かれている事を読む。

「孫堅は相変わらず元気そうね。
 よろしくしてやってくれと書いてあるのだけど。」

「実は一つだけ聞きたい事があって。
 五胡について話を伺いたいのです。」

今まで優しい顔をしていた馬騰の顔が引き締る。
いずれ、この国を俺の物にした時、五胡と戦う可能性がある。
それを想定しておくためにも、五胡の情報は欲しかった。
この時代を考えるとさほど活発な活動をしてないと思うが、念のために聞きたかった。

「五胡とは何回か交流はあるわ。
 でも、基本的にはこちらを好意に思っていない。
 話を聞いてくれる人もいるけど、話を聞かずに襲ってくる輩の方が多いわ。
 今は部族間で抗争があって、目立った動きはないって話だけど。」

「そうですか。
 ありがとうございます。」

馬騰でこれくらいしか分からないのなら、これ以上の情報は捜しても見つからないだろう。
つまり、抗争が終わるまではちょっかいはかけてこないという事だ。
ここから先は自分で調べないとだな。

「黎達が準備を終える頃には日も落ちていると思うわ。
 出発は明日?」

「ええ、他にも旅をしている仲間もいるので。」

「そうなの。
 では、こちらの方から黎に言っておくから、貴方は旅の仲間に事情を説明していきなさい。」

「分かりました。
 それでは失礼します。」

一礼して、俺は部屋を出る。
さて、宿に戻って一刀達に事情を説明しないとな。



「そう言えば、お姉さまは?」

「翠なら用事で隣町に行って貰っているわ。
 帰ってくるのは、明日になると思うわよ。」




次の日。
あの日、宿に戻った俺はその日の夜に皆の前で黎の事を説明した。
皆は黎が仲間になる事は歓迎で、美奈に関しては仲間が増えると喜んでいた。
城の門に向かうと、荷物を抱えて黎と龐徳が立っていた。
その横には杖を支えに立っている馬騰と馬岱もいる。
ふと、なぜ龐徳が荷物を持っているのか疑問に思った。
黎は俺を見るとすぐ腕に抱き着いてくる。

「ほほう。
 縁殿は大層好かれているようですな。」

からかうように星は言う。
その言葉を無視して、さっきから気になっている事を口にする。

「龐徳はどうして荷物を持っているんだ?」

「どうしてって、私もついて行くに決まっているでしょう。
 理由に関してはたった一つ。
 危険な旅に黎一人で行かせる訳にはいかないからよ。
 異論は認めないから。」

どうやら、完全について来る予定だな。
断るつもりもないので、了承する。
皆も同意しているみたいだし。
断ったら、双戟で脅されそうだからというのもあるが。

「黎、優華。
 元気でね。」

「またどこかで会ったら、一緒に遊ぼうね!」

二人に挨拶して、出発する。
依然と黎は俺の腕に掴んだままだ。

「一緒に旅をするのだ、儂達も自己紹介した方が良いな。
 儂は丁奉、真名は豪鬼。」

「美奈は美奈!」

「趙子龍、真名は星。」

「太史慈よ。
 真名は月火。」

「北郷一刀だ。
 天の御使いという肩書きを言わせてもらっている。
 一刀って呼んでくれ。」

それぞれ自己紹介をしていく。
特に一刀の自己紹介の時は二人は興味深そうな顔をしていた。

『私は馬良。
 真名は黎。
 これからよろしく。』

「竹簡に文字を書いて、会話する人は初めてだわ。」

月火や他の皆は驚いているみたいだが、誰だって驚くと思う。

「私は龐徳、真名は優華よ。」

「一応、確認するんだが俺も真名で呼んで良いのか?」

「黎の婚約者だから、本当は呼ばれたくないけど、旅をしたりするのだからしょうがないから呼ばせてあげる。」

不満タラタラみたいだが、真名を許してくれた辺り、少しは認めてくれているようだ。
そんな中、黎は月火と星と優華の顔と身体を自分の身体と見比べて。

「負けない。」

「うん?
 何か言ったか?」

今さっき黎が何か喋ったように聞えたので、聞いてみた。
俺の質問に黎は首を横に振って否定する。
こうして、新たな仲間を加わり旅を再開した。






縁達が街を離れて数刻が経った後。

「あの二人、出て行ったのかよ!」

「お姉さまが用事で出向いている間にね。」

馬騰に用事を頼まれていた馬超は、話を聞いて挨拶できなかったことを悔やんでいた。
小さい頃から一緒に居たので、色々と思う所があったのだ。

「んで、その二人がついて行った奴ってどんなの?」

二人の性格はよく知っている馬超は、知っているからこそついて行った男の事が気になった。
その質問に馬騰が答える。

「凄く真っ直ぐな眼をした子だわ。
 あれはきっと凄い人になるわね。」

「母様がそこまで言うくらいの男なのか。
 一目でも会ってみたかったな。」

「いずれ出会うわよ、きっと。」

そう呟きながら、湯飲みに入ったお茶を飲む馬騰だった。 
 

 
後書き
誤字脱字、意見や感想などを募集しています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧