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何時の間にか首位交代

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第一章

               何時の間にか首位交代
 その夜根室寿は自宅で絶叫した。
「嘘だよね!」
「お前またそんなこと言ってるのか」
 仕事から帰って来た父が中三の息子に言った。
「現実だからな」
「受け入れるしかないんだ」
「そうだ、残念だけれどな」
 寿にとってはというのだ。
「阪神は負けてな」
「それも巨人にね」
「カープが十連勝してな」
「首位なんだ」
「そうなったんだ」 
 父は息子に告げた。
「仕方ないけれどな」
「お父さんは何かどうでもいい感じだね」
「お父さんは元々東北生まれだからな」
「楽天だね」
「阪神も嫌いじゃないけれどな」
 それでもというのだ。
「パリーグでな」
「楽天だよね」
「そうだ」
 こちらのチームだというのだ。
「だからな」
「阪神が首位を陥落しても」
「落ち着いているんだ」
「そうなんだね」
「また頑張ればいいでしょ」 
 母も言ってきた。
「まあお母さんは今はね」
「今一つだっていうんだね」
「阪神好きだけれど」 
 それでもというのだ。
「あんた程じゃないから」
「それでだね、しかし」
 母とも話してだ、息子はあらためて言った。
「こうなったらね」
「いやあ、やったわね」
 ここでだった、今家族がいるリビングに残る一人の千佳一家の娘で寿の妹の彼女が満面の笑顔で入って来た。
「遂に首位ね、カープ」
「よかったな、それは」
 寿は不機嫌そのものの顔で応えた。
「本当に」
「ああ、やっぱり不機嫌ね」
「当たり前だよ、阪神よりによって巨人に負けて」 
「カープは勝って首位交代で」
「機嫌のいい筈ないだろ」
「そうよね、しかしね」
 それでもとだ、千佳は今の兄を見てこうも言った。
「巨人に負けたのに黒い瘴気出してないわね」
「今の巨人はカスだからね」
 そう言っていい戦力だからだというのだ。
「阪神と比べたら」
「まあAクラスはないわね」
「まして先に連勝してるし」
 甲子園三連戦の中でだ。
「横田さんの試合も勝ったしね」
「いい勝ち方だったわね」
「だったらね」
 それならというのだ。
「僕もだよ」
「不機嫌でも」
「そんなにだよ」
「怒ってないのね」
「それよりもだよ」
 今寿が思うことはというのだ。
「何で首位交代なんだよ、気付いたら」
「カープがね」
「出て来たのか」
「いや、嬉しいわ」 
 不機嫌をそのまま絵にした様な兄とは見事なまでに好対照な状況の妹は満面の笑顔で言うのだった。 
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