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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第四章 いつだって、道はある。
  ユナト

「なぜ退く必要が? 貴方なら……」

 あれくらい余裕でしょう、鬼鮫がそう口に出さずともその意味はしっかりと伝わった。

「サスケがどれほど強くなったのか試してみたいとは言ったものの、予想以上に弱い。九尾の人柱力――ナルトの方も、まだまだ未熟だ。心配はいらない。それに」

 それにイタチの方も、体や目を休めておく必要がある。目元から流れた血を拭い取って、イタチは眉根に皺を寄せた。月読は愚か、天照まで使わされるとは。それに一体どういうわけがあって木ノ葉が援軍を出して来ないのかはわからないが、それも恐らく時間の問題だ。写輪眼を解いて、イタチと鬼鮫は走り続けた。
 不意に、一つの気配。鮫肌を構えた鬼鮫がイタチを庇って飛び出すのと同時に、強烈な蹴りが彼の体に叩き込まれた。

「木ノ葉剛力旋風ゥウ!!」
「――!!」

 緑色の塊がイタチの視界に映る。特徴的な緑色の全身タイツは、例え顔があまりよく見えずとも誰なのかわかった。イタチの傍に着地した鬼鮫が問いかける。

「何者です?」
「木ノ葉の気高き碧い猛獣――マイト・ガイ!!」

 きらり、と白い歯を輝かせる黒いおかっぱ頭の男に、鬼鮫は鋭く突っ込みをいれる。

「なーんて格好だ……珍獣の間違いでは?」

 言いつつも、彼の実力には目を見張るものがある。このスピード。シソ・ハッカと呼ばれる彼のスピードもなかなかのものだったが、彼とアスマの攻撃が鬼鮫にかすり傷一つつけられず、精々水遁を押し返すことしか出来なかったのに対し、彼はガイが防ぐ暇もなく強烈な蹴りを叩き込んできたのだ。

「里の内部は混乱してるが……増援が来るのにそうは時間はかからないだろう。それまで、相手をしてやる……!!」
「いいでしょう……!」

 もとより戦闘は嫌いではない。笑みを見せた鬼鮫に制止をかけたのは、その傍に立つイタチだった。

「鬼鮫、よせ」
「……え?」
「俺達は戦争をしにきたんじゃない……これ以上はナンセンスだ」
「ちっ……折角疼いてきたのに、仕方ないですねえ……まあ、これ以上やるのはイタチさん、貴方のお体に障るかもしれないし……いいでしょう」

 月読と天照を短時間内に一気に使ったのだ、万華鏡写輪眼のもたらす負荷でイタチも当然疲れているだろう。ふっと鬼鮫が息を吐き、二人が同時に退散した。

「ガイ! 逃げられたの?」
「……ああ。で、そっちは片付いたのか?」
「……退散されちゃった……取りあえずこのことは、緘口令でもしいとく必要があるね」
「まあ……正体不明の奴らが暴れていたということにでもしておこう」

 ユナトが頷く。――つい今しがた、木ノ葉の中心部は中心部で、違う忍びの襲撃を受けていたのだ。木ノ葉崩しで弱まっているこの時期の木ノ葉を狙い打とうとする輩はいるかもしれない、というのはある程度予想されてはいたが、真昼間からいきなり進入されるとは思いもよらなかった。そして彼らの襲撃もまた増援が遅れた理由だ。

「だけどやつら……木ノ葉崩し前からここを狙ってたみたい」
「ああ……ハッカとマナのあの任務は確か奴らに関することの調査だと聞いていたが、一体どんな奴らなんだ?」

 里の近くに不審な忍び達がいるらしいという情報を受け取り、ハッカとマナ、それに紅丸は任務に出されたのだ。
木ノ葉崩しで里の戦力が半分以上削られた上、音の残党に関する情報がそこ彼処で出回り、かなりの忍びがその為に出払っているのと、下忍の生徒達を受け持つ上忍、もしくはイルカのようなアカデミー教師は、木ノ葉崩しで一番弱っている木ノ葉が万が一襲撃された場合にと里に配置されている場合が多いのも関係している。
ハッカもまた下忍の生徒を受け持つ上忍ではあるし、マナはたったの下忍、紅丸に至っては忍犬である点、他の奴らでもよかったのではと思われるが、二人が選ばれたのには理由がある。

「奴ら……九尾、だとか、うちは、だとか、四代目、だとか、そういうのいっぱい喋ってたけど……なんかの術使ったぽいの。でもその術、狐者異が以前使ってた技と同じ名前だったんだ」
「……食遁か?」
「違うよ。奴ら食遁以外の、もっとめんどくさい術使ってたの覚えてる? ちょっと経絡系の構造を変えれば誰にも使えるですけど……あの術。医療忍術にもよく応用されてたかな」
「だが……マナはその術のことなんて知らないんだろう? ならなぜマナを……」

 もしその術をマナが知っているとしたら、マナに確認してもらうという理由もあるかもしれないが、マナも知らない術で、相手が一体何なのかもわからないのになぜマナを派遣したのだろうか。
屋敷は火を放たれてしまった為、本当に全員死んでるのか、それとも逃げ果せた者がいるのかは断定できず、狐者異が生きているという可能性も否定は出来ないが、生前狐者異は信じられないほどの執着を木ノ葉の里に見せていた。生きていたのなら帰ってくる可能性の方が高いし、マナは一族の者の顔など覚えているはずがない。
記憶を失っているハッカなら尚更だし、それに狐者異は大体背が小柄で髪が青いのだから別に確認させる必要もないはずだ。
 その上彼らが使っていた術は経絡系の構造にちょっと手を加えれば誰でも使えると言われていたものの一環なのだから、狐者異じゃない可能性だって十分にある。

「んー、それはそうなんだけどね。記憶がないからこそ都合がいいんだよ、ハッカは」
「どういうことだ?」
「まあつまり……記憶がないから、無駄な推測だのをせずに突っ込んでくれるような鉄砲玉が必要だったってこと」

 その言葉にガイが目を見開き、ユナトに掴みかかった。

「おいユナト、まさかお前!!」
「うん。ハッカを利用させてもらった」

 さらりと言い放ったユナトに、ガイは一瞬言葉を失う。ついで口から飛び出たのは糾弾の言葉だ。

「お前、チームメイトを利用したのかッ!? 下手したら死んでいたかもしれないのに!! 聞いた話じゃ、あの二人はあの集団と戦闘するに至ったという話じゃないか!」
「チームメイトだったのは昔のことだよ。ハッカがあんなセンチメンタルな奴じゃなかったら今日こうやって私に利用されることもなかったのに」
「……お前、先生の死に様も、ハッカがどんな拷問をされていたかも知っているはずなのに」
「拷問だとか先生の死に様だとかそんなの理由にならないよ。わたし、三代目のことは尊敬していたけれど、彼のやり方には反対。彼は優しすぎる。使えるものは敵でも味方でも利用しないと上にはのし上がれないよ」

 数年前からユナトは、妙に地位に執着するようになってきていることにガイは気づいていた。ただでさえハッカとのあの事件でユナトは大きく変わってしまったのに、彼女は数年前から更に地位への強い執着を見せ始めるようになっていた。そしてその理由が何なのかも大体見当がつく。けど……こんなことは。仲間を利用するなんてことを彼女がするなんて。

「じゃあ……マナは。どうしてマナを派遣した?」
「殺すためだよ。あの戦闘で死んでくれればいいと思ってた。狐者異なんてただの気の違った妖集団。滅んじゃえばいい。その方がいいんだ――里にも」

 がっ、とガイの拳が正確にユナトを捉えた。吹っ飛んだユナトが水面を転がる。口の中を切ったのだろうか、彼女が血を吐き出した。水しぶきがあがり、ユナトがこげ茶色の瞳でガイを見つめる。

「お前……自分が何を言ってるのかわかっているのかッ!?」
「わかってる。このことを言いふらしたいなら好きにすればいい。カカシだとか綱手さまだとか自来也さまだとかは別だけど、一般の忍者はガイのこと窘めるだけだよ。『忍者とは、そういうものなんだよ』……ってね」

 その上、この里の中で行われる会話で、ユナトに聴こえないことなど一つもない。例え紙に書いたりしようとしても、息を呑む音ですらちゃんと聴こえるユナトにとって、もし不自然な沈黙を感じ取ればすぐさま時空間忍術で駆けつけ、その上記憶を消すことなど彼女にとっては造作もないことだ。
 剛拳と時空間忍術で名をあげたユナトだが、それ以上にユナトが重宝される理由は彼女のその能力だ。時空間忍術がなければ、錘をつけた状態で本気を出したリーほども速く移動できない彼女がここまでも大切にされ、忍びを辞めた今でも上層部の多くの秘密を知りえることの出来るその一番の理由が彼女のこの能力だ。情報収集はもちろん、感知にも応用出来るこの血継限界を、里の上層部はかなり重く見ているのだ。
 そしてまた彼女も、この里でそれなりの地位を有している。それこそ、綱手不在時は任務に出す人員を勝手に手配することが出来るくらいに。

「……やはりお前は、変わってしまったんだな……」
「変わってないよ。昔の私は泣き虫で敵にも甘い、足手まといのクズ。今の私は仲間を平気で利用して殺そうとする、道徳的にいってかなりのクズ。ね? クズなのに変わりはないでしょ」

 一つ言っておくね、笑いながら彼女は前置きした。

「例えうちはサスケが大蛇丸についていこうとしても私はとめないし、彼を勧誘しようと誰かが里に侵入してきても私は阻止しない、里に危害を加えない限り、ね」
 
 

 
後書き
ユナトは「女バージョンダンゾウ」を目指していたのですが、「女バージョンダンゾウ」よりはただの自己中な悪役キャラになってしまった気がしなくもないデス……。 
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